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心の草紙
茶たつる事は、いとたふとき道と心得て、客まねきつゝ、主人いかにもしりがほに出でてもてなし、此かけ物は虚堂の墨跡、多くの黄金出だして買ひたり、この釜はあしやにて、何千貫の折紙こそあなれ、この茶わむはほり出しなれど、世に有るべしとも覚えず、殊に我は禅味しれば、名だたる宗匠もなどて及ばむ、ひさく斯く持ち、水斯く汲みて、斯く釜にいるゝに、松風の吹きたえて諍かなるごときは、心の妙とやいふべきと、心におもふ客もそれ〴〵の心に有りけり、