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喫茶指掌編

庸軒が妹婿茶屋三四郎と雲者、京川西の別荘にて常に茶お嗜、或時庸子北野社参の次年に別荘へ尋しに、三四郎雲、扠善折御出なり、今日は薮内紹有お茶に呼約束せし故に、雲竜風炉お出しつるに、灰に困り居る折也、幸の事御頼申上度と強て申に付、庸子戯に、今日我等不来ば如何致さるゝやと打笑て灰おせしに、無程紹有笹屋宗清両人来て小座敷に入、風呂の内お見て大におどろき、主はこれ程の茶人にてはなしと思しに恐入事と、中起の後までも称嘆して不止、三四郎こらへず事実お以語れば、紹有さも有べし、庸子ならば猶也と尚感じける、庸子後に聞て、紹有が見たる処お賞て、互に後は親しく成しと也、其後紹有宗清に雲るは、庸子の茶、兼て功者とのみ聞及しに、彼風炉の灰おみては、中々及まじく、此人の茶にはうかと不被行と、庸子へ行ごとに、前に彼宗清懇意なれば、座敷の様子万事お能聞正して、大事掛て行しと也、