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南方錄

客炭お見る心用之事
昔隅切の炉までは、炭おつぎたる時、客者見物すると雲事はなし、是台子よう移りたる折からなれば、台子にて炭見物なき儘にて有ける、古風成けるに、右切の向炉に成て、客の眼下成故、釜引上る時炉中お見入て火相に心お付、扠炭お次たるお見て、其座延縮め、火の移りお急ぎ、又は移りお遠くする等の主の心遣に感お起し、挨拶しける事成お、偏に炭お饗膳のもり形のやうに心得、主も夫お専らに置ならべ、客も其盛かたお見物して、炭出来不出来お挨拶する事、大成ひが事なり、然共根本露地の茶の本意、湯相火相三炭の次第おもわきまへぬ輩は、さこそ有べけれ、