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源氏物語
四十二/匂宮
のりゆみのかへりあるじのまうけ、六条院にていと心ことにし給て、みこおもおはしまさせんのこ、いつかひし給へり、その日、みこたちおとなにおはするは、みなさぶらひ拾きさいばらのは、いつれ蓬もなく、けだかくきよげにおはします、中にもこの兵部卿の宮は、げにいとすぐれてこよなうみえ給ふ、四のみこひたちの宮と聞ゆる更衣ばらのは、思なしにや、けはひこよなうおとり給へり、例の左あながちにかちぬ、例よらはとくことはてゝ、大将まかで給、兵部卿宮、ひたちの宮、后ばらの五のみやと、ひとつくるまにまねきのせ奉参てまかで給、宰相中将は、まけ方にて、おとなくまかで給にけるお、みこたちおはします御おくりに参ゆ給まじやとおしとゞめさせて、御子の衛門督、権中納言、右大弁など、さらぬ上達部、あまた是彼にのりま玄りいざなひたてゝ、六条院へおはす、道のやゝ程ふるに、雪いさゝかちりて、えんなるたそがれ時なり、もの、音おかしき程にふきたてあそびていり給お、げにこ、お置て、いかならん仏の御国にかは、かやうのおりふしの心やり所おもとめんと見えたり、えん殿の南のひさしに、つねのごと南むきに中、少将つきわたり、北むきにむかへて、えがのみこたち、上逵部の御座あり、御かはらけなどはじまりて、もの面白くなり行に、もとめご舞てかよれる袖其のうちかへすは風に、御前ちかき梅の、いこいたくほころびこぼれたる句の、さと打ちりわたれるに、例の中将の御かおりのいとゞしくもてはやされて、いひ芝らずなまめかし、はつかにのぞく女房なども、やみはあやなく心もぜなき程なれざ、かにこそげににたるものなかりけれこめであへり、おとゞもめでたしとみ給がたちよういも、つねよりまさりて、みだれぬさまにおさめたるおみて、右のすけも、声くはへ給へやいたうまらうどだゝしやとの給へば、にくからにほどに、紳のますなど、〈○下略〉