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渡辺幸庵対話
一小笠原先右近将監忠政殿に、古蘆屋の釜に須磨と申候名物有之候、然る処一年火事に土蔵七つ迄焼失、右之釜も滅申分に候、去共灰の中に焼残り申候哉、古金買の手に渡り、夫より右近将監殿家老〈名字落〉主馬買請申候、名物の須磨に形も似申候、但さびくさり候て雨にさらし能致し可申とて、外に晒し置申候、其内主馬死去、子息は幼少ゆへ、家来中相談にて、当分不入道具払申候、彼釜も其内に成候て、或人買請申候、其外茶道具おも一所に買請申候、若其内に掘出しも候哉と、色々お改め吟味候処に、釜の名物帳有之、須磨に形の似たると申者有之候、総て古蘆屋に出来能には源左衛門印お三つ押申候、夫故三つ印の釜大切なる物に候処、釜錆お落し候て改候へば、三つ印あらはれ申候、そこにて釜屋某に見せ申候処、是は須磨の釜に相違無之旨、夫故予存申方へ秘蔵にして所持に候、