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紳書

大坂の賞に、少将殿〈○徳川忠直〉〈江〉神君の賜はらせ給ひし初花と雲茶入の事は、三河に念誓といふ者、神君へ此茶入お献りて、是お楊貴妃の油壺と申伝へて、某がもとに求候と申たり、初花と雲名物たる由申ず者有しかば、かの念誓に、その賞として五百石給ふべしと有しに、某し知行の望なし、望む所は当国の酒入事お、某してとらしめ給はゞ、何事か是にしくべきと申ければ、易き事也とて御判お給はり、其後代々の君も、先判の如くたるべきの御手印お賜る事也、是お少将殿へ賜りし也、しかるに尾張にて被成し御年譜には、初花おば秀吉より給はるといふ事、心得られず、秀吉へ遣されしが、後に又当家へ帰りて、又少将殿へ賜りしにや、覚束なし、