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細川茶湯之書

茶之湯数奇道に習なし、上手のとりおこなふおにせるこそ其身も面白、然れ共習なければ、にせ得る事不協、唯面々器用次第、上手のほまれお諸人にもちひほめらるゝ也、都に数奇者多しといへど、其時の師匠になれそひ、色々さま〴〵に数奇道お執行するといへども、さながらおしゆるといふ子細なきによりて、習事もなしたゞ師のおこなへるお似せ、また眼前の事のみうつすといへども、上手下手の差別わからず、其年の口切の時とりいだす道具、作事、料理、以下献立お、年の暮まで用る、日夜朝暮たねんなくするお数奇者といふ、或は能道具お取出し、其身の覚悟、一心不乱に奇麗ずきして、万事にわだかまらず、涌淪に老若の隔なく、能人の目明のつよきこそ上手とはいへり、先年利休茶之湯の師となり、弟子数千人余これありといへ共、上手と成弟子は、五人十人にしかず、去ながら高もいやしきも、老若ともに、当世のはやりものなるに、旧先少也、しかるべきため如此なり、