[p.0410]
南方錄

不時之会 急接共雲
朝昼夜三時の外お不時と雲、朝飯稜にても門前お通掛に雲入て、一服と所望の事あり、是急接也、露地は手水鉢の水改むるまでにて、早く案内おすべし、中立前露地内外雪隠等、水たふ〳〵と打べし、床台目共に薄茶の棗抔、棚にありの儘にて呼入、炭加へて濡釜に改、あぶり昆布水栗の類茶請に出し、引合たる濃茶あらば濃茶にすべし、さなくば薄茶お真にはたらきてよし、炭の時棚の棗茶は取入べし、後座掛物巻て客へ花所望すべし、又は初座花ならば取入て、秘蔵物抔外題おかざりてもよし、け様の事時宜に寄べし、必と雲にはあらす急接の時、にしめの類、茶請に出す事ひが事也、我食事の残の様にて惡し、利休壮年、奈良住人宗泉と雲者、不図不時に一服所望しけるに、煮染の茶請出され、後悔のよし、度々門弟子に語られしとかや、又は前日前々日にても、朝飯後何時比御茶被下候へと申入、又は主よりも不時に一服と約諾したるは、露地数寄屋のもうけ常の会同前也、少宛の心持は、主の作用分に寄べし、勿論煮染の類、又は吸物にて一献、何にても茶菓子心次第也、不時の会いかにも秘蔵の道具抔、一色も二色も出し、所作真にすべし、心は草がよし、