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雲萍雑志

奈良の二月堂にて、むかしは青竹にて麁末なる茶筅お売り、老若男女これおとゝのへて、詣たるしるしとしてかへりぬ、家にありては是おもて茶おたて客おもてなすこと、南都の風なり、今はこの茶筅たえてなし、むかしお思ふに、青竹の茶筅麁なるに、茶お立て老おやしなふこと、ならはしとせしお、今時はあたひたうとき器にて茶おして、心お労し寿お縮る人少なからず、むかしの人、今の人と懸隔あることかくの如し、