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雲萍雑志

ある人茶は諂ひありといふことお、利休に問ひし時こたへけるは、わが友に丿貫といふものあり、われお茶に招きしとき、時刻お違たる文おこしたり、刻限おたがへずして行きけるに、内なる潜り戸の前に穴お穿り、上に簀のこお敷てあらたに土お置たり、われは心なくそのうへにのりて入らんとする折から、地の土くえて穴に落たり、穴の底に土のねりたるが中へふみ込たれば、とりあへず湯あみして再び入りけるお人々の興としたり、此事かねて期明といふ者、山科へおはさばかくと、はやく我にものがたれと、主のこゝろづかひお、われかねて知りたりとて、穴に落ざらんは志しおむなしくすることのほいなさに、穴と旄、りつゝ落入りぬ、拐こそその日の興とはなりたり、茶はひたすらにへつらふとにもあらねど、賓主ともに応ぜざれば、茶の道にあらずといはれし、