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太閤記
十六
呂尊より渡る壺之事
泉州堺津菜屋助右衛門といひし町人、小琉球呂尊へ去年の夏相渡、〈文禄甲午○三年〉七月廿日帰朝せしが、其比堺の代官は石田木工助にて有しゆへ、奏者として、唐の傘、蝋燭千挺、生たる麝香二匹上奉ら御礼申上、則真壺五十御目にかけしかば、事外御機嫌にて、西丸の広間にならべつゝ、千宗易などにも御相談ありて、上中下段々に代お付させられ、札お押し、所望の面々、たれ〳〵によらず執候へと仰出さるゝなりこれによつて望の人々西丸に祗候いたし、代付にまかせ、五六日之内にこと〴〵く取候て、三つのこりしお取て帰り侍らんと、代官の木工助に粢屋申ければ、秀吉公其旨聞召、其代おつかはし取て置候へと仰られしかば、金子請取奉りぬ、助右衛門五六日の内に徳人と成にけり、