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長闇堂記
一大坂にて秀吉公お桑山法印御成し給ひし時、道庵来て台子お飾り置れしお、さつまや道七御見廻申て、彼台子お見て、何者かかくしらぬ事仕たると散々にいひて、則道七飾直せしなり、道庵次の間に在て其声おも聞、歷々余の人も聞て、いかにも咲止に有しに、道庵きかぬ体にもてなせる仕方、松倉豊州其坐に有しとて御物語有り、其時は道七飾猶のやうに思ひし間、其仕方も知給ふべき人にひそかに尋申に、道七は古風の仕形、利休道庵は当世様なり、台子は道の秘伝なれば、道庵人にしらせじとのたくみ、猶心深き事なりとぞ、心構のよしなり、