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雲萍雑志

茶道お好むものゝ、他の手前おも弁へなく、わが習たる義のみ心得、これこそはわが流になくて協はぬ品なりなどゝ、無益の器お高料にもとめ飾おきたるは、ふる道具店にもひとしく、見るさへなか〳〵にうるさかるべし、又利休居士が詞にも、貴き価の器物お愛するは、心利欲に走るがゆえなり、欠たる摺鉢にても、時の間に合ふお茶道の本意とすといへり、数奇屋咄といふものにも、主人家居と道具に自負し、客にたのみて雲けるは、わが好けるすきやのうちに、何によりたることゝはなしに、よろしからざるものあらば、詞にしたがひはぶくべし、少しも遠慮し給はずいひ給はれとありければ、客は諂なき人にて、家といひ器といひ行届かざる所もなけれど、隻このうちに、そのもと壱人なからましかば、風流雅境、これに過たることはあらじといへり、こはいとおもしろき諷諫なり、