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柳亭記

茶の湯 たばこの煙
茶の湯と古くいひしは、手業の事にはあらず、茶お煎じたる湯の事なり、今茶おのむ、茶おまいらせよなどいふは、湯の字お略たるなり、茶の湯おのむ、茶の湯おまいらせよといはざれば、本来は聞えず、麦お煎じだるお麦湯といふに同じ、それが茶式の名となりてより、常にのむお茶の湯といはざるもおかし、栄西僧正の著、喫茶養生記に、茶及桑葉の徳おあげて、唯可喫茶飲桑湯、勿飲他湯、桑湯茶湯不飲、則生種々病とあるにて知るべし、此書建保二甲戌春正月とあり、茶の湯とつゞけいひたる事、是より古くもあるかたづぬべし、友人指山雲、今仏に備ふるのみ茶たうといふ是なり、のゝ字お略たるが故に、湯お音にたうなり、