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草人木

一薄茶世にはやり出しは、根本東陽より事おこり侍也、利休いまだいんびの時迄は、無上の日に、一時の間は、うすちやなどのむ事はと各申されしお、書置たる物語などあれ共、此東陽はじまりしより一段然べき薄茶也、客お請じても、養生などにてこひ茶おのまぬ人もあり、又詫たる道具などほり出し、薄茶に事およせて、其道具出し候なかだちにもなり、又は会席の上にこひお一服づゝにても、のどのかはかんはこたへがたきに、ましてすひ茶の二口三口などにて、いかに忝なければとて、のどのかはきおやめては也、殊におもひあひたる友のなぐさみとて、薄茶はそれよりはやるといへども、いまだむかしの例お引人ありて、貴人高位などへは申上ざれば、かつ〴〵はやりしお、此例お以てにや、さる故ありて古織公〈○古田織部正〉よりこのかた、亭も薄茶お立ではかなはず、客ものまではかへらざる物と盛に成也、こひ茶たてゝ、程有て薄茶お専立て申事は、利休より其例今に引事右のごとし、こひ茶立たる小壺の茶おひつ付、うすく一服も二服も立る事、古織公より始る、