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草人木

一名残炭お客に所望する事あり、常の炭に殊外かはりて、同中にも別而きれいなるおたしなみていだすべし、あたらしき木具のあし付に紙お敷て、すみおくみて出すべし、茶湯功者の客か、又は貴高の御客など茶湯にすかせ給はゞ申べし、さしてもあらぬ儀ならば所望すべからず、
一客に炭のぞむ時は、釜お上ざるさきに炭入計お持て出、炭所望の由お雲べし、若客の炭おくに極りたらば、客亭主に向て御釜上給へといふ、其時亭主釜お上、いつもの所にくはんおぬきておき、座お去てそこ取ほうろく取出して客に進べし、其時客亭主座に居かはりて、つまの風にてほこりのたゝぬやうに居て、もろ手おつき、先釜お見、其次に炭入お見、其次に炉中お見て、さのみ灰つかへずば、そこお取べからず、いまださのみなれ過ずば、卒爾に火おわりくだき、又は火おせゝりくづすべからず、なだれかゝりたる火おかばいて炭おすれば、猶面白物也、
一そこおとる時は、ぬりぶち、あたらしき栗ぶちにても、ふところよりはな紙お取出し、ふちの内へ出ぬやうにしき、其上に灰ほうろくの三つある其内の一つの足お紙の上にのせて灰おとるべし、扠灰おとり、跡に火のすくなくみえば、そこ取の火おひばしにて炉によき比に入て炭お置べし、灰のまきやう、其外の時宜、炭の指合、前にみえたるごとし、
一勿論の事なれ共、大なる炭おば手にておき、中比なるおも手にておきたるはよし、炭おはしにてはさみかねたるは見ぐるし、別而老人中風気の人など見てあぶなき、返々すべからず、
一客炭終らば、色々の道具勝手へ入て、亭主座敷へ出、炉中お見、一段の出来の由などいひて釜おすゆる也、釜のたぎり出てより薄茶立べし、薄茶過ての炭ならば、亭主釜すへ終候はゞ、其儘帰宅の由お申べし、