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重修本草綱目啓蒙
二十一五果
桃 もヽ〈和名抄〉 みちよぐさ〈古歌〉 みきふるぐさ〈同上〉 一名仙木〈行厨集〉 仙卿〈尺〓双魚〉 福孫歹〈事物異名、蒙古の名、〉 花一名鎖恨客〈花鳥争奇〉 紅雲〈事物紺珠〉 天采客〈同上〉 天采〈典籍便覧〉 請晨粧〈名物法言〉 鎖恨花〈事物紺珠千葉の名〉 助嬌花〈名花譜同上〉 実一名〓実〈行厨集〉 胆之〈名物法言〉 蟠実〈事物紺珠〉 千年桃〈同上〉 五木精〈同上〉 仁一名脱〓嬰児〈輟耕録〉 脱〓児〈事物異名〉 桃の品類多し、凡そ多は早く実のり早く老す、俗諺に桃栗三年柿八年と雲、女南甫史に、頭白可種桃と雲、又桃三李四梅子十二と雲諺あり、実生より二年お経て花実あり、故に時珍早花早結実と雲、然れども木早く老す、故十年は保ち難し、因て五年に刃お以皮お切り脂お出す時は、数年お延ぶと雲り、子生より三年にして、花実あるは尋常の桃なり、土州紀州には一歳桃(○○○)あり、子生の年花お開き、翌年より実お結ぶ、其枝叢し生て喬木とならず、凡そ桃は春花さき、実秋熟す、桃の色赤くして光り、毛なき者おずわいもヽ(○○○○○)と雲、山茶実(つばきの)の形色に似たる故に名く、宗奭の説の油桃なり、色赤からざるお、あおずわい(○○○○○)〈江州〉と雲、是れ光桃〈女南甫史〉なり、一名李桃〈同上〉又けもヽ(○○○)あり、花大にして色浅し、実も亦大にして杏の如し、外皮に毛茸あり、是毛桃なり、熟すれば〓自ら離る、之お離〓と雲、離れざる者は粘〓と雲、下品なり、時珍の説に、其花有紅、紫白、千葉、二色之殊と、紅は尋常の桃花お雲、紫は和産なし、白はしろもヽ、千葉は重子多きお雲、二色は花色紅白雑るお雲、俗に源平桃(○○○)と呼ぶ、秘伝花鏡には日月桃と雲、洛陽花木記には、二色桃と雲、群芳譜の二色桃は、千葉にして色の浅お雲、別物なり、源平桃は単葉千葉垂枝の品あり、此二色の字、食物本草には単葉に作る、其実有紅桃、緋桃、碧桃、緗桃、白桃、烏桃、金桃、銀桃、咽脂桃と、紅桃緋桃碧桃は、皆花の色にして実の色に非ず、こヽに混入するは非なり、紅桃(○○)は常の桃なり、又桜色なるお秘伝花鏡に美人桃(○○○)と雲、緋桃(○○)は花の色深赤なるお雲、和漢通名なり、単葉千葉の品あり、一名蘇州桃、〈遵生八揃〉蘇桃、〈秘伝花鏡〉又絳桃(○○)あり、緋桃よりは色浅し、碧桃(○○)は白花の者お雲、又実の色白きお碧桃と雲説あれども宜しからず緗桃(○○)は淡黄色なる者お雲、白桃(○○)は重出、烏桃(○○)は実の色黒き者お雲、金桃(○○)は本邦にありと雲へども詳ならず、銀桃(○○)は実初緑色熟して色白し、花大にして白色緑蕚、これおしろももと雲、一名りんごもヽ咽脂桃(○○○)は熟して色赤きお雲、有綿桃、油桃、御桃方桃、扁桃、偏〓桃と綿桃(○○)は詳ならず、油桃(○○)はずわいもヽ、御桃以下和産詳ならず、五月早桃(○○○○)、さもも、一名五月もも、なつもも、実早く熟す、十月冬桃(○○○○)は即崑崙桃なり、十月に熟して肉も色赤きお雲、冬もヽなり、一名かんもも偏〓桃(○○○)は実の形扁なる者お雲、奇品なり、其余皆奇品にして、和産詳ならず、秘伝花鏡花史左編等に桃の品類お載すること多し、しだれもも(○○○○○)あり、単葉千葉紅白数品あり、漢名詳ならず、典籍便覧の垂糸桃に充る説は穏ならず、垂糸桃は花の時糸の出るお雲、枝の下垂するに非ず、からもも(○○○○)あり、一名江戸もヽ、あめんどう、西王母、〈同名あり〉小木にして五寸或は一尺許なるにも花実あり、大なるは三四尺の高さに至る、花多く簇り生じ、千葉単葉紅色白色及び二色あり、葉の形細長くして多く繁る、是寿星桃〈女南甫史〉なり、一名道州桃、〈同上〉矮桃、〈秘伝花鏡〉人面桃、〈八閩通志〉きくもも(○○○○)あり、高さ丈余、花弁狭細にして、十二三並びて単葉菊花の如し、初は浅紅色、後は白色、紅心なり、尋常の桃より後て開く、花戸にて源氏車と呼ぶ、広東新語に菊桃の名あり、一種菊もヽ(○○○)弁闊くして尖り、重葉にして菊花の形の如く、浅紅色なり、ほうきもも(○○○○○)あり、高さ一尺許にして花実あり、花小く千葉にして、紅白雑りて、多葉郁李(にはざくら)の如し、枝多して掃箒の形の如し、甫に栽ゆれば丈余の高さに至る、中山伝信録に箒桃の名あれども註なし、