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茶道独言
懐石料理とて、其文字さへ弁へぬものゝ、茶湯などゝいふて、めつたにふしぎ奇妙の料理おなして、其見るのみならず、食ての上にても、互に額おあつめて、何なちしやなどいふて、面白がることいかゞ、亭主も客も其味ひお忘れ、料理のはんじものゝやうに心得、しきりにおもしろがり、其はんじもの料理お書付などして、噺し合ひとなど、何とこゝろへしものにや、総じて懐石は、前にもいふ如き心得のものなれば、必々ふしぎのものお出すことなかれ、誰もよく見しりて、人々きらひの有まじきやう、正風体のものよし、奇妙の料理お出せば、客も何ともしれぬものながら、これはもし我きらひの物にてはなきや、いかゞなど心づかひ有べし、大に礼お失ふなり、最初見るよりしれたるものなれば、これはわが嫌ひのものと思へば箸お下さず、其儘にして置ことなれば、主客ともに心づかひなし、また弁へぬものゝ此事おきけば、食へ共其味ひおしらぬなどいはん、わけもなきことなり、誰にもせよ、是は何々といふ様に、常々喫するもの然るべし、多くは異物お珍味と心得る人多し、皆まちが、ひのことなり、何の懐石料理の事あらん、おかし、