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備前老人物語
多賀左近、客二三人お請じて茶湯興行すべき約ありしに、ある大名此事おつたへきゝ給ひ、此人の茶会つねにのぞみ思ふ所なれば、人々と同じく参らんとのたまひけり、人々もしかるべしといひて、左近の許へかくといひつかはして、つれだちてゆく、左近迎に出、忝よしおいひて、かの大名にうちむかい、今日の御来駕思ひよらず、ことに忝き仕合也、さりながら今日の義、三人の人々、本きやくの事に候得ば、はゞかりながらあとより入らせられ候やうにねがひおもふ所也、後日にあらためて御儲おば仕べきとありけれ、そののち客衆前後の辞退再三におよびしかど、亭主の申せしごとくにぞなりける、これ此事の本意なるべき評判ありしとぞ、