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清風瑣言

品解
煎品は、折鷹(れ)、白折(しらおれ)、雁がね等、上製の余材也と見ゆ、葉茶有、茎(くき)茶有、葉くき相半する有、其葉は尖のみなれば、気味共に薄し、喜撰は〈山岳の名、其山下なる池の尾村に出すなり、〉朝日山の上に座せり、〈朝日は七園の一名なり〉なし蒸は下品なり、〈里人の言に、上製の種おあおと称し、煎種おなしと呼とぞ、なし肱しの略言歟、蒸製精しからざるの名義なるべし、〉其余品題猶多かり、
品目
近江の信楽、茶品殊に多し、山中の村民園畝お開きて蒸焙お事とす、煎種の絶品、此地天下第一なり、山吹一つ森の名のみあまねく聞ゆ、〈山吹は本宇治の品題なり、今も猶かの地に出す、〉万代、霜の花、湖水、花橘〈政所と雲郷に出す、信楽の山脈也とぞ、〉等の種皆絶品也、其余の品題多く聞ゆるは、園民漫に題するものに似たり、又京師の粥戸等、私に品第お設けて、名と物と戸々にたがふも有べし、又彼とこれと合製して一品となるも有べし、沽酒家の醇薄辛甘お塩梅して、戸々に品題お称ふるに同じ、又昔の一つ森は今の山吹にて、品第一階お進ましむとも雲り、大観茶話に、相粥相争、互為剥窃、参錯無拠、不知茶之美惡在于製造之巧拙而已、凱園地之虚名所能増減哉、焙人之茶、固有前優而後劣者、昔負而今勝者、是亦園地不常也と雲お見れば、はやくより此厄有しおしらる、唯々市に求る人、茶は真の面目にあふ事難し、
洛北妙心寺の花園、近江の永源寺の越渓、土山の曙、〈永雲寺製〉美濃の虎渓、〈永保寺製〉播磨の仙霊、〈粟賀生蓮寺製〉山僧の手製、利の為ならざるは佳品也、それお名として郷民の出せるは品降れり、
栂尾高雄の産、昔は上製の種ありし也、深瀬茶など聞えしも有しお、今は佳品なしと雲り、
諸国の名産甚多七、伊勢の河上、伊賀の服部、大和の室生、紀の高野、尾張の内津、美濃の養老、駿河の蘆久保、西にては肥前のうれし野上首なるべし、肥後の鹿子尾、筑前の鶯、其余柳川相楽等きこゆ、多くは鐺炒製にて、味醇く清韻乏し、又唐茶とて、商舶の将来れる者は近年佳品なし、武彝、松蘿、竜井、蘭茶等の名あれども、真物にあらざるべし、其他は丹波の草山香泉寺、播磨の鹿谷、日向茶の類は、常食の品にて文雅の友にあらず、