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三百箇条
中之上
外露地むかしは無之事
口伝曰、むかしなしと申は、数奇者の仕たる物とてはなく候、数奇にいらぬもの也、作去勝手よきものとて、利休も軽き腰掛お後に被致候よし申事也、
怡渓曰、外うじ待合は、詫の意味にあらず、手重きゆへか、むかしは無之、夫ゆえ客の遅速に構なく、来儀次第、直に囲へ請じ入、昼の茶湯には、先うす茶など出すことも有之候よし、宿りは台徳相公〈○徳川秀忠〉就御成、金森古雲可重公初ていたさる、其已後近代は大方外うじ有之、貴人御出之時は、外ろじの入口の外迄迎に出、常の客には入口の戸少し明掛おく、其時は客案内におよばず明て待合迄入る、客揃ふとき、亭主中潜迄迎に出る、外ろじ内ろじの仕様広狭、諸事習多し、其内、外ろじは何之様子も無之、狭く陰気にいたし、中潜お明け内ろじお見込とき、景気改り気転る心持肝要、然るゆへ内外不似様にするものゝよし、委細は口伝、但待合といふ事は無之ゆへ、入口の外に軽き腰掛計するは、むかしより自然に有之由雲つたふ、