[p.0753][p.0754]
茶道望月集
十三
一又水こぼしに形さま〴〵有、先有増お左にいふ、
一先づ合子、是お台子にて用て建水中の真也、勿論唐金物也、口外へそりたる物也、又左もなきも有、えふごの少し口の立たる物也、元来は書院座敷本飾の時、棚下に饋りて塵壺に用し具と也、唐土にては、魚鳥の骨お吐入る為の用に飾ると也、然ども往古鎌倉の時代に、径山寺より渡りし台子の具はしからず、今和、朝にて細工人の形として用る事、往古より写し伝へし形にや、
一棒の先きといふ物有、名物も有と雲、碁笥の大さにて、高三寸五分、或は四寸程にして、真錄につつ立たる物也、棒の先に似たる故の名と雲、又底の角にめんの取たるも有、唐物にてはなしと也、
一瓶ふた、南蛮の土の物と也、口広くひきゝ物也、元来は壺のふた成故と也、備前物にも有也、
一茶飯裏、高麗の食器也、金の色黄色也、此金色おさはりの手といふ、
一麪桶、是はもと順礼者の食器に似たる故雲と也、なし渡し五寸五分、高さ二寸五分法と也、紹鴎茶屋道具お利休見立て座敷へ出る、しかれども台子には不用、とぢ目お壁付へなす、道安織部は勝手の方角へ掛て置れしと也、遠州宗和は、とぢめ客着へなして置れしと也、夫当時は持出候刻は、とちめむかふへなし、点かゝる刻は、左の手にて会釈、とぢめ跡へなす、古法にけ様の会釈なし、若宗旦左様に会釈し事有や、何とやらん目立ていかゞ也、宗旦は道義第一として、詫おもとゝして、古法にもかゝわらぬ程の事は、むつかしき事は仕られぬ趣なれば、恐らくは後世の仕方ならんと也、扠麪桶紹鴎古法の道具おはなれて、初物すかれし物と也、追付に又杉大形の片口も出来しと也、小形なるは利休の好と也、
一其外楽焼に利休の大脇指とて、真錄につヽ立て、ひとへ口にて、ろくろめ有建水、長次郎に始て好にて器にして焼かせたると也、本歌は黒薬と也、小形成お、小脇指とて用るは後世の事也、名は黒薬にてろくろめあれば、脇指の割さやに似たる故の名ぞと也、