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南方錄

懐石之法
小座敷の料理、汁一つ、菜二つ三、酒も軽くすべし、わび座敷の料理だては不相応也、勿論取合ごくうすき事は、釜の湯同前の心得なり、上方衆は盃事もする、是皆世間会の取交、草菴露地入抔にて、盃事の本意にては更に不可有、菜数出すさへ大に本意お忘れたる事也、主給仕の事は、膳は兎角すべてよし、菜抔は給仕の者に出さすべし、客料理喰仕舞、椀お改め折敷おかさね、給仕口へ出し置お主出て膳お取べし、一説に主膳お取べきも難計、折敷お重て主にとれとあしらう、是いかゞと雲り、たとひ主とらずとても、小座敷賞客の前まで給仕の者踏込よりは、一つに重て給仕の者しよきやうにして可然、主取候へば尚更也、茶菓子別に出さずば、楊枝膳に付てよし、扠茶うけに餅お出す事、休〈○千利休〉時代には大方なき事なり、やうかんの類、或はふのやき、或はまき栗椎茸川茸抔の煮しめ口取也、古織〈○古田織部正〉の時分、浅野弾正殿すぐれて餅好なり、古織も餅お被好し故、相談のうへ茶うけに餅出されたるよし、土屋宗俊物語なりと雲々、