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茶之湯六宗匠伝記

名水茶之湯之習之事
一名水と雲は、京にては宇治の三の間の水、柳之水、たゞす水、尼寺之水、さめがい之水、惡王子清水、小柳水、菊水、大坂にては天王寺水、亀之水、江府にては井伊の清水、御茶水などゝ雲水は上水とする、是お釜しかけおけよ、〈○中略〉田舎にても能水には金気おもみうつりがもなきお上水とする、かけみることは前に出たり、それお見ればしるゝ也手前には替ことなし、湯にて乞出し呑べし、かざりがならい也、かざりと雲は、三畳大にても、水さしの前に竹輸置、横にひしやくお置べし、又は大目の外へ出しかざることも有、四畳半にても、一畳半に而もかざるべし、但し一畳半は、いつとても水指の前に置べし、又棚物の時は、たなの前にもおく、ふたおきにひしやくかけ置ことは、何にても名水の紊と雲物也、扠は名水にて可有と、必湯にて呑ことが客ぶりの大事也、か様にせざれば、てい主に恥おあたゆると雲物也、是おぬからずに客ぶりすべし、去方にか様にして有お、常のごとく座に付れたれば、後にはてい主不機嫌に而、そこ〳〵あいしらいて、てい主俄に用が出来たるとて他出せられ、其日の茶之湯は無之由、去人はなしにておどろき入たり、是といふも客に参られたる衆々の、茶之ゆ不功者故也、とかく習お知て出さするは、客の大功者と雲物也、