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十種香暗部山
凡例
一香おもて遊に、組香と名付もの、其品わかれて多種あれども、いにしへより今に絶ずおこなはるゝは十種なり、所謂十炷、宇治山、小鳥、小草、競馬、矢数、名所、花月、源氏、連理也、今此書に用てしるすも又十種なり、
一十種の外に外組といふ香すくなからず、所謂無試十炷(むしきじしゆ)、焼会十炷(たきあはせじしゆ)、古今(こきん)、六義(ろつき)、源平(ぐえんへい)、呉越(ごえつ)、花車(はなぐるま)、鶯(うぐひす)、
初音(はつね)、郭公(ほとヽぎす)、鳥合(とりあはせ)、闘鶏(同)、蹴鞠(しうきく)、星合(ほしあひ)、新月(しんげつ)、四節(しせつ)、烟(けむり) 競(あらそひ)、忍香(しのぶかう)、四町(しちやう)、御幸(みゆき)、宇治香(うぢかう)、別花月(べつくわげつ)、別名所(べつめいしよ)、三だ(さんせき)、住吉(すみよし)、芳野(よしの)、玉(たま)、川(がは)、系図(けいづ)香〈三種より七種迄〉等なり、此外心々にこしらへ家々に伝ふるもの、記すにいとまあらず、然れ共風流余情にかゝはり、其理つくさゞる事あれば、童蒙にわたらず、且わずらはしき方もあれば、此書にまじへ加へず、格そなはり事すなほにして、此門に入徳ある事は、唯此十種の内にこもれりと知べし、
一十種の内に勝れたるは十炷なり、世に香合のたぐひお、すべて十炷香とのみいひて、十種の内又十炷の名ある事お、わきまへざる人おほし、是此道にうとく、又字韻同じ故成べし、十種といふは総名にて、十炷は別名と知べし、
一香本と雲事、いにしへより火本といひて、近世までにおよぶお、聞よろしからずとて、或師会毎におしへて、香本といはしむるより、やう〳〵いひなれもて行、今是に習へるはむべなり、〈○中略〉
一香の作法は、はじめの十炷に大概おしるし、十炷以下の香には略せり、前後おはかりて知べし、その香毎につきて故実あれども、所々にあらはさばことにまぎれて、其香の組やう、きゝやう、意味おそらくは心得がたからんか、此道に志す人は常にたづね習べし、
一香会興行、香席賓主の用意、諸具のこしらへやう、同寸法、別ては香本の手前、たとへば諸礼茶の湯等のごとく、法式古法新規の事多端なるべげれ、ば、香道おふむ人、兼て其弁別なくば有べからず、
〈今世香曾の作法みだりなるよし、執心うすく、不嗜の故と知べし、〉
一香道具品々、盤、人形、馬、花、紅葉、箭、麾、源氏香の図等は、十種の要具なれば、後附に図画して初心のたよりとす、是も又略にしたがふのみ、
一香道に古法の制ある事、あらかじめ知ずば有べからず、其筵に入人、此趣おまほるべし、
一其身衣裳に薫じ、又革の衣類お著し、出座する事、
一香一組相済うち、自余のはなしいたす事、
一三息五息の外永聞し、また香炉お取戻しきく、並入たる符お取かゆる事、
一他人とさゝやき相談して、符入る事、
一香一組おはらざるに、烟草茶並菓子など食する事、
一香の半に座おたち、用事とゝのふる事、
一戸障子のたて明、言語起居、いづれもしづかならざる事、
右条々、堅相たしなむべきものなり、
此外常に用意の事、数多あれ共、別記に譲りて略し畢ぬ、