https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0685 性情ハ、邦語ニ汎ク之ヲコヽロト云フ、ロヽロハ卽チ心ニシテ、原ト萬慮ヲ總包スルノ稱ナリ、而シテ剛毅、温和、遍急、愎很等ノ因テ分ルヽ所、之ヲ性ト謂ヒ、喜怒、哀樂、好惡、愛戀等ノ因テ發スル所、之ヲ情ト謂フ、

名稱

〔伊呂波字類抄〕

〈世/疊字〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0685 性情

〔類聚名義抄〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0685 心〈音深コヽロ〉

〔段注説文解字〕

〈十下/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0685 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00800.gif 人心土臧也、〈也字補〉在身之中象形、〈息林切、七部、〉轉士説㠯爲火臧、〈土臧者、古文尚書説、火臧者、今文冢説、○中略〉凡心之屬皆从心、

〔日本釋名〕

〈中/形體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0685 心こゝろはこゞる也、るとろと通ず、心は凝定して、うごかざるを本とす、心の藏はこゝろのある所也、こゝろぶとを凝草とかくも、此意なり、こゞるくさ也、V 八雲御抄

〈三下/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0685 心 人 うつし はな ほか ふた した あたし もろ〈在源氏宿木卷〉 かくなはと云〈俊賴抄〉

〔伊呂波字類抄〕

〈太/疊字〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0685 丹心(○○)

〔書言字考節用集〕

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0685 丹心(キヨキコヽロ)日本紀 丹誠(同) 赤心(同)蓬心(キタナキコヽロ/○○)〈林希逸云、猶茅塞其心也、〉 黑心(同)

〔倭訓栞〕

〈前編二/阿〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0685 あかきこゝろ(○○○○○○) 万葉集に見ゆ、赤心をいふなり、續紀宣命に明支淨支直支誠之心 とも、又淸支明支正支直支心とも、淨伎明心とも見ゆ、神代紀に赤心とも、淸心とも、明淨とも、仲哀紀に明心、敏達紀に淸明心など見えたり、

〔倭訓栞〕

〈中編五/幾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0686 きたなきこゝろ 神代紀に、黑心又惡心濁心をよめり、莊子に蓬之心といへり、魏志に蓬心とも見ゆ、

〔古事記〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0686 爾天照大御神聞驚而、詔我那勢命〈○速須佐之男命〉之上來由者、必不善心(ウルハシキコヽロ)、欲我國、〈○中略〉爾速須佐之男命答白、僕者無邪心(キタナキコヽロ/○○)〈○中略〉爾天照大御神詔、然者汝心之淸明、何以知、〈○下略〉

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0686 天照大神素知其神暴惡、至來詣之狀、乃勃然而驚曰、吾弟之來豈以善意(ヨキコヽロ/○○)乎、〈○中略〉
一書曰、素戔鳴尊將天、〈○中略〉是時天照大神疑弟有惡心(アシキコヽロ/○○)、起兵詰問、

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0686 素戔鳴尊對曰、吾元無黑心(キタナキ/○○)、〈○中略〉時天照大神復問曰、若然者將何以明爾之赤心(キヨキ/○○)也、對曰、請與姉共誓、夫誓約之中、〈○註略〉必當子、如吾所生、是女者則可爲有濁心(キタナキ/○○)、若是男者則可爲有淸心(キヨキ/○○)

〔日本書紀〕

〈八/仲哀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0686 八年正月壬午、幸筑紫、〈○中略〉問熊鰐曰、朕聞、汝熊鰐者、有明心(キヨキ/○○)以參來、〈○下略〉

〔日本書紀〕

〈十/應神〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0686 九年、有壹伎直眞根子者、〈○中略〉語武内宿禰曰、〈○中略〉時人毎云、僕形似大臣、故今我代大臣而死之、以明大臣之丹心(キヨキ/○○)、則伏劒自死焉、

〔日本書紀〕

〈二十/敏達〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0686 十年閏二月、蝦夷數千寇於邊境、由是召其魁帥綾糟等、〈○中略〉盟曰、臣等蝦夷自今以後、子子孫孫〈古語云、生兒八十綿連連、〉用淸明心(スミアキラカナル/イサキアキラ)、事奉天闕

〔續日本紀〕

〈一/文武〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0686 元年八月庚辰、詔曰、〈○中略〉國法〈乎〉過犯事無〈久〉、明(○)〈支〉(○)淨(○)〈支〉(○)直(○)〈支〉(○)誠之心(○○○)以而、御稱稱而、緩怠事無〈久〉、務給而、仕奉〈止〉詔、〈○下略〉

〔續日本紀〕

〈三/文武〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0686 慶雲四年四月壬午、詔曰、天皇詔旨勅〈久〉、汝藤原朝臣〈乃○不比等〉仕奉狀者、〈○中略〉又朕卿〈止〉爲而、以明淨心(○○○)而、朕〈乎〉助奉仕奉事〈乃、○下略〉

〔萬葉集〕

〈二十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0687族歌一言〈幷〉短歌〈○中略〉
須賣呂伎能(スメロギノ)、安麻能日繼等(アマノヒツキト)、都藝氐久流(ツキテクル)、伎美能御代御代(キミノミヨミヨ)、加久佐波奴(カクサハヌ)、安加吉許己呂乎(アカキコヽロヲ/○○○○○○)、須賣良弊爾(スメラヘニ)、伎波米都久之氐(キハメツクシテ)、〈○中略〉
右〈○中略〉家持作此歌

〔延喜式〕

〈八/祝詞〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0687 大殿祭
親王、諸王、諸臣、百官人等〈乎〉、己乖乖不在、邪意(アヤシキコヽロ/○○)、穢心(キタナキコヽロ/○○)無〈久〉、宮進〈米爾〉進、宮勤〈爾〉勤〈之米氐、〉咎過在〈乎波〉、見直〈志〉聞直坐〈氐〉、平〈良氣久〉安〈良氣久〉令仕奉坐〈爾〉依〈氐〉、大宮賣命〈止〉御名〈乎〉稱辭竟奉〈久登〉白、

〔日本書紀〕

〈二/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0687 時高皇産靈尊、勅大物主神、汝若以國神妻、吾猶謂汝有疏心(ウトキ/○○)、故今以吾女三穗津姫汝爲妻、〈○下略〉

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0687 一書曰、〈○中略〉雖然日神恩親之意、不慍不恨、皆以平心(タイラカナルコヽロ/○○)容焉、

〔古今和歌集〕

〈十四/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0687 題しらず よみ人しらず
いで人は事のみぞよき月草のうつし心(○○○○)は色ことにして

〔類聚名物考〕

〈心情一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0687 うつし心 現心(○○)
うつゝごゝろの誤歟、または物にうつる心なく、ひたぶるにその事に、なづみたるをいふ歟、また所によりて異なり、

〔徒然草〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0687 下部に酒のまする事は、心すべき事也、〈○中略〉具覺房手をすりて、うつし心なく醉たる者に候、まげてゆるし給はらんといひければ、〈○下略〉

〔書言字考節用集〕

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0687 他心(アダシコヽロ/○○)日本紀 異情(同)〈万葉〉

〔古今和歌集〕

〈二十/東歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0687 みちのくうた
君ををきてあだし心をわがもたば末の松山浪もこえなん

〔竹取物語〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0688 かくや姫いはく、よくもあらぬ形ちをふかき心もしらで、あだ心(○○○)つきなば、後くやしき事も有べきをと、思ふばかり也、〈○下略〉

〔伊勢物語〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0688 むかし男、女いとかしこく思ひかはして、こと心(○○○)なかりけり、〈○下略〉

〔日本書紀〕

〈九/神功〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0688 五十一年、卽年以千熊長彦久氐等、遣百濟國、〈○中略〉百濟王父子、並顙致地啓曰、〈○中略〉今臣在下、固如山岳、永爲西蕃、終無貳心(○○)

〔日本書紀〕

〈十/應神〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0688 九年四月、遣武内宿禰於筑紫、〈○中略〉於是天皇則遣使以令武内宿禰、時武内宿禰歎之曰、吾無貳心、以忠事君、今何禍矣、無罪而死耶、

〔めのとのさうし〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0688 男ならず、をんななりとも、おしうのためには、いのちをもすてんと、おぼしめされ候へ、おつとにも、おしうにも、二心だになければ、みやうがありて、ひとさらに、をうかにおもはず、〈○下略〉

〔金槐和歌集〕

〈述懷〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0688 太上天皇御書下預時歌
山はさけ海はあせなん世成とも君にふた心我あらめやも

〔類聚名物考〕

〈心情一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0688 ひとへごゝろ(○○○○○○) 單心
貳心にむかへて、たゞひとすぢの心をいふ、

〔源氏物語〕

〈一/桐壼〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0688 心のうちには、たゞふぢつぼの御ありさまを、たぐひなしとおもひ聞えて、〈○中略〉おさなきほどの御ひとへごゝろにかゝりて、いとくるしきまでぞおはしける、

〔新撰六帖〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0688 ころもがへ 光俊
たをやめのけふぬぎかふる衣手のひとへこゝろは我身なりけり

〔蜻蛤日記〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0688 二日ばかりありてきたり、ひと日の風はいかにとも、れいの人はとひてましといへば、げにとや、おもひけんことなし、〈○中略〉まけじ心(○○○○)にて又、 ちらさじとおしみをきけることの葉をきながらだにぞけさはとはまし

〔倭訓栞〕

〈中編十三/多〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0689 たきつこゝろ(○○○○○○) 心の水のせきとめがたきをいへり、菅家萬葉に涌豆心と書り、

〔後撰和歌集〕

〈十二/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0689 女のもとにつかはしける よしの朝臣
あしびきの山下水のこがくれて瀧つ心をせきぞかねつる

〔後撰和歌集〕

〈九/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0689 こゝろみじかき(○○○○○○○)やうに、きこゆる人なりと、いひければ、 よみ人しらず
いせの海にはへてもあまるたくなわのながき心(○○○○)は我ぞまされる

〔萬葉集〕

〈十一/古今相聞往來歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0689 正述心緖
伊田何(イデイカニ)、極太甚(ネモコロ〳〵ニ)、利心(トゴヽロノ/○○)、及失念(ウスルマデオモフ)、戀故(コフラクノユエ)、

〔萬葉集〕

〈二十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0689 藤原夫人歌一首〈淨御原御宇天皇(天武)之夫人也、字曰氷上大刀自也、〉
安佐欲欲爾(アサヨヒニ)、禰能未之奈氣婆(ネノミシナケバ)、夜伎多知能(ヤキダチノ)、刀其己呂毛安禰波(トゴコロモアレバ)、於母比加禰都毛(オモヒカネツモ)、

〔羅山文集〕

〈二十七/説〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0689 心説〈阿部政重求之〉
張明公曰、心(○)總性情、夫性(○)者其理也、五常是也、情(○)者其用也、七情是也、氣(○)者其運用也、意(○)者其所發也、志(○)者其所向也、念慮(○○)者意之餘也、身者其所居也、譬如同源而有派別、如一本而有枝幹也、然此心虚而無迹、故難存而易亡、唯敬則期存、能敬則 修、此心爲身主、故無貴無賤皆以身爲本、本正則性情志氣思慮亦自正、可敬乎、

〔聖敎要錄〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0689
性(○)充形體之間、無方形之可一レ指、其所舍寓之地、謂心胸、一身之中央、五臟之第一、神明之舍、性情之所具、一身之主宰也、
心(○)者屬火、生生無息、少不住、流行運動之謂也、古人指性情(○○)心(○○)、凡謂心乃性情相擧也、以知覺心、以理爲性、是切欲性心、以性爲本然之善認來也、人心、道心、正心、皆知覺及理共具也、

〔訓幼字義〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0690 心 凡三十三則
心といふは、人の思慮運用するところをいふ、もと別義なし、經書に所謂心といふもの皆此通りなり、後世に、心に體用をたて、一念未發の所を心の體とし、思慮運用するところを心の用と云、宋朝以來の説にて、聖人の意にあらず、聖賢の所謂心は、皆已發に就てをしへをたてられたるものにて、詩書六經以來、一句も未發の心をのたまふことなし、

〔辨名〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0690 心、志、意〈九則〉
心者、人身之主宰也、爲善在心、爲惡亦在心、故學先王之道、以成其德、豈有心者乎、譬諸國之有一レ君、君不君則國不得而治、故君子役心、小人役形、貴賤各從其類者爲爾、國有君則治、無君則亂、人身亦如此、心存則精、心亡則昏、然有君而如桀紂、國豈治哉、心雖存而不正、豈足貴哉、且心者動物也、故孔子曰、操則存、舍則亡、出入無時、莫其郷、惟心之謂與、是言雖操則存、操之不久、不舍、舍則亡、操之無存也、何則心者不二者也、夫方其欲一レ心也、其欲之者亦心也、心自操心、其勢豈能久哉、故六經論語、皆無心存心之言、書曰、以禮制心、是先王之妙術、心不操而自存、心不治而自正、擧天下治心之方、莫以尚焉、後世儒者僅知心之可一レ貴、而不先王之道、妄作種種工夫、求以存其心、謬之大者也、學者思諸、

〔石田先生事蹟〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0690 行藤氏問、心と性と異なりや、
先生○石田梅巖答て曰く、心(○)といへば、性情を兼ね、動靜、體用あり、性(○)といへば體にて靜なり、心は動ひて用なり、心の體を以ていはゞ、性に似たる所あり、心の體はうつるまでにて無心なり、性もまた無心なり、心は氣に屬し、性は理に屬す、理は萬物のうちにこもりあらはるゝ事なし、心はあらはれて物をうつす、又人よりいふ時は、氣は先にして性は後なり、天地の理よりいふ時は、理あつて後に氣を生ず、全體を以ていふ時は理一物なり、理の萬物のうちにあつて、あらはれざる事を譬 ば、道元和尚の歌に、
世の中はなにゝたとへん水鳥のはしふる露にやどるつきかげ、かくのごとく、はしふる露の其微塵の如きまでも、こと〴〵く月かげのうつるごとく、理は見えずといへども、裏に具るをしらるべし、我性を覺悟して見れば、神らしき物もなく、大極や、また佛らしきものもなし、よつて此性を會得すれば、儒、老、莊、佛、百家、衆技といへども、皆我神國の末社にあらずといふ事なし或書に曰く、日本一面の神國といへば、廣して狹し、微塵の中にも神國ありといはゞ、狹して廣し、行藤氏しかりとてかのうたをしるす、

〔類聚名義抄〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0691 意(○)〈於記反 コヽロ和イ〉

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0691是陰陽始遘合爲夫婦、及産時、先以淡路洲胞、意所(ミコヽロ/○)快、〈○下略〉

〔聖敎要錄〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0691 意情
意者、性々發動、未迹之名也、旣有迹、乃曰情、發動之機微、是意也、心之所嚮也、性心者體、而意情者用也、

〔訓幼字義〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0691 意 凡十則
意とは、意志(○○)とつゞきて、心の内にたくわへおもふことなり、物ごととりつをきつ思案をし、又おもひやりすいりやうする皆意なり、先儒心の發也と註せらるゝはあたらず、然ればこゝろばせと訓ずるも、字義に叶はざることしるべし、

〔辨名〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0691 心志意〈九則〉
意者謂念也、人之不無者也、雖聖人亦爾、如子絶四毋一レ意、本以孔子行一レ禮言之、孔子之心、與禮一矣、故當其行一レ禮、若全不一レ意、然、是形容其動容周旋中禮者爾、後儒不語意所一レ在、或謂私意、或謂聖人盛德之至、自無往來計較之心也、皆泥矣、如大學誠意、乃以好惡之、意之誠、格物之功効也、朱註以來、 皆不文意

〔類聚名義抄〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0692 志(○)〈之異反 心サシコヽロ〉

〔伊呂波字類抄〕

〈古/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0692 志〈コヽロサシ〉 愼 操 悃 詩〈已上同〉

〔書言字考節用集〕

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0692 志(コヽロザシ) 大度(同)

〔倭訓栞〕

〈前編九/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0692 こゝろざし 志を訓ぜり、心指の義、心之所之也と注せり、

〔聖敎要錄〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0692 志氣思慮
志者、心之所之、意情有定嚮之謂也、志必因氣、思慮者意情之審於内也、思慮不致、乃乖戾、思曰睿、慮得之謂也、

〔訓幼字義〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0692 志 凡三則
志といふは、こゝろの存主する所にして、氣をひきゆるものなり、孟子に志氣之帥也といへり、帥といふは將帥の義にて、大將の事なり、志は氣を引まはすものなれば、大將の士卒を引まはすがごとし、ゆへに氣の帥なりといへり、こゝろのあるじとなりて、氣を引たつるものなり、

〔辨名〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0692 心志意〈九則〉
志者心之所之、此説文之訓也、是以字偏傍説、字學家之言耳、仁齋先生曰、心之所存主也、得之、醫書腎藏精與一レ志、亦可見已、

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0692 天照大神素知其神暴惡、至來詣之狀、乃勃然而驚曰、〈○中略〉謂當國之志(コヽロザシ)歟、V 日本書紀

〈四/綏靖〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0692 神渟名川耳天皇、〈○綏靖〉神日本磐余彦天皇第三子也、〈○中略〉天皇風姿岐嶷、〈○中略〉武藝過人、而志(コヽロサシ)尚沈毅、

〔伊呂波字類抄〕

〈古/人體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0692 操〈コヽロハセ(○○○○○)志操也〉

〔書言字考節用集〕

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0692 意(コヽロバへ/コヽロバセ) 心緖(同/同) 意氣(同) 景迹(同) 志操(同)

〔日本釋名〕

〈中/形體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0693 意(コヽロバセ) 心の端(ハシ)也、しとせと通ず、古人曰、意者心之所發也、是心のはじめてをこるはし也、

〔倭訓栞〕

〈前編九/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0693 こゝろばせ 意を訓ぜり、東鑑に心端と書り、日本紀に景迹を訓ぜり、また心操をもよめり、

〔日本書紀〕

〈二十九/天武〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0693 十一年八月癸未、詔曰、凡諸應考選者、能撿其族姓及景迹(コヽロハセ)、方後考之、若雖景迹行能灼然、其族姓不定者、不考選之色

〔令義解〕

〈四/考課〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0693 凡官人景迹功過應考者、〈謂(中略)景迹者景像也、猶狀迹也、〉皆須實錄、〈○下略〉

〔吾妻鏡〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0693 文治三年三月廿一日癸亥、佐竹藏人年來雖二品門客、心操(コヽロバセ)聊不調、度々現奇怪之間、今朝蒙御氣色、〈○下略〉

〔吾妻鏡〕

〈十二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0693 建久三年五月廿六日丁酉、若公〈○源賴家〉幼稚之意端(コヽロバシ)、插仁惠優美之由有御感、被御劒於金剛公、是年來御所持物云云、

〔運歩色葉集〕

〈古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0693 心緖( バヘ/○○)

〔倭訓栞〕

〈前編九/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0693 こゝろばえ 日本紀に意字、また意氣、立操、心許などをよめり、心映の義なるべし、

〔類聚名物考〕

〈心情二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0693 こゝろばえ 心榮
心ばせに似たれども、その意異なり、心つき(○○○)といふも似たり、心よせ(○○○)といふに似たる所も有り、

〔日本書紀〕

〈二十四/皇極〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0693 三年、輕皇子〈○孝德〉深識中臣鎌子連之意氣(コヽロハへ)高逸、容止難一レ犯、乃使寵、

〔源氏物語〕

〈七/紅葉賀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0693 おさなき人は、みつい給ふまゝに、いとよき心ざま(○○○)かたちにて、なに心もなくむつれまとはしきこえ給、

〔和泉式部集〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0693 またあるやうある人に奉るとて
心ね(○○)のほどを見するぞあやめぐさ草のゆかりにひきかけねども

〔書言字考節用集〕

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0694 意氣(コヽロダテ/○○) 氣象(同) 資性(同) 氣質(コヽロムケ/○○)

〔書言字考節用集〕

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0694 心底(シンテイ/○○)

〔倭訓栞〕

〈前編九/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0694 こゝろのそこ(○○○○○○) 日本紀に丹欵をよめり、赤心の意をもて、心底と訓ぜり、心底の字は謝薖が辭に見えたり、

〔伊勢物語〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0694 むかしみちの國にて、なでふことなき人のめにかよひけるに、あやしうさやうにて有べき女とも、あらず見えければ、
忍ぶ山しのびてかよふ道もがな人の心のおく(○○○○)も見るべく

〔倭訓栞〕

〈前編九/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0694 こゝろのくま(○○○○○○) 心の曲也、詩に辭我心曲と見えたり、

〔權中納言兼輔卿集〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0694 伊勢の齋宮にまいりて歸る比、はやうしりたる女のもとより、
人はかる心のくまはきたなくて淸きなぎさにいかで行けん

〔書言字考節用集〕

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0694 心緖(シンシヨ/○○)

〔倭訓栞〕

〈中編八/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0694 こゝろのを(○○○○○)ろ 萬葉集に見ゆ、心の緖也、ろは助語也、

〔萬葉集〕

〈十四/東歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0694 相聞
麻可奈思美(マガナシミ)、奴禮婆許登爾豆(ヌレバコトニヅ)、佐禰奈敝波(サネナヘバ)、己許呂乃緖訓爾(ココロノヲロニ)、能里氐可奈思母(ノリテカナシモ)、

〔倭訓栞〕

〈中編八/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0694 こゝうのつま(○○○○○○) 心の爪也、端緖をいふ也、

〔宇治拾遺物語〕

〈十五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0694 そのかへさ、〈○賀茂祭〉法性寺殿〈○藤原忠通〉紫野にて御覽じけるに、〈○中略〉今一度北へわたれと仰ありければ、また北へわたりぬ、〈○中略〉このたびは兼行さきに南へわたりぬ、次に武正わたらんずらんと、人々まつほどに、武正やゝ久しくみえず、こはいかにとおもふほどに、むかひに引たる幔より東をわたるなりけり、いかに〳〵とまちけるに、幔より冠のこじばかりみえて、南へわだりけるを、人々なをすぢなきものゝ心ぎは(○○○)なりとほめけリとか、

〔千載和歌集〕

〈十四/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0695 戀の歌とてよめる 太皇太后宮小侍從
戀そめし心の色(○○○)のなになればおもひかへすにかへらざるらん

〔倭訓栞〕

〈前編九/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0695 こゝろしらひ(○○○○○○) 源氏に見ゆ、日本紀に、通字有意字などをよめり、しらひは知也、らひ反り也、

〔日本書紀〕

〈二十八/天武〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0695 四年〈○天智〉十月庚辰、天皇〈○天智〉臥病以痛之甚矣、於是遣蘇賀臣安麻侶、召東宮〈○天武〉引入大殿、時安摩侶素東宮所好、密顧東宮曰、有意而(コゝロシラヒ)言矣、東宮於茲疑隱謀而愼之、

〔源氏物語〕

〈五十/東屋〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0695 御文などをみせさせ給へかし、ふりはへさかしらめきて、心しらひのやうにおもはれ侍らんも、いまさらにいがたうめにや、

〔源氏物語〕

〈四/夕顏〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0695 なんでんのをにの、なにがしのおとゞを、おびやかしけるためしを、おぼしいでゝ心づよく(○○○○)、〈○下略〉

〔拾遺和歌集〕

〈十四/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0695 題しらず よみ人しらず
みちのくのあだちのはらのしらま弓心こはく(○○○○)も見ゆる君かな

〔古今和歌集〕

〈十五/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0695 寬平御時、きさいのみやの歌合のうた、 すがのゝたゝをむ
つれなきを今は戀じと思へども心よはく(○○○○)もおつる涙か

〔源氏物語〕

〈三十九/夕霧〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0695 ことさらにこゝろうき御心がまへ(○○○○)なりと、またいひかへしうらみ給つゝ、はるかにのみもてなし給へり、

〔倭訓栞〕

〈前編九/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0695 こゝろおきて(○○○○○○) 日本紀に厝懷をよめり、源氏に多き詞也、されど日本紀の意は、遠慮する義也、後撰集に、 今ははや打とけぬべき白露の心おくまで夜をやへにける、とよめる是也、源氏にいふは、心の處置をいへり、

〔日本書紀〕

〈四/綏靖〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0696 神日本磐余彦天皇〈○神武〉崩、〈○中略〉手硏耳命、行年已長、〈○中略〉其王立操厝懷(コヽロバヘコヽロオキテ)、本乖仁義

〔源氏物語〕

〈十四/泠標〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0696 こもちの君も、〈○中略〉この御心をきての、すこし物思ひなぐさめらるゝにぞ、かしらもたげて、御つかひにも、になきさまのこゝろざしをつくす、

〔源氏物語〕

〈五/若紫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0696 人々、かいりうわうのきさきになるべき、いつきむすめななり、心だかさ(○○○○)くるしやとてわらふ、

〔後拾遺和歌集〕

〈十九/雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0696 山階寺供養の後、宇治前太政大臣〈○藏原賴通〉のもとにつかはしける、
堀河右大臣〈○藤原賴宗〉
ふかきうみのちかひはしらずみかさ山心たかくもみえしきみ哉

〔倭訓栞〕

〈中編八/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0696 こゝろくゞ(○○○○○) 万葉集に情具久と見ゆ、心くゞもるをいへり、

〔萬葉集〕

〈四/相聞〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0696 同坂上大孃贈家持歌一首
春日山(カスガヤマ)、霞多奈引(カスミタナビキ)、情具久(コゝロクゝ)、照月夜爾(テレルツキヨニ)、獨鴨念(ヒトリカモネム)、

〔萬葉集〕

〈八/春相聞〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0696 大伴宿禰坂上郎女歌一首
情具伎(コヽロクキ)、物爾曾有鷄類(モノニゾアリケル)、春霞(ハルカスミ)、多奈引時爾(タナビクトキニ)、戀乃繁者(コヒノシゲレバ)、

〔空穗物語〕

〈樓の上下一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0696 はやくかの御かたに心よせ(○○○)さ〈○さ恐に誤〉てありし、やまとのすけなる人をめしいでゝ奉り給、

〔宇治拾遺物語〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0696 これも今はむかし、比叡の山にちごありけり、僧たち、よひのつれ〴〵に、いざかひもちいせんといひけるを、このちご心よせにきゝけり、

〔源氏物語〕

〈四十九/寄生〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0696 いとしげう侍しみちの草も、すこし打はらはせ侍らんかしと、こゝろとり(○○○○○)にきこえ給へば、〈○下略〉

〔金葉和歌集〕

〈八/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0696 題しらず よみ人しらず ぬす人といふもことはりさ夜なかに君が心をとりにきたれば

〔倭訓栞〕

〈中編八/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0697 こゝろいられ(○○○○○○) 心の苛つく也

〔增補雅言集覽〕

〈二/以〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0697 いらる〈所煎にて胸をやく、こがすなどに同、せきたつ也、俗のセカ〳〵スル意也、○中略〉 補〈(中略)文雄云、(中略)こはもと草の莖などにある苛より出たる語にて、苛はあたり難き物故に、性急なるをいらち、いらだつなどいひ、さて轉じては、物をいそぐ事にいへるなるべし、俗にせきこむといふに同じ、廣足云、(中略)煎といふ語も、火勢にこがして、其物を强くするなれば、同言なるべくおぼゆ、〉

〔源氏物語〕

〈四十四/竹河〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0697 人はかうこそのどやかに、さまよくねたげなめれ、わがいと人わらはれなるこころいられを、かたへはめなれて、あなづりそめられにたるとおもふも、むねいたければ、〈○下略〉

〔萬葉集〕

〈二/相聞〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0697 久米禪師https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00811.gif 石川娘女時歌五首〈○中略〉
東人之(アヅマドノ)、荷向https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00593.gif 乃(ノザキノハコノ)、荷之結爾毛(ニノヲニモ)、妹情爾(イモガコヽロニ/ ○○)、乘爾家留香問(ノリニケルカモ/○ )、 禪師

〔倭訓栞〕

〈中編八/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0697 こゝろにくし(○○○○○○) 伊勢物語に見ゆ、心置せらるゝをいへり、今もいふ詞也、V 伊勢物語

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0697 まれ〳〵にかのたかやすにきてみれば、はじめこそ心にくゝ(○○○○)もつくりけれ、今はうちとけて、〈○中略〉手づからいゐがひとりて、けこのうつはものにもりけるをみて、心うがりて、いかずなりにけり、

〔空穗物語〕

〈嵯峨院〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0697 みぎのおとゞをば、心にくき、はづかしきもの丶、心ある人にし給ふ、

〔伊勢物語〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0697 いさゝかなる事につけて、世の中をうしと思ひて、出ていなんと思ひて、かゝる歌をなんよみて、物にかきつけける、
出ていなば心かるし(○○○○)といひやせん世のありさまを人はしらねば、とよみおきて、出ていにけり、

〔枕草子〕

〈十一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0697 わろき物は
いとあやしき事を、男などはわざとつくろはで、ことさらにいふはあしからず、わがことばにも てつけていふが、心をとり(○○○○)する事也、

〔倭訓栞〕

〈前編九/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0698 こゝろやまし(○○○○○○) 詩に我心痗(ヤミヌ)と見えたり、伊勢物語に心やみけり、

〔源氏物語〕

〈二/帚木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0698 つねのうちとけゐたるかたには侍らで、心やましき物ごしにてなん、あひて侍りし、

〔藤原淸正集〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0698 いかでとおもひける人に、はつかにあひたりけれど、いらへなども、ことにせざりけ るに、月も朧なり、
おぼつかな曇れる空の月なれば心やましきよはにもある哉

〔新撰字鏡〕

〈連字〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0698 跳踃〈遊意之貌、安心之貎、喜也、心與之、又心也留(○○○)、〉

〔倭訓栞〕

〈前編九/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0698 こゝろやり〈○中略〉 遣情の義、心慰也といへり、

〔萬葉集〕

〈十七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0698覽布勢水海賦一首〈幷〉短歌〈此海者有射水郡(越中)舊江村也〉
物能乃敷能(モノノフノ)、夜蘇等母乃乎能(ヤソトモノヲノ)、於毛布度知(オモフドチ)、許己呂也良武等(コゝロヤラムト)、宇麻奈米底(ウマナメテ)、宇知久知夫利乃(ウチクチブリノ)、之良奈美能(シラナミノ)、安里蘇爾與須流(アリソニヨスル)、〈○下略〉

〔源氏物語〕

〈三十四/若菜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0698 御くらゐをさらせたまへれど、なをその世に、たのみそめたてまつり給へる人人は、いまもなつかしくめでたき御ありさまを、心やり所にまいりつかうまつり給かぎりは、心をつくして、おしみきこえ給ふ、

〔倭訓栞〕

〈中編八/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0698 こゝろゆかし(○○○○○○) 心の行義成べし

〔後拾遺和歌集〕

〈十七/雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0698 大井にまかりて、舟にのり侍けるによめる、 大江匡衡朝臣
河舟にのりて心の行ときはしづめる身ともおもほえぬかな

〔夫木和歌抄〕

〈八/五月雨〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0698 家集五月雨 西行上人
船とめしみなとのあしまさほたえて心ゆく(○○○)らん五月雨のころ

〔源氏物語〕

〈五十二/蜻蛉〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0699 大將の君は、いとさしもいりたちなどし給はぬほどにて、はづかしう心ゆるび(○○○○)なき物にみな思たり、

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0699 素戔鳴尊〈○中略〉然後行覓將婚之處、遂到出雲淸地焉、〈淸地此云素鵝〉乃言曰、吾心淸淸之(コヽロスガ〳〵シ/○○○○)〈此今呼此地淸〉於彼處宮、

〔類聚名義抄〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0699 快〈苦壞反、心ヨシ(○○○)、〉

〔倭訓栞〕

〈中編八/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0699 こゝろよし 神代紀に快をよめり、情佳の義也、

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0699 一書曰、〈○中略〉以其稻種始殖于天狹田及長田、其秋垂穎八握、莫莫然甚快也(コヽロヨシ)、

〔源氏物語〕

〈五/若紫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0699 とはのなどいふきはゝ、ことにこそ侍なれ、心うく(○○○)もの給なすかな、〈○下略〉V 伊勢物語

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0699 昔男有けり、女をとかくいふ事、月日へにけり、岩木にしあらねば、心ぐるし(○○○○)とや思ひけん、やう〳〵哀と思ひけり、

〔書言字考節用集〕

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0699 惆(コヽロボソシ/○)

〔空穗物語〕

〈樓の上下一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0699 かんの殿、げにいとおかしげなり、はらからなど、いひむつまじき人もなし、心ぼそきに、心ざまなども、おもふやうにおはすなり、

〔古今和歌集〕

〈九/羈旅〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0699 あづまへまかりける時、道にてよめる、 つらゆき
いとによる物ならなくに別ぢの心ぼそくもおもほゆる哉

〔新撰字鏡〕

〈連字〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0699 忙怕〈急務也、(中略)己々呂毛止奈加留(○○○○○○○○)、〉

〔書言字考節用集〕

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0699心元(ナシコヽロモト)〈和俗所用、所出未詳、〉V 倭訓栞

〈前編九/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0699 こゝろもとなし 伊勢物語に見ゆ、もとなしは、万葉集に見えたり、心に由緣なき義にや、もとなはよしなと同じといへり、常に無心許とかけり、延陵季子が吾心已許之より出たるにや、謝靈運が詩に、延州恊心許ともいへり、〈○下略〉

〔伊勢物語〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0700 むかし男有けり、〈○中略〉男いとかなしくて、ねず成にけり、つとめていぶかしけれど、わが人をやるべきにしあらねば、いと心もとなくてま、ちをれば、〈○下略〉

〔萬葉集〕

〈十一/古今相聞往來歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0700 正述心緖
徊徘(タチモトホリ)、往箕之里爾(ユキミノサトニ)、妹乎置而(イモヲテキテ)、心空在(コヽロソラナリ/○○)、土者蹈鞆(ツチハフメドモ)、

〔古今和歌集〕

〈五/秋〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0700 白菊の花をよめる 凡河内みつね
心あて(○○○)におらばやおらんはつ霜のおきまどはせる白菊の花V 後撰和歌集

〈十五/雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0700 太政大臣の左大將にて、すまひのかへりあるじし侍ける日、中將にてまかりて、 事をはりて、これかれまかりあかれけるに、やむごとなき人、二三人ばかりとゞめて、まらう どあるじ、さけあまたたびの後、ゑひにのりて、こどものうへなど申けるつゐでに、
兼輔朝臣
人のおやの心はやみ(○○○○)にあらねども子を思ふみちにまどひぬるかな

〔源氏物語〕

〈四十九/寄生〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0700 うちにもきこしめして、ほどなくうちとけ、うつろひ給はん○女二宮を、いかゞとおぼしたり、みかどと聞ゆれど、〈○女二宮父〉心のやみ(○○○○)はおなじことになんおはしましける、V 書言字考節用集

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0700 心鬼(コヽロノオニ/○○)〈見源氏、今按正法念經、閻羅獄卒、非實有情、以衆生妄業力故見之云々、〉

〔倭訓栞〕

〈前編九/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0700 こゝろのおに 源氏にみゆ、列子注に、疑心生闇鬼と見えたり、正法念經にも、閻羅獄卒非實有情、以衆生妄業力故見之と有り、

〔枕草子〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0700 かたはらいたく、心のをに出來て、いひにくゝ侍なん物をといへば、〈○下略〉

〔枕草子春曙抄〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0700 心の鬼とは、心のあやまりを、我と耻おもふやうの心也、

〔源氏物語〕

〈三十五/若菜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0700 宮〈○女三宮〉は御こゝろのをにゝ、みえたてまつらん〈○源氏君〉もはづかしく、

〔倭訓栞〕

〈中編八/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0700 こゝろさらず(○○○○○○) 心不離の義、万葉集に見えたり、

〔萬葉集〕

〈十九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0701勇士之名歌一首幷短歌〈○中略〉
安之比奇能(アシビキノ)、八峯布美越(ヤツヲフミコエ)、左之麻久流(サシマクル)、情不障(コヽロサハラズ/○○○)、後代乃(ノチノヨノ)、可多利都具倍久(カタリツグベク)、名乎多都倍之母(ナヲタツベシモ)、〈○中略〉
右二首、追和山上憶良臣作歌、

〔倭訓栞〕

〈前編九/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0701 こゝうがへ(○○○○○) 人と我と心を易也、古今集によめり、列子に旣已變物之形、又且易人之慮と見えたり、

〔古今和歌集〕

〈十一/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0701 題しらず よみ人しらず
心がへする物にもかかたごひは苦しき物と人にしらせん

〔藤原元眞集〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0701 ひさしくこずとて、ふすべてこぬ人に、
かりそめの心くらべ(○○○○)にあふ事の命もしらぬみとはしらずや、

〔源氏物語〕

〈十三/明石〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0701 女はた中々やんごとなききはの人よりも、いたう思ひあがりて、ねたげにもてなし聞えたれば、心くらべにてぞすぎける、〈○下略〉

〔散木弃謌集〕

〈九/雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0701 恨躬耻運雜歌百首 沙彌能貪上
物思ひの心くらべのかた人になるともまけじたぐひなき身は

〔日本書紀〕

〈十五/顯宗〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0701 白髮天皇〈○淸寧〉二年十一月、播磨國司山部連先祖伊與來目部小楯於赤石郡親辨新嘗供物、〈一云巡行郡縣、收斂田租也、〉適會縮見屯倉首、縱賞新室以夜繼晝、〈○中略〉天皇次起、自整衣帶室壽曰、築立稚室葛根、築立柱者、此家長御心之鎭(○○○)也、取學棟梁者、此家長御心之林(○○○)也、取置椽橑者、此家長御心之(○○)齊(○)也、取置蘆雚者、此家長御心之平(○○○)也、〈○下略〉

〔倭訓栞〕

〈前編九/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0701 こゝろのせき(○○○○○○) 心の關也、物に滯り結ふるをいへり、儒に誠意の人鬼關あり、釋に悟道の無門關あり、

〔詞花和歌集〕

〈十/雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0701 舍利講のつゐでに、願成佛道の心を、人々によませ侍けるによめる、 左京大夫顯輔
いかでわが心の月(○○○)をあらはしてやみにまどへる人をてらさむ

〔倭訓栞〕

〈中編八/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0702 こゝろのつき(○○○○○○) 心月をいふ、釋敎也、

〔古今和歌集〕

〈十五/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0702 題しらず よみ人しらず
しぐれつゝもみつるよりも言のはの心の秋(○○○)にあふぞわびしき

〔古今和歌集〕

〈十五/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0702 題しらず こまち
いろみえでうつろふ物は世中の人の心の花(○○○)にぞありける

〔倭訓栞〕

〈前編九/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0702 こゝろのはな 心の花也、圓覺經に、心華發明、照十方刹と見ゆ、またあだなる意にもいへり、

〔後撰和歌集〕

〈十一/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0702 ものいひ侍りけるおとこ、いひわづらひて、いかゞはせんなども、いひはなちてよと、いひ侍ければ、 よみ人しらず
小山田の苗代水はたえぬとも心のいけ(○○○○)のいひははなたじ

〔千載和歌集〕

〈序〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0702 しきしまのみちも、さかりにおこりて、心のいづみ(○○○○○)、いにしへよりもふかく、ことばのはやし、昔よりも茂し、

〔倭訓栞〕

〈中編八/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0702 こゝろのひ(○○○○○) 心火也、むねのほのほをいへり、〈○中略〉
こゝろのこま(○○○○○○) 法苑珠林に、心馬情猿と見え、自鏡錄に、意馬情猿と見え、息心銘に識馬心猿と見えたり、〈○中略〉
こゝろのとり(○○○○○○) 陶淵明が、籠中の鳥を放ちたる故事よりいふ也、
こゝろのくも(○○○○○○) 心の雲也、まよふこと也、
こゝろのきり(○○○○○○) 心の霧也、胸霧をいふ、
こゝろのちり(○○○○○○) 心の塵也、みだりなる意也、
こゝろのつゆ(○○○○○○) 心の露也、秋を悲む意也、
こゝろのなみ(○○○○○○) 心の浪也、さはがしき意也、
こゝろのしめ(○○○○○○) 心の注連也、愼みの意也、〈○中略〉
こゝろのたき(○○○○○○) 心の瀧也、せき留がたき意也、
こゝろのまつ(○○○○○○) 心の松也、みさほのかはらぬ意にも、待にもかけてよめり、
こゝろのすぎ(○○○○○○) 心の杉也、すなほなる意、心の麻も同じ、〈○中略〉
こゝろのうみ(○○○○○○) 心海也、梵書に見えたり、

〔類聚名義抄〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0703 性〈音姓コヽロ〉

〔段注説文解字〕

〈十下/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0703 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00801.gif 人之易气性、〈句〉善者也、〈論語日、性相近也、孟子曰、人性之善也、猶水之就一レ下也、董仲舒曰、性者生之質也、實樸之謂性、〉从心生聲、〈息正切十一部、〉

〔類聚名義抄〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0703 天性(○○)〈ヒトヽナリ〉

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0703 一書曰、〈○中略〉大日孁尊及月弓尊、並是質性(ヒトヽナリ/○○)明麗、故使臨天地、素戔鳴尊、是性好殘害(/○○○○)、故令下治根國

〔倭訓栞〕

〈前編十/佐〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0703 さが 日本紀祥字、善字、性字ともに訓ぜり、直をすぐとよみ、淸をすがとよむも皆通ぜり、祥、善、淸、直は、本性の德なる事知べし、源氏に世のさが、伊勢物語にさが見ん、俗に身のさが、又さがを隱すさがを顯す、などいふも、本性を指ていふなり、されば孝德紀に、瑕字をさがとよめるは僻也、生れつきなり、あるさま、氣ざしの方にもいへり、眞名伊勢物語に能をよめるは、態に通じてすがた也、

〔倭訓栞〕

〈中編五/幾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0703 きしやう〈○中略〉 口語にいふは氣性成べし、又氣象の義あり、

〔語孟字義〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0704 性〈凡五條〉
性生也、人其所生、而無加損也、董子曰、性者生之質也、周子以剛善剛惡、柔善柔惡、不剛不柔、而中焉者五性是也、猶梅子性酸、柿子性甜、某藥性温、某藥性寒也、而孟子又謂之善者、蓋以人之生質、雖萬不一レ同、然其善善惡惡、則無古今聖愚也、非於氣質而言上レ之也、

〔聖敎要錄〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0704
理氣妙合、而有生生無息底能感通知識者性也、人物生生、無天命、故曰天命之謂性、理氣相合、則交感而有妙用之性、凡天下之間有象、乃有此性也、此象之生、不已也、有象乃有已之性、有性乃有巳之情意、有情意乃有已之道、有此道乃有巳之敎、天地之道至誠也、

〔辨名〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0704 性情才〈七則〉
性者、生之質也、宋儒所謂氣質者是也、其謂性有本然氣質者、蓋爲學問故設焉、亦誤讀孟子、而謂人性皆不聖人、其所異者氣質耳、遂欲化氣質以至聖人、若使唯本然而無氣質、則人人聖人矣、何用學問、又若使唯氣質而無本然之性、則雖學無益、何用學問、是宋儒所以立本然氣質之性之意也、然胚胎之初、氣質已具、則其所謂本然之性者、唯可之天、而不人也、又以爲理莫局、雖氣質所局、實有局者存、則禽獸與人何擇也、故又歸諸正通偏塞之説、而本然之説終不立焉、可妄説已、書曰、惟人萬物之靈、傳曰、人受天地之中以生、詩曰、天生蒸民、有物有則、民之秉彜、好是懿德、孔子釋之曰、有物必有則民之秉彜也、故好是懿德、文言曰、利貞者性情也、大傳曰、成之者性、是皆古人言性者也、合而觀之、明若火、蓋靈頑之反、然亦非宋儒虚靈不昧之謂、中偏之對、然亦非宋儒不偏不倚之謂、皆指人之性善移而言之也、辟諸在中者之可以左以右以前以後也、物者謂美也、美必倣効、是人之性也、是亦言其善移也、孔子又曰、上知與下愚移亦言其它皆善移也、貞者不變也、謂人之性不一レ變也、成之者性、言其所成就各隨性殊也、人之性萬品、剛柔輕重、遲疾動靜、不得而變矣、然皆以善移其性、習善則善、習惡則惡、故聖人率人之性以建敎、俾學以習一レ之、及其成一レ德也、剛柔輕重、遲疾動靜、亦各隨其性殊、唯下愚不移、故曰、民可使之、不使之、故氣質不變、聖人不至、而虞九德、周六德、各以其性殊、豈不然乎、先王之敎、詩書禮樂、辟如和風甘雨、長養萬物、萬物之品雖殊乎、其得養以長者皆然、竹得之以成竹、木得之以成木、草得之以成草、穀得之以成穀、及其成也、以供宮室衣服飮食之用乏、猶人得先王之敎、以成其材、以供六官九官之用已、其所謂習善而善、亦謂其養以成上レ材、辟諸豐年之穀可一レ食焉、習惡而惡、亦謂其養以不上レ成、辟諸凶歲之秕不一レ食焉、則何必求其氣質以至聖人哉、是無它、宋儒不聖人之敎、而妄意求聖人、又不先王之敎之妙、乃取諸其臆、造下作持敬、究理、擴天理、去人欲、種種工夫、遂以立其本然氣質之説耳、仁齋先生活物死物之説、誠千歲之卓識也、祗未先王之敎、區區守孟子爭辯之言、以爲學問之法、故其言終未明鬯者、豈不惜乎、

〔石田先生事蹟〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0705 先生〈○石田梅巌〉常に門人へ自己の性を知るべき由を説き給へども、之を信ずる者纔に二三人なりしが、中にも齋藤全門ふかく信じ、日夜如何いかんと工夫をこらしけるに、ある夜ふと太皷の音を聞て性を知れり、爰においてます〳〵信を起し、日々に養ひしかば、漸々にして徹通せり、故に全門信を盡し朋友を助くれども、猶志立たざりける、木村重光は初より篤く信じけるゆゑ、年月をかさね工夫熟せしにや、或冬障子を張りゐて、頓に自己の性を知り、大によろこびて先生の許に至り、自ら得る所を呈す、
はつといふてうんといふたら是はさてはれやれこれはこれはさて〳〵、先生此時、重光が性を知ることを許し給へり、是より門弟子、端的に性をしることを實に信じ、工夫に心を盡し、信心髓に徹しぬれば、おの〳〵寢食をわすれ或は靜座し、あるひは切に問ひ、日あらずして性を知る者おほし、
先生門人の性を知れる者に吿げて曰く、學は爲すところ、義か、不義かと省みて、義にしたがふの み、義を積ずして性を養ふことは、聖人の道にはなき事なりと、常に示し給へり、

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0706 柔和(ニウワ/○○)

〔續日本後紀〕

〈十三/仁明〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0706 承和十年九月辛丑、正三位藤原朝臣愛發薨、〈○中略〉爲人和柔(○○)、不妄發一レ忿、在於政塗、許通熟

〔日本後紀〕

〈二十一/嵯峨〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0706 弘仁二年四月丙戌、宮内卿正三位藤原朝臣雄友薨、〈○中略〉雄友性温和(○○)不喜怒、姿儀可觀、

〔日本後紀〕

〈二十二/嵯峨〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0706 弘仁三年十月辛卯、右大臣從二位藤原朝臣内麻呂薨、〈○中略〉内麻呂者〈○中略〉奕世相家、少有令望、德量温雅(○○)、士庶悦服、〈○中略〉任兼相將、經事三主、皆被信重、上有問、不指苟合、如或不從、不敢犯一レ顏、凡典樞機、十有餘年、靡愆失

〔今昔物語〕

〈十五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0706 睿桓聖人母尼釋妙往生語第四十
今昔、睿桓ト云フ聖人有ケリ、其ノ母若ヨリ心柔耎(○○)正直ニシテ、人ヲ哀ミ生類ヲ悲ブ心深カリケリ、

〔平家物語〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0706 こうえうの事
むげに此君〈○高倉〉は、いまだよう主の御時より、せいをにうわにうけさせおはします、

〔先哲叢談後編〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0706 元淡淵
淡淵及二十歲比、身長六尺、手垂過膝、資性温和(○○)、動止縝重、自有高貴、府文學本蘭皐、〈名希聲字實聞〉稱云、亮節威望、足以敦天下之鄙

〔先哲叢談續編〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0706 伊藤竹里
竹里在赤羽邸舍、繼述家學、敎授徒弟、與服南郭居、僅隔赤羽小流、北岸南畔、不甚相遠、南郭以蘐社之高足、雄視一世、有其許可、人皆信其言、南郭一見、知竹里之爲一レ人、稱爲温厚(○○)長者

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0707 剛毅(カウキ/○○) 剛氣(カウキ/○○)

〔孝義錄〕

〈十七/陸奥〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0707 孝行者平左衞門妻
登米郡狼川原本町の百姓平右衞門が妻、姑につかへて孝なり、姑は氣づよき生(○○○○○)れにて、短慮なるを、いさゝかも其心にそむく事なかりき、

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0707 一鐵(イツテツ/○○)〈今世謂敢決强直一鐵、蓋濃州士稻葉通朝入道一鐵以來之諺云々、〉

〔山鹿語類〕

〈二十一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0707 剛操(○○)
師〈○山鹿素行〉嘗曰、大丈夫の世に在る、剛操の志あらざれば、心を存すること不能也、剛はよく剛毅にして、物に不屈を謂也、操は我義とする志を守て、聊不變の心なり、大丈夫此心を存せざれば、我好惡する處にをいて、必屈しやすく、義を守る處たしかならざるなり、故に剛操を以て信を立、義を堅くするの行とする也、淸廉正直も、剛操を以てせざれば不立、況や士たるの道、常に剛毅を以て質とし、其守る所を以て行とす、人誰か生死利害好惡あらざらんや、内に剛操を以て究理するがゆへに、死の至て可惡、猶安じて就死、害の至て可避、猶安んじて害をうく、財寶酒色の必可好、猶安んじて是をさくるに至るは、剛毅節操の高く守るに不有ば、誰か此行をなさんや、

〔辨名〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0707 勇武剛强毅〈五則〉
剛柔(○○)之反、與强勇義、辟如木與一レ金、木柔而金剛、至水則至柔、而物莫能與之爭、是强也、非剛也、剛强之分、可以見已、朱子曰、勇者剛之發、剛者勇之體、孔子旣以剛勇六言之二、其爲二德者審矣、可妄已、蓋其爲人果敢烈烈、不之、是剛也、如子房之勇、豈然乎、是可以知剛勇之辨也、如易剛柔以語卦爻之德、而易之道尚其象、玩象以求之、所包甚廣、故其所謂剛柔、不它書、宋儒混一之、故有是失已、學者察諸、
毅亦剛之類以其力有一レ堪言之、

〔雲室隨筆〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0708 畫師諸葛監、字子文、淸水又四郎なるものは、生質剛悍(○○)なる人にて、古畫を集めカを盡して修せしと云、元來富めるものにてありしが、家産を破りて畫を修せりとぞ、然ども剛悍の性故、己を屈する事ならず、人をも容れず、人にも容られざりき、〈○中略〉其畫を見るに、一石一水といへども、華人の畫せしに法せずといふ事なし、因て其畫甚拙にみゆれども、其守る事の固なる、苟も己よりせしは一もなし、然ども其生質、諸侯貴人といへども、己をまげて屈する事なき故、生涯窮困のみ多かりき、

〔運歩色葉集〕

〈邇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0708 偏急(ヘンキウ/○○)

〔下學集〕

〈下/態藝〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0708 短慮(タンリヨ/○○)

〔運歩色葉集〕

〈多〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0708 短慮(リヨ) 短氣( ギ/○○)

〔倭訓栞〕

〈中編十三/多〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0708 たんき 性急をいふ、短氣なり、短慮も同じ、

〔皇都午睡〕

〈三編上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0708 上方で買(かう)て來るを江戸にては買(かつ)て來る、〈○中略〉いら〳〵するをせつかち(○○○○)、

〔倭訓栞〕

〈中編二十五/美〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0708 みじかきこゝろ(○○○○○○○) 短慮をいふなり、やもめにてゐて、伊勢、
ながゝらぬ命のほどに忘るゝはいかに短かきこゝろ、なるらん

〔古今和歌六帖〕

〈六/鳥〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0708 くひな
水鷄だにたゝけば明る夏のよを心みじかき(○○○○○)人や歸りし

〔孝義錄〕

〈十九/陸奥〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0708 孝行者九十郎
九十郎は若松の城下大町の者なり、〈○中略〉父義左衞門去々年より疝氣をやみ、起臥もむつかしく、しかも氣みじかき者なるを、〈○下略〉

〔日本後紀〕

〈二十四/嵯峨〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0708 弘仁五年閏七月壬午、散位正四位上吉備朝臣泉卒、〈○中略〉性殊遍急(○○)、多忤於物、〈○下略〉

〔新撰長祿寬正記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0708 去ル程ニ其歲〈○寬正二年〉ノ夏ノ比迄、政長〈○畠山〉ヨリモ人衆ヲ不出、城ヨリモカヽラ ズ、對陣取テ有シガ、短氣(○○)成義就〈○畠山〉衆、嶽山ニテ評定シケルハ、イツ迄加樣ニ兵粮詰ニセラレ、冥冥ト有ランヨリ、弘川ニ亂入、有無ノ合戰ニ運命ヲ見ルベシトテ、〈○下略〉

〔相州兵亂記〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0709 景虎小田原へ寄來事
景虎〈○上杉〉天性健ナル若モノニテ、血氣盛ニシテ腹ヲ立忿ルトキハ、炎ノ中ニモ飛入ラント思ヒ、鬼ナリトモツカミヒシガント云短氣ノ勇者ナレドモ、小時過ヌレバ其勇サメ、萬事思慮スルヤウナル風體アリト聞ク、〈○下略〉

〔三壼聞書〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0709 瑞龍院樣の御噂之事
利長公御へや住より御奉公申上つる人々より合、物がたりいたしけるは、乍憚此殿樣、御心も短慮(○○)におわしまし、物毎被仰出御意之下より、埒明ざれば、相應し奉らず、〈○下略〉

〔常憲院殿御實紀附錄〕

〈中〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0709 公〈○德川綱吉〉には心すみやかなる者を好ませたまひしかば、小性近習など、常に御側に侍座したる時、席上に虫など出る事あれば、それをとりすてよと仰らるゝに、たとひ毒虫にても、速に捉へざれば、御けしきあしかりしとか、何事も御心急(○○)におはしけれども、また事によりては、きはめて寬裕(○○)の御德度もおはしけるとぞ、V 雲萍雜志

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0709 むかしある國の守は、短慮(○○)いはんかたなく獵に出でたる折からに、暴風砂を吹きて、口に入れどもうがひだにせずして、食物に砂ありとて、給仕の輩をしりぞけなどし、只諂ひ媚ぬる族を容れて、忠ある臣下を損ずること數多なりしが、ある時いかにして心やつかざりけん、鯉のあつ物の中に、釣ばりのありけるを取り出だして、膳の上に載せおき申されけるは、かゝる麁略の調理いたす者は、みないとまを遣すべし、庖丁の者には、切腹申しつくべきなりとありければ、料理せしものは、切られにけりとぞ、飮食のために、人を失ふこと、心あるべきことなるべし、梁の昭明太子は、飯の中に蠅の死したるがありしを、箸もて取り出で、給仕の輩に見せじと、膳部の かげに隱されしとぞ、いとありがたきことゞもなり、

〔雲室隨筆〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0710 旭山澤元愷、字悌矦先生、世名平澤五助、山城國宇治の人なり、古昔宇治菟道と書せり、依て人皆菟道先生と稱せり、此人秀才之人なれ共、其質甚短慮(○○)にてありし、文を以世に知られたり、文章は實に拔群と可申、然ども生質右之通之人故、自身に應ずる才子ならざるよりは喜ばず、才なき人をば甚敷惡み、陀罵詈せらるゝ故人親まず、厭惡すゐもの多し、予〈○僧雲室〉も常に芥の如く罵詈せられり、然ども風流は實に天下一人と云べし、事は著述の漫遊文章にて、人の知る所なり、〈○下略〉

〔やしなひ草〕

〈二篇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0710 拙者生得短氣(○○)にて、腹立ときは迹さき見ず怒り罵り、科なき諸道具を投ほうり、杖ぼうを振上たり、拳に息を吹かけたり、燃立ときは火に入るもしらざれ共、そろ〳〵短気しづまれば、其後悔亦甚し、後悔も我、短氣もわれ、後悔する短氣ならば、發さぬが能といふ人あれば、おれが發し度て發す短氣が、生質なれば是非なしと、また短氣發る、是にも醫者のあるべきゃ、御考給はるべし、〈○下略〉

〔淺瀨のしるべ〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0710 短氣(○○)はそんき
人はものねんじして、のどやかなるそよき、ことわざしげき世にふれば、にくげなることいひかくる人のありて、めざましう心やましとおもふふしありとも、ひたおもてにあらはさず、見しらぬさまして、心にその人をうとみてたりぬべし、なまはらだちやすく、おもひのまゝにいひもし、なしもしては、すこし心のどまりて、くやしうおもうことぞおほかるべき、ねぢけがましからでも、いときふにのどめたる所なきは、よからぬ人ぞかし、さては人をも身をもそこなひぬべし、またものまなぶ人のふみ見るも、卷の數おほくておもしろからぬを、ねんじつゝよめば、よきことのあると、心みじかく見さしてやみては、いたづらごとゝなりぬべし、

〔烈公間話〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0711 大久保彦左衞門事、名譽之一徹(○○)者也、大坂御一戰之時、御鎗奉行其後御旗奉行也、或時牢人某來リテ申ハ、ケ樣ニ御靜謐之御代ナレバ、無手々々ト病死可仕候、天晴具足ヲ肩ニ掛ケ討死仕度ト、彦左氣ニ入、ウイヤツトイハレント思テ申ケレバ、彦左云、誠ニ左樣ニ存候カト被申、實ニ左樣之心底ト申、其時彦左云、ソレガ實ナレバ、日本一之不屆者也、如何ニト云ニ、此御靜謐之御代ニ、其方抔具足著候事ハ、先ヅ亂國ナラデ無キ事也、代亂ルヽハ、一揆カ、逆心カ、左樣ノ事有テ其方具足可著、如何程ノ功名有テモ、三百石カ五百石也、其方一人五百石ノ立身可仕タメ、天下亂ヲ好ム、公方樣ニ御六ケ敷事ヲ願申心底、扨々不屆千萬也、左樣ニ實ニ存ズルナラバ、唯今腹ヲ切レ、是非トモ切レト白眼付テ云ハレ、コソ〳〵ト尻逃ニ仕ケルト也、

〔倭訓栞〕

〈後編十四/能〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0711 のんき(○○○) 俗語也、暖(ノン)氣の義なるべし、

〔新撰字鏡〕

〈イ〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0711 佷很〈同、胡墾反、戻也、違也、不測也、顔也、暴也、(中略)加太久奈(○○○○)、又加万加万之、

〔塵袋六〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0711 一ヒガミ(○○○)タルヲヒスカシトイヒ、モノナレヌヲカタクナト云歟、
常ニハ此ノ心ニオモヒナラハセリ、但左傳曰、不德之義經頑、不忠信之言嚚(ヒスカシ/○)ト云ヘリ、ツネノヤウニハタガヒタル歟、

〔日本書紀〕

〈三/神武〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0711 戊午年十二月、饒速日命、〈○中略〉見夫長髓彦稟牲愎根不(クスカシマニモトリ/ ○○ )一レ敎、以天人之際、乃殺之、帥其衆而歸順焉、

〔懷風藻〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0711 釋辨正二首
辨正法師者、俗姓秦氏、性滑稽(○○)善談論

〔類聚名義抄〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0711 情〈音淸 コヽロナサケ〉

〔伊呂波字類抄〕

〈奈/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0711 情〈ナサク〉 心 憐〈巳上同〉

〔運歩色葉集〕

〈那〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0711 情(ナサケ)

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0712 一書曰、〈○中略〉故伊弉册尊恥恨之曰、汝巳見我情(コヽロ/○)我復見汝情(コヽロ)

〔段注説文解字〕

〈十下/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0712 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00802.gif 人之会气有、欲者、〈董仲舒曰、情者人之欲也、人欲之謂情。情非制度節、禮記曰、何謂人情、喜怒哀懼愛惡欲、七者不學而能、左傳曰、民有好惡喜怒哀樂、生於六氣、孝經援神契曰、性生於陽、以埋執、情生於陰、以繋念、〉从心靑聲、〈疾盈切、十一部、〉

〔藻鹽草〕

〈十六/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0712
人の情 ことの葉の情 情なき 情ある 情の色 露の情 ちゞの情 情をかくる なげの情〈すこしの情也、なをざりの情也、又云、ないがしろの情也と云々、何も只同心歟、〉 情のほど 情の山〈名所也、そへたる也、〉 みやひ〈情也〉 うはへなき〈なさげなきと也〉

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0712 人情(ニンジヤウ/○○)〈董仲舒云、人欲謂之情、〉

〔日本書紀〕

〈十四/雄略〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0712 五年二月、舍人性懦弱、緣樹失色、五情(コヽロ/○○)無主、

〔書言字考節用集〕

〈十/數量〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0712 七情(シチジヤウ/○○)〈喜、怒、衰、懼、愛、惡、欲、〉

〔秦山集〕

〈雜著/甲乙錄八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0712 情訓七裂也、此視吾〈○吉川惟足〉之傳、

〔倭訓栞〕

〈前編十九〉

〈那〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0712 なさけ 、情をいふ、眞名伊勢物語に見ゆ、中裂の義、中心のさけ出るをいふ、よて心根ともよむ、情實也、伊勢物語に心なさけと見えたり、此國にはわけてなさけといふ事を貴べりといへり、なさけある人、なさけをくむなどの詞味ふべし、

〔倭訓栞〕

〈中編二十一/比〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0712 ひとのなさけ 人情をいへり、菅家御集にみゆ、

〔三德抄〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0712 四端出於理、七情出於氣ト云事アリ、四端トハ仁義禮智ノアラハルヽ處ヲ云也、七情トハ喜怒哀懼愛思欲ヲイフ也、人ノ心ハ只道理マデニテアルユへニ、七情出來スル也、七情ニハ善ト惡トアリ、四端ニメ善バカリニシテ惡ナシ、此七情ヲ道理ノマヽニスレバ、仁義ニカナヒテヨケレドモ、血氣ノ私ニヒカサルヽトキハ、七情ホシイマヽニナリテ、理ニソムキテ喜ブ故ニ、ヨク分別シテ、七情ヲ理ニカナヘテナセバ、イヅレモアシキコトナシ、理バカヲニテハ、ウゴキハタラ キガタシ、理ト氣ヲ合セテ心トスレバ、ヨクウゴキハタラク也、タトヘバヲモキモノヲ、一人シテモチアゲガタキトコロニ、二人ノ力ヲ合セテアグレバ、必ズカルクナルゴトク、此理ト氣トヲ一ツニ合セテ、心ヨリ氣ヲ用ルトキハ、心ヅヨクナリテ、ヲノヅカラ僻事アルベカラズ、親ニ孝行ヲスルハ心ノ理ナリ、若又親ニイカリヲアラハスハ、是血氣ノ私ナリ、是ニヨツテ理ト氣トノ差別ヲ知ルべキ也、

〔語孟字義〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0713 情〈凡三條〉
情者、性之欲也、以動而言、故以性情並稱、樂記曰、感物而動者、性之欲也、是也、先儒以謂、情者性之動、未備、更欲得欲字之意分曉、人常言人情、言情欲、或言天下之同情、皆此之意、目之於色、耳之於聲、口之於味、四支之於安逸、是性、目之欲美色、耳之欲好音、口之欲美味、四支之欲安逸、是情、父子之親、性也、父必欲其子之善、子必欲其父之壽考、情也、又曰、好善惡惡、天下之同情也、大凡推此之類之、情字之義自分曉、

〔聖敎要錄〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0713 意情〈○中略〉
惻隱羞惡辭讓是非、是情也、情之發而及物、其目不二五之間、聖人以仁義禮智、令其情中其節也、

〔訓幼字義〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0713 情 凡九則
情といふは、人心の上に就て、思慮安排にわたらず、生れ付たるまゝにて、いつはりかざることなきところをいふ、世間の人、物をうぶといふがごとし、禮記禮運の篇に、何謂七情、喜怒哀樂愛惡欲、七者不學而能と、是にて其義もつとも明らかなり、先儒の説に、心之未發を性と云、巳發を情と定めらるゝは、是も張子心統性情の説より出たる事にて、宋朝以來其説一定し、かたく此説を守れども、古人の意にあらず、大抵宋儒以來、事ごとに體用、理氣、未發已發の分を立らるれども、聖人の言には、天道人事の上に、氣をいひて理をとかず、用をいひて體をかたらず、已發の説ありて未發 の説なし、

〔辨名〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0714 性情才〈七則〉
情者、喜怒哀樂之心、不思慮而發者、各以性殊也、七情之目、醫書曰、喜怒憂思悲驚恐、此就其發五藏之名、儒書曰、喜怒哀懼愛惡欲、或止言喜怒哀樂四者、此皆以好惡兩端之、大氐心情之分、以其所恵慮心、以思慮情、以七者之發不一レ情爲心、關性者爲情、凡人之性皆有欲、而渉思慮則或能忍其性、不思慮則任其性所一レ欲、故心能有矯飾、而情莫矯飾、是心情之説也、凡人之性皆有欲、而所欲或以其性殊、故七情之目、以欲爲主、順其欲則喜樂愛、逆其欲則怒惡哀懼、是性各有欲者見情焉、故如情欲、曰天下之同情、皆以欲言之、性各有殊者亦見情焉、故如萬物之情、曰物之不齊、物之情也、皆以性所一レ殊言之、又如孟子曰是豈人之情也哉、直以爲性、又如曰訟情、曰軍情、曰上レ其情、皆以其不一レ内實之、所謂訓實是也、亦以情莫一レ矯飾故轉用耳、且訟情軍情、亦各有一種態度、而得之則瞭然者、亦如情以性殊、故有是言焉、自宋儒以性爲一レ理、而字義遂晦、性情之所以相屬者、不其解、至仁齊先生而後始明矣、

〔伊呂波字類抄〕

〈安/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0714 愛〈アイス憐也、仁也、親也、〉

〔同〕

〈安/疊孛〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0714 愛憎(アイソウ/アイシニクム) 愛精 愛欲

〔書言字考篩用集〕

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0714 愛著(アイヂヤク) 愛心(アイシン) 愛欲(アイヨク) 愛執(アイシユフ) 愛憎(アイゾウ)〈又云愛惡〉 愛(メツル/メデ)〈日本紀〉

〔倭訓栞〕

〈前編三十二/米〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0714 めぐし(○○○) 神代紀に憐愛をよめり、万葉集にも、妻(メ)子みれば、めぐしうつくしと見えたり、めぐむ意なるべし、〈○中略〉
めづる 愛をよめり、芽出の義、草木の萌芽は仁愛の意思あり、日本紀に感字をもよめり、めでともいへり、〈○中略〉
めで(○○) 日本紀の歌に、櫻のめでと見えたり、愛の義也、ほめいでるの略語といへり、されど芽出の義、草木に譬へいふならん、源氏に感嘆稱愛の意を、めでくつがへるといへり、〈○中略〉 めでたし(○○○○) 愛(メデ)たき也、たきは希ふ詞也、よて遊仙窟に、可愛をよめり、めではほめいでの略、たきはいたきにた、其事を强からしむる辭也ともいへり、

〔倭訓栞〕

〈前編二十四/波〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0715 はしき(○○○) 日本紀、萬葉集に多し、愛字よめり、愛妻などいへるは、うるはしき義、細(クハ)しきの略にや、神代紀の我愛之妹も、はしきなにものみことゝ讀べし、

〔萬葉集〕

〈十一/古今相聞往來歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0715物陳
早敷哉(ハシキヤシ)、不相子故(アハヌコユエニ)、徒(イタヅラニ)、是川瀨(コノカハノセニ)、裳襴潤(モノスソヌレヌ)、

〔日本書紀〕

〈二/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0715 正哉吾勝勝速日天忍穗耳尊〈○中略〉生天津彦彦火瓊瓊杵尊、故皇祖高皇産靈尊特鍾憐愛(メグシトヲホスミ心)、以崇美焉、

〔古事記〕

〈中/垂仁〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0715 此天皇以沙本毘賣后之時、沙本毘賣命之兄沙本毘古王、問其伊呂妹曰、孰愛夫與一レ兄歟、答曰、愛兄、〈○下略〉

〔古事記〕

〈中/應神〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0715是天皇問大山守命與大雀命、〈○仁德〉詔汝等者、孰愛兄子與弟子

〔日本書紀〕

〈十三/允恭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0715 八年二月、幸于藤原、密衣通郎〈○郎原脱、據一本改、〉姫之消息、〈○中略〉明旦、天皇見井傍櫻華而歌之曰、波那具波辭(ハナグハシ)、佐區羅能梅𣵀(サクラノメデ)、許等梅𣵀麼(コトメデハ)、波椰區波梅𣵀https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00594.gif (ハヤクハメデズ)、和我梅豆留古羅(ワガメヅルコラ)、

〔萬葉集〕

〈五/雜歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0715惑情歌一首〈幷〉序〈○序略〉
父母乎(チヽハヽヲ)、美禮婆多布斗斯(ミレバタフトシ)、妻子美禮婆(メコミレバ)、米具斯宇都久志(メグシウツクシ)、余能奈迦波(ヨノナカハ)、加久叙許等和理(カクゾコトワリ)、〈○下略〉

〔難波江〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0715 一愛憎の變と申すことあり候、我園の花は、野山の花よりまされるやうに思ひ候が、愛憎の變と申し候、是も人と我と、隔てあふ故にて候、誠に惑の甚しきことにて候、そのかみ彌子瑕は、衞の君に愛せらる、或とき彌子瑕が母、疾ありて、人ゆきて夜吿げしかば、彌子瑕いつはりて、君の車に乘りて行きしを、衞君かへつて孝なりとて稱譽す、又一日、彌子瑕、果を食ひしに、甘しとて、食ひかけし果を君に奉りしかば、衞君また忠なるよしを以て稱しぬ、彌子瑕寵を失ふとき、まづ此 二つを以て罪せられしとぞ、愛憎の變、よく〳〵愼み思はるべく候、

〔類聚名義抄〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0716 戀〈力泉反、 コヒ和レン〉

〔伊呂波字類抄〕

〈古/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0716 戀コヒ https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00595.gifhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00596.gif イ如字亦態也〉 想 惷 吟 郁〈已上同〉

〔同〕

〈禮/疊字〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0716 戀慕

〔書言字考節用集〕

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0716 戀慕(コヒシタフ)

〔八雲御抄〕

〈三下/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0716 戀 かたこひ〈かた思の戀なり〉 もろ〈源氏語〉

〔萬葉集考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0716 相聞(アヒギコエ)〈こは相思ふ心を、互に告聞ゆれば、あひぎこえといふ、後の世の歌集に、戀といふにひとし、されど此集には、親子兄弟の相思ふ歌をも、此中に入て、こと廣き也、〉

〔倭訓栞〕

〈前編九/古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0716 こひ 戀は人情の切實をいへば、乞求るの儀なるべし、戀々てとも見ゆ、和歌に戀部を立て四季に次つるは、有天地然後有男女の義、我邦天の淨橋のむかしより、諾册唱和の詞に起りて、造端於夫婦の敎を設けり、此戀の情實を失はゞ、忠孝も本づく所なく、禮儀も錯く所あらじ、俊成卿、
戀せずば人はこゝうもなからまし物のあはれは是よりそしる、此歌古今集流れては妹背の山の歌によりてよめりと、豐筑後守の傳なり、万葉集には戀の部を相聞と載て、妹背のなからひのみならず、兄弟朋友のみやびをかはすまでを入られたれば、五倫にわたりてこゝろ得べきことにや、小倉百首に、
わすらるゝ身をばをもはず誓ひてし人のいのちのをしくも有かな、此道理を忠孝に移し看ば、臣子の身として、君父の不是底をかへり見るに、いとまなき意旨を理會し得べし、拾遺集人丸、 住よしの岸にむかへるあはぢ島あはれと君をいはぬ日ぞなき、戀部に入たれど、いさゝかも妹背のなかの心はなし、君は天皇をまうし奉りて、至忠の詠なりといへり、されど男女の間淫風に奔り、猥に流れ行て歸る道しらざるは、大に戒むべし、

〔古事記〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0716 此八千矛神將高志國之沼河比賣幸行之時、到其沼河比賣之家歌曰、夜知富許能(ヤチホコノ)、<ruby><rb>迦微 能美許登波</rb>カミノミコトハ</ruby>、夜斯麻久爾(ヤシマクニ)、都麻麻岐迦泥氐(ツママギカネテ)、登富登富斯(トホトホシ)、故志能久邇邇(コシノクニニ)、佐加志賣遠(サカシメヲ)、阿理登岐加志氐(アリトキカシテ)、久波志賣遠(クハシメヲ)、阿理登伎許志氐(アリトキコシテ)、佐用婆比爾(サヨバヒニ)、阿理多多斯(アリタタシ)、用婆比邇(ヨバヒニ)、阿理加用婆勢(アリカヨハセ)、多知賀遠母(タチガヲモ)、伊麻陀登加受氐(イマダトカズテ)、淤須比遠母(オスヒヲモ)、伊麻陀登加泥婆(イマダトカネバ)、遠登賣能(ヲトメノ)、那須夜伊多斗遠(ナスヤイタドヲ)、淤曾夫良比(オソブラヒ)、和何多多勢禮婆(ワガタタセレバ)、比許豆良比(ヒコヅラヒ)、和何多多勢禮婆(ワガタタセレバ)、阿遠夜麻邇(アヲヤマニ)、奴延波那伎(ヌエハナキ)、佐怒都登理(サヌツトリ)、岐藝斯波登與牟(キヾシハトヨ厶)、爾波都登理(ニハツトリ)、<ruby><rb>迦祁波那久(カケハナク)、宇禮多久母(ウレタクモ)、那久那留登理加(ナクナルトリカ)、許能登理母(コノトリモ)、宇知夜米許世泥(ウチヤメコセネ)、伊斯多布夜(イシタフヤ)、阿麻波勢豆加比(アマハセツカヒ)、許登能(コトノ)、加多理其登母(カタリゴトモ)、許遠婆(コヲバ)、爾其沼河日賣、未戸、自内歌曰、夜知富許能(ヤチホコノ)、迦微能美許等(カミノミコト)、怒延久佐能(ヌエクサノ)、賣邇志阿禮婆(メニシアレバ)、和何許許呂(ワガココロ)、宇良須能登理叙(ウラスノトリゾ)、伊麻許曾婆(イマコソハ)、知杼理邇阿良米(チドリニアラメ)、能知波(ノチハ)、那杼理爾阿良牟遠(ナトリニアラムヲ)、伊能知波(イノチハ)、那志勢多麻比曾(ナシセタマヒソ)、伊斯多布夜(イシタフヤ)、阿麻波世豆迦比(アマハセヅカヒ)、許登能(コトノ)、加多理碁登母(カタリゴトモ)、許遠婆(コヲバ)、阿遠夜麻邇(アヲヤマニ)、比賀迦久良婆(ヒガカクラバ)、奴婆多麻能(ヌバタマノ)、用波伊傳那牟(ヨハイデナム)、阿佐比能(アサヒノ)、惠美佐迦延岐氐(エミサカエキテ)、多久豆怒能(タクヅヌノ)、斯路岐多陀牟岐(シロキタゞムキ)、阿和由岐能(アワユキノ)、和加夜流牟泥遠(ワカヤルムネヲ)、曾陀多岐(ソタタキ)、多多岐麻那賀理(タタキマナガリ)、麻多麻傳(マタマデ)、多麻傳佐斯麻岐(タマデサシマキ)、毛毛那賀爾(モモナガニ)、伊波那佐牟遠(イハナサムヲ)、阿夜爾那古斐岐許志(アヤニナコヒキコシ)、夜知富許能(ヤチホコノ)、迦微能美許登(カミノミコト)、許登能(コトノ)、迦多理碁登母(カタリゴトモ)、許遠婆(コヲバ)、故其夜者、不合而、明日夜爲御合也、

〔日本書紀〕

〈十三/允恭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0717 八年二月、幸于藤原、密察衣通郎〈○郎原脱、據一本補、〉姫之消息、是夕衣通郎姫戀天皇而獨居、其不天皇之臨、而歌曰、和餓勢故餓(ワガセコガ)、勾倍枳豫臂奈利(クベキヨヒナリ)、佐瑳餓泥能(ササガニノ)、區茂能於虚奈比(クモノオコナヒ)、虚豫比辭流辭毛(コヨヒシルシモ)、

〔日本書紀〕

〈十七/繼體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0717 七年九月、勾大兄皇子、〈○安閑〉親聘春日皇女、於是月夜淸談、不覺天曉、斐然之藻、忽形於言、乃口唱口、野絁磨倶伱(ヤシマクニ)、都磨磨祁哿泥底(ツママキカネテ)、播屢比能(ハルヒノ)、哿須我能倶伱伱(カスガノクニニ)、倶婆施謎鳴(クハシメヲ)阿唎等枳枳底(アリトキキテ)、與盧志謎鳴(ヨロシメヲ)、阿唎等枳枳底(アリトキキテ)、莽紀佐倶(マキサク)、避能伊陀圖嗚(ヒノイタドヲ)、飫斯毗羅枳(ヲシヒラキ)、倭例以梨魔志(ワレイリマシ)、阿都圖唎(アトトリ)、都磨怒唎絁底(ツマトリシテ)、魔倶囉圖唎(マクラトリ)、都魔怒唎絁底(ツマトリシテ)、伊慕我堤鳴(イモガテヲ)、倭例伱魔柯絁毎(ワレニマカシメ)、倭我堤嗚磨(ワガテラハ)、伊慕伱魔柯絁毎(イモニマカシメ)、磨左棄逗囉(マサキツラ)、多多企阿藏播梨(タタキアサハリ)、矢自矩矢盧(シシクシロ)、于魔伊禰矢度伱(ウマイネシトニ)、伱播都等唎(ニハツトリ)、柯稽播儺倶儺梨(カケハナクナリ)、奴都等唎枳蟻矢播等余武(ヌツトリキギシハトヨム)、婆絁稽矩謨(ハシケクモ)、伊麻娜以幡孺底(イマダイハズテ)、阿開伱啓梨倭蟻慕(アケニケリワギモ)、妃和唱曰、莒母唎矩能(コモリクノ)、簸都細能哿婆庾(ハツセノカハユ)、<ruby><rb>那 峨例倶屢</rb>ナガレクル</ruby>、駄開能(タケノ)、以矩美娜開(イクミタケ)、余囊開(ヨダケ)、漠等陛鳴磨(モトベヲパ)、莒等伱都倶唎(コトニツクリ)、須衞陛鳴磨(スエベヲバ)、府曳伱都倶唎(フエニツクリ)、府企儺須(フキナス)、美母盧我紆陪伱(ミモロガウへニ)、能朋梨陀致(ノボリタチ)、倭我彌細磨(ワガミセバ)、都奴娑播符(ツヌサハフ)、以簸例能伊開能(イハレノイケノ)、美儺矢駄府(ミナシタフ)、紆鳴謨紆陪伱(ウヲモウへニ)、堤堤那皚矩(テテナゲク)、野須美矢矢(ヤスミシシ)、倭我於朋枳美能(ワガオホギミノ)、於魔細婁娑佐羅能美於寐能(オマセルササラノミオビノ)、武須彌陀例(ムスビタレ)、駄例夜矢比等母(タレヤシヒトモ)、紆陪伱泥堤那皚矩(ウヘニデテナゲク)、

〔常陸風土記〕

〈香島郡〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0718 以南童子女松原、古有年少童子、〈俗曰加味乃乎止古、加昧乃乎止賣、〉稱那賀寒田之郎子、女號海上安是之孃子、並形容端正、光華郷里聞名聲、同存望念、自愛心熾、經月累日、嬥歌之會、〈俗曰、宇太我岐、又曰加我毘也、〉邂逅相遇、〈○中略〉便欲相語人知之、違遊場松下、擕手促膝、陳懷吐憤、旣釋故戀之積疹、還起新歡之頻咲、〈○中略〉偏耽語之甘味、頓忘夜之將一レ闌、俄而鷄狗吠、天曉日明、爰童子等、不爲、遂愧人見、化成松樹、郎子謂奈美松、孃子稱古津松

〔日本靈異記〕

〈中〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0718愛欲吉祥天女像感應示寄表緣第十三
和泉國泉郡血渟山寺、有吉祥天女攝像、聖武天皇御世、信濃優婆塞來住於其山寺、睇之天女像而生愛欲、繋心戀之、〈○下略〉

〔萬葉集〕

〈二/相聞〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0718 石川女郎贈大伴宿禰田主歌一首
遊士跡(ミヤビヲト)、吾者聞流乎(ワレハキケルヲ)、屋戸不借(ヤドカサズ)、吾乎還利(ワレヲカヘセリ)、於曾能風流士(オソノミヤビヲ)、
大伴田主、字曰仲郎、容姿佳艶、風流秀絶、見人聞者、靡歎息也、時有石川女郎、自成雙栖之感、恒悲獨守之難、意欲書、未良信、爰作方便、而似賤嫗、己提鍋子、而到寢側、哽音跼足、叩戸諮曰、東隣貧女、將火來矣、於是仲郎、暗裏非冒隱之形、慮外不拘接之計、任念取火就跡歸去也、明後女郎旣耻自媒之可一レ愧、復恨心契之弗一レ果、因作斯歌、以贈諺戯焉、
大伴宿禰田主報贈歌一首
遊士爾(ミヤビヲニ)、吾者有家里(ワレハアリケリ)、屋戸不借(ヤドカサズ)、令還吾曾(カヘセルワレゾ)、風流士者有(ミヤビヲニハアル)、

〔萬葉集〕

〈四/相聞〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0719 安貴王謌一首〈幷〉短歌
遠嬬(トホヅマノ)、此間不在者(コヽニアラネバ)、玉桙之(タマボコノ)、道乎多遠見(ミチヲタトホミ)、思空(オモフソラ)、安莫國(ヤスケクナクニ)、嘆虚(ナゲクソラ)、不安物乎(ヤスクラヌモノヲ)、水空往(ミソラユク)、雲爾毛欲成(クモニモガモナ)、高飛(タカクトブ)、鳥爾毛欲成(トリニモガモナ)、明日去而(アスユキテ)、於妹言問(イモニコトドヒ)、爲吾(ワガタメニ)、妹毛事無(イモヽコトナク)、爲妹(イモガタメ)、吾毛事無久(ワレモコトナク)、今裳見如(イマモミルゴト)、副而毛欲得(タクヒテモガモ)、
反歌
敷細乃(シキタ〻ノ)、手枕不纏(タマクラマカズ)、間置而(ヘダテオキテ)、年曾經來(トシゾヘニケル)、不相念者(アハヌオモヘバ)、
右安貴王娶因幡八上采女、係念極甚、愛情尤盛、於時勅斷不敬之罪退去本郷焉、于是王意悼怛、聊作此歌也、

〔萬葉集〕

〈九/挽歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0719菟原處女墓歌一首〈幷〉短歌
葦屋之(アシノヤノ)、菟名負處女之(ウナヒヲトメカ)、八年兒之(ヤトセゴノ)、片生乃時從(カタオヒノトキユ)、小放爾(ヲハナチニ)、髮多久麻庭爾(カミタクマデニ)、並居(ナラビイテ)、家爾毛不所見(イヘニモミエズ)、虚木綿乃(ソラユフノ)、窂而座在者(カクレテマセバ)、見而師香跡(ミテシカト)、悒憤時之(イブセキトキシ)、垣廬成(カキホナス)、人之誂時(ヒトノイド厶トキ)、智奴壯士(チヌヲトコ)、宇奈比壯士乃(ウナヒヲトコノ)、廬八燎(フセヤモエ)、須酒師競(ススシキホヒテ)、相結婚(アヒタハケ)、爲家類時者(シケルトキニハ)、燒大刀乃(ヤキダチノ)、手預押禰利(タカヒオシネリ)、白檀弓(シラマユミ)、靭取負而(ユキトリオヒテ)、入水(ミヅニイリ)、火爾毛將入跡(ヒニモイラムト)、立向(タチムカヒ)、競時爾(キソヒシトキニ)、吾妹子之(ワギモコガ)、母爾語久(ハヽニカタラク)、倭文手纏(シヅタマキ)、賤吾之故(イヤシキワガユエ)、丈夫之(マスラヲノ)、荒爭見者(アラソフミレパ)、雖生(イケリトモ)、應合有哉(アフベクアレヤ)、宍串呂(シヽクシロ)、黃泉爾將待跡(ヨミニマタムト)、隱沼乃(カクレヌノ)、下延置而(シタハヘオキテ)、打嘆(ウチナゲキ)、妹之去者(イモガイヌレバ)、血沼壯士(チヌヲトコ)、其夜夢見(ソノヨユメミテ)、取次寸(トリツヽキ)、追去祁禮婆(ヲヒユキケレバ)、後有(オクレタル)、菟原壯士(ウナヒヲトコモ)、伊仰天(イアフギテ)、叫於良妣(サケヒオラヒテ)、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00597.gif 他(ツチニフシ)、牙喫建怒而(テキガミタケビテ)、如己男爾(モコロヲニ)、負而者不有跡(マケテハアラジト)、懸佩之(カケハキノ)、小釰取佩(ヲダチトリハキ)、冬https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00598.gif 蕷都良(サネカツラ)、尋去祁禮婆(ツギテユケレバ)、親族其(ヤカラトモ)、射歸集(イユキアツマリ)、永代爾(ナガキヨニ)、標將爲跡(シルシニセムト)、遐代爾(トホキヨニ)、語將繼常(カタリツガムト)、處女墓(ヲトメヅカ)、中爾造置(ナカニツクリオキ)、壯士墓(ヲトコツカ)、此方彼方二(コナタカナタニ)、造置有(ツクリオケリ)、故緣聞而(ユエヨシキヽテ)、雖不知(シラネドモ)、新裳之如毛(ニヒモノゴトモ)、哭泣鶴鴨(ネナキツルカモ)、〈○反歌二首略〉
右五首、高橋連蟲麻呂之歌集中出、

〔伊勢物語〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0719 むかしゐ中わたらひしける人の子共、井のもとにいでゝあそびけるを、おとなに成にければ、男も女もはぢかはして有ければ、男は此女をこそえめと思ふ、女は此男をと思ひつゝ、おやのあわすれども、きかでなん有ける、扨此となりの男のもとよりかくなん、 つゝゐづゝゐづゝにかけしまろがたけすぎにけらしないもみざるまに、かへし、
くらべこしふりわけ髮もかた過ぬ君ならずしてたれかあぐべき、などいひ〳〵て、つゐにほいのごとくあひにけり、

〔大鏡〕

〈五/太政夫臣兼家〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0720 次郎君〈○藤原道綱、兼家子、〉は陸奧守倫寧ぬしの女のはらに、おはせし君なり、〈○中略〉この母君〈○中略〉との〈○兼家〉のおはしましたりけるに、門を遲あけゝれば、たび〳〵御せうそこいひいれさせ給ふに、女君、
なげきつゝひとりぬる夜のあくるまはいかに久しきものとかはしる、いとけうありとおぼして、
げにやげに冬の夜ならぬまきの戸もをそくあくるはくるしかりけり

〔源平盛衰記〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0720 有子入水事
偖モ有子ノ内侍ハ、德大寺何トナキ言ノ葉ヲ得テ、思日日ニゾ增リケル、千早振神ニ、祈ヲカクレ共、其事叶フベキニアラネバ、浮世ニツレナクアレバコソ、係忍難事モアレ、千尋ノ底ニ沈ミナバヤト思ツヽ、舼舟ニ便船シテ、有シ人ノ戀サニ、都近所ニテ兎モ角モナラントテ、波ノ上ニゾ漂ケル、責テノ事ト哀也、船ノ中ノ慰ニハ、琵琶ノ曲ヲゾ彈ケル、〈○中略〉有子終ニ攝津國住吉ノ澪ノ沖ニテ、船ニ立出ツヽ、海上ハルカニ見渡テ、
ハカナシヤ浪ノ下ニモ入ヌベシ月ノ都ノ人ヤミルトテ、ト打詠テ、忍ヤカニ念佛申テ、海中ヘゾ入ニケル、

〔徒然草〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0720 延政門院〈○後嵯峨皇女悦子内親王〉いときなくおはしましける時、院〈○後嵯峨〉へまいる人に、御ことづてとて、申させ給ひける御歌、
ふたつもじ牛のつのもじすぐなもじゆがみもじとぞ君はおぼゆる、こいしくおもひまいら せ給と也、

〔增鏡〕

〈十六/久米のさら山〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0721 隱岐よりは、たまさかの御消息などのかよふばかりにて、〈○後醍醐、中略、〉かしこにまいり給へる内侍三位〈○後醍醐後宮藤原廉子〉の御腹にも、みこたちあまたおはします、いづれもいまだいはけなき御程にはあれど、物おぼししりて、いみじう戀聞え給ひつゝ、おり〳〵はしのびてうちなきなどし給ふ、おさなうものし給へば、とをき國まではうつしたてまつらねど、もとの御うしろみをばあらためて、西園寺大納言公宗の家にわたしたてまつる、八になり給ふぞ御このかみならむかし、北山におはする程、夕ぐれのそらいと心すごう、山風あらゝかにふきて、常よりも物かなしくおぼされければ、
庭松綠老秋風冷 薗竹葉繁白雪埋
つく〳〵とながめくらして入あひのかねのをとにも君ぞこひしき、おさなき御心にはかなくうちひそみ給へる、いとあはれなり、〈○又見太平記

〔伊呂波字類抄〕

〈加/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0721 感〈カムス〉

〔倭訓栞〕

〈前編六下/加〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0721 かまけ〈○中略〉 感をよめるは、日本紀、靈異記などに見えたり、今俗事に打かゝり居るを、かまけてゐるといふ意近し、

〔日本書紀〕

〈十四/雄略〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0721 六年二月乙卯、天皇遊乎泊瀨小野、觀山野之體勢、慨然興感歌曰(ミオモヒヲオコシテ/ メツルコト)、擧暮利矩能(コモリクノ)、播都制能野磨播(ハツセノヤマハ)、伊麻拖智能(イマタチノ)、與慮斯企野磨(ヨロシキヤマ)、和斯里底能(ワシリデノ)、與盧斯企夜磨能(ヨロシキヤマノ)、據暮利矩能(コモリクノ)、播都制能夜麻播(ハツセノヤマハ)、阿野儞于羅虞波斯(アヤニウラグハシ)、阿野儞于羅虞波斯(アヤニウラグハシ)、於是名小野道小野

〔日本書紀〕

〈二十四/皇極〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0721 三年正月、輕皇子〈○孝德〉深識中臣鎌子連之意氣高逸、容止難一レ犯、乃使寵、妃阿陪氏淨掃別殿、高鋪新蓐具、給敬重特異、中臣鎌子連便感(カマケ)遇、而語舍人曰、殊奉恩澤、過前所一レ望、誰能不使天下耶、

〔日本書紀〕

〈二十五/孝德〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0722 二年三月辛巳、詔東國朝集使等曰、〈○中略〉始處新宮、將諸神、屬乎今歲、又於農月使民、緣新宮、固不巳、深減(オトシテ/カマケ)二途赦天下、〈○下略〉

〔日本書紀通證〕

〈三十/孝德〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0722 深減二途〈减當感、訓見皇極紀、二途謂諸神農月使上レ民〉、

〔萬葉集〕

〈十六/有由緣幷雜歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0722 娘子等和歌九首
端寸八爲(ハシキヤシ)、老大之歌丹(オキナノウタニ)、大欲寸(オホヽシキ)、九兒等哉(コヽノヽコラヤ)、蚊間毛而將居(カマケテヲラム)、〈○下略〉

〔類聚名義抄〕

〈二/女〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0722 嬉〈音煕 ヨロコブ和キ〉 娯〈音虞ヨロコフ〉

〔同〕

〈二/口〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0722 听〈牛謹反、又之若反、ヨロコフ〉

〔同〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0722 怡〈音飴ヨロコフ〉㤚〈ヨロコフ〉 愉〈音兪ヨロゴフ〉 悆〈音豫ヨロコフ〉 懽〈呼官反 正歡ヨロコフ〉 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00599.gif 〈ヨロコフ〉 懋〈音茂ヨロコフ〉 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00600.gif 〈古〉愷〈ヨロコフ〉 快〈苦懷反ヨロコフ〉 懌〈音譯ヨロコフ〉 悦〈音閲ヨロコフ〉 憙〈音喜ヨロコフ〉 喜憘https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00601.gif 〈俗〉 忻〈音https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00602.gif 、欣同上、ヨロコフ、〉

〔同〕

〈九/欠〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0722 欵〈ヨロコヒ〉 歖〈音喜笑ヨロコフ〉 㰦〈音去ヨロコフ〉 㰯〈他計、又他豆反、ヨロコフ〉 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00603.gif https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00604.gif 〈呼官反 ヨロコフhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00605.gif 同 樂歡 和火ン〉 歡〈正歟〉

〔伊呂波字類抄〕

〈與/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0722 歡〈ヨロコブ〉 欣 慶 嘉 悦 折 愉 賀 遐 兊 假 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00606.gif https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00607.gif 婾澤 懌 樂 講 拜 悊 姖 似 叶 驩 怡 怫 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00608.gifhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00609.gif 愷 識 綩 説 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00653.gif 嬉賴快懽https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00610.gif 賞〈巳上ヨロコブ〉

〔干祿字書〕

〈平聲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0722 忻欣〈竝正〉 懽歡〈並正〉

〔春波樓筆記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0722 支那の文字甚多し、爰に悦の字を掲ぐ、悦、怡、歡、喜、欣、忻、懌、忭、忔、懽、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00611.gifhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00612.gif 、恞、悆、惞、愹惣、憘歖㦏懯俽、訢、原、台、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00613.gif https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00614.gif 、嘉、愉、慆欯、衎の屬、これ悦の淺深、或は悲中の悦、懼の中に悦を生じ、其意味あり、彼の國は文字を以て符契とす、故に文字を離れては言語意味通ぜず、倉卒に言ふ時は、貴人と雖、頭を振り動し形容して談語す、

〔運歩色葉集〕

〈興〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0722 喜(ヨロコブ) 悦(同) 歡(同) 欣(同)

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0722 欣々(ヨロコブ)〈白文集〉 欣然(同)〈怡然、怡悦、忻然並同、〉 喜(同) 歡(同) 欣(同) 慶(同) 怡(同) 悦(同) 豫(同) 賀(同)

〔倭訓栞〕

〈前編三十六/與〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723 よろこぶ 神代紀に快又欣慶又喜悦をよめり、依媚の義にや、日本紀によろこぼし、伊勢物語によろこぼひと見えたり、ほし(ノ)反び、ほひ(ノ)反ひ、也、歡も同じ、又説悦も同じ、

〔新撰字鏡〕

〈連字〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723 偉慶〈悦也、奇也、賀也、幸也、福也、於毛加志、又宇禮志(○○○)、〉

〔類聚名義抄〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723 〈怡音飴ウレシ〉

〔伊呂波字類抄〕

〈宇/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723 嬉〈ウレシ〉 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00615.gifhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00616.gif 娯 妮〈已上ウレシ〉

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723 嬉(ウレシヽ) 悞(同)〈万葉〉

〔倭訓栞〕

〈前編四〉

〈宇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723 うれし 神代紀に憙をよめり、嬉も同じ、新撰字鏡にhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00617.gif もよめり、祝詞に嘉志美とも見え、皇代紀に歡喜又欣遊をうれしむとよめり、得の意也、

〔伊呂波字類抄〕

〈久/疊字〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723 歡樂 歡悦 歡興 歡喜 歡情 歡呼 歡遊

〔下學集〕

〈下/態藝〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723 抃悦(ヘンエツ) 抃躍(ヘンヤク) 怡悦(イエツ)〈日本之書、狀、怡作爲説、非義也、〉

〔同〕

〈下/疊字〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723 嘔喩(クユ)〈喜悦之貎〉

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723 怡悦(イエツ)〈又云喜悦〉 歡喜(クハンキ) 歡悦(クハンエツ) 歡情(クハンジヤウ) 歡樂(クワンラク)

〔同〕

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723 悦喜(エツキ)〈又云喜悦〉

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723 陰神先唱曰、憙哉遇(アラウレシヤ)可美少男焉、〈少男蝿云烏等孤〉陽神不悦曰(ヨロコビ)、吾是男子、理當先唱、如何婦人反先言乎、事旣不祥、宜以改旋、〈○中略〉於是陰陽始遘合爲夫婦、及産時、先以淡路洲胞、意所快(ヨロコビ)、故名之曰淡路洲

〔古事記〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723是洗左御目時、所成神名、天照大御神、次洗右御目時、所成神名、月讀命、次洗御鼻時、所成神名、建速須佐之男命、〈須佐二字、以音、○中略〉此時伊邪那岐命大歡喜詔、吾者生生子而於生終、得三貴子

〔日本書紀〕

〈二/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723 一書曰、〈○中略〉及彦火火出見尊將歸之時、海神白言、今者天神之孫、辱臨吾處、中心欣處(ヨロコビ)、何日忘之、

〔日本書紀〕

〈三/神武〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723 戊午年十月、我卒聞歌拔其頭椎劒、一時殺虜、虜無復噍類者、皇軍大悦、仰天而咲、

〔日本書紀〕

〈十一/仁德〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0723 四十一年〈○應神〉二月、譽田天皇〈○應神〉崩、時太子菟道稚郎子讓位于大鷦鷯尊、〈○仁德〉未 帝位、仍諮大鷦鷯尊、夫君天下以治高民者、蓋之如天、容之如地、上有驩心(ヨロコヘル)、以使百姓、百姓欣然(ヨロコビテ)天下安矣、〈○下略〉

〔文德實錄〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0724 嘉祥三年四月己酉、大宰帥三品葛井親王薨、親王桓武天皇第十二子也、母大納言贈正二位坂上大宿禰田村麻呂之女、從四位下春子也、〈○中略〉嘗嵯峨天皇御豐樂院、以觀射禮、〈○中略〉親王時年十二、天皇戯語親王曰、弟雖少弱、當弓矢、親王應詔而起、再發再中、時外祖父田村麻呂亦侍坐、驚動喜躍、不自已、卽便起座、抱親王而舞、進曰、臣嘗將數十万之衆、征討東夷、實賴天威、所向無敵、自料勇略、兵術多究、今親王年在齠齓、武伎如此、愚臣非能及、天皇大咲曰、將軍褒揚外孫、何甚過多、

〔將門記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0724 爰良正〈○平〉偏就外緣愁、卒忘内親之道、仍企干戈之計、誅將門之身、于時良正之因緣、見其威猛之勵、雖勝負之由、兼莞爾熙怡而已、〈字書曰、莞爾者倭言都波惠牟也、上音官反、下音志反、熙怡者倭言與呂古布(○○○○)也、上音伎、下音伊反、〉

〔續古事談〕

〈二/臣節〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0724 左大辨經賴ト云人アリケリ、五十ニ及テ、藏人頭ニナリタリケルヲ、アナガチニヨロコビケレバ、敎惠座主ト云人、イナメテ云ク、カクヨロコバルヽコソ、無益ノ事トオボユレト、ソシリケレバ、コノ人云ヤウ、コレハヨク案ゼラレヌナリ、天下ノ人イクソバクゾ、公卿廿餘人ハ論ゼズ、其外タマ〳〵貫首ニナレリ、コレオホキナルヨロコビニアラズヤ、敎惠ノ云ヤウ、コレハ大乘ノ觀ナリ、トカク申スニヲヨバズトナム、

〔平家物語〕

〈九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0724 河原合戰の事
大將軍九郎御ざうしよしつね、門前にて馬よりおり、門をたゝかせ、大をんじやうをあげて、〈○中略〉此御所しゆごのために、はせまいつて候へ、あけて入させ給へと、申されたりければ、なりたゞあまりのうれしさに、いそぎついがきの上より、おどりおるゝとて、こしをつきそんじたりけれ共、いたさはうれしさにまぎれておぼえず、はうはう御しよへまいつて、此よしそうもんしたりければ、〈○下略〉

〔備前老人物語〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0725 一ある人のいひしは、我此世に生れてうれしき事三あり、一に男に生る也、二に下戸に生れたりといひて、今一つをばいはず、しゐてとはれてのち、大名の子に生れぬがうれしきといふ、其故いかにと問へども〳〵、秘してあかさず、いかなる心にかありける、

〔伊呂波字類抄〕

〈太/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0725 樂〈タノシミ〉 娯〈悞也〉 愉 般〈考般〉 宗 悰 揄 喜 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00618.gif 怡 歡 虞聊 扶 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00619.gif https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00620.gifhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00621.gif 婾 湛 肥 嬉 嬀 槃 愷 恂 喜 衍 怙 勸 盤 賴預〈巳上タノシミ〉

〔同〕

〈久/疊字〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0725 快樂

〔同〕

〈古/疊字〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0725 娯樂

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0725 樂(タノシム) 娯(同) 逸豫(同) 逍遙(同)〈文選〉

〔萬葉集〕

〈三/雜歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0725 太宰帥大伴卿讃酒歌十三首〈○十二首略〉
生者(イケルヒト)、遂毛死(ツヒニモシヌル)、物爾有者(モノナレバ)、今生在間者(コノヨナルマハ)、樂乎有名(タヌシクヲアラナ)、

〔古今和歌集〕

〈序〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0725 たとひ時うつりことさり、たのしびかなしびゆきかふとも、此うたのもじあるをや、〈○下略〉

〔日本釋名〕

〈中/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0725 樂(タノシム) たのしとは、たは手也、のしはのぶる也、今も俗にのぶるをのすと云、手をのべて舞ば、心たのしむ也、是舊事記第二卷、又古語拾遺に見えたり、

〔伊勢平藏家訓〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0725 苦樂の事
一樂といふはたのしみなり、をよそ天地の間に生れ出るものゝ中、鳥獸虫けらもある中に、人に生るゝ事たのしみなり、女もある中に、男に生るゝ事たのしみなり、かたは者うつけ者もある中に、常の人に生るゝ事たのしみなり、若死する人もある中に、長生する事樂しみなり、きのふ死たる人もあるに、けふ迄生ながらへたるは樂しみなり、病身なる人もあるに、無病なるは樂しみなり、亂世に生れたる人もあるに、太平の御代に生れあひたるはたのしみなり、乞食もある中に、貧乏ながらも相應に渡世するは樂しみなり、賤しき人もある中に、小祿なりとも賜はりて、人の上 にたつはたのしみなり、此外たのしき事はいか程あるべし、然れども人は欲心深き物なるゆへ、我勝手によき事はたのしみとをもはず、たまたま勝手にわろき事あれば、くるしみなげくなり平目のまのあたりたのしむべき事あるをば、たのしまずして、別にたのしみをもとむるは、おろかなる事なり、くるしむもたのしむも、我心の持やうにあるなり、外より來る事はあらず、

〔日本書紀〕

〈二/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0726 大己貴神對曰、當問我子、然後將報、是時其子事代主神、遊行在於出雲國三穗〈三穗此云美保〉之碕、以釣魚樂(ワサ)、或曰遊鳥爲樂、

〔萬葉集〕

〈九/雜歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0726 撿税使大伴卿登筑波山時歌一首〈幷〉短歌
衣手(コロモデノ)、常陸國(ヒタチノクニノ)、二並(フタナミノ)、筑波乃山乎(ツクバノヤマヲ)、欲見(ミマクホリ)、君來座登(キミガキマスト)、〈○中略〉男神毛(ヲノカミモ)、許賜(ユルシタマヘリ)、女神毛(メノカミモ)、千羽日給而(チハヒタマヒテ)、時登無(トキ卜ナク)、雲居雨零(クモイアメフリ)、筑波嶺乎(ツクバネヲ)、淸照(キヨメテラシテ)、言借石(コトトヒシ)、國之眞保良乎(クニノマホラヲ)、委曲爾(マクハシニ)、示賜者(シメシタマベバ)、歡登(ウレシミト)、紐之緖解而(ヒモノヲトキテ)、家如(イヘノゴト)、解而曾遊(トキテゾアソブ)、打靡(ウチナビキ)、春見麻之從者(ハルミマシヨリハ)、夏草之(ナツクサノ)、茂者雖在(シゲクハアレド)、今日之樂者(ケフノタヌシサ)、

〔古今和歌集〕

〈一/春〉

}H そめどのゝきさき〈○文德后藤原明子、良房女、〉のおまへに、花がめに櫻の花をさゝせたまへるをみてよめる、 さきのおほきおほいまうちぎみ〈○藤原良房〉
年ふればよはひはおいのしかはあれど花をしみれば物思ひもなし

〔新撰字鏡〕

〈口〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0726 嗤蚩〈同充之子之二反、戯也、〈中略)和良不(○○○)、〉 嘕〈許延反、笑貎、和良不、又惠牟(○○)、〉 呵〈許加反、張口貎、含也、呻也、和良夫、〉

〔類聚名義抄〕

〈二/口〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0726 嚇〈音赫ワラフ〉 哂〈或忍反ワラフ、アサワヲフ(○○○○○)、〉 呬〈音棄ワラフ〉 咲〈笑上通下正、忠妙反、ワラフ、エム、エエワラフ(○○○○)、和セフ、〉 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/if0000060783.gifhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00623.gif https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00624.gif 〈四古、ワラウエム〉 听〈手謹反、又之若反、ワラフ〉 嗤〈音蚩、 昌之反、ワラフ、〉 劇〈エエク(○○○)ワラフ〉

〔同〕

〈八/竹〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0726 笑〈咲二正、㗛俗、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00623.gif 俗、ワラフ、和セウ〉

〔同〕

〈九/欠〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0726 㰹欦〈呼恬又呼冀反ワラフ〉 赥〈ワヲフ〉

〔伊呂波字類抄〕

〈和/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0726 咲〈ワラフ〉 哂〈自哂〉 咄〈https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00625.gif 〉 哈 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00626.gif 听 啅 嘲 皣 笑 嗤 隑 啞惱 慗 謔 弄 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00627.gif 咲 呋〈已上ワラフ〉

〔運歩色葉集〕

〈和〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0726 咲(ワラウ)

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0727 囅(ワラフ)〈韻瑞、火笑貎、〉 哂(同)〈微笑也〉 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00628.gif (同)韻會、笑也、咲(同) 咥(同) 笑(同) 听然(同)〈文選〉

〔名物六帖〕

〈人事四/性行笑啼〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0727 掩口(ワラフ)〈老學庵筆記、同坐者無口、〉 盧胡(ワラフ)〈字典、盧胡笑也、一作胡盧、後漢應劭傳、掩口盧胡而笑、孔叢子抗志篇、衞君胡盧大笑、〉 胡盧(ワラフ)〈見上〉

〔干祿字書〕

〈去聲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0727 咲笑〈上通下正〉

〔釋名〕

〈三/釋姿容〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0727 笑鈔也、頰皮上鈔者也、

〔倭訓栞〕

〈前編四十二/和〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0727 わらふ 笑をよみ、又哂をよむ、新撰字鏡に、嗤も嘕もよめり、眞名伊勢物語に、笑ひ耻かしむる意を得て、慙字をわらひけるとよめり、笑のくせある事を、説苑に夙笑といへり、嬉笑は魏書崔光傳に見え、竊笑は戰國策に見え、匿笑は程史に見え、傍(ソヒ/モチヒ)笑は龍城錄に見え、訕笑は唐書に見え、巧(ヨク)笑は張旭が詩に見え、强(シヒ)笑は遼史に見え、帰笑は李賀が詩に見え、忍笑韓偓詩に見え、醉笑は白居易が詩に見え、冷(ニカ)笑北史に見え、乾(ソラ)笑は能改齋漫錄に見えたり、智度論にも笑有種種因緣、有人歡喜而笑、有人瞋恚而笑、有輕之而笑、有異事而笑、有羞耻而笑、有殊方異俗而笑、有希有難事而笑と見え、事文類聚に、合坐皆笑謂之洪堂と見えたり、

〔伊呂波字類抄〕

〈惠/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0727 㗛〈エム(○○)亦エミ亦乍笑〉 咲 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00629.gif 〈巳上同〉

〔倭訓栞〕

〈前編四十四/惠〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0727 ゑまひ(○○○) 万葉集に多く見ゆ、日本紀に笑字をよめり、まひ反み也、萬葉集に、ゑまはしと見えだるも、はし反ひ同語也、

〔倭訓栞〕

〈中編二十九/惠〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0727 ゑまほし 欲笑の義也

〔古事記〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0727 爾其沼河日賣未戸、自内歌曰、〈○中略〉阿遠夜麻邇(アヲヤマニ)、比賀迦久良婆(ヒガカクラバ)、奴婆多麻能(ヌバタマノ)、用波伊傳那牟(ヨハイデナム)、阿佐比能(アサヒノ)、惠美佐迦延岐氐(エミサカエキテ)、〈○下略〉

〔古事記傳〕

〈十/一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0727 惠美佐加延伎氐は、〈○註略〉咲榮來而(エ〻サカエキテ)なり、源氏物語末摘花卷に、老人どもゑみさかえて見奉る、〈○中略〉竹取物語には、わらひさかえてともあり、人の喜び咲(エム)は、顏の榮ゆるなれば云り、さて祝詞どもに、朝日之豐榮登(アサヒノトヨサカノボリ)とも云て、其さま人の咲榮(エミサカエ)たる顏と相似たる故に、朝日之と 置るなり、

〔日本書紀〕

〈十四/雄略〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0728 二年十月丙子、天皇見采女〈○倭采女日媛〉面貌端麗、形容温雅、乃和顏悦色曰、朕豈不汝姸笑(ヨキエマヒ)

〔萬葉集〕

〈四/相聞〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0728 大伴宿禰家持贈娘子歌七首〈○六首略〉
不念爾(オモハズニ)、妹之咲儛乎(イモガマヒヲ)、夢見而(ユメニミテ)、心中二(コヽロノウチニ)、燎管曾呼留(モエツヽゾヲル)、

〔水鏡〕

〈下/淳仁〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0728 天平寶字二年八月廿五日、仲丸大保になりにき、〈○中略〉もとの藤原の姓にゑみといふ二もじを、くはへたまはせき、これらもみな、太上天皇〈○孝謙〉の御おぼえならびなくて、せさせ給ひしなり、ゑみといふ姓も、御らんずるたびに、ゑましくおぼすとて、たまはすとぞ申あひたりし、

〔源氏物語〕

〈二十二/玉蔓〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0728 たゞこれをすぐれたりとはきこゆべきなめりかしと、うちゑみてみ奉れば、おい人もうれしと思ふ、

〔源氏物語〕

〈四十七/角總〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0728 女ばら日比うちつぶやきつる名殘なく、ゑみさかへつゝ、おましひきつくろひなどす、

〔今物語〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0728 或者所の前を春の頃、修行者のふしぎなるがとをりけるが、ひがさに梅のはなを一枝さしたりけるを、兒ども法師など、あまた有けるが、世におかしげにおもひて、ゐるちこの梅の花笠きたる御房よといひて、笑ひたりければ、此修行者立かへりて、袖をかきあはせて、ゑみ〳〵とわ(○○○○○)らひ(○○)て、
身のうさのかくれざりけるものゆへに梅の花がさきたる御房よと仰られ候やらんと、いひたりければ、この者ども、こはいかにと、おもはずに思ひて、いひやりたるかたもなくてぞ有ける、さうなく人を笑ふ事あるべくもなきことにや、

〔新撰字鏡〕

〈口〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0728 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00630.gif 市暑反、喜咲不自勝也、太加惠(○○○)、

〔倭訓栞〕

〈中編十三/多〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0729 たかゑ 新撰字鏡に噱をよめり、高笑の義也、今たかわらひ(○○○○○)といふめり、

〔類聚名義抄〕

〈二/口〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0729 唹〈音於大笑(○○)〉 唹〈正〉

〔名物六帖〕

〈人事四/性行笑啼〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0729 哄堂(ワラフ/ドヨメク)〈宋元懷拊掌錄、賓主爲之洪堂、又哄堂大笑、〉 轟笑(トヽロキワラフ)〈幽棲志、宋景濂徜徉梅花間、轟笑竟日、 大囅(ヲホワラヒ)拊掌錄、滿座大輾、〉

〔運歩色葉集〕

〈登〉

噇咲(トヅトハラ/○○)

〔平家物語〕

〈九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0729 宇治川の事
はたけ山いつもわ殿原がやうなるものは、しげ忠にこそ、たすけられんずれといふまゝ、大ぐしをつかんで、きしの上へぞなげ上たる、なげ上られて、たゞなをり、たちをぬひてひたいにあて、大をんじやうをあげて、むさしの國の住人大ぐしの次郎しげちか、うぢ川のかちだちの先陣そやとそ、名のつたる、かたきもみかたも是を聞て、一度にどつとそわらひける、

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0729 囅然(カラ〳〵/○○)〈韵瑞、大笑貌、〉 呵々(同)〈禪錄〉

〔同〕

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0729 咲々(エラ〳〵/グラ〳〵)〈藻鹽〉

〔倭訓栞〕

〈後編五/加〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0729 から〳〵〈○中略〉 から〳〵わらふと云は、呵々大笑の義也、高くさやかに笑ふ也、

〔平家物語〕

〈十一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0729 せんていの御入水の事
女房たち、やゝ中納言殿〈○平知盛〉いくさのやうはいかにやいかにととひ給へば、只今めづらしきあづま男をこそ、御らんせられ候はむずらめとて、から〳〵とわらはれければ、〈○下略〉

〔大鏡〕

〈八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0729 淸範律師、犬のために法事しける人の講師に、しやうせられていくを、淸昭律師同定の説法者なれば、いかゞするときくに、かしらつゝみて、たれともなくて聽聞しければ、たゞ今や過去聖靈は、蓮臺のうへにて、ほとほえ給ふらんとの給ひけるを、さればこそこと人はかく思ひよりなましや、なをかやうのたましゐある事は、すぐれたるみはらぞかしとこそほめ給ひけれ、まことにうけ給はりしに、おかしくこそ侍りしか、さ〈○さ原作し據一本改、〉れば又聽聞衆どもさゝとわらひ(○○○○○○)てまかりかへりにき、いと程々なる往生人なりや、

〔古今著聞集〕

〈十六/興言利口〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0730 北院御室、或かた夕ぐれに、御前に人も候はで、たゞ一所御念誦して、御座有けるに、いづこよりか來りつらん、大床の邊より、世におそろしげなる白髮のうば參りたりけり、またすをやをら引あげて、ゑみ〳〵として、いかにおそろしく思召候らんなど申て、きら〳〵とわらひ(○○○○○○○○)て候けり、御室の御心の内をしはかるべし、され共少もさはがせ給はで、何ものぞととはせ給ければ、御返事をば申さで、たゞきら〳〵とのみ笑けり、〈○下略〉

〔書言宇考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0730頤(トクヲトガイヲ/○○)〈使人笑頤、出漢書、〉

〔新猿樂記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0730 都猿樂之態、鳴 之詞、莫腹解(○○○)一レ頤者也、

〔玉海〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0730 文治五年正月一日壬辰、二位中將還來、〈○中略〉又云、親宗勤御酒勅使之間、進階間東頭、萬人解頤云々、

〔竹取物語〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0730 大納言〈○中略〉家に少殘りたりける物どもは、龍の玉をとらぬものどもにたびつ、是を聞て、はなれ給ひしもとの上は、はらをきらてわらひ(○○○○○○○○○)給ふ、

〔續古事談〕

〈二/臣節〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0730 松殿〈○藤原基房〉御時、内ノ女房宇治ニ參リテアソビケルニ、和歌會アリケレバ、人々アマタ參ケルニ、刑部卿重家朝臣、アニヲトヽ淸輔季經ナド、一車ニテ參ケル、〈○中略〉アニヲトヽ三人、コノ次第ヲカタリタルニゾ、其座ノ人々ハラヲキリテワラヒタリケル、一座ノ比興ナリ、

〔名物六帖〕

〈人事四/性行笑啼〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0730 捧腹(ハラヲカヽヘル/○○)〈史日者傳、司馬季主捧腹大笑、觚不觚錄、可進階者捧腹、〉

〔倭訓栞〕

〈中編二十/波〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0730 はらをかゝゆ 捧腹の義也、笑に堪ざる意也、

〔俚言集覽〕

〈波〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0730 腹筋をよる(○○○○○) おかしき事、鷹筑波、暑き時分の能のおかしゝ〈といふ句に〉早苗とる小田の腹筋切もぐさ
腹の皮をよる(○○○○○○) 腹筋をヨルとも云、籾井家日記、腹がよれる、

〔俚言集覽〕

〈閉〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0730 臍が西國する(○○○○○○) 甚しく嘲り笑ふを云 臍が茶をわかす(○○○○○○○)
臍が笑(○○○) オヘソが笑(○○○○○)とも云、又へソが四竹を打(○○○○○○○)とも云、鶉衣後編臍頌、我朝に人を嘲りては、臍が笑ふともいへりけり、

〔和合人〕

〈初編上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0731 延壽丹の主人、世界の人情を悟、癖を集、口取となし、拔俗(ひとにすぐれ)て浮世のあなを臍の下にほり、お茶をわかして世の中に腹を抱させ、絶倒を止て筆をとらず、しばらく病の愈を待巳、〈○下略〉

〔名物六帖〕

〈人事四/性行笑啼〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0731 噴飯(フキダス○○)〈山家淸供、丈與可守臨川、忽得東坡詩云、想像淸賚饞太守、渭川、千畝在胸中、不覺噴、飯滿案、想作此供也、○下略〉

〔類聚名義抄〕

〈二/口〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0731 微唹〈ホヽエム(○○○○)〉 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00632.gif 笈〈同〉

〔遊仙窟〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0731 余卽詠曰、斂咲偷(トホヽエメル)殘靨、〈斂咲者、斂精神而咲也、○中略〉十娘〈○中略〉含矯窈窕迎前出、忍笑(ホヽエミテ)嫈嫇返却迴、

〔和字正濫抄〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0731 斂咲 ほゝゑむ 又忍咲共、遊仙窟これもゑまゝほしきをしのびて、わづかにゑめば、含咲といふなり、又頰のみすこし咲をゐらはす故にも有べし、

〔枕草子〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0731 うへ〈○一條〉此わたりに見えしにこそは、いとよくにためれと、うちほゝえませ給ひて、

〔源氏物語〕

〈三十三/藤裏葉〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0731 この花の〈○中略〉いうもはたなつかしきゆかりにもしつべしとて、うちほゝゑみたまへる、けしき有て、匂ひきよげなり、

〔源氏物語〕

〈二/帚木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0731 きみすこしかたゑみ(○○○○)で、さることとはおぼすべかめり、いづかたにつけても、人わろくはしたなかりける御ものがたりかなとて、うちわらひおはさうず、

〔壒囊抄〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0731 少シエムヲ、ホクソワライト云ハ何事ゾ、
北叟ガ笑ヲホクソ咲ト云成セル也、喩ヘバ昔唐世ニ一ノ老翁アリ、王城ノ北ニ居スル故ニ是ヲ北叟ト云、塞翁ガ事ナルべシ、此翁ハ世間無常ヲ觀ジテ、君ニ仕テ名利ヲ貪ル心モナク、私ヲ顧テ財寶ヲ貯ル思モナシ、可歎事ニモ少シ笑ヒ、可喜事ニモ少シ咲フ、是悦モ憂へモ皆不久、萬事皆夢ナル理リヲ能知テ、一切ノ事昌少シワラフ也、是ヲ俗語ニホクソワライト云ナルべシ、

〔空穗物語〕

〈藏開上一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0732 左大將たゞいまは、あぢきなくぞ侍、あるじのおとゞ御ときよきうちわらひ給へば、ひとたびに、ほゝとわらふ(○○○○○○)、いとこゝちよげなり、

〔枕草子〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0732 三位中將いとなをき木をなんをしおりためるときこえ給ふに、うちわらひ給へば、みな何となくさとわらふ(○○○○○)こゑきこえやすらん、

〔源氏物語〕

〈六/末摘花〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0732 たゞむゝとうちわらひ(○○○○○○○○)て、いとくちをもげなるも、いとおしければ、出給ひぬ、

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0732 莞爾(エコ〳〵/ニツコ)〈文選註、小笑貌、〉 微笑(同)

〔名物六帖〕

〈人事四/性行笑啼〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0732 解顏(ニツコリ)〈歸正集、盧胡小笑也、解顏微笑也、解頤笑不笑也、捧腹大笑也、哄堂衆皆笑也、絶倒嘆羨之甚也、韻府以爲極笑非也、〉

〔壒囊抄〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0732 ニツコトフライト云何字ゾ
莞爾ト書テニコヤカ也トヨム、仍テ莞爾ノ二字ヲ、太平記ナドニモ、ニコトワラフトヨマセタリ、論語ニハ、夫子莞爾而笑曰クト云リ、少シ笑貌ト註ス、其心叶ヘリ、委クハニコヤカニワラフト云心歟、但遊仙窟ニハ、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00633.gif 瞃トニコヤカナリトヨメリ、是モ目篇ノ字ナレバ同心歟、

〔名物六帖〕

〈人事四/性行笑啼〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0732 匿笑(ワラヒヲカクス)〈冷齋夜話、聞之匿笑而去、〉 忍笑(ワラヒヲカンニンス)〈東軒筆錄、坐客皆忍笑不禁、〉

〔燕居雜話〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0732 くつ〳〵笑(○○○○○)
方言に、くつ〳〵わらふと云は、ひそ〳〵笑ふ(○○○○○○)となり、宋洪遂が侍兒小名錄云、隋煬帝幸月觀、中夜凭蕭妃肩、説東宮時事、適有小黃門薔薇叢、調宮婢衣帶、爲微刺骨結、笑聲吃々不止云云、〈○中略〉くつくつは吃々の字なり、

〔日本書紀〕

〈二/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0732 一書曰、〈○中略〉天鈿女乃露其胸乳、抑裳帶於臍下、而笑噱(アサワライテ/○○)向立、

〔更科日記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0732 そのかへる年の十月廿五日、大嘗會御禊とのゝしるに、はつせの精進はじめて、その日京を出るに、〈○中略〉二條のおほぢををしわたりていくに、さよにみあかしもたせ、ともの人々上ゑすがたなるを、そこらさじきどもにうつるとて、いきちがふ馬も車もかち人も、あれはなぞこと やすからずいひおどろき、あざみわらひ(○○○○○○)あざけるものどももあり、

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0733 冷笑(ニガワラヒ/○○)

〔源平盛衰記〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0733 殿下事會
攝政殿〈○藤原基房、中略、〉十四日〈○嘉應二年十二月〉ニ太政大臣ニナラセ給フ、十七日ニハ御悦申アリ、此ハ明年御元服ノ加冠ノ料也、平家ノ一類、以外ニ苦咲テゾ見エケル、

〔書言字考篩用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0733 唲(ソラワラヒ)〈廣韻、曲從也、韵瑞、强笑也、〉 喔咿(同)〈韵會〉 嚅唲(同)

〔名物六帖〕

〈人事四/性行笑啼〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0733 乾笑(ソラワラヒ)〈能改齋漫錄、世言笑之不情者乾笑、按宋范瞱謀逆、就刑於市、妻來別罵曰、身固不罪、奈何抂殺子孫、瞱乾笑而已按乾笑始于此、〉 冷笑(ソラワラヒ)〈原病式註、或心本不喜、因侮戲而笑者、俗謂之冷笑、〉

〔伊呂波字類抄〕

〈安/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0733 咳〈アキトフ(○○○○)小兒咲〉 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00634.gif https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00635.gif 煦〈巳上同〉

〔和字正濫抄〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0733 咲顏 ゑがほ(○○○) 俗、ゑみがほなり、

〔枕草子〕

〈八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0733 あやしくてこはたそととへば、えみごゑ(○○○○)になりて、いみじき事きこえん、〈○下略〉

〔古事記〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0733 天宇受賣命、〈○中略〉於天之石屋戸、伏汙氣〈此二字以音〉而、蹈登杼呂許志、〈此五字以音〉爲神懸而掛出胸乳、裳緖忍垂於番登也、爾高天原動而、八百萬神共咲、於是天照大御神以爲怪、細開天石屋戸而、内吿者、因吾隱坐而以爲天原自闇、亦葦原中國皆闇矣、何由以天宇受賣者爲樂、亦八百萬神諸咲、爾天宇受賣白言、益汝命而貴神坐故歡喜咲樂、

〔古事記傳〕

〈八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0733 歡喜咲の三字を惠良岐(エラギ)とよみ、樂字を阿蘇夫(アソブ)と訓べし、〈○註略〉惠良具(エラグ)とは咲榮樂(エミサカエタヌシ)むを云、續紀廿六、大嘗祭豐明の詔に、黑紀白紀能御酒乎(クロキシロキノオホミキテ)、赤丹乃保仁多末倍惠良伎(アカニノホニタマヘエラギ)云々、又卅の詔にも、黑紀白紀乃御酒食倍惠良伎(オホミキタマヘエラギ)云々と見え、萬葉十九〈四十三丁〉に、豐宴見爲今日者(トヨノアカリミシセスケフハ)云々、千年保伎保伎吉等餘毛之惠良々々爾仕奉乎見之貴佐(チトセホギホギヽトヨモシエラエラニツカヘマツルヲミルガタフトサ)などあり、書紀に、㖸樂とめるをも訓、又雄略卷に、歡喜盈懷(エラギマス)ともあり、〈今此記に、上なる二はたゞ咲字のみを書るは、和良布と訓つ、さて此には歡喜字を加へたるは、惠良具と訓べきた、り、上なるは俳優のをかしきを笑ふ なり、ゑらぐに非ず、次なるはゑらぐとてもありぬべけれど、なほ咲一字なればわらふなり、さてこゝは宇受賣命の謀て申す詞にて、己が俳優と、諸神の咲とを合せて、眞實におもしろく、樂みあそぶさまにいひなせるなり、故歡喜二字を加へたり、心をつくべし、〉

〔江談抄〕

〈二/雜事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0734 範國恐懼事
又範國爲五位藏人、有奉行事、小野宮右府○藤原實資爲上卿、被陣下申文之時、弼君顯定於南殿東妻被于陰根、範國不堪遽以笑、右府不案内、以咎及奏達、範國依此事恐懼、

〔枕草子〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0734 まさひろはいみじく人にわらはるゝ物哉、おやなどいかにきくらん、〈○中略〉ぢもくの中の夜さしあぶらするに、とうだいのうちしきをふみてたてるに、あたらしきゆたんなれば、つようとらへられにけり、さしあゆみてかへれば、やがてとうだいはたふれぬ、したふづはうちしきにつきてゆくに、まことに道こそしんどうしたりしか、頭つき給はぬほどは、殿上の大ばんに人もつかず、それにまさひろは、まめひともりをとりて、こさうじのうしろにて、やをらくひければ、ひきあらはして、わらはるゝ事ぞかぎりなきや、

〔宇治拾遺物語〕

〈十四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0734 これもいまはむかし、〈○中略〉あるときわかき女房どものあつまりて、庚申しける夜、この入、道の君、かたすみにほうけたるていにてゐたりけるを、夜ふけけるまゝに、ねぶたがりて、中にわかくほこりたる女ばうのいひけるやう、入道の君こそかゝる人はおかしきものがたりなどするぞかし、人々わらひぬべからんものがたりし給へ、わらひてめをさまさんといひければ、入道をのれは口てづゝにて、人のわらひ給中のものがたりは、えし侍らじ、さはありと、もわらはんとだにあらば、わらはかしたてまつりてんといひければ、物がたりはせじ、たゞわらはかさんとあるは、さるがくをし給ふか、それは物がたりよりはまさることにてこそあらめとまだしきにわらひければ、さも侍らずたゞわらはかしたてまつらんとおもふなりといひければこはなに事ぞ、とくわらはかし給へ、いづら〳〵とせめられて、なににかあらん物もちて、火のあ かきところへいできたりて、なにごとせんずるぞとみれば、算のふくろをひきときて、さんをさらさらといだしければ、これをみて女房ども、これおかしき事にてあるか〳〵と、いざ〳〵わらはんなどあざけるを、いらへもせで、算をさら〳〵とをきゐたりけり、をきはてゝひろさ七八分ばかりの算のありけるを、一とりいでゝ手にさゝげて、御ぜんたちさはいたくわらひ給てわび給なよ、いざわらはかしたてまつらんといひければ、その算さゝげ給へるこそおこがましくておかしけれ、なにごとにてわぶばかりはわらはんぞなど、いひあひたりけるに、その八ふんばかりの算ををきくはふるとみれば、ある人みなながら、すゞろにゑつぼに入にけり、いたくわらひて、とゞまらんとすれどもかなはず、はらのわたきるゝ心ちしてしぬべくおぼえければ、なみだをこぼし、すべきかたなくて、ゑつぼに入たるものども、物をだにえいはで、入道にむかひて手をすりければ、さればこそ申つれ、わらひあき給ぬやといひければ、うなづきさはぎて、ふしかへりわらふ〳〵手をすりければ、よくわびしめてのちに、をきたる算をさら〳〵とおしこぼちたりければ、わらひさめにけり、いましばしあらましかば死なまし、またか計たへがたきことこそなかりつれとぞいひあひける、わらひこうじてあつまりふして、やむやうにぞしける、

〔源平盛衰記〕

〈三十三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0735 光隆卿向木曾許、附木曾院參頑事
木曾庭上ヲネリ廻リ、彼方此方ヲ立渡テ、穴面白ノ大戸ヤ、セトヤ、中戸ニモ繪書タリ、下内ニモ唐紙押タリトゾ嘆タリケル、殿上階下男女畏シサニ、エ咲ハデ、忍音ニ咲壼ニ入テゾ咲(○○○○○○○)ケル、

〔源平盛衰記〕

〈三十四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0735 明雲八條宮人々被討附信西相朋雲
刑部卿三位賴輔ハ、〈○中略〉裸ニテ野中ノ卒都婆ノ樣ニテ立給ヘリ、サシモ淺增キ最中ニ、人々皆腸ヲ斷、〈○中略〉此三位ノ兄公越前法橋章救ト云人アリ、彼法橋ノ中間法師、軍ハ如何成ヌラントテ、立出テ見廻リケル程ニ、河原中ニ裸ニ立タル者アリ、何者ゾト思、立寄テ見タレバ、三位ニテゾ御座 テケル、穴淺增トハ思ヒナガラモ、スベキ樣ナケレバ、我著タハケル薄黑染ノ衣ノ、脛高ナルヲ脱テ打懸タハ、三位是ヲ空ニ薯テ、頰冠シ給タリケレバ、衣短フシテ腰マハリヲ過ズ、墨ノ衣ノ中ヨリ、顏バカリ指出シテ、脛アラハ也、中々直裸ナリツルヨリヲカシカリケレバ、上下萬人ドヨム(○○○)也、中間法師ニ相具セラレテ、兄公ノ法橋ノ宿所、六條油小路へ御座シケリ、從者ノ法師モ、小袖一ニ白衣ナリ、主ノ三位モ衣計ニ、ホウカブリシテ空也、人目ヲ立テ指ヲサシテ笑ケレバ、〈○下略〉

〔新武者物語〕

〈八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0736 富田藏人討死の事
富田藏人は、比類なき武勇の者なり、新關白秀次の寵臣也、しかるに秀次生害有しかば、藏人も謝恩の爲殉死すべしと、北野經堂の前に出て、すでに切腹せんとする所を、家來ども大勢來りて藏人を駕に推入、いづくともなくつれて退、京中の貴賤見物に聚りたる者ども、みな掌撫て大笑し、日本一の臆病者かなと、珍敷物語とだにいへば、諸人語て笑ひ種とす、

〔枕草子〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0736 たとしへなき物
人の笑ふとはらだつと

〔新撰字鏡〕

〈イ〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0736 佷很〈同、胡墾反、戻也、違也(/○○)、不(/○)測也、顏也、暴也(中略)伊加留、〉

〔類聚名義抄〕

〈二/口〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0736 嚇〈音赫イカリ〉 吒〈正叱也、怒也、イカル〉 喊㖑〈呼檻呼戒反、謂恚怒聲也、音イカル、〉

〔同〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0736 忍〈音毅イカル〉 忿〈孚粉反イカル〉https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00636.gif 慍〈於問又於刎反イカル〉 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00637.gif 恚〈上俗 於瞨反、イカル、〉 怒〈イカル〉 憤〈音忿イカル〉

〔伊呂波字類抄〕

〈伊/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0736 瞋〈イカル〉 嗔 怒 恕 慍 懣 恚 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00638.gif 瞵 忿 忓 挌 蔇 擠 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00639.gifhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00640.gifhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00641.gif 憤 悔 苛 呵 悁 惶 贔 潰 㑦 吒 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00642.gif https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00643.gif 〈巳上イカル〉

〔干祿字書〕

〈平聲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0736 瞋嗔〈上瞋目、下嗔怒、〉

〔運歩色葉集〕

〈伊〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0736 嗔(イカル) 怒(同) 恚(同) 忿(同) https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00644.gif (同)

〔名物六帖〕

〈人事四/性行笑啼〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0736 惡發(イカル)〈老學庵筆記、資政惡發也、惡發執怒也、〉

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0737 素戔鳴尊對曰、吾元無黑心、〈○中略〉不意阿姉、翻起嚴顏(イカリ)

〔日本書紀纂疏〕

〈上四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0737 嚴顏、怒色也、

〔日本書紀〕

〈十四/雄略〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0737 三年〈○安康〉八月、天皇〈○雄略〉忿怒(ミイカリ)彌盛、

〔倭訓栞〕

〈前編三/伊〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0737 いかる 忿怒をいふ、氣上(イキアカ)るの義なり、素問に怒則氣上と見えたり、神代紀に起嚴顏をもよめり、

〔類聚名義抄〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0737 慨〈音鎧イキトホル(○○○○○)〉 憤〈音忿イキトホル〉

〔伊呂波字類抄〕

〈伊/人事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0737 鬱〈イキトヲル〉 憤 懣 悶 怉〈已上同〉 歑〈音呼、溫吹、氣息也、同イキトホル、〉

〔運歩色葉集〕

〈伊〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0737 憤(イキトヲリ) 悶(同)

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0737 憤(イキドホリ) 〈禮記註、怒氣充實也、〉 慍(同) 於邑(同)〈文選註、心不平也、〉 懣(同) 忼慨(同)〈文選〉

〔倭訓栞〕

〈前編三/伊〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0737 いきどほり 憤をいふ、論語に慍をよめり怒廻(イカリモトホ)るの義、かり反き、もを略せしなり、日本紀に懷悒を訓じ、歌にもよむ也、新撰字鏡に、悁をいきとろしとよみ、日本紀の歌にいきどへろしもと見えたり、へろ反ほなり、
○按ズルニ、イキドホルニ憤ト悒トノ二義アリ、宜シク憂條ヲ參照スベシ、

〔類聚名義抄〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0737 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00637.gif 恚〈上俗 於睽反フツクム(○○○○)〉

〔倭訓栞〕

〈中編二十二/不〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0737 ふづくむ 憤をよめり、神代卷に、恚又恚恨をふづくとのみもよめり、

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0737 一書曰、〈○中略〉衣生素戔鳴尊、此神性惡、常好哭恚(ナキフヅク)、國民多死、

〔倭訓栞〕

〈中編二/伊〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0737 いくゞむ(○○○○) 日本紀に憤をよめり、氣含の義成べし、きふ反く也、

〔類聚名義抄〕

〈二/口〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0737 喟然〈オモホテル(○○○○○)〉

〔倭訓栞〕

〈前編四十五/於〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0737 おもほでり 神代紀に作色又慍色をよめり、面火光の義也といへり、新撰字鏡に喟然をもよめり、五車韻瑞注に、頩頰は怒色紅也と見ゆ、

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0738 一書曰、〈○中略〉是時月夜見尊忿然作色(イカリヲモホテリ)曰、穢矣鄙矣、寧可口吐之物敢養上レ我乎、

〔日本書紀〕

〈二/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0738 一書曰、〈○中略〉故兄〈○火酢芹命〉知弟〈○火折尊〉德自伏辜、而弟有慍色(ヲモホテリ)與共言、〈○下略〉

〔類聚名義抄〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0738 憤〈忿音ムツカル(○○○○)〉

〔倭訓栞〕

〈中編二十六/牟〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0738 むつがる 日本紀に憤をよめり、物語に見えたる此意なり、今も小兒に、もはらいふ語なり、

〔空穗物語〕

〈俊䕃二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0738 もとめさはがれけるに、まいりたりしかば、いみじうむつがり給て、〈○下略〉

〔今昔物語〕

〈二十八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0738 忠輔中納言付異名語第廿二
今昔、中納言藤原ノ忠輔ト云フ人有ケリ、此ノ人常ニ仰デ空ヲ見ル樣ニテノミ有ケレバ、世ノ人此レヲ仰ギ中納言トゾ付タリケル、〈○中略〉小一條ノ左大將濟時ト云ケル人、内ニ參リ給ヘリケルニ、此ノ右中辨ニ會ヌ、大將右中辨ノ仰タルヲ見テ、戯レテ只今天ニハ何事カ侍ルト被云ケレバ、右中辨此ク、被云テ、少攀緣(○○)發ケレバ、只今天ニハ大將ヲ犯ス星ナム現ジタルト答ケレバ、〈○下略〉

〔古事談〕

〈一/王道后宮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0738 三條院御時、入道殿〈○藤原道長〉參給、被申請事等不許、攀緣令退出給、以後敦儀親王喚之、親王於小板敷立吿勅喚之由、入道殿歸參云、如此之生宮達、立板敷之上、召執柄人乎云々、經任卿説云、不歸參給、罵宮達直出給云々、

〔玉海〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0738 治承三年十一月十五日己巳、三位中將師家超二位中將基通中納言、師家年僅八歲、古今無例是博陸〈○藤原基房〉之罪科也、凡此外法皇〈○後白河〉與博陸同意、被國政之由、入道相國〈○平淸盛〉攀緣云々、

〔類聚名義抄〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0738 怨〈於願反ハラタツ(○○○○)〉

〔運歩色葉集〕

〈波〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0738 腹立(ハラタツ)

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0738 敦圉(ハラタツ) 發憤(同) 腹立(同)〈和俗所用〉

〔倭訓栞〕

〈中編二十/波〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0738 はらだつ 遊仙窟に嗔字をよめり、腹の起脹する義なり、よて俗に立腹(○○)といへ り、又はらをすゑかぬる(○○○○○○○○)ともいへり、後拾遺集に、
風はたゞ思はぬ方に吹しかどわたのはらたつ波はなかりき、はらのゐるといふ詞も、立といふより、居と對したるなり、種が島にはらかく(○○○○)といひ、對馬にて藏がたつ(○○○○)といふ、俗に暴怒をむくろばらをたつる(○○○○○○○○○)といへり、むくろごめに腹だつなり、腹立て下唇をくはへ居るを、しらやまむくば(○○○○○○○)といふ、

〔江談抄〕

〈三/雜事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0739 源道濟號船路君
源道濟爲藏人之時、號藤原賴貞荒武藏、是也稱船路君云々、此人不腹立之時、甚以優也、而性甚惡人也、仍不之、船路者、天氣和順之日、甚以優也、風波惡之時、人不之、故稱船路君

〔倭訓栞〕

〈前編四十五/於〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0739 おこる(○○○)〈○中略〉 口語に人の腹だつをおこるといふ、發起の意也、

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0739 敦圉(イキマキ/○○)〈俗云立腹、師古云盛怒兒、〉 發憤(同) 怒(同) 贔(同)〈文選〉 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00645.gif (同)音備 恚(同) 嗔(同) 慍

〔倭訓栞〕

〈中編二/伊〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0739 いきまき 徒然草に見ゆ、腹立怒る意にいへり、息を卷也、くり反き也、源氏に見ゆ、或は慍をよめり、十訓抄にいきまへといふも、同じきにや、

〔十訓抄〕

〈九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0739 輔親も居集れる人々も、あさましと思て、此男の貌をみれば、脇かひとりて、いきまへ(○○○○)ひざまづきたり、

〔類聚名義抄〕

〈六/心〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0739 淹恚(○○)〈ヒサシキイカリ〉 滯怒(○○)〈ヒサシキイカリ〉

〔伊呂波字類抄〕

〈不/疊字〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0739 忿怨(フンエン/○○) 忿怒(○○)

〔同〕

〈志/疊字〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0739 嗔恚(○○)

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0739 滯怒(タイド)〈指南、久怒不解曰滯怒、又曰淹恚、〉

〔同〕

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0739 忿怒(フンヌ) 嗔恚(シンイ)〈要覽、謂面色變異令人可一レ怖、〉 嗔忿(シンフン) 嗔怒(シンヌ)

〔倭訓栞〕

〈後編八/志〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0739 しんゐ 嗔恚の音也、俗にしんゐをもやすなどいへり、大莊嚴論に、身如乾薪、嗔恚如火未燒、他光自焦身と見えたり、

〔謠曲〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0739 葵上 〈ミコ〉瞋恚のほむらは、〈シテ〉身をこがす、

〔運歩色葉集〕

〈景〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0740 逆鱗(○○)〈貞觀政要云、龍可撮而馴、然喉下有逆鱗、觸之則殺人、又、人主亦有逆鱗、〉

〔書言字考節用集〕

〈九/言辭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0740 逆鱗(ゲキリン)〈王者忿怒之義、事見韓非子説難、〉

〔類聚名物考〕

〈言語七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0740 逆鱗 げきりん
天子を龍にたとへ奉れば、なに事にも、龍をもてたとへ奉る事有り、よて逆鱗も龍の事によせて、怒ませしことを申なり、

〔海人藻芥〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0740 逆鱗者帝王ニ限テ云事ナリ、腹立ハ尋常人ノ事也、

〔倭訓栞〕

〈後編十二/都〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0740 つこと(○○○) 俗語也、突言なるべし、怒氣相含ていふをつこふと聲などいへり、

〔愼思錄〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0740 怒者先自傷而後傷人、故傷人者、自傷之餘也、然比人、則自傷增甚、

〔愼思錄〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0740 忿怒之發也、往々於妻孥奴僕、是因驕恣也、須此忍容、雖卑賤侮辱

〔秦山集〕

〈四十五/箴〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0740 五箴〈幷序○中略〉
怒箴
怒之在人、當然自天、苟或不察、忘身及親、暛予小子、急性多欲、一事乖意、忿怒決裂、火炎崑岡、豈問市室、氣暴情勝、羝羊觸藩、喪身僨事、噬臍何言、先覺有、敎、惟懲惟戒、劈山摧暴、履霜思害、制怒之方、要在乎此、顏之好學、不怒矣、程之定性、忘理、想厥氣象、明鏡止水豈敢云睎、高山仰止、

〔拾芥抄〕

〈下末/諸敎誡〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0740 源信僧都四十一箇條起請
重禁制條々
一設雖心事、思忍不嗔恚、〈○中略〉
已上四十一箇條、可眼精矣、

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0740 是時天照大神驚動以梭傷身、由此發慍(イカリマシテ)、乃入于天石窟、閉磐戸而幽居焉、

〔日本書紀〕

〈三/神武〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0741 戊午年十二月丙申、昔孔舍衞之戰、五瀨命中矢而薨、天皇衘之、常懷憤懟(イタヽミウラムル/イクヽミ)、至此役也、意欲窮誅

〔日本書紀〕

〈十六/武烈〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0741 十一年〈○仁賢〉八月、億計天皇〈○仁賢〉崩、大臣平群眞鳥臣專檀國政、〈○中略〉太子〈○武烈〉甫知鮪〈○眞鳥臣子〉曾得影媛、悉覺父子無敬之狀、赫然(オモニテリテ/ヒカリテ)大怒、

〔日本書紀〕

〈十九/欽明〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0741 二十三年十一月、新羅遣使獻幷貢調賦、使人悉知國家憤(ムツカリ)新羅滅任那、不敢請一レ罷、

〔日本書紀〕

〈二十/敏達〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0741 十四年八月己亥、天皇病彌留崩于大殿、〈○中略〉穴穗部皇子欲天下、發憤(ムツカリテ)稱曰、何故事死王之庭、弗生王之所也、

〔日本書紀〕

〈二十二/推古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0741 十二年四月戊辰皇太子○厩戸親肇作憲法十七條、〈○中略〉十日、絶忿棄瞋、不人違、人皆有心、心各有執、彼是則我非、我是則彼非、我必非聖、彼必非愚、共是凡夫耳、是非之理、誰能可定、相共賢愚、如鐶无一レ端、是以彼人雖瞋、還恐我失、我獨雖得、從衆同學、

〔日本書紀〕

〈二十四/皇極〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0741 元年、是歲、蘇我大臣蝦姨立己祖廟於葛城高宮、〈○中略〉悉聚上宮乳部之民、〈乳部此云美文〉役使營兆所、於是上宮大娘姫王發(ムツカ)憤而歎曰、蘇我臣專擅國政、多行無禮、天無二日、國無二王、何由任意悉役封民、三年、中臣鎌子連爲人惠正有匡濟心、乃憤(イクヒテ)蘇我臣入鹿失君臣長幼之序、挾https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00646.gif 社稷之權、歷試接主宗之中而求功名哲主

〔枕草子〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0741 それがにくからずばこそあらめ、男も女も、けぢかき人をかたひき思ふ人の、いさゝかあしき事をいへば、はらだちなどするが、わびしうおぼゆるなりといへば、〈○下略〉

〔續古事談〕

〈一/王道后宮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0741 後三條院〈○中略〉諸國ノ重任ノ功ト云事、長ク停止セラレケル時、興福寺ノ南圓堂ヲツクレリケルニ、國ノ重任ヲ關白大二條殿〈○藤原敎通〉マゲテ申サセ給ケルニ、事カタクシテ、タビタビニナリケレバ、主上逆鱗ニヲヨビテ、仰ラレテ云ク、關白攝政ノオモクオソロシキ事ハ、帝ノ外祖ナドナルコソアレ、我ハナニトオモハムゾトテ、御ヒゲヲイカラカシテ、事ノ外ニ御ムツ カリアリケレバ、殿座ヲタチテイデサセ給トテ、大聲ヲハナチテノ給ハク、藤氏ノ上達部、ミナマカリタテ、春日大明神ノ御威ハ、ケフウセハテタルゾト、イヒカケテ出給ケレバ、〈○下略〉

〔本朝法華驗記〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0742 第十九法性寺尊勝院供僧道乘法師
沙門道乘叡山寶幢院西明房正算僧都弟子也、〈○中略〉天性急惡不過咎、麁言罵。言弟子童子、息恚心後叩頭悔歎、流涙發露、或對佛像實心改悔、或對大衆誠心陳懺、〈○下略〉

〔今昔物語〕

〈十九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0742 藥師寺舞人玉手公近値盜人存命語第卅六
今昔、藥師寺ニ有シ舞人右兵衞尉玉手公近ハ、舞人トシテ、年來公ケニ仕テ、〈○中略〉年九十ニ成マデ、念佛ヲ申シテ死ニケル時ノ作法、現ニ極樂ニ參ヌト見ヘケリ、一生ノ間腹立ツト云事无シ、極テ貴カリシ者也、

〔十訓抄〕

〈十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0742 一條攝政〈○藤原伊尹〉納言に任給時、朝成同く望申けり、其間頗放言申けり、攝政の後朝成大納言を望申て、彼殿へまいてけり、良久しくありて面謁し給とき、朝成大納言になるべき理運を申されけるに、攝政の給はく世間計がたし、往事のころほい納言望申時、放言有といへども、貴閣昇進我心に任たりとばかりの給て入給にけり、朝成大にいかりて門を出て車に乘とて、先笏を車になげ入ければ、破て二つに成にけり、

〔玉海〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0742 元曆二年〈○文治元年〉十二月卅日己卯、招定能卿、示合法皇逆鱗之間事、卽以其息親能卿、可申入之由示付了、

〔吾妻鏡〕

〈十二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0742 建久三年十一月廿五日甲午、早旦熊谷次郎直實與久下權守直光、於御前一決、是武藏國熊谷久下境相論事也、直實於武勇者雖一人當千之名、至對決者不再往知十之才、頗依貽御不審、將軍家〈○源賴朝〉度々有尋問給事、于時直實申云、此事梶原平三景時引級直光之間、兼日申入道理之由歟、仍今直實頻預下問者也、御成敗之處、直光定可眉、其上者理運文書無要、稱左右、 縡未終卷調度文書等、投入御壼中起レ座、猶不忿怒、於西侍自取刀除髮、吐詞云、殿〈乃〉御侍〈倍〉、登〈利波天云云、〉則走出南門、不歸宅逐電、將軍家殊令驚給、

〔沙石集〕

〈三下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0743 嚴融房與妹女房問答事
中比甲斐國ニ、嚴融房トイフ學匠有ケリ、修行者オホク給仕奉事シテ學問シケリ、アマリニ腹アシキ上人ニテ、修行者共、時非時サバクリカヨウスルニ、湯ノアツキモヌルキモシカリ、ヲソキヲモ腹立、疾モテキタレバ法師ニ物クハセジトスルカトテ、クヒサシテ打置テシカリケリ、其アハヒヲ見ントテ、障子ヒマヨリノゾケバ、アレハナニヲ見ルゾトテ、彌ヨ腹立ケレバ、常ニハ心ヨカラズノミ有ケレドモ、ヨキ學匠ナリケレバ、忍テ學問シケリ、妹ノ女房〈○中略〉トバカリ有テ、涙ヲシノゴヒテ、抑人ノ腹立候事ハ、アシキ事力、又クルシカラヌ事カトイヘバ、ソレハ貪瞋癡ノ三毒トテ、宗トノ煩惱ノ一ナリ、疑ニヤヲヨブ、オソロシキ過也トイフ時、ナドサラバソレホドニ御心得アルニ、御ハラハアマリニアシキゾトイフニ、ハタトツマリテ、イヒヤリタル事ハナクシテ、ヨシサラバイカニモ思サマニナゲキ給ヘトテ、シカリテ出ニケリ、誠ニツマリテケリ、V 徒然草

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0743 高野證空上人、京へのぼりけるに、〈○中略〉口ひきける男あしくひきて、聖の馬を堀へおとしてけり、ひじりいと腹あしくとがめて、〈○中略〉比丘を堀にけ入さする、未曾有の惡行なりといはれければ、口ひきの男、いかに仰らるゝやらん、えこそ聞しらねといふに、上人猶いきまきて、何といふぞ、非修非學の男と、あらゝかにいひて、〈○下略〉

〔總見記〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0743 武藏守殿信行生害事
津々木、連日何事ヲカ讒言シタリケン、信行、柴田ニ詞ヲモ掛給ハズ、勝家ハ心中蒸ガ如ク腹立ケレドモ、ワザト顏色ニ不出サ一居ケルガ、心安キ朋友ノ手ヲ取テ、我ガ眼ノ上ヲ探ラセケルニ、眼ノ上サナガラ猛火ノ樣ニ熱シケル、

〔總見記〕

〈十三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0744 淺井方城主等心替信長公又江北御進發事
淺井長政是ヲ聞テ、早々山本山へ押ヨセ踏落サント怒ラレケレドモ、大事ノ前ノ小事ニ目ヲツケ、足長ニ敵ノ地へ出張無益タルベキ由、家老ドモ諫ケレバ、其企サへ叶ガタク、腹ヲスへカネ怒リ居給フ、

〔近世畸人傳〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0744 戸田旭山
旭山戸田氏、自號无悶子、通名齋義、東備の人、浪華にきて醫を業とす、〈○中略〉あるとき攝津國高槻近邑の豪農、物産の門人にてつねに出入する人、其母の病の胗察をこふ、請に應じて至りしが、不起の症なれば辭して歸らんとするとき、近隣又親族の病人、これかれの胗察をこふ、四五人は胗したるが遠く迎えたる人なれば、此折を幸に尚醫治をこふもの多し、こゝにして戸田氏怒を發し、主人に對しのゝしりていふ、子は不孝者也、不起の母を題して、えもしれぬ人々の醫治をせしめんとするかと、元來癇症にて、よく怒る人なれば、大きに顏色を損じたれば、やう〳〵になだめて謝してかへせり、〈○下略〉


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Last-modified: 2022-06-29 (水) 20:06:25