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草人木

一むかしは茶湯に上中下の三段おわけたり、上は其身世にすぐれ、或は其身に財あれば、名物所持ある故に是お上とす、中は財あれ共、名物の道具に不足なるか、あるひは道具あれ共、其身まどしければ是お中とす、下は財も道具もまどしき故に下とす、これお詫といふ、然共財宝道具共にとぼしからざれ共、茶湯下手なれば此道の下とす、縦わび成共、此道通達して茶湯に利根なるお此道の上手とす、さるによつていにしへは真壺所持の人は、人に御茶可申といひ、真壺不持の詫は、御茶可申とは雲ざる也、しかはあれ共、此道は茶お以正意とす、何ぞまつぼお持ざるとて、正意のことばおうしなふべきやとて、中興より以来上中下おしなべて、御茶可申といふ、猶此儀速に可用、