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木石居煎茶訣

今日の茶は、泡(はう)茶、淹(えん)茶、沖(ちう)茶の三つにて、煎茶ならぬに、なべて煎茶と唱ふる、当らぬやうなれど、矢張煎茶と称して苦しからぬ也、かゝるためし少からねば、殊に手近き例おばいはんに、たとへば論語巻の一巻の二といふ如き、こは古竹簡に文字お彫り付、韋にて是お綴りまき置たるよりかくはいひし也、又中古になりては、絹に文字おかきて是お巻置たるが、紙の出来し後は、今の如く本に綴たれど、猶古称お唱へて、巻の一巻の二といひ、竹簡が紙にかはりても、脱簡などゝもいふの類、煎茶の適例ともいふべし、さればだし茶にても、一煎二煎と称するお笑ふべきには非ず、素より初注再注など唱ふるは、猶当れりとすべし、前に述る如く泡淹沖の三つも、わざにかけていふ時は、矢張古称お用ひて享点と唱ふる、是又前の例によりて拙きにはあらぬ也、