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喫茶指掌編

貞置雲、口切の節、古昔は炉縁までも木地となし、春は塗縁として有つるお、近代執違しよし、やと雲、側に見休居合て、是は必御覚違にてや可有、田舎も京もなべて木地は春とし、俳諧の四季の部にも木地縁と雲て、春の季になるといふよしなれば、必思召違にてや有んと雲、貞翁いや左にあらず、口切の時分には水次は片口、建水は面桶に至迄木地とし、又窓竹なども青竹に相替る也、然ば炉縁も木地お用る筈なりと強て被申けれ共、兼て聞しに相違せし故に、いかにも疑しく存居し処に、丹羽五郎左衛門長重の直筆の書に、古田織部かたへ、十月四日口切に参りし道具付に、釜霰、炉縁木地、せい高の茶入、袋なしと有、其外諸方の茶に行し自分の留書有お軸物になして、玉峯の家臣大谷彦十郎より送りしお所持す、見すべしと被出しお我も写し置し也、古代は皆口切は木地縁に致たる事也、然るに其後卑賤の小賢き者有て、春は雉立見ゆるなど雲て、木地が善と風と雲出せしお、俚人何の思慮もなく用たるお、終に斯は唱来ぞおかしけれ、