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明良洪範
二十三
完文九年、家綱公御手前にて、光、国卿へ御茶お下さる時、御相伴は井伊直澄なり、御自身則御茶なれば、相公も掃部へと譲らるヽ事もならず、されども大服なれば引兼給ひし故、掃部頭力ヽる御坐昌列なり奉らずば、争で御茶お拝領申すべき、御残りおと乞はれしかば、相公御挨拶ありて、御気色お窺はれけるに、掃部にもと上意有て則下し給ひける、掃部頭たべ仕舞、端香お相公聞し召れ、掃部頭受取て是お頂戴し、直に懐中有て退出せられける、翌日直澄水戸家へ参られければ、光国卿宣ひけるは、扠も昨日の御茶碗お自分拝領申さんと存れども、大服なる故に引兼て居たる所に心付て、大慶なりと仰せられし、公方家の御手前にての茶碗おば、返し上申さぬ事、古き伝有事也、