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槐記
享保十二年三月廿一日、参候、一亭一客には、料理に心得あることなり、もつそうは勿論のこと、香物お置合せて出す、其外の物も、煮物焼物等、客のは面々各々に器物に入て出す、亭主のは、一器にもらるヽものお用意して引て、後より出すものは、皆己が皿力煮物椀に一つに入るヽことなり、そのがてんにすべし、 十四年十二月朔日、仰に、〈○近衛家熙、中略、〉一亭一客のことおいつぞやも咄せしが、又はなして聞かすべし、凡そ一亭一客の時は、〈御前(近衛家熙)にも常修院殿(慈胤法親王)へ御所望ありしかども、内証に功者のものな〉〈くてはならずとてあそばさず、そののち三菩提院殿(貞敬法親王)のあそばせしにあいたりとの仰にて、これおうけたまはる、〉亭主むかいに出でて、待合にてゆるゆると語り、さて時分も好かるべし御入あれとて、同道して同じく入る、〈客お先へ、亭主はあとより入るなり、〉此時に掛物おかけず、客にかけさするなり、〈追而会席お進ずべし、この掛物お御掛け候へとで内に入る、〉客かけものおとりてこれお掛る、掛物のおきやう、掛物竿のおきやうあり、掛け仕舞たるとき、亭主出て釜おあげ、炭おするときに客に所望する、〈これ前に記したる通りにす〉亭主炭お見て釜おかけ、さて会席お出し、亭主も同じく相伴す、〈亭主の膳には、幾色にてももりあはせて、かはらぬやうにす、〉客の汁おはじめ、かゆるものお亭主これお盆にて、かへ、勝手口より取かゆる、さて中立にも又つれだちて出る、〈その間に臓手より花生お掛かえて掛物にする、〉又待合にて話して、又つれだちて入る、〈此ときに手水鉢のわきに花おおくことあり、此ときは花かごにて、幾色もおくことなり、花台は座敷のものなり、花籠はこのときのものなり、〉さて又同道して入りて、茶入茶等お吟味致すべし、其間に花生られよと雲て内へ入、る、客花おくばりて、下の重に生け、亭主出て花お見てほむるとき、亭主に向て、花にも余慶あり、ちと生られよと雲、生ることも生ぬこともあり、〈生れば上重なり、宗匠にて弟子など呼たらば、生てもくるしかるまじ、〉さて水指おはじめてはこびてかざるなり、茶も相伴す、