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槐記
享保十二年霜月十日、参候、今の上流の茶人の濃茶お立るは、全く茶筌おふることお用ひず、隻こねまはすやうにして出す故、泡など立ことは勿論なし、惡く下手の立るには、底に残ること多し、茶は好くふりたるが味好と存ず、久しくふれば茶気お脱すと申す説は、いかヾに候やと窺ふ、仰に、〈○近衛家熙〉茶筌のぶりやうは、茶によることなり、初むかしなどは、味は薄く気ぬけし故に、久くふりては悪しヽ、茶の下お上へふりたてヽ、さつと建るが好し、後むかしは、気味ともに厚き故に、上下ともによくふりたてヽ、よく〳〵立るが好と仰らる、