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南方錄

柴火之会 ふすべ茶湯也、野がけとも雲々、
ふすべ茶湯と雲事は俗名也、野がけの事也、大善寺山、又当国〈○筑前〉箱崎松原とて、休居士のはたらきに、松陰成故、松に雲竜の小釜お釣て、松葉おかき寄、さわ〳〵と湯おわかし、わき立のぼる松風の一声、煙の立のぼる体面白しとて、殿下〈○豊臣秀吉〉其後野遊の御時は、たび〳〵休にも宗無宗及にも、かのふすべ茶の湯お出候へと被仰しより、皆人ふすべ茶湯と雲也、糺にての時は水辺故、三本竹にて釜掛られしと也、主客の心も清浄潔白おもとゝす、此時計り清浄にするにはあらず、茶一道もとより得道の所にごりなし、出離の人にあらずしてはなりがたかるべし、手わざの諸具共に定法なきが故に、定法大法有其子細、唯一心得道の取おこなひ、形の外のわざ成故に、なまじいの茶人、かまいて〳〵無用也、天然と取行べき時あるべし、器物抔水そゝぎて、さわやかにするお第一とす、興お催し過れば雑席のやうに成、うと〳〵しげれば、景気にうばはるゝなり、かの千山万水の景気も、此釣釜のへり取、一二席の真味にもとづきて、しかも他の境にあらず、景気が体に成て、茶席が用に成と、茶席が体に成て、景気が用に成るの違也、茶お体にする程の茶人、今世に難有、誠に向上底也、手わざの所作は、さのみ六つ敷事にもあらず、手前の大概お雲へば、松陰抔景気お見立、釜お釣やう取毛氈抔見合敷て、主客の座お設て、拆敷に茶箱柄杓置合置也、客著座後、榻乎か提物の類にて菓子お出す、〈此茶請は、時に応じて色々了簡有べし、〉茶に取掛以前、主茶構への所へ向ひ、松葉木の葉抔、釜の右の方にかきたて有お、火箸にて釜の下にさしくべ、扇お以てさつ〳〵とあふぎ立れば、釜一声お発つす、扠釣おはづし、釜お水桶の際へ持行、左の手にてつるおとらへながら、右の手にて捲、柄杓たて水お汲て、釜の蓋の上よりさつと流し改む、縁取の上に紛巾お出し置て底の露お取、直に持出てもとのごとく釜お掛、扠折数にある茶箱お取て前に置引出し、折数お我右の方にかりに置、茶箱袋の結目おとき、蓋お明てあおのけて、小手桶の前に置、其上に茶入おあげ、茶杓共同前に置、扠茶盌茶筌茶巾お折敷の上に置、茶箱の内にある薄茶入お箱の真中に置、袋の長緒箱の内へ押入、勝手の方へなおし、折敷なりとも持て、火桶の際へ行、茶盌茶筌茶巾柄杓皆々すゝぎ改め、折敷にのせ、炉がまへの所へ持出、前に置て折敷の上にてさばく手前也、茶立る茶筌お茶盌に付ながら左手に持、右の手に扇お開きおほひて、客前に持行渡す時、扇おのけて少々ふり点て客へ渡す也、此已下は仕廻別義なし、向炉がまへ、台目がまへ抔、いくやうにもする也、夏冬の了簡も有べき事也、大悟の茶人、其時に応ずる作用、差排筆舌に及がたし、