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槐記
享保十一年霜月十二日、参候、倩主客の様子お見るに、互に上手下手はあるべし、主よりも客にはならるまじきものと存じ奉る、主は心一はいにて独り芸也、客はなすこともなくて、三人ともに引張合ねば、不出来のまきぞへに合こともありと申上しに、後西院の勅に、御上々には、上客ならではなされぬこと也下坐の者の迷惑せぬやうにの心得第一たるべしとの仰也、〈○近衛家熙〉上客によりて下坐の難儀多しと仰らる、此によりて見奉るに、いつも御前に湯お召上らるヽに、下坐の人飲て後再び御請なされて召上らる、毎々如此、下坐の人の致しよきこと也、 十六日、参候、今日初て宗佐お召して末座お勤らる、御茶碗お返奉るとき、改め申さしとて、懐中より奉書につつみたる紫袱紗と、茶巾のうちしめしたるお取出して、口付の処おふきて上座へかへしけるは、最興ありけるとの御事也、