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備前老人物語
一或は主人、或は貴人の御茶給る時は、中露地まで、つねのせきだにて参る、主人御出ありて、中露地のくゞりお開き給ひ、会釈し給ひて、くゞりお少々あしらい、ほそめにあけておき立入給ふべし、其時先後の辞退ありて、先にたつ人まづ中くゞり外のふみ石につくばい、くゞりの数居に手おかけ、内々露地の体お見て、それよりあたらしきせきだおとり出し、右手にて内露地のふみ石になおしおき、扠敷居に手おかけ、越してせきだおはき、あとおかへりみ、まへのせきだおなおしおきて露地入する也、その次々に入る人みな同じ、その故は、主人の御手のかゝりたる敷居の上お、せきだはきながら、越まじきとの礼なりといへり、