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南方錄

暁来会
三炭第一の火相也、初心の人の成がたき所作也、功者の亭主ならば、明朝の御会とてもの事に、暁より某御火相並に残灯おも見申度と雲入べし、主よりは大凡に辞退有べし、しいて来分には其分也、又は雪の暁など不図尋来客も有物也、け様之事書付て伝る体にあらず、能々自得すべし、暁天の事成故、主客共に刻限遅延有物也、其変に応じて相対する事不及言、先定法定刻お以て言時は、寅の刻に炉中改むべし、是朝会の下火也、腰掛露地行灯釣灯籠等法の如し、但露地行灯抔、浅影の心持に不及、常の夜会同前也、行灯の内土器に竹輪有、乱れ灯心五筋よし、かき分て物押へあるべし、石灯籠の内土器竹輸、灯籠の大小に寄て、灯心三筋五筋可然、暁の会、石灯籠の蓋お取て内に気お付、残灯に感おなす抔と雲説有、髄分ひが事也、残灯の物さびしき光お感ずると雲事は、内の事にてはなく、露地入の遠目お雲事也、蓋お明て灯心の数おかぞうるやうなるふつゝかの事にては以の外也、第一風吹入て消やすき残灯、若吹消ては殊更不作法也、手水鉢ふた、前にも記すごとし、暁会夜会雨雪の時は蓋すべし、井華水の事、総て朝昼夜共に茶の水は暁汲たるお用る也、〈○中略〉
濡釜の事、客座入、早速釜引揚て勝手へ持入、底取大ほうろく組合持出、宵よりつかへたる炉中改一炭して井華水おたゝへ炉にかくる、濡釜とも水釜ともいへり、火うつりはやく湧立様にすべし、とにかく待遠成もの故、初の炭軽く早移りたるおよしとす、常の会、時により炭お加る事有、初の残り炭お用てよし、暁会夜明ての炭は、炭斗は始のにても炭新に組入て仕たるよし、後の炭客お設る所作なれば、残炭はわうし、草庵かべ戸障子等夜中の儘、窓にはかへ戸有べし、明はなるゝ時分お考へて、障子にはめ代てよし、それ共不残代戸在ては明離るゝも知がたし、あかりのかげお料簡して、一所抔は障子立置るゝよし、水打様、夜中の事故、草木抔たふ〳〵と水打事にてはなし、腰掛の辺飛石等軽くはくべし、夜、の明はなるゝお考へて、露地内外水打べし、総て朝会の掃除寅の刻、露地草庵共に掃除に取掛てよしと雲へ共、夜中の事故、掃除もはきとしがたし、夜の明る程お考へて、早掃除に取掛てよし、客早々腰掛に音づれては不仕廻のもの也、
迎の手灯籠の事、主のむかひの手灯籠よし、唐灯籠抔の、物さびたる有、手燭持出す人有、風吹夜抔別て難義也、殊に殊勝げなし、あざやか過て悪し、客腰掛に来り案内あらば、常より早迎入る、座中行灯残灯之事、四畳半抔は源氏灯台もよし、数寄屋行灯、又はかけ灯覆しても用ゆ、土器竹輪下皿等法のごとし、乱れ灯心三筋五筋の間残灯肝要なり、かゝげ残しは、凡灯心一寸五分二寸許よし、灯心のもへさし抔不改、かゝげ残しなる体の儘にて殊勝のもの也、是又覆お取て見ると雲にはあらず、油のへり科簡すべし、灯のあかりにて炉中等見ゆる程あらば、手燭出すに不及、殊勝気なきもの也、されともすまいに寄て炉中見へがたき時は、炉中改る時計手、燭出もよし、
初坐配合等心用、掛物墨跡類は大字あざやか成よし、筆者に寄絵抔もよし、必と雲にはあらず、暁会三つかけの事、秘事口伝有、