[p.0699]
槐記
享保十二年三月廿九日、参候、兼て御うわさ〈○近衛家熙〉ありし、真の台並に天目お拝見すべき由にて拝見す、是は文昭院殿〈○徳川家宣〉より、禅閤様〈○近衛基熙〉の御帰洛の節、准后様〈○近衛家熙〉へ進ぜられし物也とぞ、まがふべきなきは勿論のこと、日本にて数あるものなれば、能々見覚ゆべし、天目は乾山にて黒きに、こうだいは、はげて細きものにすきなし、如何様にも、台にのせざれば危きやうに見る由申し上ぐ、台は菊の花形にて、内は朱に金のふくりんあり、外は青漆の由なれども、内の朱もくろみがちに、外の青漆も、ねずみ色のやうにて、張貫の菊形也、〈などが感心にて、此うるしいろが、わかさ盆の色なりと申上る由なり、〉天目の袋は錦也、台の袋はどんす也、裏は共にかいき也、ひぼは天目の方紫、台の方茶也、〈天目は、内箱はくろがき、外は桐、台は内箱は唐桑、外箱桐、〉