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煎茶綺言

蔵茶
茶の性、燥お喜、潮お嫌ふ、故に壺の乾枯なるおよしとす、されど高麗、三島、熊川、竜門字、或は薩摩の古帖佐、尾張の古瀬戸等の類ひは、尋常に得難し、頓に求るには清雅なるお択とりて、数日武火の焙炉に安じ、後炉お出し、密室中に懸、徐に冷おとり、冷定て茶お蔵して後また他器に移べからず、また百錬の錫瓶も佳なり、たとひ良器といへど、其口お守こと空疎(うと)ければ、茶の性味自ら散ず、また経年久蔵するものは、故瓢、或は故竹筒の内に築実堅く封じて、再び松香にて固縫べし、常に密室中の火気絶ざる所お相て架おかけ儲ふべし、空堂虚屋の如きは、風の気つねに融通て、名器といへど冷湿に侵されて、いつしかに茶の性気亡佚、