〔鏡外〕
〈二〉
p.0643 一武田中書入道玄就、若き時分よ蔘犬を被射しが、萬にしと〳〵としゑたる事なきに依て、犬躰引目が大なるもあり、ちひさきもあうと中書入道をそしウて、或人の多豐に語りければ、多豐被申は、是は古實のわざにで候、面白事にて候、我が犬を物出江るとおもふ時には、大なる引目にで、射る也、是は古射手の覺悟也、中書入道の引目の大小も、此心得にて、候はんど褒美せらる、れば、中書をそしりがましく申たりし仁は、欒に相違のかほさが成し、此次に多豐被語けるは、畠山將監殿は、弓の名人にて渡かたるが、犬追物射させ給けるには、犬追物をよく豺させ給ふとおぼゆる時は、馬場中にいつくにも見えさせ給也、犬追物がいできぬと覺て、人の馬かげにはらせ給ふ也、いつれの道も、其時の善惡を我と心に能々覺て、すみゑりぞくべし、此心なき人は、只心におもふのみにて、身をかへりみぬ程に、よからぬ事也、我と難知は人を定て見せて、譬惡を吿させて可覺悟、一を以萬を療すると云事あり、〈○中略〉
一檢見、矢をさたするとて下馬すれども、射手中に下馬す万も有、下馬せぬもあり、文明十一年三月廿八日、於赤松殿馬場、備州政淸、遠近をさ尭の時、赤松兵部少輔殿、同刑冖部大輔殿、同民部少輔殿、赤松家之子刑部少輔殿、同彌三郎、此五騎は馬に乗ながら扣て見られけウ、此赤松一家四人の中にも、公方奉公の人には、日記にも殿の字有て、家の子にて渡る一族は、殿の宇は雖無之、下馬はな
かりけり浦上掃部助、喜多彌三郎、石見孫四郎、安村四郎、小倉小四郎、曾禰山城守、下馬したり、但下馬はしたれども、沓をばぬがずして、はきながらつくばひて居たりとて、近比曲事と申事也、檢見の沓はきながら、矢をさたみりしを見て、同じ樣に心得けるにやと、申たる物険成し也、
〔鏡外〕
〈四〉
p.0644 一射手具足の事は、射鏡に大方ある間不注之、然其少も亦替たる所をば註する也、小袴に、くゝりをゑめ、次に素袍のひぼを前にて一むすびして、はかまの前腰に、ちと右の方へよせておしかふべし、さて素袍の左の袖をぬがせ、むかばきの左皮よりふみこみ、右皮をふ、んごみ、其儘右皮のをゝ、右のちのとをりにてとむべし、さて素袍の左の袖のか亢ぬぎたるを、右皮の緖に上より下へ引とをし、左の方へ引とをしたる袖を卷て、右皮のをに、少おしかいて、さて刀のつ炉を皮にてとめてさ、すべし、さげ緖を刀の下へまはし前へとり、右のちのとをりに、右皮の下へおしかふべし、是左皮はかざる先にさゝせたるが能也、其時ははかまの帶におしかふべし、左皮を刀さしへとをし、おしあてゝ、腰指を三とりて、矢なみにねぢ、右のわきに押あて丶左皮の緖を引目とゞめへとをし、前の引合めのむかひのとをりにて、人のゑりの引合のごとくに、絶のはしを引ちがへべし、いかにも〳〵繩と棧敷の間、繩の方通事、可斟酌也、犬はてゝ、外方士を出れば、總の射手の絶をまはらるゝことくに、矢とりもまはりて可出、かいそひおそくば、矢とり、馬の口をさかてに取ておうし可申也、さかてとは、手の大指の上へ成樣に、小指のほう、身の方に成樣にとる事本なり、總の射手よりおそぐ出る事、びろうの儀也、犬の間は、主人に少しも目をはなたぬなり、能能きをつかひ矢をとるべし、矢のとりやうにより、よき矢のすたる事多し、
〔騎射秘抄〕
p.0644 一犬追物に、射手の品々あるべし、第一には、步射よく、具足大に、射手もかさありて、馬達者ならむ是也、又はおのつから品がゝりよく矢ごたへをし、馬の口を引、或は鞭を打まで、生得に面白き是、也、又は此二はなけれども、さして見にくき所もな輻、する〳〵と射なしたるもあるべ
し、若は此三はなけれ共、矢數あるもあり、是は勝負、又は後臠の日記のためなどは大切也、但よからぬ射手、あまりに矢數あるも、總じて射手のはうたい違亂ともなるべし、いつれをもかねたらんは、誠に上手なり、此内一つもあらば、射手の人數たるべし、彼是更にもれたらんは、批判の限にあらず、〈○中略〉
一射手に昔今とて、あながち定置べき法なしといへども、人の心、時にうつり、代にかはるによりてなち、假命昔射手と云は、いかにも矢數をたしなみ、丙外に我一人と馳廻る也、是かなら事當世に不可然、だとひ矢數はなしといふ鬟も、一疋も矢所霾常にしたゝ、めおほせて、物ふかく射たらんはよかるべし、但是をあしく心得て、矢數をたしなまざる故、十疋二十疋にも矢をはなさず、ただ繩にひかへたるばかりを、當世射手の風情と心得たる人もあるべし、是又大に不可然、射手の裝束して見物する仁おなじ、更其宜なし、矢數なしともさいふ事は駈ながちに是を嫌にはあらす、矢數を第一とする時は、いかに嵩あしき所おほかるべき間、先したゝめてよく射させんが爲也、射樣も能、矢數もあらんは、流の棹のごとし、さればとて初心の程、あまりに矢所を執する事も、却てあしきこともあるべし、善惡矢をはなすにつきて、あしき所もあらはれ、をのつから能所も出來べきを、更に矢をはなさゞる事、僻案の第一也、上手なを毎度我心にまかせず、然をたゞ我思ふ樣なる矢所をこそ射めとためらふ程に、さるべき矢殀もなくて、五十疋百疋などにも無をする事も、有無にはよるべから宇といへども、餘に矢數なきも、射手の物ぐさくなる因緣也、されば若き人などは、いかにも内外にて馬をも乘、きはぐと射なすべし、但それも時の大名、又上手などの中にて、我一人と馳廻る事も目に立て見ゆ、射手の心地よく弓手を射だるに、へたの二騎三騎をへだてたるをしもぢりなどにて、内に射をくは、すべて無念の物なり得たる弓手などに、上手のひかへたるには、左右なく打寄がたし、縱もとよりひかへたう其、打のきて射手にあたへた
き物也、必犬ごとにかゝるべき法にはなけれども、折にゑたがふべき事、心得べきもの也、一初心の人は心得べき事、片入の馬を瘠、事有べからず、馬のこはきにとりあひ、馬に心をかぐる程に、矢所矢數を嵩射うしなひ、臺ず腰高になる事も有、又さのみ古逸物も有がたし、さればいかにも乘心安く、おもがろき馬を乙のむ、べし、最初心の程は、古逸物にて馬に心をかけず、射樣ばかりを花しなむべぎな力、上手な、を晴の犬、又は勝負なざの時は、射付の古逸物大切也、況や初心においてをや、但あまりに古馬ば担鋲は、めづらし輻有興風情もなし夂は其、馬なき時は、骨をラしなひ矢數もな潔もの也、時々は下地の馬を、乘かへノ丶射るも稽古の一つなう、それも叉射手にまるべじ、生得に馬達者なる人は、少々の荒馬をも、をしなをしく射花るも興ありて覺ゆ、馬よはき人、ことに荒馬は斟酌あるべき事也、〈○中略〉
一古は能矢を射ても、猶二ツ目の引目を取ておし加けて、槍見め、かほをみよなどいふ、是も餘におぼゆ、一騎あひの物を、不譬なく心地よく射たる時は、頓て馬の鸞をも引べきに、昔樣にをしかけてあらんも、更に射筝の幽玄みるべからず、さればかやうの時は、いかにも射手も、よし有て、矢答をもし、馬をもひがへべじ、又馬場の末巻有て、犬にも能よりあひ、疏にあひ付て射はつしたるには又も射てよかるべきを、當世やがて馬の瓣を引事も、又愚意において大小無念也不審なき時はひかへ、又も射てよかるべき所にて幟、をじがけても射べき也、折によ参所によるべきもの也、但大名、又いたりて無上の射手などは、追べき所をひかへ、射べき所を射ざるも有、是は制の隈にあらず、されば初心の人は、上手をまなぶ大切も有、まなびて無養の所もあるべし、取捨物によるべし、是等必口樽あるべからず、人の心によるべし、能々覺悟すべき也、
〔射鏡〕
〈四〉
p.0646 一犬追物の賺、弓の弦も切、弓もかへる事あるべし、其時は、はりたる弓の樣に可持、かいそひの若黨、はちかへを以て來らば、弓に萼りそへべ、きなり、若黨、は蔘替を出す事は、弓己引自蓬右
の手にとりそべ、馬の右へまはう、弓の本を馬の頭をこして、射手の弓手へ可出也、さて弦の切獲る弓を執て舖う、かけがへ張て輅くべき也、北へ向てはるべからず、引彎をそへずして、弓計は、まいらぬ事なり、〈○中略〉
一檢見、矢を沙汰する時、射手は馬よりおるべからず、若主人、矢をさたせん時はおるべき也、〈○中略〉一品人の御座の方、同繩の中へ向て、射手も檢見も馬を不出、是は若引れて、はせかけじの用心の儀なり、
一公方樣の御あひてに仕る時、御馬のあたりには不仕候、同二騎三騎の間にても斟酌すべし、
一射手のくびは、ろくろのごとしと云は、矢を射置ては、左右を見つくろひ、檢見を見て心をつかひ、矢答をする儀を云也、
一繩ぎはにて矢を執落て、とりよげなるを、其儘さがりて取ても不苦、とれぬを執かねては見られぬ也、
一自然矢を取かゆるに、わが手に持たるを、なぐる事有べからず、
一繩の内にて、出かねて、まはる犬を、かた犬竃云也、不可射、但あら犬にて、引目をもゑらぬを、檢見射たてさせんとて、射よなんど申さば可射、是をせこ犬と云なり、向矢にさそはるゝ犬と云也、一犬の出入に、繩のゆがみたるをば、射手の丙にて功者、是を蘆させべし、
一引目四を一腰鬟言儀は、昔は四さして、繩のきはにてぬき持候、同四に定候事は、四の矢所の故也、同一束と言事は、數一束にゆひ立たるを申也、廿を一束と云事は、廿の負矢を表する也、
〔犬追物馬場打寄事〕
p.0647 一犬追物の時、馬場へ打寄する時は、射手具足しで、馬の際へ步寄て、馬に可乘攝、先弓を右の手へ取なをして弓杖をつき、我目より少高くかいにきりで、弦を馬の頭の方へなして弓を立て、手綱を取て、鞍の前輪に左の方の手綱をつよく引つめて、左の大指にかけて、前輪
を拘へて彎乗、扨鞍の具中に乗居て、彎を取直して、馬の二の耳中、少右の耳の方へ弓の先を寄て可持、下馬の時は、右の手へ弓を取て、本弭を土に付て、左の手にて手綱を鞍の前韓に取添て下馬すべし、
一馬場へ打入、三の見所と羹事有、先我を見かへり、鬣形を見、扨絶を見る也、是を三の見所古云也、絶際へ打寄する時は四の角へば不可打寄琵角へは主人貴人の打寄らるゝ在所成間、幾度も褂酌戸有、其外へは向を見て打寄すべし、繩際へ打寄ては、先馬をかねに立て検見を待べし、未檢見打寄ざるには、絶を隔て、けづうぎはにひかへべし、檢見御犬引込と云時、繩に馬を添て矢をつがふべし、けづりぎ蠹に扣だるも、又打寄かねにも立て、早矢をつがふべし、自然繩の違蠻に扣たるとて、矢をもつがはずして不可有、檢見の催促を受て矢をつがふ事、無念口惜事也、能心得べし、又棧敷と繩との間を、射手も檢見も不可龜、是を物表と云也、大に斟酌すべし、一絶せばきとて、繩の違目へ打寄事不可有、是は檢見の打寄せる在斯たる間、心得肝要也、射手は権見を待て扣ヘベし、檢見打寄られば、打のけて檢見を打寄べし、檢見の打寄らるゝ所とて、早馬を打のけたれば、氣遣とは不見間、檢見の顏をも見て、其霍見ゆる樣に氣遣あらば、尤好所也、
一繩の違目の事、檢見蠅の内へ被打入引込の物ずきは、違目へも打寄べし不苦、扨犬射まじきと思ふ時は、違殘へも打寄、絶にもかねにも立扣へべし、物表三の角なざに馬を立やすむる事は、ゆめゆあ有間敷事也、
一馬場へ打入時おそくて、はや犬放さるゝ時分ならば、必足を出すべし、是は五疋も十疋もすみて、打入時の事也、檢見も打入て待、犬も放すは、たゞ人丶程にいりノ丶竃打入て足を囲す共、つまよりして、弓杖三杖程も打入て足を出ずべし、其時矢取畏て居は、前を可邁、立て穩たらば、後を可逾、加樣の心得、肝要の義也、
一一番に放す犬をば、引込の犬鷺て射ざる事也、射手悉さしはずしをして、二番の犬より射る事雹、矢なき間は、幾度もさしはずしをすべし、百疋の間、指はずしを可心掛也、
〔下學集〕
〈下/態藝〉
p.0649 檢見〈犬追物時在之〉
〔騎射秘抄〕
p.0649 一犬追物には、先可賞檢見、檢見未練之時は、射手の善惡、矢の是非をも辨がたく、更不可覃藁曲者也、
一檢見は、癰身の射手にはよるべからず、非射手若も檢見をする人あるべし、又射手の中に、檢見不叶輩もあり、射手の檢見、稽古の人大切也、但相應の人は常にあ参がたし、さればする物はおほく、得たる人はすくなし、仍檢見は最大事の物也、他人雖賞、いさゝか斟酌あるべきにや、
一檢見善惡の事、大方見あやまりなどは、昔も今も有べき事也、まさしく法をしらざるは、難用檢見者也、次に檢見の違目有と云共、爲射手無左右難及指南異論、力なく當日は是非を檢見に可任也、
〔犬追物檢見條々〕
p.0649 一檢見打寄る時は、膀示より外にて馬に乘りて、射手とつれて可打寄羅射手みな不出其、貴人出られば檢見打出て、繩の違目に扣へ、射手の皆打出るを可待、遲く打出、貴人をまセずる事、びろふの儀也、犬百疋はて、は、鞭を腰にさしで打のけ、ほう尊の内にて、射手と同檬に馬よりおるゝ也、鞭をば行膝と小袴との間へさすなり、
一檢見の中間二人、矢取の左右のうしろに坐して可居也、一射手皆絶ぎはへ打寄ば、檢見、鞭拔出して、貴人又は古射手などに向てはなさせ候はんと云ひて、繩の内へ可打入也、
一鞭をぬくべぎ事、手綱を左にかた手綱に取て、右の手を前へ廻し、四のゆびを身と鞭とのあいへ入て、其まゝ前へ鞭先の成やうにおしまはして、鞭の緖をば、うでへは拔入ずして持也、鞭先の
さがりたるも惡し、又一もんじなるもわうし、少鞭先を上て、髮中にすじかへて可持也、一檢見繩の内へ打入ば射手皆矢はむべし、其時犬放し、御犬にげ候と可険、三學喚参たらば、早はなせと檢見可云、貴人未矢をもはめ給はずば、縱犬はなし、ゑげくよばはる鸞も、貴人矢をはめ給ひたるを見てばなさすべきなり、
一外に吉矢ありと見て、ひかよふと云て後は、矢いくつも落よ、不友是非、吉矢の方へ打寄、其射手に目を見合て、内の矢ならば、内の矢よと可問、外ならば、外よとも、外候よ共可、問、中ならば、中の矢よとも、大引臠、又は中黑己も、たかの羽とも、黑つは鬟も、染羽とも可問也、矢四も五も落ば、みれよとも、是よとも可問也、時宜にようて何共可問也、
一繩の内にて馬をひかゆる事、初繩の外より打入たる時は、繩の違目をうしろになし吟棧敷を前に見てひかゆるなら、後々はいつくにも可扣、棧敷をうしろになして、ひかゆる事あるまじき事也、又貴人をうゑみになしてもひかへず、貴人、檢見のうしろへ打寄る事あらば、扛のけて別の在所買扣也、
一ひかよふと云事は、おそく云也、其謂は犬蓉よくかき、矢もよく落、馬の足も無煩出たるを見て、ひかよふと云間、あながち運く云べきにあらねども、おのれとおそくいはるゝ也、射ておけと云事は、はやく云なり、是は今の矢はあしく候、二ツ目をとれと云心也、
一一番に射たる矢を、檢見、繩より打出して、喚次に向ひて、すこし鞍に立すかして、なにがしと喚て、さて右へ折て繩の内へ打入也、是は一番に射たる時の事也、二疋目よりは、左へも右へも折て繩へ可打入也、
一檢見、繩より馬を打出しては、たがごとに喚次に向て、馬をすへぎりてかゝへて立すかし、名字を可嘆事本也、但たびごとに左樣なるも、檢見品もなくわろし、時々は打通りざまに、馬を横にひ
かへて名字をよぶなり、百疋に二疋三疋は、名字をも忘れたる楳に喚る也、是も檢見のたいはいゼ云也、か樣の事は、初心の檢見、又年齡などゆかぬ人は、意得ても可有斟酌事也、
一檢見は、打よせざるさきに、先日記請て可見事、さだめたる義也、射手の名字官途は、何とも日記のご萼く可喚也、但弟子などは、日記に殿文字ありとも、殿文字をのけて喚る也、又檢見、殿文字嘆とも、嘆次の弟乎ならば、殿文字をのけて、喚家はよぶべき也、
一人の名字をば、三ヅに才びかゆゐ也、一番に名字より官途まで可喚、二番には名字計りよぶべし、三番には官途計を盲喚也、但同名同官有時は、名字計、又官遂計よばゝる事あるまじき也、
一人の官によ鵬て、かうの殿と喚事、ことなる賞翫の義也、〈○中略〉
一犬つかへ入セる犬を、或は投いださせ、又はむかばき鼓を打などして鵝さぬ事也、射手も射まじき事也、縱犬つかへ入とも、蠹に馬場へ出たるをば可射也、總而犬塚にかぎ百ず、械うじ疉はなどにふしたる犬を、河原の者などに投出させて射る事はあるまじき事也、貴人など外へなうたるに犬ついふさば、檢見馳よせて、行縢つゞみをうちて、弓手へも馬手へも、射手の馬のひかへやうを見て、犬の出るやうに、むかばきつゞみを打也、
一行縢鼓の事、繩め内にても外にても、かた犬有時、むちにてむかばきを打也、うちやう、つゞけかけて打はわろし少あい有やうに、二三よき程に、ひやうしきこゆるやうに可打也、
一暮かゝる時は、檢見鞭拔出して、繩の内へ打入て、引こみよら遊ばし候へと云事あり、其時は射ても不苦、但射ずはよかるべき也、
御所樣あそばす時、引こみより被游三候へと檢見串まじき也、
一檢見の心得多しといへども、第一射手、矢もなく犬も不出來して、しづみたる時は、檢見馬をうきうきと乘りはたらかして、射手にこと葉をかけて、射手を引立る樣にして、犬をはなさすべし、
又射手そゞろきて、はせ廻りて射る時は、如何にも心をゑづめ持て犬をはなさすべし、外へ五騎三騎射手あふ時、射手に打村て馬を出す時も、心をゑづめもつて、玄とゾ丶と馬をゐつかふべし、射手と肩樣に馳廻う、心をそゞろきて持時は、かならず矢をも見おとす也、此條々覺悟最上秘説也、
一檢見は、ひかよふと云て、扨御犬引こめと云て、打出して射手の名字を喚る也ひかよふ鸞も云ぬ以前に、御犬引こめと云事、あるまじき事也、又あれよ是よと云事も、御犬引こめといはぬ先に云事也、御犬引こめと云て後、あれよ是よ鬟問事、あるまじき事也、〈○中略〉
一繩にて矢二有時、繩近なる矢さがりてあるらん鬟見え、繩遠なる矢は、まがはすよし、其時は絶遠なる矢を、あれは定の矢と云て、なわ近なる矢の引目尻を見て、落尻よくば、なわ近の矢を繩近よ冢言ひて可賞謡近の矢、落尻わろくば、繩遶なる矢を、あれよととひて可實也、一絶の矢不審の時、射ておけ芝云、射手外へあふ時、出ざまに矢な取りそと云て、射手に打つゞきて行く時、外の矢よければびかよふと云ひて後、外は定の矢よと羹て、靂て繩の矢の落尻をも見、又疏をも見るに、絶の矢よければ、絶近よと云て可入縄の矢わうければ、外の矢を外の矢よと云て、御犬引こめとて可入也、〈○中略〉
一檢見は水鳥のことしといへり、是は名目也、其謂は、水の上に、いかにも靜にうかみて見ゆれども、是にて水をすきもなくかく也、そのごとく、檢見も、うち見は玄とやかに見えず、、心に無油斷一大事に思ひへ氣をつかひ射手をことぐく敵におもひなしてする事也、〈○中略〉
一矢行縢のすそ、又何にてもあた套てびそうて犬によくあたる事あう、可捨也、
一馬の尾をへだて丶尾ともに犬にあたる事あり、わるき矢なら、可捨屯、〈○中略〉
一絶にて吉矢を射て、未馬の足の不出さき、けづうきはよ夢内にて出し合て、ときと射る、ひかよ
ふと云ひて、けづりぎはなる矢を可賞、絶近の射手、我等仕候矢、なわ近にて候荷ゆへに御捨候ぞと問時は、檢見御馬の足花まり候、削りぎはの矢は出し合て、かくあしにて遊ばし候間、入申候と可云、但けづりぎはにて、ときと射ると繩の射手、馬の足おなじ程に出たらば、繩の矢を算實也、
一檢見、落馬の時は、沓をぬぎ、鞭を腰にさし、馬を犬塚のうしろへひかせて可乘也、打よする時は、如初繩の違目へ打よせ、むち拔いだして、繩へ打入るなり、
一檢見、鞭をるゝ事あり、其時は馬よりお参、犬塚のうしろにて沓をぬぎて、かへの鞭を請ひ、腰にさして打よせ、如前鞭を拔子、可打入也、
二騎檢見事
一内外の檢見の事、内の檢見は、例式絶の違目に可扣、さて射手皆そろひて跡に、外の檢見も鞭を拔べき也、外の檢見は、棧敷の齣に日記付をうしろになして、繩とかり屋との間に、十疋よぶまで扣へて、扨十疋喚て、其まゝ何方へも打よせ扣べし、其後は何方へ竜馳廻るべし、削蔘ぎはより外憶、外の檢見射て、おかふびかよふを云也、毎度犬より先へかけ出して、犬を跡に見るやうにひきむかへてみる事本也、又時々は跡に行ても不苦也、
一内の檢見、矢を沙汰せば、外の檢見は、射手とおなじ葺に馬に乘りて可見、内の檢見、矢を談合せば、馬よりおりて異見を云べし、外にて沙汰の矢有共、内の檢見を喚て沙汰せん事本也、但内檢見、外の臉見に與奪して沙汰せよとあらば、外の檢見可沙汰也、
一内の檢見、よき矢ありて、射手の名字をよばゞ、外の檢見、打寄聞て、日記付の前にて、喚次のことく喚る也、
一外の矢吉時は、外の樓見みて入る也、其時は外の檢見、内の檢見に、外の矢よく候と云也、いれ被申候へと内の檢見云を聞て、外の檢見入る也、
射手檢見事
一射手檢見の時、繩贇はにて矢代ふる時は、十二騎射手の引目を取あつめてよくま恷てニツ罵分て、一分慮まづ置て、 分を、くじ弓の矢代ふるごとく、うしろへ廻し一ヅ、をくべし、排置たる引臠を、又とりて一ヅゝ置べし、
一射手檢見する次第蠹、一番矢代の人、一番に檢見をする也、一番の檢見の人、一番にゑたらば、其次の檢見、矢取のうしろへ行て、弓引目をおきて、たる口よびたらぼ打よせてすべし、以前の檢見は、今出る檢見をおそる樣に打のけて、矢取のうしろへ行て射手具足をして可出也、
一射手檢見の時の馬は、以齣犬射たる陦の馬にてすべき也、別の馬にのりかへてする事ゐるべからず、
一射手檢見の時の鞭の事、檢見鞭に取替てする事不可有、以前射手にて持たるむちの指かけを赭にまとひてする也、
一射手檢見の時、紐の事、射手の時、とめたるひもをほどきて、ゑきにむすびてするなり、
一射手檢見の時、矢代ふうて日記に書時は、鬮次第と書也、一番の檢見の人を、檢見の所にかく也、又賞翫の人あらばなんばんめにてもあれ、賞翫の人を檢見の所に可書也、されば射手と檢見と、二所仁ひとりの名字を書也、
一射手檢見をば、一番の矢代より十番めまでする也、十一十二の矢代の人はせぬなり、
一射手檢見の時、本には時と云字までかだに付る也、棧敷の前にて矢代をふる時は、棧數の左の妻よ参置初るなり、引目は繩の方へ成べし、棧敷と矢鷺の問、弓杖二杖計をくべし、
一棧敷の前にては腰ざしをも取て人に持せゆがけをも取るべきなち、〈○中略〉
一檢見繩ぎは沙汰する時、絶にひかへたる時は、絶の内にて馬よりおりて、繩より外へ引靆させ
て沙汰する也、又繩より外へ馬を打出て、おりても沙汰する也、何も不苦繩より外にて馬よりおりて、繩の内へ馬をひかせておく事、有まじき事也、
一檢見も射手も、主其外貴人落馬の時は、馬を打のけ沓をぬぎて、頓て沓をはきて、馬に乘べし、吉矢を射手、馬を出しざまに、射手の落馬する事有、其時射手貴人にて、馬よりおるべきならば、喚次に名乘をよびて後打のけて馬よりおるべし、矢を入るまに落たる射手頓て馬に乘りたり共、檢見は馬より下て、軈てのりて繩の内へ可打入也、
一芝の上にては沙汰あるべからず、つくかと見ば可捨、引かと見ば可拾、是は芝の上にての事也、假令芝の上なりとも、雪のふりたる時は可替也、
一濕れ犬と云は、譬令堀川などへも落入、又は雨にもぬれたる犬の事也、此時は引目尻を取てみるに、三方濕れば可賞、二方ぬればゑせ矢也、但二方なり己も、ぬれたる所、引目のどうへ、はけにて引たるやうにぬれば可賞引目尻皆ぬれば、不及申吉矢也、雨のふる時の事は、射手ぐそく、ことごとくぬる、間、濕れ犬のさた有まじき也、
一檢見捨候と云事有、暮かゝりたる時の犬などを、外にて矢もなき時、膀示のきはへ、ふかく射手のあふて行時の事也、假令暮かゝらずとも、初心の射手など、馬場内を追廻る時、一度二度可云也、捨候と云ひて後は、たとひ吉矢有とも可捨也、
一矢もなき時射ておけと云事あり、貴人或は古射手なざ、暮にか、りたる時、外へかゝりて行時、犬によくあふて射つべく見ゆる時、檢見、矢もなきに射ておけと云也、其謂は丙に矢はなく候、遊ばし候へと、檢見、射手にをしへだる心也、是は當流異なる秘説也、千疋二千疋にも、無左右云まじき事也、
一檢見可意得次第、貴人古射手など、矢さはやかによく射たる時は、よく被遊べく候と檢見思ひ
たるやうに見せて、ひかよふをも、うき〳〵と云ひ、馬をもいそ〳〵と打出して、名字を丐喚、又弟子、さしてもなき射手、射樣もわろく、小引に射たる時は、例式の體にて茸矢を可久、だびごとにが樣にあるべきジはあらず、檢見の心得也、
一たる口の矢をも、打矢あらば可渉汰蓮近十文字にても打て馬に乘、是よとも、あれよ鷲も、問て入る也、其時は御犬引こめ萼いはぬ也、
一越淀るかと見ゆる矢を、引欝尻を取て見る事あう、築地屏など、物そへにて射たる時、今の矢は越たるかと不譬の時、引目尻を取て見る也、引目尻に土少もつかば越たる矢にて有間可捨、少も土つかずは可實さがりたる矢の外に、引目尻とりて見る事、此矢ならでは有間敷也、
一三ツが一ツと云事、外にて檢見、馬を出しおくれて、矢落の善惡をも見分ざる時は、弓をよく引たると見へ、矢音よく聞へ、射手矢答をするを、三ツが一と云也、此内一もあらば御矢はよく候つるかと射手に可問射手よく候ここたへば、さらば御誓文候へと檢見可云、其時射手は、八幡も御覽候へ、よく候と可云、然ば檢見、矢を可入、誓文をば何とたつべきとも射手のまゝたるべし、檢見の誓文せよともいはぬに、射手の方よ蔘たつる事あるまじき也、是又秘説也、ゑらみがきの時ならでは、射手に誓夊さする事、あるまじき也、
一こなりの引目と云は、犬にあたりて、なりて行を、こなりの引目と云也、矢のよきわろきによらぬ事なら、犬にあたりて後、なりて行を云事也、是も祕する事也、
一射はしらかす矢と云は、犬によくあたりて、そふ矢のことくにおちつきて後、犬につれて行を、射はしらかす矢さ云也、假令遶く行とも、矢はよき矢たるべし、此矢を射はしらかす矢と云也、秘説也、
一矢つかに引たるを見る事、秘説也、
一疏をみる事、秘説也、
一風吹の矢の事、別て爲秘説商、別紙に記置也、
一檢見と喚次と、十疋づゝ打かヘ〳〵する事も有、其時は十疋よびて、鞭腰にさして、喚次の所へ行也、其時喚次は、むち腰にさして繩へ打入て、檢見をするなり、其時は喚次のあだりに落たる矢を、よく候歟、あしく候歟など、とふ事あり、常はなき事也、自然喚次のあたりに、か詑犬などある時は、行膝つゞみをうちて、射手に追かくる也、是又例式の喚次にはかはる事也、
〔檢見故實可覺悟條々〕
p.0657 一檢見は、尤大事と古人も申をかれし、されば他人賞すと云ども、たやすく領掌しがたしと、かの日記にも見ヘたり、檢見とうせいこんと云事あり、てんねんの情、大切たるべし、〈○中略〉
一檢見ぞふ矢、のる矢、餘る矢、こゆ矢、たり入矢ありとも、御所槙、又貴人或は射手、骨をおりて射たらんときは、たすけて可入、非制限、
一檢見、音聲を可嗜、射手の事は申に及ばず、檢見も品かゝちよく、かさあらんは可勾肝要、〈○中略〉一檢見、ひきめじりみる事、いれんがためにも、見すてんが爲にも見る也、ぬれ犬の引目じり見る事、隨分の義なり、
一檢見、打矢ありとも、細々不可沙汰ハ射手さゝへてしきりに串事あらば、力なくすべき歟、それ遠近十文字たるべし巽外の矢は、聊爾に不戸有沙汰、〈○中略〉
一外の馬場方士を定る事、乘馬にて可沙汰、方士には、へいをもさし、繩にても置べし、冊の綱をきたる本説あれば外の馬場吻最初浦はた濱するながれの棹のことしされば鹿苑院殿樣、〈○足利義滿〉兵庫の御馬場にて被遊し、口たちにこて行凛に到迄、美麗なりしとかや、越前國けひの馬場にて、宗珍檢見ありし時、引めのかしらなり出し犬の舟みたるを被捨し、かれめいよのずい一也、氏長
〈法名道隱〉亦信濃屬河中島にて檢見ありしに、かゝちかゝらずの矢沙汰せられし、何も海のほとりか、但野徑をきらふにあらず、先代經時、しらみがき射し時、友野出勿守、三ツめ迄捨し、檢見にをきて、希代の高名也、引臠のからなどにつきて物がたりあれずも、射手の輩有存知歟、不及註、只いにしへの枝穗担侍る也、
〔犬追物檢見日記之事〕
p.0658 一御手組勝負のこきは、誓文をして、いつはり申まじき由を申べし、一檢見は矢を外より内へ見て、絶へ打入て、其後とく打出て、よばは蔭次に誰とは云べし、一射ておけ、ひかへよ、矢の落つきを見て、巴く云べし、ひかへといひたらんずる矢を、また内より見べからず、内に能矢なくば、其矢を入るべし、
一蟇目尻を見るやう、めはしらを三ツすり忙らばすつべし、二ツまでは、くるしからず、
一三に一の矢は、はうじ際の矢なち、犬にても、矢にても射手にても、矢の落つかぬさきに、膀示より竃く出たらばすつべし、
一疏にのる矢は、ひき目のと、はずのかへりめどに、かうがひをさして、弓の弦にて打て見るに、さくりにこゑたらば可袷、うちならば能矢、
一あひの矢は、つぎさぐりへ近くば捨べし、よ髫疏へ近くは、よき矢、
一絶にたつ矢は、なわの内へ、かたぶきたらば捨べし、なわの外へ、かたぶき泥らば、よき矢、
一蟇目矢のぐそく、いつれにても疏にこへたりとも不苦、
一ひき目から、射とをされたる矢は、くるしから命、
一おり目の矢は、弓ほこ三のうちよち、かへうばのうちへいりたらば、折罔よりうちの矢はすつべし、おう目矢をいるべし、
一うなひ矢はすつべし
一はずくみ矢は、筈の下になりたるは、よき矢、
一繩にかゝる矢は、ひき目のめにても、はずのかへり目にても、かうがひたて、とをして見るに、繩にはつれだらば、よき矢、
一もろ繩こしのほそ玄りの矢は、矢の落やうによりて、物ひだりとも、物みぎりとも、射手のうへによりてさだむべし、
一ゆほこの矢は、一二の矢のあはひ、ゆほこよりうちならば、一の矢を入べし、ゆほこにあまらば、二の矢を入べし、
一またかゝちの矢は、くるしからず、
一ひきめのぐそく、いつれにても繩に入たらば可捨、
一弓手おしもちり馬手の矢にても、跪にこへかゝりたらば、ひき目のめにても、筈のゑりめにてもかうがひをたてさして見るに、少もさくりにかゝらば、能矢、
一かこ矢は、うつまでもなくすつべし、
一かへり羽びきは、ひき目から、たけに餘らて引たらば可捨、
一わかれ羽引は、四寸より内は、うつまでもなし、よき矢、四寸にあまりたらばびき目からのはずに、かうがひを立て、其矢を疏へうちかけて見るに、疏にかゝらば可捨、疏にはつれば、よき矢、
一とたへ羽引はびきたる分を取あつめて、四寸にあまらば捨べし、
一つれはびきは、四寸にあまりて引たらばすつべし、
一三矢は、一矢を入るべし、
一十文字は、繩よりゆぼこに餘りて、弓手おしもちり、また馬手の矢もあるべし、内疏外疏とに、かうがひをたてゝ、弓の弦をもつてうつ也、うつやうあまた口傳にてあり、
一犬にのる矢纛、のる鬟見てよき、蹠へ落たらばよき矢、のりて引目にても筈にても、土に付たらばすつべし、又まへうしろもおちたらば捨べし、
一賞すべきものゝ事
一絶近 二疏近 三弓手、檢見は射手を扶持したすくべし、
〔鏡外〕
〈二〉
p.0660 一外の檢見、馬の扣所、棧敷の左のつまの邁扣る拳本也、公方慌、御見物の時は、公方債の御方へ馬のうしろをなさぬ也、勢州〈○伊勢氏〉の馬場へ女中樣御成あり、さじきの左のつま御座敷也然ざも此時も馬の後、向べからず、ざつしやう所のきはに檢見被扣候也、今の宗信〈○小笠屋政淸〉喚次也、大中〈○小笠原滿長〉檢見匙〈○中略〉
一檢見の、矢をみがきて入申さんと云は、聊も見ゆるさず點檢するを云也、文明十一年三月十九日、武田殿馬場の犬追物、伊勢七郎殿、〈○貞陸〉矢つかもよくひげて見えければ、矢を入れんと檢見多豐おもはれけるに、馬の足がたまりたるを見て、射てをかうと急度いはれければ、親父伊勢守殿、〈○貞宗〉面白由申さるゝ也、
一矢つかの殘たるをば、勝負の犬追物には矢を入ぬ也、中比勝負の犬のありしに、岩栖院殿、あそばしたる矢をこまで射て、おかう〳〵とて、小笠原興元、檢見にて矢を被袷しが、岩栖院殿、何萼て今の矢共をば御捨候ぞと被仰しを、御矢束が殘り候と被申けるに、いつもの矢束にて候圖、殘るまじき由被緬しを、さりとては殘りたるよし被申ける程に、矢束をいつもの矢にくらべて御覽ありたるに、田含人の無案内成が、矢ゑすげて、一ふせ長くありし也、能も殘ると見られ、よくも殘る間じきと御論ありと、奇特の沙汰に申傳し也、
〔犬追物類鏡〕
〈四〉
p.0660 犬追物古例之事
一檢古〈○檢見放實記〉に云、去元弘建武の頃とかや、擁倉にて犬追物有し時、小笠原宗珪、〈○長高法名〉信州より
二百騎引連て鑼倉〈江〉相越、其時の檢見は友野出羽守、喚家は秋田城之助、小笠原宗五長高同又六氏長、友野出翅守、長井治部少輔、秋田城之助、彼等は四頭を勤め、奧書を取し器量に候、此道深く執しける志、最祠妙至極なち、時に前濱にて犬追物有しに、今日の御犬は、ゑらみがきと御定られし廷や、友野出朋守檢見とし、射手組には誰々と申中に、武藏守殿、弓馬殊に達したる間、先最初に引込の犬を切て放つを、武藏守殿、繩にて矢所相違なく遊されしに、檢見射ておけと申所に、きつと手銅をつかひて馬をなをされて、二つ目を、けづり際の内にて弓手に射給ふを檢見又射ておけ芭申、武藏守殿、やうあると思ひ給ひて、はや馬場長もあり、ゑかも一騎合の物と申、矢つぎ早に三つめを取て、手綱をつかひ鞭をあげて、物の尻を切て廻り、頭になる所にて、今度は馬手にどきと射給ひし所、檢見又射ておけと音聾高に啝所に、武藏守殿、遺恨甚しく見えさせ給ふ、檢見、絶の内へ入て、御犬はなさせいと申さかひに武藏守殿、放つ犬をゑつと留て放さずして、繩の際にぐ、檢見に申は、爰にては相論の事禁制なれども、餘ちに無下に候何とて三つめ迄相蓮なき矢所を拾させ給ふ芒あれば、其時出羽守承り、今日の御犬は、ゑらみがきと被仰出候程に、御矢束二つぶせ殘り候閥、捨申たると申、犬はてゝ後、武藏守、射給ひたる引目を取寄て見給ひたれば、矢つか、げにも二つぶせのびてけり、引目すげたる役者を、せんさくせられたれば、田含侍の常に不用ものすげたるよし、扨又二つぶせ殘されたると也、又檢見の名人と各感じ給ふ鸞也、檢見射手の開山と古射手連の被申し也、
〔射鏡〕
〈四〉
p.0661 一よばゝら爽の事、ゑぼしかけをし、行騰をはき、鞭を腰にさすべし、日記付の左の方に、すちかへてひかへべし、檢見、矢めりて打霽す時、はせよせて名字官途を聞て、日記付の前に馬をすへきつて、鞍に立あがり、たかくよばゝるべし、さて本の跡へはせ歸てひかへべし、其跡いろこがたのことし、馬の折やう、弓手へも馬手へも、繩の方と棧舖の方とかはるべし、
〔鏡外〕
〈一〉
p.0662 一繩に矢ありて、檢見ひかよふ芝云學をきかば、則馬をはせ出して、繩のけづりぎはより四杖をきて、馬をすへて、檢見、なにがしと射手をよぶ時、くらよウすこし立あがりて聞て、馬を右へ打て馳出して、かう屋形の再拜振のとをり、四杖五杖をきて、馬をとめ切て、鞍にちと立あがりて、検見の如く、なにがしと可喚、座席の前にて、馬を左へ打て、繩の方を見るに、繩に矢あらば、そのまゝ馬をはせよすべし、矢なくばかり屋形のつま、始馬立なる所へ、ゑづ〳〵と打よせて、馬を右へ打て、絶に向て可扣、
一繩のうち何十疋と再拜振、喚時は、棧敷の前にで、馬を右へ打て、紬ぎはへはせ寄、繩よう四杖五杖置て、馬をすへ切て、檢見よく聞樣に、縄の内何十疋ご可喚、一何十疋と繩ぎはにてよんで打、歸時は馬を右へ可打、一繩ぎはにて何十疋とよばゝる時、繩に矢ありて檢見、繩を打出さば、檢見、射手をなにがしとよばぬ先に、繩の内何十疋とよばゝりて可待と被申候也、小笠原播州、多賀豐後守は、檢見よち後によばゝりてはあしき也、小笠原備前守殿宗信は、檢見なにがしと喚て後、なん十疋とよばゝりて可然と被申也、
一繩の内何十疋と喚次可喚時、射手外にかゝる間、檢見外へ打出る時は、繩に向て馬を扣て待て、檢見繩へ打蹄時、何十疋とよば、るべし、犬追物に、序破急を檢見覺悟する物なれば何十疋と檢見慥に可聞事、よばゝり次の覺悟なり、然所に今の備前殿宗信檢見絶になく竃も、何十疋と可喚のよし申さる、不可然と播州、豐後守、上原豐州、何も檢見に向て何十疋と可喚と被申、是尤可然也、
〔鏡外〕
〈三〉
p.0662 一他流の喚次は、馬の立所、絶の左の方、矢取のかみげづりぎはの通に、棧敷よりよこ馬に見やる樣に立て、ちと繩すみかけてむかふ也、如此の馬の扣へ所は、絶よりあまりに遠く候子細は、いか榛の事候やと、今の備州〈宗信〉親の大中に尋被申時、大中、當流に喚爽、繩より遠く扣さする
子痂は、射手口にかゝり、馬場中、又淺數の韵などにて矢ある時、檢見、馬をも出しおくれ、又馬はさまりなどにて、矢をも見落す時河原の者などに可問にあらず、喚義に矢の譬惡をも爲餉尋に、繩を遠く外に扣さする也と、大中返事あうたるよし、宗信物語ありし也、
〔鏡外〕
〈四〉
p.0663 一三手の犬追物に、射手の内より、喚訳一騎づゝ出巻事有、上の手の時は、下の手より喚次出る也、中の手の時は、上の手より喚次鴿る也、下の手の時は、中の手よ夢壇次可讖、嘆孜出る在所の事は、式の馬場にては、三所に竹垣の戸ある聞、犬追物始る時、上の手へ、下の手より出る喚次は、下の手よら竹垣の戸よう打入て、矢とリの後を邏て、繩をまはりて、かう屋形の方へ少向ておうて、沓を顱ぐべし、さて打戳る也、最初計、絶をまはちて打寄て後、四拾疋は、毎度馬場中を、ちと繩の方へふか〳〵と打寄て可龜、中の手の時、上の手より出る喚次は、棧敷の左の膀示の戸より打入間如常、下の手の時、中の手より出るよばゝり次は、棧敷の右の方に、竹垣の戸あれども、繩をまはればおそき間、馬場中をすぐに繩の方へよちて、棧敷の前を打て通て、かりやかたの左に可扣、異なる無予細事也、
〔眞鏡犬追物之記〕
p.0663 一采幣振は、日記付の右に可居也、椦喚次、馳寄を見て、采幣を高く差上て見せて待て、何某と嘆を聞てびら〳〵と二三計打ふり、又下に置べし、縄の内を呼ぶ時は、常よりもはやく持上て、先繩之内何十疋と、きの字を長く引て喚べし、
〔犬追物射手具足之記〕
p.0663 采幣振の事〈○中略〉是をふさふり其云慢
〔犬追物之覺書〕
p.0663 用意之次第
一幣ふりの量子、兩親あるを用ゐるべし、小麗のことなれば、黨て鬢すこと第一なり、
〔犬追物之覺書〕
p.0663 用意之次第
一日記役人、書法に達し、弓馬を能知者に可被命、檢見は、其人に陪したることなるべし、
〔犬追物之式〕
p.0664 白琢犬追物張行之次第
一日記付は一人也、手組の日記を書き、矢數を付る役也、右筆の人勤むべし、
〔犬追物之式〕
p.0664 白琢犬追物張行之家第
一鬮振も一人也、射手に鬮をふりて渡す役也、勤むる人體不定、檢見古實記に、鬮をふる役人は、只の人也云々、常の犬追物には、鬮をとる事なき間、騷振の役人無之、
〔犬追物之式〕
p.0664 白琢犬追物張行之次第
一鉦打も一人也、相圖の鉦を打役也、勤る人髓不定、檢見古實記に、鉦を打事みえたり、常の犬追物には、鉦を打事なき間、鉦打役、人も無之、
〔犬追物之式〕
p.0664 白琢犬追物張行之次第
一射手奉行三人あるべし、射手を支配し行儀正し、狙籍を禁ずる役也、威勢ありて重き人體勤之、
〔犬追物之式〕
p.0664 白琢犬追物張行之次第
一馬場奉行三人也、河原の者を支配し、竹垣の戸明たて、犬の出入ち、馬場の内、馬糞など捨させ、十疋濟たる時、繩際を掃かせなどする事を下知する役也、輕き人體勤之べし、〈○中略〉
射手奉行、馬場奉行は、常の略儀の時は、なくても吉と云事也、式正の時は、此兩奉行なくてはなるまじき也、其行儀法式もなき事なる間、古傳の書にも不載之也、
〔鏡外〕
〈一〉
p.0664 一棧敷の左の方賞翫の儀たる間、貴人の外、かいそへも、矢とりも、左のつまの竹垣の戸を出入する事、斟酌すべし、
一犬の時、かいそへ、同矢取可覺悟事、
一射をかれたる引目を、右の手に本はぎの下を取て、よごれたる所をぬぐひて、馬の後より主人の右の脇へより、馬のおどろかぬ樣に芝ゆみのかみの邊より、にじがたに、弓に箆中の邊を、とり
そへもるゝ樣に、まいらすべし、矢の持橿、季をとる如くにも持、又當世は、たゞおつとうたるまゝにても參らする也、何も不苦、〈○中略〉
一矢を出し鬟る時は、いつも竹垣の上より可渡也、
一主人、腰ざし箆もおれ、引目もこぼれたらば、わが腰ざしをさゝせ申、我は矢棗しへ行て、矢をこひさすべし、いつも走羽を上の萼をリへなすべし、主人の腰ざし矢並ちがひ、走羽わきへなり、引目細々鍛け出る物也、矢參か候時寵々なをすべし、弓手よりも矢まいらする樣あり、是には不註、〈○中略〉
一主人弓を取落されば、いそぎ取て參らする也、先左の手に、にぎりより一尺計上、右の手に握の下を持也、うらはずの方あがるべし、
一弓の弦もきれかへちもし、又弓の折事も有べし、其時は、かいそひ、弓をこひ、近からん矢とりのかげにて可參三持てよる時は、にぎちの上一尺計を、右の手にて可持、
〔射鏡〕
〈三〉
p.0665 一小者に矢を取する事、路攝なケ、はれの犬には、中聞ゑぼしかけをさせて、とらすべし、同矢取の立衝、絶のとをり、棧敷の南方のわきに成樣に、けづ夢ぎはより三杖半計のきて、す足にて可立、同公方樣の御矢執は、引のきて各別也、
〔鏡外〕
〈四〉
p.0665 一矢取の事、中聞花るべし、ゑぼしかけをすべし、小者にとらする事、酪儀也、引目は二さすべし、左右へのきて、繩の廷をりに立ならぶべし、貴人の矢取、綫敷の方に立也、其より日記次第に立也、犬始まらぬ先に、縄ぞ棧數の間、とをるべからず、左右へのく時は、繩の後をとをる也、犬始まちてあちば、いつくをも通るづし射手打霤時は、矢とりは跡にも可出也、はかまのもゝだちとらず、あしなかも、はくべからず、
一公方樣御矢執は、御覺悟の人とらるゝ也、總の矢とりには立ならばぬ也、繩ど棧敷の間、左右に
可寵立、
一檢見、以矢載射手にがうがいかる時は讌矢執、檢見にかうがいの出し樣、耳かきの方を檢見の方へ、かうがいのおもてを上へなし、左の手に持、右め手を、そとそへて出すなり、
〔鏡外〕
〈一〉
p.0666 一少も不審なる矢ある時は、瑯爾に矢を不可郭、矢のそばへ行、左の手をつきて、檢見の方を見べき也、其矢をすてられば、やがて可執、又不審もなく、よ鼕矢にて被入ば、やがて取べし、又犬にあたりたるか、めたらぬか、不審の矢をば、檢見、其矢の引鬣尻を見て、目ふたつに土つきたれば入也、臠三に土つきたれば、すてらるゝ也、檢見、引目を見て、二めを入、三めを捨る窰云は、鳧事也、檢見の事は、不入儀なれども、矢己ちに心得さぜん爲に註する者也、然間毎度檢見、引目尻を見らるる事あるべし、霙時は檢見のかほを見知て、見んとおもはるゝ體あらば、つくばひヂ、可待、檢見、矢をこはれば、本はぎの下邊を、右の手にて如常にとりて、左の手をそへ引目尻をいろはず檢見の左の前のこをうへ、こしを少たはめて、さし出し見せ申すべし、定て引目のすげぎはを取て、引擱をまはして見らるべし、其後は芭うて、引目をぬぐひて、主人にまいらすべし、
一不譬なる矢、又は二騎三騎も一度に射をかる、に、諍の矢の時は、はやく矢をとれば其矢すたる也、左機の時は、いかにも見つくろひて可執、左攝の時は、矢のそばへよるとて、蹠にのると云て犬の走たる跡をふみけすべからず、不審の矢論の矢をば、犬の足跡にかうがいをさし、弓の弦を渡して、矢をさたせらるゝ也、
一繩にかゝりたるか、かゝらざるかの矢を、そつじに矢執不爾執、又一邊に心得て、不審なくはつれ、又は心ちよくあたうたる矢を、おそくさるも物おくれに見えてわうし、能々可心鐸事也、一馬、引目をふみこほさば、いそぎ走寄、引灣のわれの大なるに、ちひさきわれどもをひろひ入て、上に矢をのせて、矢出しへ行、かいそへに可涯、是も不譬の矢の蒔、早くとるべからず、引目のわれ
に付て、矢をさたゼらるゝ事おほき也、
〔成氏年中行事〕
p.0667 一同〈○正月〉廿九日、雪下今宮へ御參詣アリテ、直ニ瀨戸ノ三島大明神へ御社參、〈○中略〉御犬之時、矢取、蟇目ヲ出スコトモ、妻戸ヨリ出事、萬人覺悟ノ前也、仍射置タル矢、急時ハ、弓手ヨリ取事アリ、是非順儀、妻手ヨリ取事定舊法也、何モ諸人知處也、能々可有思慮、
〔射鏡〕
〈三〉
p.0667 一御手組の犬放事、直垂に大帷を重、袴にくゝりを可入、河原者手より犬を執て、檢見を後になし、右方へ見返て御犬にげ候と申也、是はてうしやく〈○朝夕〉の役なり、
〔犬追物之式〕
p.0667 白琢犬追物張行之次第
一犬放も一人也、犬の首繩を切て放す役也、河原之者勤むべし、具鏡に犬放は常の人は河原の者也、公方樣被遊候時は、御雜色可放之云々、河原之者とは、下賎雜役之ものなるべし、
〔犬追物之式〕
p.0667 白琢犬追物張行之次第
一右の外に、河原の者貳百人計あるべし、其内百五十人は、百五十疋の犬を付置べし、殘り五十人は、絶際を掃かせ、竹垣の戸のあけたて、其外諸事につかふべき爲也、
〔犬追物圓説〕
〈下〉
p.0667 犬之事
一犬は、白犬本也ご具鏡犬追物之記にみへたり、犬數は百五十疋を本とする事、法量物にみへたり、此外委細の事、古傳の書に見へず、其故は常の地犬を用候て、女犬男犬をもえらばず、あるにまかせて臨時にあつむる故なるべし真犬追物記に、犬をくらき所に入置て、人を恐るゝ樣にして用之と有、是心得がたき事也、人を恐るゝ樣にせば犬引の手にも、とちれまじき也、此説用がたき也、唯何となくつなぎ置べし、〈鎌倉年中行事に犬逍物之事あり、是も臨時に、所々より犬を集る事あり、がれて犬をくらき所におしこめ置事は見えす、〉
一犬をかくる事、昔は藤かづらを用たる由、射手具足之記にみえたり、後には絶を以てかけし也、犬のくび繩こいふ事、諸の犬追物之書ざもに見えたり、又くび繩の事を、くび玉と書たる書もあ
り、おなじ事也、犬に絶をかくるやう、二ひろばか力の藤かづらにても繩にても、二つにおかて、その折めを犬のくびにかけて、男結ひに結ぶ也ぐびをゑめぬ樣に、ゆるやかに詰ぶなり、扨その藤かづらにても絶にても、筒をはめる也、頭をまはして絶を食切故、繩に竹の筒をはめる也、竹筒を用る事、犬追物の諸書にみへたり、射手具足の記に云、昔は藤かづらなどにて、犬をかけたる間、鎌にて切て放たる也、今は筒にて懸る也云々ゑかれば藤かづらの時は、竹の筒は用ひざる也、〈○圖略〉此繩むすびめより餘る分、三尺計もあるべし、法式なし、くび繩とも、くび玉とも云は、此絶の事なり、筒長さ萱尺五寸計もあるべし、定法なし、筒はくる〳〵とまはる樣に、ちとふとき竹を用べし、衢の中、かたぐて、まはらざれば犬かみわる也、
藤にてかくる時も如此すべし、但筒をば不用也、藤憾たやすくかみきらぬ故也、されども用心に筒を用るも不苦、
一犬の名所之事、頭を物がしらと云、兩目の聞の少上をみけむと云、背を高せなかと云、腹をみなしはらと云疣をほそじりと云、あとあしのふしを、からすがしらと云、又はりずねとも云、物語なざめ時、如此いふべし、眞犬追物之記に、檢見矢目を問ふ時、射手、弓手の肩とも、馬手のもゝとも答ふとあれども、古傳の書にみえず不可用之、矢所を問ひ答ふ事はある也、弓手、馬手、押もちりなどを、矢所といふ也、又犬の頭足ほそ尾をば射ぬ法也明鏡犬追物記にみえたり、檢見、此等之矢目を射たる矢をば實せぬなり、
〔犬追物圖説〕
〈下〉
p.0668 犬鎌之事
一犬の首絶を切てはなつ鎌の事、眞鏡犬追物記にみえたう、〈○註略〉犬放しの者、此鎌を腰にさして、犬を引すへ居る也、
〔犬追物明鏡之記〕
〈一〉
p.0668 一下地になる馬とは、舮寸二寸の間の馬なり、二寸の馬を用るも、人によりて
大ならざるも有、又一寸の馬は、人にようてまくると云事有間、一寸五分の馬、尤可然也、
一下地馬の下乘の事、ロを引べからず、臓にあたりぬれば、其日は心替りてわろきなり、馬をかひ、をり〳〵乘て草臥かすべし、足を出すべからず、だく〳〵と乘べきなり、但其も馬によるべし、一下地馬は、人の尢め逸物なれども、我が手にあはぬ事も有べし、心をゑらで人に所望すか事不可有、あます事あれば、大なるはちなり、可心得、
一縄をいかにも稽古に射べし、腰のすへやう、弓の引やう、さがりやうをも、能々人の指南を可受也、わろく射付て、くせになち候得ば、後までなをりかぬる物也、腰高成は不可然、左手綱のかき樣以下、能々古射手に可尋事、肝要也、
一はじめだる下地馬にて射る時は、廿疋卅疋迄は、馬を絶に立つめて、馬の心をゑりて後、矢をばはなすべき也、
一晴の犬追物の時は、馬のゑたてを能すべし、馬の頭は、少短くほを立てかるべし、尾には油を付、むらなくすきたてべし、尾をば少高くあけさせべし、長ければ自然ふみぬく事もあるべし、つめにも油をぬり、卒度刀をあてべし、ふりがみのあつけれは、薗然物をみる事有べし、裏をすくべき也〈○中略〉
一馬の事、古逸物大切也、第一喚次の馬、第二檢見の馬、第三射手の馬松云へち、其謂は、先喚次は、矢のある度毎にかけ廻るに依て、馬わろくては成べからず、射手は馬わうければ、物かげに扣て、矢數なけれども不苦、無念ながら無をしても、そのぶん克るべし、喚次は、是非共に馬をかけ廻らではかなはぬ事成故に、第一と云也、
〔射鏡〕
〈四〉
p.0669 一昔は馬の髮を繩のきはにてぬきけると也當世は内よりこしらへて射候、是は能く馬をたしなみしつしたる儀也、總て髮を藩事は、かみぎはめわろく成行をよくせんとの儀也、卷事
は略儀也さればはれの時は、是をまかず、尾をば、とくと云、かみをば、すきたつると云也、かみとくとは云べからず、馬の死たるとき、皮をはぐをとくと云也、よつて忌也、
〔法量物〕
p.0670 一犬射籠手の事、せいがうの長サ六尺、はたばりは一尺六寸計なるがよし、緖の皮、あゐ革の立しやうぶ横しやうぶあるを付べし、攝菖蒲を前緖、竪しやうぶをば、後に付べき也、廣サ一寸貳芬計、又籠手は二色、拵樣有之、別紙記之、
一籠手の色は、紅梅、紅白、黃くち葉也、此外の色も、紫色は可有斟酌、色々により、其家々に付たる事有、
〔鏡外〕
〈三〉
p.0670 一兒の犬追物射させ給ふには、腰刀をさす也、髮をからわにわげて、入もとゆひをする也、北山殿〈○足利義滿〉の御時に、御見逵の御相手に參らせ給ふ也、御所を初て、入道衆七騎、御見達五騎、以上十二騎にてあそばしける、其時の日記を、實澄〈○小倉〉が家に、久敷有て所持た与し也結構の小手共さゝれたると日記に見えたり、刀をさす、さゝぬかの事を本に尋たりし也、六角江州久賴、此事を高忠、いまだ多賀新左衞門尉と申せし時に尋させ給ひしには、北山殿の事を以て答申されたると也、三上江州にも、近江守殿、尋被申たるに、伺じごとく北山殿の事を引て、答被申と多賀高忠被語けるなり、
〔騎射秘抄〕
p.0670 一射手装棄の事、定れる法あるべからず、されども先は若き人、おごなしき裝束不苦、老者の若き装束、そゝろぎてみゆ、それも時によるべき也、装束振舞等の事は、たゞ世の風俗に隨ふべし、簡昔は行攝をば、沓のみせの見ゆる穉にきるべしなごいふ、其故は、或は自然の時、若は落馬も有、又は馬の乘おりにも煩たるべしビ云々、それもさる事なれども、犬追物、毎癢珍事も出來、落馬もさのみありがたし、かゝる用心計にて昔樣ならんも、當世おかし炉るべし、さればたふノ丶と能程にすべし、ちいさき馬に、餘の長行騰の土に付程なるも見にく丶還て幽支なし、只かやう
の事は、能ほざを可計用著也、
〔射鏡〕
〈三〉
p.0671 一射手出立の事、紐は刀のつかのとをりにて、一かけて引そろへばかまの帶も、とけぬ樣にむすぶべし、〈○中略〉
一不意に公籌樣かけ入て被遊蠹、各射手は、ついちのかげに乗のけ、おるゝは上意にて仕べし、外なんどは、能々の射手、一二人にすぎず、
〔射鏡〕
〈四〉
p.0671 一小手の事、根本はくずが本也、近年は精好を本ビす、袖のうづセれあるべし、緖は横菖蒲、長さ射手によるべし、
一行騰の事、夏毛同わり合は、年廿まではく物在、能皮は弾正少弼是をはく、但皮をわり合ぬれば、餘の者もはく也、〈○中略〉
一射手具足候事、御手組の時は、装束のから笠を張て、其陰にてす萢也、射手具足の爽第、先馬帽子かけをすべし、はたには時に隨て著べし、さて射手素襖にくゝちはがまをすべし、くゝうをゆふべし、欽にゆがけをさすべし、紐をとむべし、小手さす時のひもは、おもての袴の腰に可留、さて行騰の左皮を引入て、そとへおし折てをきて、右の皮をはくべし、緖をば前にてかたむすびにして、三にくみて、むかばきの折目の下べかうべし、さて左皮を、うしろの攝を引目ゞめヘとをず時、引目を三こしにさすべし、さて右皮のことく轅緖をむすんで、是を折目の下にかうべし、さてはだぬぐべし、黐をば後へ折て、右皮の後の緖に下よガ上へ引とをして、左ざまにねぢて、まとひてかラベし、袖さがりたるもわうし、かゝちうつくし輻可留、さて小手をさして、前の絶を、すあふの卞がへのわなをとをして、後の右の方へ下にてかたむすび、にしぢ、手一そく一ふせ計に組て嬬むべし、くみ數不定、さて鞭を手にぬき入べし弓と引目と弓手の手に取そへて、行騰のすそを兩の手にて執て、馬のきはへ霤り、弓杖をつき馬に可槧、鞍には二重はるびをかけべし〈○中略〉
一法體の者は、犬をも射よ、檢見をもせよ、鳥帽乎にても笠にてもきる也、きざるは、くわんたいの儀也、笠懸の時も同じ、
〔高忠聞書〕
p.0672 一犬の時、こてさして貴人の前へ出ることあらば、左ゆがけよりとるべし、爾方の緖、とくほどのひまなくば、かたゆがけを芒るべし、かた弓釋をとる時は、右のゆがけとるべし、これは犬追物の時ばかりにかぎりたること也、こてさゝで、すはうの時も、犬追物の時は、かたゆがけこらば、右を己るべし、すはうの時も、こてさしたる准據な夢、右ばかりとる時は、左のたおほひをば、むくるまじきなり、かたゆがけとるひまなぐばこてさしたりとも、爾方ながら、たおほひをむくるべし、〈○中略〉
一何にてもあれ、かちだちにている時は、右ゆがけばかりさすなり、其時は大ゆびに緖をかけて、三卷まきてとむるなう、左のゆがけの緖を、大ゆびにかくることあるまじきな参、總てはゆがけの緖とむる色々は、かちだち、犬追物、笠懸具足きてと、流踊馬の時、四色ならではあるまじきなり、犬笠懸の時、とむる樣は、常に一具ゆがけの緖留候也、
〔犬追物檢見日記之事〕
p.0672 一檢見は、ひたゝれの露をとりてさげ、むかばきをはくべし、むちは、手にも腰にもくるしからず、よばはらつぎも、同じ出立なるべし、
一犬放しは、なべてひたゝれの露をつけて、ぐゝりをゆひ、ゆがけを指べし、ざうゑきの役成べし、
〔犬追物明鏡之記〕
〈一〉
p.0672 一ゆがけをば、さす時は、右よ蔘さして、取時は左よち取べし、又纏義に取は、右よち取べし、先一つ巻て、扨上より大指にかけて、をりかへして二卷まくべし、以上三卷なち、緖と革との聞を引とをして、かたわなにして、三つを一つにして、能ひねり合て、上より押かふべし、緖の先は、手の内に可有之也、
一沓をはく賻は、左よりはきて、ぬぐ時は左よりぬぐべし、たとへ中間介添等出すとも、如此可心
得也〈○中略〉
一素襖にて犬射る時は、紐を前にて眞結びにして、兩へわけて、袴の黐に押かふべし、又下に取ても押かふべし、又かたを打越て、後にて留る事も有べし、是は略儀也、笠懸の時は、如此留て後にては、糸にて綴也、
千同紐の留樣、前にて一結して、一筋づゝ間を三寸許ほどに、袴の腰に押かふべし、又ひとつに取ても押かふて置事も可有之、何も不苦、
一刀を留る事、革を五分計に切て、刀のさやのとをる程わりかけて、くりかたまで入て、また目貫のとをりにて、二つにわうて、其にて目貫の上にて結ぶべし、うらの目貫の上にて留べし、組糸にてもするなり、
一烏帽子は、常より少はねてきたるが、かけなどして見能と云也、かけは、少ふときは、外より能見ゆる也、〈○中略〉
一晴め時は、ゆひつきたるゆがけを不可用、略儀也、内々にて稽古の時は、ゆひつきたるも不苦、又一具ゆがけ叱もろゆがけ己云べからず一具ゆがけと言も惡しゆがけ一具と云べし〈○中略〉一ゆがけは、新敷はわうし、少射ならしたるは能なり、手の内を取事、無事成りこいへども、取ても不苦、此等は別の子細なし、射手の好によるべし、
一沓も新は、すべりてわうし、少しふみならしたるは能なり、いにしへは沓のうらをぬる時砂をふるひかけて、はきたると云也、
〔犬追物之覺書〕
p.0673 一装束
檢見一人 騎馬、大紋立烏帽子、大刀刀扇、あついたの装束、法師なれば燕尾巾、素絹、
遠見右に同じ
射方奉行 烏帽子素袍、小刀、熨斗目、同服之侍四人を從ふ、
日記役 烏帽子素袍、小刀、
幣振 童子二人なり、童直衣、單さし孤き、末廣、髮をたれて金箔の小もとゆひ、作り眉、はくろめ時宜によゆ、同朋の若手勤る時は、水干にゑんび也、
犬かけのもの八人 烏帽子に十德、短刀、竹杖、
犬放五人 裝束右に同じ、たすきかけるなり、
犬下知二人 半臂に小袴小刀
犬牽八人 小袴ばかりなり
射手三十六騎 烏帽子素袍、官位あれば狩衣なり狩衣、本來御狩のためなれば、必可用之、故殿狩衣なり、三條殿に承るに、狩衣は、袖をゑぼるためにつゆあり、其時自由のため、肩をあけたりとぞ、烏帽子は、折たるは見ゐかたちあしゝ、平禮可然也、 下襲〈染物〉 小刀〈木なり、がざりは本式にして、落馬の用意なるべし、〉素袍なれば左の肩ぬぐ、狩衣はそれに不及、弓に手蟇目を一筋弓に取そへ、又腰にさす、〈二筋にても、三筋にても、〉右に竹根の鞭、〈緖あり、腕にかくる、〉鹿皮の行縢、沓、
喚次 騎馬、大紋風折烏帽子、唐織、小刀、竹根の鞭、
矢取三十六人 烏帽子小素袍、小刀、
檢見喚次の口取二人 小素袍、働髮を金紙にてゆう、小刀、
見物衆 大紋素袍以下なるべし
用意之次第
一装束は、隨分風流なるを好べし、檢見、遠見、喚次、何樣之染物織物やと承合冗、われに紛れざる樣に心得申事肝要なり、四季の摸樣ある事なり、〈○中略〉
一何もの装束弓箭馬具、射手奉行、喚女、槍見、三日前立會、無禁忌色哉、可相改也、
〔犬追物之式〕
p.0675 一装束之事、射手、内外檢見、内外喚次は、風折烏帽子、裏打之直垂を著すべし、檢見記に云、式正の犬追物の時は、射手は裏打之直垂を著て、龍手をさすべき也云々、ゑぼしの事見へず、直垂之時は、風折烏帽子定りたる事也、籠手行騰弓矢轢鞭馬具等、路儀なるは用べからず、略儀とは法外なるを云、裝束以下、類鏡圖説譬考べし、日記付幤振鉦打等は、折ゑぼし素襖長袴を著すべし、射手具足記にみへたち、鉦打の装束、古傳の書に見へず、踐記付同前なるべし、鬮振は、折ゑぼし素袍に小袴のく、りを高くすべし、鬮振の装束、古博の書に見へず、如此なるべし、脚半をはくべし、犬放は、十德四幅袴を薯すべし、射手具足記に、直垂は、大帷を重て袴にくゝりを入べし、鳥桓子を著云々、眞鏡に、ゑぼし上下に、もゝ立高く取云々、是等公方慌、御犬被遊時、御雜色犬放を勸る時の裝束なれば、河原の春の犬放を勤る時の例に用がたし、河原の疆には、十德四幅袴相應なるべし、白布のたすきをかけ、脚半をはき、鎌を腰にさすべし、射手具足記真鏡等にみえたウ、此外貳百人之河原者も、十德四幅袴を著べし、脚半をはくべし、射手檢見喚次の介添之若黨中間、何れも折ゑぼし素襖に、小袴のくゝりを高くして、脚半をはくべし、矢取の中間は、引目二つ腰にさすべし、何れも馬場に入る中間は、引數を腰に付べし、又主人之足半を懷中すべし、豺手具足記に、矢取は、中聞貳人花るべし、ゑぼしかけをすべしと云々、素袴を著する事明也、介添の若黨の事みへず、中聞素襖ならば若黨は勿論之事也、引目二つ腰にさす事も、日記にみへたり、檢見之中聞、引敷を付る事、眞鏡にみへたり、喚次射手の中間も同例たるべしずべて足をあらわすものは脚半をはく事、宗悟大草紙にみへたり、凡馬場に步行にて入ものは、皆足なかをはくべし、射手も下馬すれば、足半をはく也、明鏡にみへたり、射手奉行馬場拳行は、折烏帽子素襖に、小袴のくゝりを足のくるぶしの邊にて結ふべし、召連る若黨中閲も、同裝束なるべし、但小袴のくゝりをあげて、脚半をはく
べし、此事古傳の書にもみへず、如此にて相應なるべし、
〔貞丈雜記〕
〈十一/武具〉
p.0676 一小手は、犬追物の時ばかりさす也、されば犬射小手など云也、笠懸小手、やぶさめ小手などゝ云物はなき也、〈○下略〉
〔後松日記〕
〈十五〉
p.0676 松下圖書頭より問
犬追物裝束〈從五位下相當〉
烏帽子〈立帽子宜候哉、風折よろしく候哉、かけを、何よろしく候哉、〉
風折烏帽子御相當に御座候、五位にても、足利家の風により候得ば、裏打直垂素襖等之時、家々の折烏帽子に候得其、當時は大紋にても水干にても、風折の方、宜と奉存候、立烏帽子は、堂上は一統著用仕候得共、武家に而は、乍恐公方樣御初、御三家御三卿樣も、實は近年御用御座候、旣に加州に而は、従三位拜叙之後天保十一年正月元日より伺濟にて、御用御座候聞、諸大夫之御方、みだりに御著用は、頗僣上候と奉存候、且先頃小笠原家取調之書面、密々見候處、立烏帽子之義、みえ申候間、甚不審と奉存候、若哉引立烏帽子之事にも候哉、是は軍陣甲下之料御座候間、是又尋常之時著用、不得其意候、畢竟大笠掛、武術之調練に御座候間、異風の裝束を好むも無猛之事と奉存候、
掛緖は、常の紙捻にて宜候、馬の尾を、より候も、先例有之候事に御座候、
水干〈地何に而宜候哉、色色定も有之候哉、〉
地は矢張、絞紗にて可然候、色は紫之外、何にても不苦候、
叉問犬追物装束
從五位下にても布衣にても、同樣之裝束にて宜候哉、又ば諸大夫は何布衣は何、無官にては何と申差剔有之候哉、遠藤但馬守殿、犬追物裝束には、何を著用致され候哉、御聞及も御座候はゞ、致承
知度候、
犬追物裝束、諸大夫にて何、布衣にて何と申事、故實には且而無之候、鎌倉足利の頃、常服にて射候事故、有官無官を不論、其頃の常服、多素襖にて射候樣に相みえ申候、其内無止事人は、裏打の直垂にても射候樣子、又兒抔は、水于にても射候由、北山の兒の犬追物抔、先例も有之候、今般犬追物上覽之節、古風により候得ば、御一統折烏帽子に素襖小袴にて可然候、若其身品により、差別御立被成度候はゞ、年始抔之迺り、諸大夫は大紋、布衣は布衣、其外素襖にて可然候、大紋は、足利家の裏打に相當申候故、諸大夫の御方御著用、至極可然候、
〔射御拾遺抄〕
p.0677 犬追物射手の出立の事、大方射手の日記に在之、くろつばのこと、男などは不可用、入道或は彈正少弼などは可用之それも眞鳥羽をきらふにはあらず、又矢亥るしは羽中に書べし、征矢などには、羽中、もとはぎのきは、くつまきのきは、此三所に、いつくにても書べし、次入遘は、犬の時は、づきんをきたるが禮也、又かち立の時は、きざるが禮なるべし同くじも、入道は行騰のくしかみにさすべし、をとこは、烏帽子の右の手の下にさす也、
〔騎射秘抄〕
p.0677 一引目大小の事、是又昔今、殊に懸隔也、彼是愚意においては、いつれも不可然、其故は昔樣とて、四五寸の引目、餘に見所なく覺ゆ、又當世樣とて、よわ弓に、さのみの大引目も、見にくゝおぼゆ、犬にあたりて矢落もよからず、ちさ遠まはりたる時は、力なき風情もあり、されば昔射手の中に、今少引目おほきならば、見所ありなんと覺ゆるもあり、今時の射手の中に、今少引目ちいさくは、猶よからんと覺るも有、餘の大小共に丕可然、但人により、弓によるべし、無相達は、一尺二尺にもすべし、弓に餘て引目のかちたるを所制也、
一射手裝束の事、〈○中略〉同引目の羽の事、昔樣に、餘にせばくをしたるも、的矢などの樣に見ゆ、又當世嬬て、ほそ箆に大鳥の勿を、少もをさずしてはぎたるも、又かたわしく覺ゆ、是も箆により、羽に
よるべし、一篇に難定、
〔射鏡〕
〈四〉
p.0678 一引目を黑くぬる事、略義也、根本は赤うるし成べし、一こしと云は四也、一束と云は廿の事也、黑革にてゆふべし、是を矢ゆひご云、長さひろさ丕定、ゆがけを鞭の緖に結付て、引目の中にさすべし射手具足を、になはするには、矢あうごにとをし、むかばきを左、皮を上へ、毛を重て、二に折て、あうごに懸て荷にすべし、重てをく時は、かりそめに吊左皮を上にをく也、
〔高忠聞書〕
p.0678 一犬射がらを、ませはぎにてはぐ時、走羽には鷹羽、外がけには真羽、弓ずりには染砌を付べし、ませはぎに如此はぐ事、犬射がらならでは、あるまじきなり、又年よりなどは、走羽に鷹の羽を付て、のこり二の羽に具羽を付たるもよし、又走羽に眞羽を付て、殘二の羽に攝の羽などをも付べし、是等は皆々略儀也、はれの犬の時は射まじきなり、檢見鷹の狙よと問こと、ませはぎの時の儀なり、〈○中略〉
一うるしはぎの事、的矢、笠懸がら、犬射がら、是はみな、かばはぎの矢たる間、何もうるしはぎをゑて持べきなり、雨雪俄にふらば可射ためなみ、いとの上を、何もこき赤うるしにぬるべき也、雨ふらぬ時、うるしはぎ射訖る事あるべからず、
一引目の本説の事、別紙に注置なり、笠懸は、賴朝の御代より射はじめらるゝなり、犬追物は、先代〈○鎌倉北條氏〉の時より射はじめられたり、其後あまりに引目もこぼれ、箆もおるゝ間、大儀たるよし皆皆申合、箆もゑらのになり、引目も黑くさうになされたり、引目赤うるし本なり、笠懸引目にて射はじめられたるにより、赤うるし本なり、
一犬射がらは、白箆たるべし、惣は眞羽本也、犬射がらに、きりふなど付る事、あるまじき事なり、但公方樣、又は管領などの事は、不及是非なり、外々の人は不可然、一犬射がらは、樺はぎなり、口うるしさす事、略儀なり、また色いとにても、はぐべきなり、是も略儀
なち、はれの犬なざの時は、いまじき也、
一犬射がらを、こがしのにする事、くるしからず、但略儀なり、また無用なり、
〔了俊大草紙〕
p.0679 犬追物事 引目は、人の好々大小有べし、同の糸を片手によりて、廣さ一分ばかり卷なり、墨を下地にぬ夢て、漆に藥簍をゑぼりて、汁を合てぬるなり、漆の有は比興な参、椋實色を用なり、引目がらの箆は、夏切は、わうし、竹子の末葉、一二出來る末を、一尺ばかう切捨て、八九月の比、奘本を用なう、うきすかるにて、耄かもつよくてよきなり、矢うら、樺をば黑糸にてはぎて、本攤をば真本皮にず、はぎたる面白なう、弓は若木の弓のかろきを、弓矛を七尺一二寸に切て、一入ぬりてよきなり、藤をつがへ、ぬりこしらへたるはわろきなり、凡射手具足と云は、手輕にすべきなり、弓の絃は、ちとふとくすべし、引目の音の有なり、弦のはたかきが好なり、六寸より今少はたかくするなり、さくらの定をば、大に卷なり、矢崎を一寸貳三分計にさげて、定を卷なり、くびれだる物を射によきなう、一束引目と云は、五腰なら、二十なり、其に笠懸引灣一、小笠懸引目二副て、一束鷲するなち、小笠釋引目、猪子引目のことくするなり、目を四切なり、犬射小手は、京織と云絹を用なり、强は射手の肩崎の高く見えてわろきなり、ひれは廣きはわうし、すこし狹くするなり、紅梅織物などにてする事不可然なう、緖は藍皮を可用、行騰は、若人は夏毛なり、秋二毛は、老少共用なり、冬毛は老人ばかり用なり、熊皮は、判官と彈正官の人用なり、ひれの廣きはわろし、中腰は、高きはひだにゑは有てわろき也、中折より少上にあてゝ切なう、のどの狹きも廣きもわろし、中腰の廣さは八寸なち、好驀な夢、引飜とゞめは、藍皮をたゝみて、片結に志て、南方のすへをそろへて、劒形に切なり、引目の大なるには、うしろの方に寄て結べし、矢筈のいくらも弓手の方に成樣にさすべきためなり、行騰の沓ぐひのせ皺檬に、つねに鐙をけ出べし、行騰のひれを常に引なほすべし、
〔犬追物明鏡之記〕
〈一〉
p.0679 一犬追物の時持弓は、常よりほこ短きは能也、木もあさ木の弓の輕きを用べ
し、刃の立たるは、引て下るにわうし、本を少すへ、鳥打も沙すわうたるは引能也、少もつよき樣に鎔ぼゆれば、打おこすとき思ふ提なら争、又さがるにもわうしバ拵機など、藤を遣げくつかひたるは、ゑたるててわうし、矢ずりかぶらど計にて苓よきなち、只赤うるし、又ぬぐひうるむ、又黑く蹟うたるは、あさくとして能也、其外色々に鋳たるは、おもくれて見ゆ、但人の好みにもよるべし、又弓の藤の上をぬるは、略儀也、ゆめくぬるべからず、入道などは不苦、
一弓のにぎりの事、ふるきはわろし、晴の時は、必新しく卷べし、卷樣、かち立め弓の機に、中をあけて卷べからず、ひしとよせて卷べし、にぎりのたけは、人の好みによりて長短有、
三弓は木のかさあるは、矢昔も能也、去ざも引目手綱弓、三つ取添て持ゆへ、木がさの有は手にあまるべし、人によるべし、弦は少ふごきは能也定りも大なるべしバ少矢先さが力にゆひたるは能也、但射手の好みによるべし、
一腰ざしは、少すねたるからは能也、う耄たるからは、行騰をゑむる時、ひしぐる事有、
ぞからは、夏切たるべし、八月上句ほどにたちたる箆は能也、からは少ふときは、矢音も能こいヘカ、但弓手綱取添るに、ふときは煩たるべし桓ほそき堅き箆、能と云へり、されどもほそき箆は、ゑはみてわろし、可心得也、
一犬射がらのぐわいの事、箆によりて替りはすれども、先は羽たけ四寸のもの也、但かねの定也、されざも人の望にまるべし、ぐわいの事は、弓法方に委記之、〈○中略〉
一犬追物は、笠懸よち後に初ちたる物な套、然ども牛追物は、前に初りたる物也、初は笠懸引目にて射たる間、赤漆に塗也、扨からは、躑ぬうたる樣にごがしたる也、當世も用ゆべきなれども、當代は毎度興行しげく、からも損する故、白箆に定たる也、又古射手など、こがしたるからに、すりたる鶴の狗な鸞付る事、面白き也、餘は斟酌たるべし、
〔犬追物之覺書〕
p.0681 重藤、〈地形弓是なり〉二所藤にても、三所藤にても用之、式の藤を用ゆるなり、蚰形弓、常に存する事なれば不及委述之、
但晴の犬追物、右の如し、大概の時は、何にても風流なる的弓を用ゆるなり、〈○中略〉
犬射墓目、羽入真羽樺矧にして、白御筈は次筈を用、蟇目は栗色なるべし、故殿は交矯を用給ふ、走羽に鷹羽を用ひ、外掛羽に眞羽を用ひ、弓褶羽に染羽にてありしなり、此交矯と申ことは、抑犬射矢より外にはせず芝承りぬ、何程に好たる交羽にも、一羽は眞羽たるべし、本色の羽なればなり、蟇目鏑、人の强弱あれば定がたし、大かたは、五寸七寸九寸、昔は一尺一寸もありしとなり、犬の死するは甚不吉故、隨分鑰を大にすることなり、强弓に小鏑は、决して死するものなれば、力次第に大鏑を詮こするなり、然れども是も力に合は譫鏑は、弓にもつち合ぬ故、矢落することあるべし、心得ずんば中々可有不覺ことなり、
〔今川大雙紙〕
p.0681 馬に付て式法之事
二犬射物の手綱の寸、六尺七寸なり、染やうは其賞翫によるべし、腹帶は一丈二尺也、二色腹帶にするなり、二重腹帶は、三ひろ二尺なり、
〔高忠聞書〕
p.0681 一犬射る時、射手のむち、あ事、長さは人のうでによるベし、わがうでを、すぐにさし出て、わきの下に、とつかの方ををしあて、たけたかゆびの爪さきにあてがひて、又六寸にとりて、又手一束にとりてきるべし、此外二分三分よりのきは、ぬしのまゝなり、くるしからず、是も前にゑるすごとく、ふしを半に可切、
一鞭の緖を、うでにぬき入て持こと、犬の時ばかりの時ならではゐるまじき事也、又ゆひがけの事、犬の時ならではせぬなり、ゆびかけをば、むすびたる、をのかた〳〵のさきを、わなにくけて、たけたかゆびにかくるなり、又かた〴〵のさきをば返して、わなにして、むすびめへをし入るなり、
かりの時の鞭には、ゆびかけをせぬなり、〈○中略〉
一常に犬笠懸いる時のくらは、引はたの切付不苦、御手組、又ははれの犬笠懸の時は、つゞら切付なるべし、總而つゞら切付本なり、
〔犬追物明鏡之記一〕
p.0682 一射手、鞭を持時は、とつつかを、うでくびにぬき入て持べし、扨ゆびかけをたけ高ゆびにかくべし、馬上にては、とつつかを持たずして、さげて持べし、射手の鞭は長くする也、寸法以下別紙に記之、〈○中略〉
一手綱は、むね荏のもの也、左右の手綱に、こゝろをかけざらんは、射手にて不可有と云へり、
一新敷手綱は、手にまとはれて惡敷なり、新敷を卒度洗て、よりて能のしをかくべし、古きも又手にまとはるゝ也、心得べき也、〈○中略〉
一鐙も塗立たるは、すべりてわうし、これもふみならしたるは能なり、
一力、革は、是は新敷、は、こはやりてわうし、乘ならしたるは能也、但犬の時は、常に乘より少長きは能也、長さは大方鞍の上に立あがりて、尻の前輪を越への程なるは能なり、鋤付も新敷はこはば曳てわうし、力革の事は、射手によりて長短有べき、人によるべし、
一鞍に二重腹帶を釋る事、軍陣の樣にはせず、腹帶を二つして、小腹帶をかけて、ゑむる也、是も射手により、鳴にもよるべし、上手の好ぬ事なり、
一轡は白、みがき本なり、黑ぬり、又とかけ色などにぬり、たるは、見たる所もうつくしく、又おとも能とて、人毎に好む事なれども略義也、晴の時は斟酌たるべし、
〔犬追物之覺書〕
p.0682 馬に、泥障を不差、馬幕を用ゆる古法なれども、畢竟騎射の稽古、軍中の試術なれば、泥障をさして乘るをよしとすべきか、故殿被用之、予も亦從之、葛籠切付を用ひ來る、力革の事、常の馬とは少々違、べし、騎射の法にまかせ、鞍の尻、の問逶事、凡四寸三分たるべし、
〔尺素往來〕
p.0683 於六條河原、可有御手組之犬追物候御所於御棧敷有御見物、可爲最晴候、射手幷檢見呼亥之注文、大概如斯、行騰、大星之夏毛者、若々敷覺候、陰星之秋二重毛候者拜領仕度候、霜臺廷尉者、熊皮尋常之事候歟、伴野鞍、那波鐙、長井鞦、玉井轡等者、所持分無不足候、
〔鏡外〕
〈一〉
p.0683 一長九郎左衞門尉、犬を射るを、二宮越中守見て、此仁はいまだ繩をも射ずして犬を射とわろくいはれしを、心源公聞て越中よく被申たるといはれけるなり、犬をいんこては、先繩を射て、弓を打おこす樣、弓の本をさむる樣、其外種々の事ども稽古して、其後に犬を射る事なるに、長九郎左衞門、犬を射るにゴ其趣を稽古のゑるしが見えぬ程に依て、越中守如此申也、〈○中略〉
一犬の時は、半に大略酒有る也、ゑやく取者に、能々可申聞事、きらめくてうしを馬のおもてへ見せて、馬をおざうかしては、以の外曲事たるべし、馬の後より右へゑつかにまはり、馬のおもてへわが後をなし、てうしをも左の方へ、馬の見譫樣に持事なり、射手も馬をおどろかして、酒のまるまじき也、のまぬもおかしかるべし、能々可心得也、さて射手の酒をのむこと、いかに大上戸成とも、只一盃ならではのまぬ也、一はいうけてのみて、又うけてのむ事、見ぐるしきと申傳たる也、肴は、のしを、もみたるを、かんなかけ、ひらおしきなどにつみて出すもの也、若き射手などの、さがなぐふ事、むやぐの由小笠原長高申されたると也、
〔貞丈雜記〕
〈十二/武藝〉
p.0683 一犬追物、正保年中、島津薩摩守光久、武州豐島郡王子村にて張行せし以後は、此事絶てなし、享保の頃、有德院樣、〈○德川吉宗〉品々の武藝御再興ありし比、御近習の士に命じ給ひ、犬追物の稽古させられしが、馬のあつかひ自由ならず、成就せざりしなりと聞傳る、又酒井雅樂頭忠恭、厩橋の城主たりし時、彼地にて、諸士に稽古させしが、馬はね狂ひ、あつかひ自由ならずして、稽古成就せずと雅樂頭物語せられしなり、貞丈云、犬追物の稽古は、先馬の氣をゑらみて、おだしく癖なき馬をゑらみ用る事、第一也、扨其馬を調練して、人よりも先馬に犬追物を敎へこむべし、犬追
物の時の馬あつがひ乘樣、古書の趣を以で乘こむ稽古するに、本式に射る如く、十二騎一度に稽古するゆへ、馬じ狂ひさはぎ射手も心落杜ずして成、就せぬなり、稽古の時、兩人にてよし、我馬の尻にて、人の馬の頭をおさへ、互に如此して、繩際の馬め立樣より始で、ゑこみたるが能なり、馬を能乘こみて後に、射方を貿ぶべし、始稽古の時は、引手と云物を人に引せて、射方を習ふべき也、始より本式のごとく、大勢にて生の犬を射る故さはがしく、馬もゑこまぬ故、稽古成就する事なきなり、昔の射手も人なり、今の射手も人なり、馬も古今替る事なき馬なり、ゑかるに今犬追物のならぬといふは、稽古のゑかた惡き故と知、るべし射方を能覺れば、おのつから檢見のゑかたも覺ゆべきな、夏犬追物の書に、下地馬と云事あり、是犬追物に乘べき寫に、下地を乘こむ事を云なり、馬の氣を見立て、下地馬にす紅なり、馬をも撰まず、下地をも乘込ずしては成就せざ獅はづなり、一犬追物は、弓馬の爲に、甚すぐれ花乙物なり、遠笠懸、小笠懸、流鏑馬なども騎射なれ共、これらは堅隠直に、馬をはせて射る計なり、されば是はなしやすし、犬追物の馬場は、廣さ四方にて、竪にも横にも定のなぐ乘り、又犬の走り樣に皹て、馬を早くもおそくも追七射るなり、射めてたる時に俄に馬をと史めて、馬のあつかひ樣あり、遯例の乘方にては叶がたし、其上弓にも樣々法度あり舌むつかじき、騎射なり、〈○中略〉
一犬追物の、射樣、繩際の犬は勿論、繩より外へ、走り出たる犬を、追ひ射るにも、犬のそばへい近く馬いを、乘り、付娩蟇目を犬にさし付る梼にして射る也、違くより射るにはあらず、〈遠くより矢なはなす、を、さしわたして射ろと云、よろしがらぬ射慌なり、古き功者、上手の射手などは、さしわたして射る、事あれども、通例には左樣には射ざる法也、〉犬を追かゝへるには、鹿、子足に乗る、也、〈扼子足とは、麁の飛ぶ足のことく乘るなり、〉
〔宗五大草紙〕
p.0684 殿中さま〴〵の事
一常德院殿〈○足利義煕〉御代に、犬追物さい〳〵御座候つる、花御所、七間御厩の前のせぼさ御庭に、繩
をひかせられて御稽古候し、内々御人數、藤中納言殿、金仙寺、〈貞宗〉同故勢州、〈貞陸〉小笠原民部少輔殿、伊勢因幡守殿〈于時左京亮〉小笠原刑部少輔殿、〈于時八郎〉某、〈于時次郎〉塀和右京亮、〈于時與次郎〉其後金仙寺御所導て、千疋など御座候つる、其時は大名御供衆以下、御手組に皴參候つる人の内衆には、細川殿御内、秋庭備中守、〈元重〉奈良備前守、多賀豐後守、〈高忠〉めしくはへられ候し、ぶん後は、度々けんみなどを仕候つる、弓馬のみやうがめんぼく、たぐひなき事候、又御千疋の時に、布施下野守、めしくはへられ串候、又さやうの時の御人數は、大館豫州入道殿〈私記常興の事瘟、俗名尚氏、〉の外は、我等兄弟殘たる外はなく候、
〔法量物〕
p.0685 一犬追物ニ上手下手萼云事、上手とは我馬の前に立たる射手を云也、下手とは我馬の尾の方に立たる射手の事也、
一まくりひらくと云は、外にての事也、議くると云は、犬と馬との問、遠き壁犬に近くあはん蓬了、手綱をつかひて馬を寄するを云也、ひらくと云は、犬と馬との聞近く、日せばく成を、あはひを廣イなさんとて、手綱をつかひて馬をのくるを云也、弓手馬手同事也、
一毛さきまかすると云事、わかるゝ程はなく、ちとそひて、わかれがしらになるを云也、
〔犬追物之覺書〕
p.0685 用意の次第
一兼日召其家傳正者、塞何日可御覽犬追物之旨仰之、奉之訖定其地、後日於荷所可備御覽旨申之、有違物鷏物無方量、
一奉之人、命家臣故實之輩評議之、たとへよく〳〵覺申事も、猶以家に傳る記鐐をくり、古例なち己も、時に叶ざるは省き、譬時宜きも、故實に背るは、猶古働に從ひ熟錬すべし、大禮なれば、不審は幾度も相正して可入御覽、〈○中略〉
一用意之諸其、何も新に設て、吉日を撰、祠官に祓をなさしむべし、相手組、前々よりの例を引て定
之
一手切ならば十二人、三手射ならば三十六人、名字を記、先進上すべし、其人々にも可玲通、〈○中略〉
一御覽の事、被仰但べき内々の沙汰あらば、還て臠跖方目入御賢相願事故實也、〈○中略〉
一此事に預る人々、三日不犯の帥事たるべし、最不可近穃尼也、
〔眞鏡〕
〈一〉
p.0686 一十二騎の射手、料足百疋づゝ出して、十二貫を、百疋檢見、五十疋喚家、三十疋日記付、三十疋再拜ふり、錢十貫を十二騎の射手矢數次第に取なり、
〔眞鏡〕
〈二〉
p.0686 朝犬の時は、いまだ犬の色も馬の色も見えぬ間、挑灯をとぼす事あり、是は犬を張行の人、こしらヘとぼさせらるゝなり、とぼす者、馬の驚かぬ樣に、そとちやうちんを置べし、
一ちやうちん、小繩さ繩との間も如此をく也、〈○圖略〉物色見えばやがてちやうちんを買取、少もあかくなる程をかぬ也、
〔有德院殿御實紀附録〕
〈十二〉
p.0686 犬追物をも再興あるべしとて、諸家の秘録ざもを召集あられ、成島違筑、ふ泛ゝび擲を蒙り、犬追物類聚六十春輯めて奉る、されどこれは笠懸に熟したるものならでは、なし得難しとて、近習の徒を集め、まつ笠懸の式を調續せしめらる丶事あまた度なりしが、犬逍物は、一たびも行はれずしてやみぬ、をしき事にぞ、さて笠懸に用る馬、乗出しには、其法にかなへども、中よら末はかけ足になうて、法のことく違退しがたしと、御みつから御工夫有て、馬役騫藤三左衛門盛安に御指盲あう、その後は馬もよく其法を得得たらといへり、
〔後松日記〕
〈十五〉
p.0686 細川家の犬追物は、天期の頃、左少將重實朝臣、其臣竹原丸右衞門に命せられ、幽擁公より傳へ給ひし書、又竹原が家に傳へし書を稜正し、かつ島津家の口傳をもとひ聞て再興せ
られしとぞ、重賢朝臣、世を過させ給ひて後、治年朝臣、齊茲朝臣も、いよ〳〵その志をつぎ給ひて、みつからも、しばみ丶椎田の馬場に行て見給ひ、これにかゝつらふ、竹原父子、齋藤權之助、境野嘉
十郎、太田善九郎等には、厚く優賞し、もの賜はせ、又ゑるところをも墸給ひなどして、いよ〳〵この道を盛にし給へば、今は犬射ぬ人は、父の家をも、つぎがたきまでの手振になりにけるとぞ、ここに志方半兵衛といふもの、江戸にありし時、伊勢氏の書を皆傳して歸りて後犬の式、舊記にたがへる事あるをもて、そのよしを君にもきこえて、竹原齋藤檢見五人等と、時習館に會合して、校正討論する事五年、功おはうぬれども、伊勢氏の傳をば用ゐられず、なほ天明再興の式をいまに用ゐ給ふとなん、〈○中略〉
ある人來りて、小笠原氏の稽古、この頃はやゝ進みて、まことの犬をも射給ふが、よき犬なく、皆かたみて射られじ、よき犬をえまほしと射手の聞え給へるとかたりぬれば、よき犬よりは、よき射手は、いかゞものし給ふらん、よき射手のおはしまさば、能犬はいか程もありぬべきをといへば、例の口さがなしとて笑ふ、實に犬なればこて、馬場中をはしちめぐうて、さ射給へ、稽古し給へ芒いふものにはあらず、絶よりもたやすくは走り出ず、射手のすきをみて走り出るもあ蔘、又背をそらして腹を上にするごビくし、おづ〳〵はひ靆て、射手の前を過ると、はやのがれセる霾おもひて、一筋に犬塚ににげ入るものなり、其時射手、追つけて射べきを、なま〳〵の射手は、犬をのばしやうて、跡よりおふ時は、はや犬、犬塚にはしり入て合期せねば、そのおいつきはひ廻かぬるを、のがさじもの逕頭に打まはる故、いよ〳〵出ず、つゐにはかた犬となるな参、又犬塚まで追ひたれ共、矢なき口をしさに、犬塚ようなげ出させ抔して射れば、後には犬塚迄も走らず、まことのかた犬となればがの足利の世に、かた犬の上手と聞えし、小笠原刑部殿にもいられぬ樣になるべし、こはもとよりのかた犬にはあらじ、射手のみなかた犬にする也けう、〈○中略〉
こたびの犬追物、先犬を養ふとて、數十疋に公糧を給ひ、射手は宿直を辭して稽古のみをし三百俵ばかりのしるところの人にも、馬二疋をかはせ、馬場の經譬に、ようつに、公私の用塗そくばく
なりとぞ、こはみな其棟梁の人の古に心あさく、この事を後の世まで傳へんとも思はぬしわざにで、上覽事はてなば、名逡なくやめ果てんと思ふなるべし、誡に騎戰のなら暗しには、これにしく事あらじを、すたれたる事さへ口をしきに、羸度再興して又絶なんは、いかぐはくちをしからざ畠、ん、されば公私の用途費へぬ樣にして、もはら永久をはかるべし、耄かるに先宿直を辭して烙勤を怠る、これわつもひのふなり、又犬は其射る時とりて、事足るもの也、担五六疋もめらば、百疋二百疋の稽古も射らるべきな参、又三百俵ばかちの人に、馬そ二疋をつなげとは、何事そや、かゝる人は、た廷へば軍事に往ふ鬟も、乗替までには及ぶべからず、犬かさ掛も又しかり、是皆實事にたどき少なくしで誤れるなう、その外よくもしらねば、先一二をいふのみ、
○
牛追物
〔高忠聞書〕
p.0688 一むかし犬追物なきさきには、小うしを射る也、
〔法量物〕
p.0688 小牛追物の事
一小牛追物射標、さくりにのりて馬を出すべし、なぐる所にて、ひらくび、さんづを射べし、どう中はすつる所也、
〔就狩詞少々覺悟之事〕
p.0688 一小牛を射べき事、さくりに乘て追也、必々追れてたちむこふ也、其時手綱をつかひて、弓手にても馬手にても、小牛の投かへす樣によりて射べき也、時竄に寄て、すがひ弓手にても射べき也、矢所鏤くびと、ひらもゝとを射べし、矢所二所ならでは有べからず、引穏四自、じんどふなどにて射べし、はだぬがでいる雹、昔犬逍物以前は、少牛を射たる也、
〔射鏡〕
〈四〉
p.0688 一、古は小牛を射しかども、多く死するに依て犬を射也、小牛の射樣はしやくうに乘て追なち、なげかへす所を、弓手馬手のひら首を射也、是小牛の矢所なう、犬はみな〳〵、腹を本の矢所とせり、しやく蔘に乘ては、小牛の足あとのごとく長馬にて追ば、小牛なげ運す闇、射ぼき也、なら
べて射ぬ事也、犬にはゑやくりにのりて追ふ事、をかしき事なり、
〔古今著聞集〕
〈九/武勇〉
p.0689 賴光朝臣、寒夜に物へあちきて歸りけるに、賴信の家近くよりたれば、〈○中略〉賴光則入にけち、〈○中略〉賴信に、あれにいましめて置詑る者は、たそと問ければ、鬼同丸なりと餮ふ、賴光驚て、いかに鬼同丸などを、あれ體にはいましめ置給ひ泥るぞ、犯しある者ならば、かく程あだには有まじきものをといはれければ、賴信げにさる畢候とて、郎等を呼て、猶したゝかにいましあさせければ、金鎖をとり出て、よく逃ぬやうにゑた、あけう、〈○中略〉鬼同丸究竟の者にて、いましめたる絶金鎖踏切て逃れ出ぬ、狐戸より入て、賴光の寐たる上の天井にあり、〈○中略〉賴光もたゞ人にあらねば早くさとりにけり、落か、りなば大事と思ひて、〈○中略〉誰か候と呼ければ綱、〈○渡邊氏〉名乘て參りけり、明日は鞍馬へ可鏖、未だ夜をこめて、是よりやがて麥らんずるぞ、それがし〳〵候ずべしといはれければ、綱承うて、皆是に候と申てゐたう蒐同丸、此事を聞て〈○中略〉天幷を逃れ出て、鞍馬の方へ向ひて、市原野の邊にて、便宜の所を求むるに、立かくるべき所なし、野飼の半のあまた有ける中に、ことに大なるを殺して、路次に引伏て、牛の腹をかき破りて、其中に入て、目ばかり見出して待けち、賴光案の如く來ちけち、淨衣に大刀をぞはきたちける、綱、公時、定通、季武等、みな供にありけり、賴光馬をひかへて、野の氣しき興あり、牛その數有、をの〳〵牛追物あらばやといはれければ、四天王のともがら、我も〳〵とかけて射けり、實に興有てぞ見えける、其中に綱いかゞ思ひけん、とがり箭をぬきて、死したる牛にむかつて弓を引けり、人あやしとみる所に、牛の腹のほざをさして箭をはなちたるに、死たる牛、ゆす〳〵とはたらきて、腹の内より大の童、打刀をぬきて走出て、賴光にかゝりけち、見れば鬼同丸ならけり、
〔吾妻鏡〕
〈二〉
p.0689 養和二年〈○壽永元年〉四月五日乙巳、武衞、〈○源賴朝〉令出腹越赴江島給、〈○中略〉今日創被立鳥居、其後令還給、於金洗澤邊有牛追物、下河邊庄司、和田小太郎、小山田三郎、愛甲三郎等、依有箭員、各賜色皮
紺絹等、
〔吾妻鏡〕
〈二〉
p.0690 壽永元年六灣七日丙午、武衞、〈○源賴朝〉令出由井浦給、壯士等各施弓馬之藝、先有牛追物等、下河邊庄司、〈爲御合手〉榛谷四郎、和田太郎、同次郎、三浦十郎、愛甲三郎、爲射手、