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栄花物語
十一/莟花
一条院殿のあまうへ、〈○藤原道長妻倫子母〉大宮の宮たちみたてまつりしに、わがいのちはこよなうのびにたり、いまは中宮〈○三条后妍子道長女〉のひめみやおだに見奉らではとなんの給はすればとて、とのゝうへのおまへ〈○倫子〉さるべきひまおおぼしめしければ、かう〳〵このみやなんこの頃こゝに出させ給へる、よきおり也、いて奉らんと、一条殿に聞えさせたまへれば、いとうれしき事なりとて、俄に御まうけしいそがせ給、〈○中略〉尼うへいみじうしつらひてわれもいみじく心けそうせさせ給ひて、まちきこえさせ給程にわたらせ給へり、〈○中略〉御おくり物に、このとしごろたれにもしらせ給はでもたせ給へりける、かうごのはこひとよろひに、いにしへのえもいはぬかうどもの、いまは名おだにも聞えぬや、そのおりのたき物などのいみじきとものかずおつくさせ給へり、