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甲子夜話
十四
宇治茶の名品、初昔後昔は世の知所なり、然に上林六郎の年々献品二種のうへに、ばヾ昔と雲お献ず、これは神君〈○徳川家康〉の御時、六郎の祖掃部允の祖母〈六角祥禎の女なり〉の摘ところのもの、其製よかりければ、神君戯にばヾ昔と仰ありしより、至今て祖母(ばヾ)昔とし献ず、又神君かの祖母に若林と雲処お茶園に賜へり、因て今其処に産する茶と雖ども、余家は此称お以てすることお許さず、別に若林昔など称呼すと雲、