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貞要集

略手前之事
一略手前と雲は、有楽流の極秘にて貞置、侯〈○織田〉も、むざと伝授は無之候、御門弟の内二三人ならでは知人無之候、総而手前の内に我人忘るゝ事是おほし、此略手前は忘たる所お手前の其一つに用る事也、或は釜の蓋お先へとり、茶入お跡に取、茶杓お置わすれ、柄杓お遅く取、茶調候内、色々怪我有之時、手前おたて直す作法也、極秘なれば書面に難知、伝授なくては難成事也、貞翁常々被仰候は茶の立前、道具の置合等、如何様にしても不苦と清談ありしも、此略手前有之故也、茶湯お我物にして発明自由ならねば、右の手前は難立、依之初心の人に許ては、手前猥に成申ゆへ、其仁の器量次第に伝へべしとて秘事し給ふ事也、流儀の事理融通成事しらしめん為に、有増書記者也、
一主君貴人、家来其外軽き者に御茶給候時は、略手前お一所二所も御加へ、御茶手前有之事に候、然共高貴の御方は、茶の湯一通り計にて、余り古実お御麑無之ても、御慰の茶湯なれば、今の世にはやすらかなるが本意也、しかれ共略手前至極の事有之故に書加る也、