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茶窻間話
上一
京師真如堂の僧に東陽坊といふあり、茶道お好みて利休の弟子となり、猶詫数奇の名誉ありけり、掛物には尊円親王の六字名号お、利休の好みにて紙表具にしたる一幅、伊勢天目一つにて、一世の間炉お絶さざりし、或時秀次公の近臣お請じ茶湯せしが、薄茶おたてゝ、さて各には暇なき方々に候へば、薄茶に手間とらず、大服にたてゝ進ずべきほどに、吸茶になされ候へとたて出しけり、此作意時に応じてよろしきと、休師も称美せられ、世人もほめて、其頃は薄茶おも吸茶にせし事はやり、彼が名おかりて、大服に点るお東陽に仕るなどいひし、