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喫茶指掌編

豊臣殿下〈○秀吉〉小田原御陣払の時、古田織部と利休、由井が浜お馬上にて同伴し登りける、其浜辺おみて利休雲、此塩浜の景色如何、茶に付て思し召有にやと問、織部なしと雲、利休雲、此浜辺の浪うちよせたる風情お、風炉の内の灰にうたせ度と雲ば、織部存外の思ひ付なれば大に感称しぬ、〈○中略〉
宗旦の嫡子宗拙、故有て勘当お蒙、其頃大徳寺大源庵天室和尚笑止に思ひ、我寺に招寄養しが、或時宗旦大源庵へ詣す、天室小座敷へ招入茶お振舞しに、宗旦風炉の灰お見て驚、再三感心して、和尚はかほどの御数寄とは曾て不存、さても能被成るもの哉と入興し帰りぬ、其後和尚庸軒に斯と物語し、其風炉の灰は、日々宗拙に頼置たりと雲事もならす、其趣にて過せしが、風炉の灰は我等何とも気も付ねども、其家の人は、これらまでも仕様有事にてや、見処有と聞たりと感心せり、