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南方錄拾遺

宗易茶に参られば、必手水鉢の水お自身手桶にてはこび入らるゝほどに、子細とひ候へば易のいわく、露地にて亭主の初の所作に水運び、客も初の所作に手水おつかふ、これ露地草菴の大本也、此露地向ひ向はるゝ人、たがひに世塵のけがれおすゝぐ為の手水鉢也、寒中には其寒おいとわず汲はこび、暑気には清凉お催し、ともに皆馳走の一つ也、いつ入たりともしれぬ水こゝろよからず、客の目の前にて、いかにもいさ清く入てよし、但宗及の手水鉢の如く、腰掛につきてあらば、客来前考て入べし、常の如く露地の中にあるか、玄関ひさしにつきてあるは、腰掛に客入て後、亭主水おはこび入べし、夫故にこそ紹鴎已来、手水鉢の水ためは、小桶一つの水にて、ぞろりとこぼるゝほどの大さに切たるがよきと申也と被答、