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清風瑣言

選器
茶瓶は小器お要むべし、湯候ひやすく、且客お迎へて再三煎るの興あり、隻前煎の宿気お去ざれば茶の色香なし、新汲の水に克々滌ひて再享るべし、常に一煎して宿気なからしむれば、客来たりて急卒の効有、怠るべからず、黄金銀錫の製造有、高貴の玩器、不試ば不言、分限に応じて玩弄すべし、磁器の功用猶佳なり、西土より渡せるは、形状の文藻のみならず、用お専らと造りたれば宜し、古渡の物得がたし、淹煎の器、今も多く来たる、古代の物に比ぶれば麁品にて愛玩する者なし、古器お得んと欲する者効用の為にて、点茶家の俊盌禹筇お撿索する談にあらず、古渡の茶瓶たまたま得たらば、京師の名工に摸さしめ、破壊の厄に備ふべし、
湯鑵、黄金白銀の製は措て論ぜず、錫鉄銅鍮瓦数品の中に、瓦缶の効勝れたり、銅鉄鍮の性臭、茶に敵す、錫は淡しく害なし、新古お論ぜず、鉄鑵お用ふる事、点茶家の弊也鉄鑵の湯熟煉すれば、古製といへども、鉎気煉れ出て茶味お害す、茶譜に、湯用嫩、而不用老と見え、茶疏に、過時老湯不堪用といへり、享点共に害は同じ、試みよ終日煮過せし湯お以て面お洗ふに、其皮膚お刺す者は鉄気也、且甘味とおぼゆるも即鉎気のみ、瓦缶も泥気有は湯宜しからず、隻新古美醜お論ぜず、湯の宜しきおえらぶべし、又茶解に湯銚と雲有、釜め小而有柄有流者と雲り、和名抄に、弁色立成雲、銚子、和名佐之奈閉と雲るは、都良香の銚子の銘に、多煮茶茗、飲来如何、和調体肉、散悶除痾と有お以て、当時は湯銚に茶お享たる事お芝らる、又和名抄の同条に、焦、温器也、三足有柄と雲も、銚の属なるべし、是等も茶具に用ひし乎しらず、
茶盞、或者茶杯とも雲、是も小器お宜しとす、西土明世の製造白磁なる者宜し、茶史に、盞以雪白為上と見ゆ、或は椀と雲、鐘と雲、甌と雲、其形少(わづ)かの異有のみ、白磁お貴むは、茶の青黄候ひやすきお以てなり、点茶家黒椀お貴むは、渥花の白色お試ん為也、茶盞用ふる時、潔滌お専らと力むべし、茶略に、山僧迎客餉茶時、猶将湿絹向茶碗内、再三掍拭、此誠得茶中三昧者と見ゆ、茶揃には、茶具滌争覆竹架、俟其自乾為佳、其拭巾隻宜拭外面、切忌拭内、蓋布帨雖潔、一経人手、極易作気、縦器不乾亦無害と雲り、共に深切の説也、諸書に盞と雲、杯と雲、椀と雲、御国には上古より椀と雲しと思ゆ、大和物語に、良峯宗貞五条わたりに雨やどりしたる家にて、あした菘お蒸ものと雲物にして、ちやうわんに盛て出せしお、興有事に後まで忘れかねつると雲事見ゆ、〈茶椀おちやうわんとなだらかにとなふる類、そのかみの詞づかひなり、これおある人長椀と解しは、いぶかしき事也、〉
火炉風炉、共に西土の製造佳也、効用お専らに造りたり、こゝに造れるも、かしこに象れる者宜し、茶具の図、茶経に十二具お出し、附錄に七具お見はす、遵生八揃に十六具の目見ゆ、享点共に今は長物と思しきもあれば、択びて取べし、必備ふべき具、
火炉 風炉 苦節君〈茶経に図あり、風炉お覆ふ具、〉 湯鑵 茶瓶 茶壺〈茶瓶と同用の者〉 水注 水杓 分茶合 茶罌 茶匙〈竹或は瓢或は銅器〉 茶盞 飛閣 沃盆 水曹〈茶葉お洗ふ盤〉 受汚 納汚 烏府 降紅 団風 焙炉
小物は悉く器局に収むべし、竹籃お以て製するお都籃と称す、総て器物は分限に応じ有に任すべし豪富の家には、珍奇お捜索めて著靡の情お資にす、山林の士は、新麁お嫌はず、効用清潔お専らと択ぶべし、