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細川茶湯之書

一刀掛に脇指上て置べし、そろ〳〵としづかにおく也、
一先次第なれども、人によりてくゞりの前にて、諸の人へ一礼申入べし、
一せきだお石の上にろくにぬぎそろへ、手おくゞりにかけ、そろりとしづかに戸おあけて内お見いれ、いづれへなおるべきぞと見合すべし、不審にてしらずば、跡の人にとふべし、先床の間に目お付べし、
一くゞりへ上りまわりもどり、ぬぎたるせきだお前のかべに引かけて置、若又わきへよせ、ろくに下におきたるもよし、とかくぬぎたるまゝにて其儘は不置也、
一座敷へ上りて、床に道具あらば先見る也、手おつきつくばいて見て、又亭主の居座へ参りて、釜炉中たなの内、とく〳〵と見て、本の居座へなおるべし、
一亭主出合て、言葉おかはすまでは物おいはぬがよし、さゝやけば亭主気遣する也、だうこうだなのうち見るは惡し、抱別何にても物おいろふまじき也、
一亭主勝手より出時、客の功者よりか、又は亭主よりか、忝と申はじめ、双方手おつき、じぎおして、似合たる雑談おはじめる也、初心なるものは、なにおもいはぬがよし、但かたづまりて、きうくつなる体は惡し、何となく常の居なりかしこまりて居るがよし、
一亭主よりろくに居よとゆるされ、亭主もろくにいる時は、其身もろくに居べし、但相手により、貴人老人の一座、若者はひざおたてつめたるがよし、
一座敷の道具、座敷の竹柱なににても所おさしてほむるは、功者の役なり、若者は人の緒に付て感じて居るがよし、
一道具おほむるに、たとへば墨跡お見て手跡おほめ、語おほめ、紙の内、或は表具中にも、一もんじなどおほむるは下手のくせ也、しりだておして、しらぬものなり、まことの功者は、心にほめて重而わすれず、以来沙汰おするなり、
一亭主咄おするに、たとへばわやめく共、心おうつさず、はり弓のごとく心おきつともち、うしろのかべに寄かゝりせぬやうに、こしおつよくきつと居るべし、