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袋草紙

堀川院の中宮御方に令渡給ひて、以蔵人永実御所にある薫物の火桶申て参れと有仰に、参て申出に、周防内侍絵書たる小〈き〉火桶おさしいづとて、
かすみこめたるきりひおけかな
永実無程取之
はなやさきもみぢやすらむおぼつかな、範永之孫清家子にて、新蔵人なるお心にくヽ思て、ふる物にて試之に、猶有興事也、後に主上聞食て被仰雲、不永実ば我恥ならましと雲々、伊勢大輔が、こはえもいはぬ花の色哉、といひしに不劣覚へし事也、
○按ずるに、たき物の火桶は、即ち薫炉のことなるべし、