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槐記
享保十四年二月十八日、参候、世に用ゆるかくれがと雲ことお、先日も申しけれども、外に人ありし故に仰られず、〈○近衛家熙〉今の人、五徳の蓋置の名お、かくれがと雲と覚へたるは、大なる僻事なり、それは五徳のふたおきと雲也、台子の七かざりに、風炉釜水指お初として、みなか子のものお用る、柄杓は柄杓立あり、茶筌は茶饗のせありて、蓋置ばかりはかざりつくる処なし、もろ〳〵かざりつけて、亭主の持出るものはこぼしばかりなり、それ故ふたおきおこぼしの内へ入込て出るおかくれがと雲、こぼしの内へ入おみへざればなり、いかさまにも是ばかりはかざりつくる処あるまじ、〈蓋置と名のつきたるものお、又ふたもとらずにかざるべきやうなしと申し上ぐ、夫もそう、まづかざられまじ、〉それ故に、力ねのふたおきおこぼしへくみたるお、かくれがと雲からして、力ねのものおかくれがと雲、五徳の名にあらず、此御流儀の御伝にて、大秘密のことなり、必ず他人にかたるべからずと仰らる、