人部/誓約

p.0320 誓約ハ、チカヒト云フ、身命ヲ神佛ニ賭ケ、若シクハ名譽ニ訴ヘテ以テ其事ノ虚ナラザルヲ誓フヲ謂フナリ、古クハ又之ヲウケヒト云ヒ、種々ノ徵證ニヨリテ、自他約言ノ眞僞ヲ判シ、或ハ豫メ事物ノ吉凶當否ヲ決シタリ、誓約ノ一種ニ探湯アリ、
探湯ハ、之ヲクガタチト云フ、或ハ手ヲ以テ沸湯ヲ探リ、或ハ燒鐵ヲ掌中ニ置テ、其糜爛スル ト否トニ依リテ正邪曲直ヲ定ム、後世ノ湯起請、火起請ト稱スルモノ、蓋シ是ニ原ヅク、又古クハ誓約ノ方法ニ、或ハ磐石ノ上ニ居リ、或ハ手ニ香爐ヲ執リ、或ハ神水ヲ飮ミ、鹽汁ヲ歃リ、或ハ石火ヲ敲キ、金ヲ打ツ等ノ事アリキ、後チ誓約ノ文詞ヲ書スルニ及ビ、此ニ起請文ト稱スルモノ起リ、一般ニ契約ヲ行フトキハ、必ズ之ヲ用イルコトヽナレリ、起請文ハ、一ニ神文ト云ヒ、又吿文、祭文、誓文、誓狀、誓文狀等トモ稱ス、邦語ニ之ヲチカゴトブミ、又堅メトモ云ヘリ、其書式粗〻一定シ、先ヅ誓約ノ條文ヲ列記シタル所ヲ前書ト云ヒ、次ニ神佛ノ名ヲ掲ゲテ、若シ其誓約ニ背クトキハ、當ニ冥罰ヲ蒙ルベシトノ意ヲ記セル文ヲ罰文ト稱ス、而シテ罰文ハ、大抵神社ヨリ配付スル、牛王寶印ト稱スル神符ノ紙背ニ書セリ、起請文ヲ作ルニ、二枚若シクハ七枚以上ニ及ブコトアリ、是レ一ハ神社ニ納メ、一ハ誓約者ノ間ニ分チテ、後日ノ證憑ニ供センガ爲メナリ、起請文ハ單ニ私ノ誓約ニ止ラズ、法律訴訟等ノ公ノ誓約ニモ亦之ヲ用イシコトアリ、殊ニ德川幕府ニ在リテハ、諸役起請前書ノ式ヲ定メテ、役員就職ノ時ハ勿論、駕寵御免、病氣引籠等ノ際ニモ、各〻此式ニ依リテ誓詞ヲ上ラシメ、又南蠻誓詞ト云フモノヲ定メテ、以テ耶蘇敎禁止ノ料ニ資シタリ、又起請文ハ舊ク之ヲ燒キテ灰トナシ、水若シクハ酒ニ混ジテ飮ミシ事アリ、恐ラクハ神水ノ餘習ナルベシ、又起請ヲ破リタル場合ニハ、物ヲ以テ之ヲ贖ハシメシ事アリ、而シテ起請文ノ文詞ニ不備ノ點アル力、又之ヲ書キテ後、一定ノ期間ニ、鼻ヨリ血ヲ出シ、衣服ヲ鼠ニ飡ハレ、若シクハ重輕服ニ遭遇スルガ如キ事アルトキハ、之ヲ起請失ト稱シ、共ニ其篇目ヲ定メテ、堅ク之ヲ戒メシ事アリ、

名稱

〔新撰字鏡〕

〈示〉

p.0321 〈强依反、誓祈也、禱二百靈一也、祈也、知加不(○○○)、又己不(○○)、又伊乃留、〉

〔類聚名義抄〕

〈五/言〉

p.0321 誓〈音逝、チカフ、命、謹、和セイ、〉

〔伊呂波字類抄〕

〈知/人事〉

p.0322 契〈チギル〉 約〈同〉 願〈チカフ〉、 盟〈チカヒトモ〉、 矢〈同チカヒトモ〉、 誓 忠〈己上同チカフ、〉

〔下學集〕

〈下/態藝〉

p.0322 契(チキリ) 〈二字義同、 者二人歃レ血以約諾、其不蠻之義明白也、故 字从レ朋從レ血也、〉

〔運歩色葉集〕

〈地〉

p.0322 契(チキリ) (同) 〈二人歃レ血約二不變一、 字從二朋血一也、〉 誓(チカイ)

〔易林本節用集〕

〈知/言語〉

p.0322 (チギル) 約(同) 盟(同)

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

p.0322 契(チギル)〈説文、大約也、〉約束(同)〈日本紀〉

〔倭訓栞〕

〈前編十五/知〉

p.0322 ちかひ 新撰字鏡に誓をよめり、四書類函に、約レ信曰レ誓、涖レ牲曰レ盟と見ゆ、西土の盟約に、血を歃る事あれば、それによれる詞成るべし、古き言にはあらずかし、陳則梁が語に、牲盟不レ如二臂盟一、臂盟不レ如二心盟一と見えたり、

〔古今和歌六帖〕

〈五〉

p.0322 ちかふ(○○○)
今宵より我も思はん君も思へのちわすれじとまづちかへ君

誓約法/居磐上

〔日本書紀〕

〈九/神功〉

p.0322 四十九年三月、以二荒田別鹿我別一爲二將軍一、〈○中略〉是以百濟王父子、及荒田別、木羅斤資等、共會二意流村一、〈今云二州流湏祇(ツルスキ)一〉相見欣感、厚レ禮送遣之、唯千熊長彦與二百濟王一、于二百濟國一登一、辟友山一盟之、復登二古沙山(ノムレ)一、共居二磐石上(○○○○)一、時百濟王盟之曰、若敷〈○敷原作レ數、據二壺井本一改、〉レ草爲レ坐、恐見二火燒一、且取レ木爲レ坐恐爲レ水流、故居二磐石一而盟者、示二長遠之不一レ朽者也、是以自レ今以後、千秋萬歲、無レ絶無レ窮、常稱二西蕃一、春秋朝貢、

執香爐

〔日本書紀〕

〈二十七/天智〉

p.0322 十年十月庚辰、天皇疾病彌留、 十一月丙辰、大友皇子在二内裏西殿織佛像前一、左大臣蘇我赤兄臣、右大臣中臣金連、蘇我果安臣、巨勢人臣、紀大人臣侍焉、大友皇子手執二香鑪一、先起誓盟(チカヒテ)曰、六人同レ心、奉二天皇詔一、若有レ違者、必被二天罰一、云云、於レ是左大臣蘇我赤兄臣等、手執二香爐一、隨レ次而起、泣血誓盟、〈○下略〉

歃鹽汁

〔續日本紀〕

〈二十/孝謙〉

p.0322 天平寶字元年七月庚戌、詔、更遣二中納言藤原朝臣永手等一窮二問東人等一、欺云、毎事實也、 〈○中略〉自餘衆者、闇裏不レ見二其面一、庭中禮二拜天地四方一、共飮二鹽汁一誓曰、將以二七月二日闇頭一發レ兵、〈○下略〉

敵石火

〔帝王編年記〕

〈十六/村上〉

p.0323 天曆八年、九條右丞相、台山楞嚴峯法華堂草創事、是歲、九條右丞相師輔公登二楞嚴峯一發願草二創法華堂一、敲二石火一誓曰、我子孫有下朝家可二繁昌一者上、三ケ度之中可レ出、而只一ケ度火出訖、〈横川法華堂常灯不斷香火是也、〉

〔慈惠大僧正傳〕

p.0323 同〈○天曆〉八年、九條右丞相〈○藤原師輔〉登二楞嚴峯一、欽二仰大師一、歷二覽地勢一、忽登願三念草二創法華三昧堂一、丞相於二大衆中一、自敲二石火一誓曰、願依二此三昧之力一、將レ傳二我一家之榮一、國王國母、太子皇子、槐路棘位、榮華昌熾、繼レ踵不レ絶、充二衍朝家一、若素願潛通、適有二鏡谷之應一者、所レ敲石火、不レ過二三度一、而有二効驗一、一敲之間、忽焉出レ火、在在緇素、盡以抃躍、丞相手自挑レ燈、蘭釭之影、應二棘誠一而昭晣、自レ是丞相家門、英雄角存、無レ違二本願一、便以二此堂一付二屬和尚一、

〔愚管抄〕

〈三〉

p.0323 おとゝの九條の右丞相〈○藤原師輔〉は、あにの小野宮殿〈○藤原實賴〉にさきだちて一定うせなんとするをしらせ給て、我身こそ短祚にうけたりとも、我子孫に攝籙をばつたえんに、又わが子孫に帝の外せきとはなさんとちかいて、觀音の化身の叡山の慈惠僧正と、しだんの契ふかくて、横川のみねに楞嚴三昧院といふ寺をたてゝ、九條の御存日に、法華堂をまづつくりて、のぼりて大衆の中にて、火うちの火をうちて、我此願成就すべくば、三度がうちにつけとて、うたせ給けるに、一番に火うちつけて、法華堂の常燈にはつけられたり、今にきへずと申つたへたり、

鳴鐘

〔倭訓栞〕

〈前編六下/加〉

p.0323 かねうつ 俗に誓て、再びせざる事にいへり、鐘擊の義なるべし、〈○中略〉園槐鈔に、諸社氏人退二其地一、不二再歸一心決時、叩二鍔鉦一爲レ誓と見え、〈○下略〉

〔壒囊抄〕

〈十三〉

p.0323 於二本朝一戒壇建立何比ゾ哉〈○中略〉
同〈○應保三年三月〉廿日、寺門ヨリ捧二陳狀一者也、其旨趣、去保延年中起請云、
生々世々爲二智證大師門人一輩、永以二山門侶一、不レ爲二傳戒師一、若破レ之輩、永非二大師門弟一、若レ破レ之時、可レ知二法滅 期臻一、寄二大師聖靈照見一、請二護法天等冥罰一、滿寺衆徒泣調二悲叫聲一、鳴二起請鐘一畢、 任二勅定一將レ破二起請一、多生間、永背二佛法一歟、守二起請一將レ背二勅宣一、一天之下似レ輕二皇威一歟、〈○下略〉

〔源氏物語〕

〈六/末摘花〉

p.0324 年比思ひわたるさまなど、いとよくの給ひつゞくれど、ましてちかき御いらへはたえてなし、わりなのわざやとうちなげき給ふ、
いくそたびきみがしじまにまけぬらんものないひそといはぬたのみに、の給ひもすてゝよかし、たまだすきくるしとの給ふ、女君の御めのと、こじゞうとて、いとはやりかなるわか人、いと心もとなうかたはらいたしと思ひて、さしよりて聞ゆ、
かねつきて(○○○○○)とぢめんことはさすがにてこたへまうきぞかつはあやなき、とわかびたるこゑの、ことにをもりかならぬを、人づてにはあらぬやうに聞えなせば、ほどよりはあまえてときゝたまへど、めづらしきに、中々くちふたがるわざかな、
いはぬをもいふにまさるとしりながらをしこめたるはくるしかりけり

〔花鳥餘情〕

〈四/末摘花〉

p.0324 童部の諺に、無言を行ぜんと約束して、無言々々とそしまに、かねつくといひて、何にても、うちならしてのち、物いはぬ事をする也、

〔平家物語〕

〈一〉

p.0324 ぐわんだての事
去程に山門には、御さいだんちゝの間、日吉の神よをこんぼん中堂へふり上げ奉り、その御前にて、しんどくの大般若を七日讀みて、後二條の關白殿〈○藤原師道〉をじゆそし奉る、けちぐはんのたうじには、仲胤法印、その時はいまだ仲胤供奉と申しゝが、高座に上り、かね打ちならし、けいひやくのことばにいはく、我らがなたねの二ばよりおふしたて給ひし神たち、後二條の關白殿に、かぶら矢一つはなちあてゝ給へ、大八王子ごんげんと、たからかにこそきせいしたりけれ、

〔今昔物語〕

〈十六〉

p.0324 淸水二千度詣男打二入雙六一語第卅七 今昔、京ニ有所ニ被靑侍有ケリ、爲事ノ无カリケルニヤ、人ノ詣ケルヲ見テ、淸水へ千度詣二度ン參タリケル、其ノ後幾ク程ヲ不レ經ズシテ、主ノ許ニシテ同樣也ケル侍ト雙六ヲ打合ケリ、二千度詣ノ侍多ク負テ可レ渡物ノ无カリケルヲ、强ニ責ケレバ、思ヒ侘テ云ク、我レ露持タル物无シ、只今貯ヘタル物トテハ、淸水ノ二千度詣タル事ナン有ルヲ、其レヲ渡タサムト云ヘバ、傍ニ見證スル者共此レヲ聞テ、此レハ打量ル也ケリ、鳴呼ノ事也ト咦ケルヲ、此ノ勝タル此糸吉事二千度詣ヲ渡サバ、速ニ云ヘバ、勝侍ノ云ク、否ヤ、此クテハ不御前ニシテ事ノ由ノ申テ、慥ニ己レ渡ス由ノ渡文ヲテ、金打テ渡セバ、請取ヌト云ヘバ、負ケ侍糸吉事也ト契テ、其ノ日ヨリ精進ヲ始テ三日ト云日、勝侍負侍ニ然バ去來リ參テント云ヘバ、負侍鳴呼ノ白物ニ合タリト思テ共ニ參ヌ、勝侍ノ云フニ隨テ、渡由ノ文ヲ書テ、觀音ノ御前ニシテ師ノ僧ヲ呼テ、金打テ事ノ由ヲ申サセテ、其ガニ千度參タル事、慥ニ其ニ雙六ニ打入レツ書テ與タリケレバ、勝侍請取テ臥シ禮ムデ、其後幾程ヲ不レ經ズシテ、此ノ打入タル侍、不二思懸一ヌ事ニ係テ、被レ捕テ獄ニ被レ禁ニケリ、打取タル侍ハ忽ニ便有妻ヲ儲テ不二思係一人ノ德ヲ蒙テ、富貴ニ成テ官ニ任ジテ樂クテゾ有ケル、三寶ハ目ニ不二見給一事ナレドモ、誠ノ心ヲ至シテ請タリケレバ、觀音ノ哀レト思シ食ケルナメリトゾ、聞人此ノ請取タル侍ヲ讃テ、渡シタル侍ヲバ ミ謗ケルトナム、語リ傳ヘタルト也、

〔字治拾遺物語〕

〈一〉

p.0325 これも今はむかし、京極の源大納言雅俊といふ人おはしけり、佛事をせられけるに、佛前にて僧に鐘をうたせて、一生不犯なるをゑらびて、講を行なはれけるに、ある僧の禮盤にのぼりて、すこしかほけしきたがひたるやうに成て、鐘木をとりてふりまはして、うちもやらで、しばしばかりありければ、大納言いかにと思はれけるほどに、やゝひさしく物もいはでありければ、人どもおぼつかなく思けるほどに、この僧わなゝきたるこゑにて、かはつるみはいかゞ 候べきといひたるに、諸人おとがひをはなちてわらひたるに、一人の侍ありて、かはつるみはいくつばかりにてさぶらひしそと問たるに、この僧くびをひねりて、きと夜べもしてさぶらひきといふに、大かたどよみあへり、そのまぎれにはやうにげにけりとぞ、

〔義經記〕

〈七〉

p.0326 へいせんじ御見物の事
辨慶申けるは、〈○中略〉ふえにおゐては日本一ぞかし、たゞししさい一候、此少い人は、はぐろにおはしまし候時も、あけくれふえにのみ心をいれて、がくもんの御心もそら〳〵に御わたり候し程に、こぞの八月はぐろを出し時、師の御坊今度の道中、上下かうのあひだ、ふえをふかじといふちかひをなし給へとて、ごんげんの御前にて、かねをうたせ奉りて候へば、少人の笛をば御めん候へかし、

〔明德記〕

〈中〉

p.0326 十二月廿九日、八幡ニテ寄合テ、軍ノ内談有ケル中ニ、中務大輔若黨六人別シテ契約ノ事アリ、山口五郎、森下六郎、旗津、志賀野、小鴨新三郎、家喜九郎、是六人成ベシ、中ニモ家喜ガ申シケルハ、此年月久ク在京シテ、天下ニ自然ノ事モアラバ、御所樣ノ御旗ノ下ニテコソ、御大事ニモ逢セ給ベキニ、中務加樣ニ成リ給ニ依テ、我等マデ昨日今日マデ栖押シ都へ責上ル事、不定ノ浮世ト云ナガラ、有ヲ有トモ思フマジキハ、弓矢取身ニテ侍ル也、去バ勝テモ負テモ、夢ノ世ニツレナク殘リ留テ、イツシカ逆徒ノ名ヲ取テ人ニ見エンモ面目無シ、今度ノ軍ニ討死シテ、勇士ノ數ニ入ズトモ、浮名ヲナリ其世ノ人ニ知レバヤト思ハイカニト申ケレバ、殘四五人モ諸共ニ誰モサコソハ覺エタル、一河ノ流レヲ汲ムダニモ多生廣劫ノ緣ト申ゾカシ、況ヤ同傍輩ト云ナガラ、互ニ他事ナク馴ナジミテ、アダシ命モカリノ世ノ草葉ニ置ル末ノ露、本ノシヅクト成行ハ、跡ニ殘リテ誰カソモ、獨リ思ヲ菅筵、敷忍べキ名殘カヤ、此六人ノ其中ニ、一人ナリトモ打死セバ、殘五人皆共ニ枕ヲ並テ、後ノ世マデモ傍輩ノ約ヲ忘レジト、深ク契テ八幡宮ノ鰐口ヲ鳴シテ、神水ヲ飮 ミ誓約ヲコソシタリケレ、去バ二條大宮ノ二度目ノ合戰ニ、五人ハ所々ニテ思々ニ討死ス、九郎一人死ニ殘リ、誓約五人見エザリケレバ、走廻テ尋ヨト、ツレタル下人ニ云ケレバ、家喜ガ中間申ケルハ、只今山口殿ノ御下部ノ申候ツルハ、昨日八幡ニテノ御契約ノ人々、コノ五人一所ニテ討レ給ツレトテ、泣々嵯峨ノ方へ走リ候ツルト申ケレバ、耻カシノ人々ノ心中哉、サバカリ深ク契リタルニ、敵御方ニ押隔テラレ、討ルヽヲ知ラザリケル、我身ノ程コソ不覺サヨト、獨言ヲシテシヅシヅト、猪熊ヲ上リニ歩セ行、心ノ中コソムザンナレ、

〔甲陽軍鑑〕

〈二/品第十〉

p.0327 信玄家來年之備前之年談合之事
去年戌極月廿八日に、山縣三郎兵衞尉所へ寄合、當亥年中の御備の義、信玄公御在世の時のごとく、各談合いたす時、長坂長閑、跡部大炊助跡より來る、内藤修理申は、〈○中略〉其方が、それほどによはきむねなる故、くろづらをふりたて、公界をせらる、抑かはゆき子をころされまいらせても、尤三代相恩の主君に、御とがめは申がたし、幸時移、年老ぬ、引籠後生一篇のやうにいたすならば、諸傍輩もあはれみ思ふべし、何ぞ大科をして、ころされまいらせたるむすこの意趣に、主君の御家をほろぼさんことを企て、あれほど强屋形の、しかも御年未三十にもたり給はぬに、色々すゝめ、異見を申、佞人を盡す、越臣范蠡には異なる者也、おのれ佞人を作らぬと、三嶽の鐘をつけ(○○○○○○○)と云、長閑腹をたて、己が分として、某に三嶽の鐘をつけと、百姓あてがひの申樣、口惜き次第也、其方こそ元來工藤源左衞門とて、兄を古信虎公の御手打にきられ申、其後信玄公へ種々輕薄をいたし、御意を取請、今内藤修理に成せられ、二百五十騎の將をするといへども、何方にて何たる手柄をしたると、是非いへと云て、脇指に手をかくる、内藤刀をとつて、さやがらみうたんとす、〈○下略〉

金打

〔倭訓栞〕

〈前編七/幾〉

p.0327 きんちやう 金打の音、かねうつを音にていふ成べし、すべて盟約の時、男子は刀をうち合せ、女子は鏡をうち合するをいへり、

〔安齋隨筆〕

〈前編六〉

p.0328 キンチヤウして誓 土佐國儒士箕浦右源治問云、武士誓キンチヤウすると云ふ事は如何、貞丈答へて云、大小刀をぬいて打ち合せて誓ふ事なり、又問云、此事古代よりありや、答曰、古書に所見なし、信長秀吉の頃以來、武士の大小を帶する風俗也しより、其の事ある歟、又問云、キンチヤウと云ふ文字は如何、答へていふ、古代此の事なし、漢土にもなき事なれば、可レ然字もなし、大小の刀を拔き、兩刀を打ち合する事なれば、金打(キンチヤウ)と書くなり、金と金とを打ち合するといふ義なり、亦問、金打する意は如何、答云もし誓約に違はゞ、如レ此大小刀を打て打折りて、二度大小を帶せざる身と成るべしと誓ふ事なり、

〔甲陽軍鑑〕

〈九上/品第二十三〉

p.0328 信州平澤大門到下等合戰之事
然れば晴信公御母方の伯父、穴山殿三病を御煩にて筋骨をいたみ給ふ故、〈○中略〉晴信公仰らるゝは、留主居なくして不レ叶事なれば、そなたは心易き人といひ、病中と申、さて我等討死におひては、當年五歲になる太郎をもりたて給ふべしと仰らるれば、穴山伊豆守申され候は、尤それはさる事なれども、留主居には甘利備前、飯富兵部手負申て候へ共、さのみ深手にてもなく候へば、此兩人しかも人數たくさんに罷有、其上郡内の小山田方へも我等只今飛脚をさしこし候、跡に思召おかるゝ事は少もこれ有間敷候、就中某煩なれば、行がけの駄賃とやらん下劣の申は是なり、若屋形樣の身に替申べしとて、金打(きんぢやう/○○)をはり(/○○○)、誓文をなされ(/○○○○○○)、無二に先懸をあそばす、〈○下略〉

指切

〔嬉遊笑覽〕

〈六下/兒戯〉

p.0328 又小兒いさかひなどして、中なほり、互に小指を曲て引かくるを、心とけたる驗とす、これを指きりといふもをかし、戀路に指を截るを、いかに心得てしそめしか、指きりは西武獨吟月の出てと、又は、やくそく指きりをする、ゆひくびが露涙、自注に、約束にゆびきりを付るなり、ゆびくひの女は源氏はゝきゞの卷にあり、後撰夷曲集ゆび切や地獄の釜へほつたりとおちようと云は二世のけいやく、安勝この歌行風が旁注に童口遊詞とあり、又小兒約束をして違へじ といふ印に、油證文(○○○)とて、髮の油を指に付て、柱などに押ことあり、證文の印肉よりおもひよれるにや、

誓詞

〔源氏物語〕

〈三十五/若菜〉

p.0329 神佛にも思事申すは、つみあるわざかはと、いみじきちかごと(○○○○)をしつゝの給へば、〈○下略〉

〔後撰和歌集〕

〈十一/戀〉

p.0329 よひに女にあひて、かならずのちにあはんと、ちかごと(○○○○)をたてさせて、あしたに つかはとける、 藤原滋幹
ちはやぶる神ひきかけてちかひてしこともゆゝしくあらがふなゆめ

〔日本書紀〕

〈九/神功〉

p.0329 新羅王遙望以爲、非常之兵、將レ滅二己國一、讋爲失レ志、乃今醒之曰、吾聞東有二神國一、謂二日本一、亦有二聖王一、謂二天皇一、必其國之神兵也、豈可二擧レ兵以距一乎、卽素旆而自服、素組以面縛、封二圖籍一降二於王船之前一、因以叩頭之曰、從レ今以後、長與二乾坤一、伏爲二飼部一、其不レ乾二船柁一、而春秋獻二馬梳及馬鞭一、復不レ煩二海遠一、以毎レ年貢二男女之調一、則重誓之曰、非三東日更出レ西、且阿利那禮河(アリナレカハ)、返以之逆流、及河石昇爲二星辰一、而殊闕二春秋之朝一、怠〈○怠原作忍、據二古本一改、〉廢二梳鞭之貢一、天神地祇共討爲、

〔日本紀竟宴和歌〕

p.0329 得二氣長足姫天皇一 參議大藏卿正四位下平朝臣惟範
日月乃行久、星躔波可者留止毛、新羅乃國波加知波、可和可之、
ひつきのゆくほしのやどりはかはるともしらぎのくにのかぢはかわかじ
このすめら、新羅にむかひたまふときに、そのくにのきみ、おぢわなゝきて、みふねのまへにく だりていはく、いまよりのち、あめつちとゝもに、みむまかひとならむ、ふねかぢをかはかさず むまのくし、むまのむちをたてまつらむ、またちかひていはく、ひむがしのひの、にしにいで、か はのいしのゝぼりて、あまほしにならずよりは、としごとのみつぎものをば、かゝじといへり、

〔日本書紀〕

〈二十/敏達〉

p.0329 十年閏二月、蝦夷數千、寇二於邊境一、由レ是召二其魁帥綾糟(アヤカス)等一〈魁帥者毛人也〉詔曰、惟儞蝦夷者、大足 彦天皇之世、合レ殺者斬、應レ原者赦、今朕遵二彼前例一、欲レ誅二元惡一、於レ是綾糟等攫然恐懼、乃下二泊瀨中流一、面二三諸岳一、漱水而盟曰、臣等蝦夷自レ今以後、子子孫孫〈古語云生兒八十綿連連〉用二淸明心一事二奉天闕一、臣等若違レ盟者、天地諸神及天皇靈絶二滅臣種一矣、

〔日本書紀〕

〈二十五/孝德〉

p.0330 天豐財重日足姫天皇〈○皇極〉四年六月乙卯、天皇、皇祖母尊、皇太子、於二大槻樹之下一、召二集群臣一盟、〈吿二天神地一祇一曰、天覆地載、帝道唯一、而末代澆薄、君臣失レ序、皇天假二手於我一、誅二殄暴逆一、今共瀝二心血一、而自レ今以後君無二二政一、臣無二貳朝一、若貳二此盟一、天災地妖、鬼誅人伐、皎如二日月一也、〉

〔日本書紀〕

〈二十七/天智〉

p.0330 十年十月庚辰、天皇疾病彌留、 十一月丙辰、於レ是左大臣蘇我赤兄臣等〈○中略〉泣血誓盟(テカヒテ)曰、臣等五人隨二於殿下一、奉二天皇詔一、若有レ違者、四天王打天神地祇、亦復誅罰、三十三天、證二知此事一、子孫當レ絶、家門必亡云々、

〔日本書紀〕

〈二十九/天武〉

p.0330 八年五月乙酉、天皇詔二皇后及草壁皇子尊、大津皇子、高市皇子、河嶋皇子、忍壁皇子、芝基皇子一曰、朕今日與二汝等一、倶盟二于庭一、而千歲之後、欲レ無レ事、奈レ之何、皇子等共對曰、理實灼然、則草壁皇子尊、先進盟曰、天神地祇、及天皇證也、吾兄弟長幼幷十餘王、各出二于異腹一、然不レ別二同異一、倶隨二天皇勅一、而相扶無レ忤、若自レ今以後、不レ如二此盟一者、身命亡レ之、子孫絶レ之、非レ忘非レ失矣、五皇子以レ次相盟如レ先、然後天皇曰、朕男等各異腹而生、然今如二一母同産一慈レ之、則披レ襟抱二其六皇子一、因以盟曰若違二茲盟一、忽亡二朕身一、皇后之盟、且如二天皇一、

〔大鏡〕

〈七/太政大臣道長〉

p.0330 帥〈○伊周〉とのゝみなみの院にて、人々あつめてゆみあそばしゝに、このとの〈○道長〉わたらせ給へれば、おもひかけずあやしと、中關白殿おぼしおどろきて、いみじう饗ようし申させ給ひて、下﨟におはしませど、さきにたて奉りて、まづいさせたてまつり給ひけるに、帥殿のやかずいまふたつおとり給ひぬ、中關白殿又御前に候人々も、今二度のべさせ給へと申て、のべさせ給へりけるを、やすからずおぼしなりて、さらばのべさせ給へとおほせられて、又いさせ給ふとて、おほせらるゝやう、道長がいへより御門きさきたち給ふべきものならば、このやあたれ とおほせらるゝに、おなじものゝ中心にはあたる物かは、つぎに帥殿いたまふに、いみじうおくし給ひて、御てもわなゝき候にや、まとのあたりちかくだによらず、無邊世界を射給へるに、關白殿色あをくなりぬ、又入道殿いさせ給ふとて、攝政關白すべきものならば、このやあたれとおほせらるゝに、はじめとおなじやうに、まとのやぶるゝばかりいさせ給ひつ、きやうようしもてはやしきこえさせ給へるけふもさめて、ことにがうなりぬ、ちゝおとゞ帥殿になにかいる、ないそいそとせいせさせ給ひてことさめにけり、入道殿やもどして、やがていでさせ給ひぬ、そのおりは左京大夫とぞ申し、ゆみをいみじくいさせ給ひしなり、又いみじくこのませ給ひしなり、けうに見ゆべき事ならねども、人のさまのいひいで給ふことのおもむきより、かたへはおくせられ給ふなめり、

〔小右記〕

p.0331 長和二年八月四日、昨日主上〈○三條〉令レ密二語右衞門督一給曰、吾相撲日祈二念伊勢太神一、今年始有二相撲一、若寶位可レ無レ動者、左相撲一二三番可レ勝、以レ之可レ知也、而一二三番勝了者、是今日金吾所レ談二資平一也、事緣二希有一所レ記也、件一二三番右皆有レ理者也、就レ中二番縣高平有二取レ手術一、而都無レ所レ取如レ不レ覺也、後日問二高平一、申云、不レ覺無二爲術一、獻術所レ致也者、今承二此事一、且恐且悦、不レ思二相撲之負一、只歡二寶位之久一、

宇氣比

〔倭訓栞〕

〈前編四/宇〉

p.0331 うけひ 日本紀に、誓約ノ字、誓ノ字、祈ノ字などをよめり、又盟をうかふとよむも同じ、請言の義いのりちかふ事をいへり、源氏物語に、こき殿などのうけはしげにのたまふといひ、伊勢物語に、罪もなき人をうけへばといへるは、詛(ノロ)ふ方にいへり、よて眞名本に、呪咀と塡たり、古事記にも、宇氣比死(コロス)と見えたり、

〔倭訓栞〕

〈中編三/宇〉

p.0331 うけひ 請言の義、よて儀式帳に請ノ字をよめり、呪咀又うけふともよめり、〈○中略〉呪はかじり、詛はとこひとよめり、

〔古事記〕

〈上〉

p.0331 爾天照大御神聞驚而詔、我那勢命之上來由者、必不二善心一、欲レ奪二我國一耳、卽解二御髮一、纒二御美豆 羅一而、乃於二左右御美豆羅一亦於二御鬘一、亦於二左右御手一、各纒二持八尺勾璁之五百津之美須麻流之珠一而、〈自美至レ流四字以レ音、下效レ之、〉曾毘羅邇者負二千入之靫一、〈訓レ入云二能理一、下效レ此、自レ曾至レ邇以レ音、〉附二五百入之靫一、亦所二取佩伊都〈此二字以レ音〉之竹鞆一而、弓腹振立而、堅庭者、於二向股一蹈那豆美、〈三字以レ音〉如二沫雪一蹶散而、伊都〈二字以レ音〉之男建〈訓レ建云二多祁夫一〉蹈建而、待問、何故上來、爾速須佐之男命答白、僕者無二邪心一、唯大御神之命以、問二賜僕之哭伊佐知流之事故一、白都良久、〈三字以レ音〉僕欲レ往二妣國一以哭、爾大御神詔、汝者不レ可レ在二此國一而、神夜良比夜良比賜、故以下爲請中將二罷往一之狀上、參上耳、無二異心一、爾天照大御神詔、然者汝心之淸明、何以知、於レ是速須佐之男命答白、各宇氣比(○○○)而生レ子、

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

p.0332 素戔鳴尊對曰、吾元無二黑心一、但父母已有二嚴勅一、將三永將二乎根國一、如不二與レ姉相見一、吾何能敢去、是以跋二渉雲霧一、遠自來參、不レ意阿姉、翻起二嚴顏一、于レ時天照大神、復問曰、若然者、將三何以明二爾之赤心一也、對曰、請與レ姉共誓、夫誓約之中、〈誓約之中、此云二字氣譬(○○○)能美難箇一、〉必當レ生レ子、如吾所レ生、是女者、則可二以爲レ有二濁心一、若是男者、則可二以爲上有二淸心一、於レ是天照大神、乃索二取素戔鳴尊十握劒一、打折爲二三段一、濯二於天眞名井一、 然咀嚼、〈 然咀嚼此云二佐我彌爾加武一、〉而吹棄氣噴之狹霧〈吹棄氣噴之狹霧、此云二浮枳于都屢伊浮岐能佐擬理一、〉所レ生神、號曰二田心姫一、次湍津姫、次市杵嶋姫、凡三女矣、旣而素戔鳴尊、乞二取天照大神髻鬘及腕所レ纒八坂瓊之五百箇御統一、濯二於天眞名井一、 然咀嚼、而吹棄氣噴之狹霧所レ生神、號曰二正哉吾勝勝速日天忍穗耳尊一、次天穗日命、是出雲臣〈士師連等祖也〉次天津彦根尊〈是凡川内直山代直等祖也〉次活津赱根命、次熊野櫲樟日命、凡五男矣、是時天照大神、勅曰、原二其物根一、則八坂瓊之五百箇御統者、是吾物也、故彼五男神、悉是吾兒、乃取而子養焉、又勅曰、其十握劒者、是素戔鳴尊物也、故此三女神、悉是爾兒、便授二之素戔鳴曾一、此則筑紫胸肩君等、所レ祭神是也、

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

p.0332 一書曰、素盞鳴尊將レ昇レ天、〈○中略〉是時天照大神、疑三弟有二惡心一、起レ兵詰問、素盞鳴尊、對曰、吾所二以來一者、實欲二與レ姉相見一、亦欲レ獻二珍寶瑞八坂瓊之曲玉一耳、不二敢別有一レ意也、時天照大神復問曰、汝言虚實、將何以爲レ驗、對曰、請吾與レ姉共立二誓約(タヲンウケイ/○○○)一、誓約之間、生レ女爲二黑心一、生レ男爲赤心一、

〔釋日本紀〕

〈五/述義〉

p.0332 先師説曰、世俗之詞誓言立、此本緣歟、

〔古事記〕

〈上〉

p.0333 木花之佐久夜毘賣、參出白、妾妊身、今臨二産時一、是天神、之御子、私不レ可レ産、故請、爾詔、佐久夜毘賣一宿哉妊、是非二我子一、必國神之子、爾答白、吾妊之子、若國神之子者、産不レ幸、若天神之御子者幸、卽作二無レ戸八尋殿一、入二其殿内一、以レ土塗塞而、方産時、以レ火著二其殿一而産也、

〔日本書紀〕

〈二/神代〉

p.0333 時彼國有二美人一、名曰二鹿葦津姫一、〈亦名神吾田津姫、亦名木花之開耶姫、〉皇孫問二此美人一曰、汝誰之女子耶、對曰、妾是天神娶二大山祇神一所レ生兒也、皇孫因而幸レ之、卽一夜而有レ娠、皇孫未二之信一曰、雖二復天神一、何能一夜之間、令レ人有レ娠乎、汝所レ懷者、必非二我子一歟、故鹿葦津姫忿恨、乃作二無戸室(ウツムロ)一、入二居其内一、而誓之(ウケヒテ/○ )曰、妾所レ娠若非二天孫之胤一、必當二焦滅一、如實天孫之胤、火不レ能レ害、卽放レ火燒レ室、始起烟末生出之兒、號二火闌降命一、〈(中略)火闌降此云二褒能須素里一、〉次避レ熱而居、生出之兒、號二彦火火出見尊一、次生出之兒、號二火明命一、〈○註略〉凡三子矣、

〔古事記〕

〈上/神代〉

p.0333 爾大山津見神、因レ返二石長比賣一而、大恥白送言、我之女並立奉由者、使右長比賣一者、天祚御子之命、雖二雪零風吹一、恒如レ石而常堅不動坐(トキハニカキハニマシマセ)、亦使二木花之佐久夜毘賣一者、如二木花之榮一榮坐宇氣比氐(○○○○)〈自レ宇下四字以レ音〉貢進、此今返二石長比賣一而、獨留二木花之佐久夜毘賣一、故天神御子之御壽者、木花之阿麻比能微〈此五字以レ音〉坐、故是以至二于今一、天皇命等之御命不レ長也、

〔日本書紀〕

〈二/神代〉

p.0333 一書曰、〈○中略〉故磐長姫大慙而誼(トコヒテ/○)之曰、假使天孫不レ斥レ妾而御者(メサマシカハ)、生兒永毒、有下如二磐石一之常存上、今旣不レ然、唯弟獨見御、故其生兒、必如二木華一之移落、一云、磐長姫恥恨而唾、泣之曰、顯見蒼生者、如二木拳一之俄遷轉、當二衰去一矣、此世人短折之緣也、

〔日本書紀〕

〈三/神武〉

p.0333 戊午年九月戊辰、天皇〈○神武〉陟二彼莵田高倉山之巓一、瞻二望域〈○域、印本作城、今從二水戸本一、〉中一、〈○中略〉復有二兄磯城軍一、布二滿於磐余邑一、〈磯此云レ志〉賊虜所レ據、皆是要害之地、故道路絶塞、無レ處レ可レ通、天皇惡之、是夜自祈(ウケヒ)而寢夢、有二天神一訓之曰、宜取二天香山社中土一、〈香山此云二介遇夜縻一〉以造二天平瓫八十枚一、〈平瓫此云二毗邏介一〉幷造二嚴瓫一而敬二祭天神地祇一、〈嚴瓮此云二怡途背一〉亦爲二嚴呪詛一、如此則虜自平伏、〈嚴呪詛此云二怡途能伽辞離一〉天皇祗承二夢訓一依以將行、時弟猾又奏曰、〈○中略〉天皇旣以二夢辭一爲二吉兆一、及レ聞二弟猾之言一益喜二於懷一、乃使二椎根津彦一著二弊衣服乃蓑笠一、爲二老人貌一、又 使二弟猾一、被レ箕爲二老嫗貌一、而勅レ之曰、宜汝二人、到二天香山一、潛取二其巓土一、而可二來旋一矣、基業成否、當以レ汝爲レ占、努力愼焉、是時虜兵滿レ路、難二以往還一、時椎根津彦、乃祈之(ウケヒテ)曰、我皇當二能定二此國一者、行路自通、如不レ能者、賊必防禦、言訖徑去、時群虜見二二人一大咲之曰、大醜乎、〈大醜此云二鞅奈瀰儞句一〉老父老嫗、則相與闢レ道使レ行二人、得レ至二其山一、取レ土來歸、〈○中略〉天皇、又因祈之(ウケヒテ)曰、吾今當下以二八十平瓫(ヒラカ)一、無レ水造上レ飴、飴成則吾必不レ假二鋒刃之威一、坐平二天下一、乃造レ飴、飴卽自成、又祈之曰、吾今當下以二嚴瓫(イツへ)一沈中于丹生之川上、如魚無二大小一、悉醉而流、譬猶二柀(マキノ)葉之浮流一者、〈柀此云二磨紀一〉吾必能定二此國一、如其不レ爾、終無レ所レ成、乃沈二瓫於川一、其口向レ下、頃魚皆浮出、隨レ水噞喁、時椎根津彦見而奏之、天皇大喜、

〔常陸風土記〕

〈行方郡〉

p.0334 古老曰、斯貴瑞垣宮大八洲所馭天皇〈○崇神〉之世、爲レ平二東夷之荒賊一、遣二建借間命一、〈○註略〉引二率軍士一、行略二凶猾一、頓二宿安婆之島一、遙望二海東之浦一、時烟所レ見、爰疑レ有レ人、建借間命仰レ天誓(○)曰、若有二天人之烟一者、來覆二我上一、若有二荒賊之烟一者、去靡二海中一、時烟射レ海而流之、爰自知レ有二凶賊一卽命二徒衆一、褥食而渡、

〔日本書紀〕

〈六/垂仁〉

p.0334 三十四年三月丙寅、天皇幸二山背一、時左右奏言之、此國有二佳人一、曰二綺戸邊一、姿形美麗、山背大國不避之女也、天皇於レ玆執レ矛、祈之(ウケヒテ)曰、必遇二其佳人一、道路見レ瑞、比レ至二行宮一、大龜出二河中一、天皇擧レ矛刺レ龜忽化爲二白石一、謂二左右一曰、因二此物一而推之、必有レ驗乎、仍喚二綺戸邊一、納二于後宮一、

〔古事記〕

〈中/垂仁〉

p.0334 如レ此覺時、布斗摩邇邇占相而(フトマニヽウラヘテ)、求二何神之心一、爾祟出雲大神之御心、故其御子令レ拜二其大神宮一將レ遣之時、令レ副二誰人一者吉、爾曙立王食卜(アケタツノミコウラニアへリ)、故科二曙立王一分二宇氣比(○○○)白一、〈宇氣比三字以レ音〉因拜二此大神一、誠有レ驗者、住二是鷺巢池之樹一鷺乎、宇氣比落(○○○○)、如此詔之時、宇氣比其鷺墮レ地死、又詔二之宇氣比活(○○○○)一爾者更活、又在二甜白檮(アマアシ)之前一、葉廣熊白(ハヒロクマカシ)檮、令二宇氣比枯(○○○○)一、亦令二宇氣比生(○○○○)一、爾名賜二其曙立王一、謂二倭者、〈○者恐老誤〉師木登美豐朝倉曙立王一、〈登美二字以レ音〉

〔日本書紀〕

〈七/景行〉

p.0334 十二年十月、到二碩田國一、〈○中略〉初〈○初原在二皇下一、據二集解説一改、〉天皇將レ討レ賊、次二于柏峽大野一、其野有レ石、長六尺、廣ミ尺、厚一尺五寸、天皇祈之(ウケヒテ)曰、朕得レ滅二土蜘蛛一者、將レ蹶二玆石一、如二柏葉一而擧焉、因蹶レ之則如二柏葉一〈○葉〉 〈字原脱、據二一本一補、〉上二於大虚一、故號二其石一曰二蹈石一也、是時禱神、則志我神、直入物部神、直入中臣神、三神矣、〈○又見二豐後風土記一〉

〔日本書紀〕

〈九/神功〉

p.0335 九年〈○仲哀〉四月甲辰、北到二火前國松浦縣一、而進二食於玉島里小河之側一、於レ是皇后勾レ針爲レ鈎、取レ粒爲レ餌、抽二取裳糸一爲レ緡、登二河中石上一、而投レ鈎祈之曰、朕西欲レ求二財國一、若有レ成レ事者、河魚飮レ鈎、因以擧レ竿、乃獲二細鱗魚一、時皇后曰、希見物也、〈希見、此云二梅豆邏志一、〉故時人號二其處一曰二梅豆羅國一、今謂二松浦一訛焉、是以其國女人、毎レ當二四月上旬一、以レ鈎投二河中一捕二年魚一、於レ今不レ絶、唯男夫雖レ鈎以不レ能レ獲レ魚、〈○中略〉皇后還詣二橿日浦一、解レ髮臨レ海曰、吾被二神祇之敎一、賴二皇祖之靈一、浮二渉滄海一、躬欲二西征一、是以今頭沐二〈○沐原作レ、濮據二一本一改、〉海水一、若有レ驗者、髮自分爲レ兩、卽入レ海洗之、髮自分也、皇后便結二分髮一而爲レ髻、〈○中略〉 九月爰卜二吉日一、而臨レ發有レ日、〈○中略〉于レ時也、適當二皇后之開胎一、皇后則取レ石插レ腰、而祈之曰、事竟還日、産二於玆土一、其石在二于伊都縣(イトノ)道邊一、〈○又見二古事記一〉

〔釋日本紀〕

〈十一/述義〉

p.0335 筑前國風土記曰、怡土郡兒饗野、〈在二郡西一〉此野之西、有二白石二顆一、〈一顆長一 尺二寸、大一尺、重卌一斤、一顆長一尺一寸、大一尺、重卌九斤、〉曩者氣長足姫尊、欲レ征二伐新羅一、到二於此村一、御身有レ姙、忽當二誕生一、登時取二此二顆石一、插二於御腰一、祈曰、朕欲二西堺一、來著二此野一、所レ姙皇子、若此神者、凱旋之後誕生、其可、遂定二西堺一還來卽産也、所レ謂譽田天皇是也、時人號二其名一曰二皇子産(ウミ)石一、今訛謂二兒饗石一、

〔日本書紀〕

〈九/神功〉

p.0335 爰伐二新羅一之明年、〈○中略〉時麛坂王、忍熊王、共出二莵餓野一、而祈狩(○○)之曰、〈祈狩、此云二于氣(○○)、比餓利(○○○)一、〉若有レ成レ事、必獲二良獸一也、二王各居二假 (サスキ)〈○假 古事記作二歷木一〉赤猪忽出之、登二假 一、咋二麛坂王一而殺焉、軍士悉慄也、忍熊王謂二倉見別一曰、是事大恠也、於レ此不レ可レ待レ敵、則引レ軍更返、屯二於住吉一、

〔萬葉集〕

〈四/相聞〉

p.0335 大伴宿禰家持更贈二大孃一歌二
都路乎(ミヤコヂヲ)、遠哉妹之(トホミヤイモガ)、比來者(コノゴロハ)、得飼飯(ウケヒ/○○○)而雖宿(テヌレド)、夢爾不所見來(ユメニミエコヌ)、

探湯

〔倭訓栞〕

〈前編八/久〉

p.0335 くがだち 日本紀に、探湯また盟神探湯をよめり、或埿納レ釜煮沸、攘(カヽケ)レ手探二湯埿一或燒二斧火色一、置二于掌一と見ゆ、今の御湯花の言ノ本なるべし、眞臘風土記に、以レ鍋煎レ油、待レ沸探レ之といふに近 し、

〔論語集解義疏〕

〈八〉

p.0336 孔子曰、見レ善如レ不レ及、見二不善如レ探レ湯(○○)、〈○中略〉疏、〈云見二不善一如レ探レ湯者、若見二彼不善者一、則己急宜二畏避一、不二相染入一、譬如四人使三己以レ手探二於沸湯一爲也、〉

〔鹽尻〕

〈四十七〉

p.0336 沸湯を探り火を握らしめて虚實を驗み侍るは、吾邦上古よりありて、探湯の誓ひ盛んに行はれし事、日本紀等に見え侍り、されば義楚が西域の古法成よしをしるし侍る、南齊書には、扶南國の風俗をくはしくのせ侍る、皆外國の業にぞ、

〔日本書紀〕

〈十/應神〉

p.0336 九年四月、遣二武内宿禰於筑紫一、以 二察百姓一、時武内宿禰弟甘美内宿禰、廢レ兄卽讒二言于天皇一、武内宿禰、常有下望二天下一之情上、〈○中略〉時武内宿禰獨大悲之、竊避二筑紫一、浮レ海以從二南海二廻之、泊二於紀水門一、僅得レ逮レ朝、乃辨レ無レ罪、天皇則推三問武内宿禰、與二甘美内宿禰一、於レ是二人、各堅執而爭之、是非難レ決、天皇勅之、令下請二神祇一探湯(○○○○)上、是以武内宿禰、與二甘美内宿禰一、共出二于磯城川濱一爲二探湯一、武内宿禰勝之、

〔古事記〕

〈下/允恭〉

p.0336 於レ是天皇、〈○允恭〉愁二天下氏氏名名人等之氏姓忤過一而、於二味白檮之言八十禍津日前(アマカシノコトヤソマガツヒノサキ)一、居二玖訶瓮一而、〈玖詞二字以レ音〉定二賜天下之八十友緖氏姓一也、

〔古事記傳〕

〈三十九〉

p.0336 玖珂瓮(クカへ)、玖珂(クカ)は、書紀に、盟神探湯此云二區詞陀智(クカダチト)一とある如く、熱湯中に手を漬探りて、神に盟ふ事(ワザ)をするを云、〈陀智(ダチ)は、役(ダチ)などの陀智(ダチ)にて、凡て其事に趣くを、某(ナニ)に立(ダツ)とも、某立(ナニダチ)とも云こと、昔も今も多し、さて探湯(クカダチ)は、詞(カ)を淸(スミ)、陀(ダ)を濁る言なるを、詞(カ)を濁り、陀を淸〻て讀ムば非なり、(中略)湯を採て誓ふ事、から書にも見えたり、〉垂仁卷に、中臣連祖探湯主(クカヌシ)と云人名も見ゆ、〈日本紀竟宴集に、此天皇を甘樫乃丘乃久可太知支與介禮波爾己禮留多見毛可波禰數末之幾(アマカシノヲカノクカダチキヨケレバニゴレルタミモカバ子スマシキ)、また、萬賀布宇智遠久可倍溫須惠傳和玖能美箇王多濃當摩讃部安羅波禮仁計驪(マガフウヂヲクカヘヲスエテワクノミカワタノタマサヘアラハレニケリ)、かの武内宿禰を川久之弊天久可多智世之爾支與支見波武與乃頌(ツクシヘテクカダチセシニキヨキミハムヨノス)め良爾都(ラニツ)か弊支爾計利(ヘキニケリ)、〉瓮(へ)は其探湯立(クカダチ)の湯を沸す釜(カナヘ)なり、〈閉(へ)と云は、此類の器の惣名にて、加那閉(カナへ)は金瓮(カナへ)なり、鍋は、魚菜(ナ)を煮る瓮(へ)なり、其外某瓮(ナニへ)と云名多し、〉さてかく其瓮(へ)を居(スエ)たることばかりを云て、探湯(クカダチ)せし事をば略きて云ハざるは、古又の(イニシヘブミ)さまなり、〈大祓詞に、天津金木を打切と云て、其を置座(オキクラ)に造ることをば云ずて、直に置座に置定はしと云るなどゝ同じ格なり、〉

〔日本書紀〕

〈十三/允恭〉

p.0336 四年九月戊申、詔曰、群卿百寮及諸國造等、皆各言、或帝皇之裔、或異之天降、然三才顯 分以來、多歷二萬歲一、是以一氏蕃息、更爲二萬姓一、難レ知二其實一、故諸氏姓人等、沐浴齋戒、各爲二盟神探湯、則於二味橿丘之辭禍戸砷(ムマカシノヲカノコトノマカトノサキ)一、坐二探湯瓮(クカへ)一、而引二諸人一令レ赴曰、得レ實則蚕、僞、者必害、〈盟神探湯、此云二區訶陀智一、或埿(埿原作レ渥、據二書紀集解説一改、)納レ釜煮沸攘レ手探二塰壁一、或燒二斧火色一置二予掌一、〉於レ是諸人各著二木綿手繦一、而赴レ釜探湯、則得レ實者自全、不レ得二實者皆傷、是以故詐者愕然之、豫退無レ進、自レ是之後、氏姓自定、更無二詐人一、

〔弘仁私記序註〕

p.0337 雄朝妻穉子宿禰天皇〈○允恭〉御宇之時、姓氏紛謬、尊卑難レ決、因坐二臼橿丘一令レ探二熱湯一、定二眞僞一、今大和國高市郡有レ釜、卽是也、

〔日本書紀〕

〈十七/繼體〉

p.0337 二十四年九月、任那使奏云、毛野臣、遂於二久斯牟羅一、起二造舍宅一、淹留二歲、〈○註略〉懶レ聽レ政焉、爰以日本人與二任那人一、頻以二兒息一諍訟難レ決、元無二能判一、毛野臣、樂置二誓湯(ウケヒユ)一曰、實者不レ爛、虚者必爛、是以投レ湯、爛死者衆、

湯起請

〔運歩色葉集〕

〈遊〉

p.0337 湯起請〈武内臣舍弟甘美内之宿禰何事二應神天皇一、甘美内宿禰致レ讒、依レ之銅湯入手決レ之、武内臣手不レ損、甘美内之手忽損落也、湯起請自レ此姑也、八幡放生記、〉

〔建武式目追加〕

p.0337 一江州田上杣庄與二國牧庄一山堺相論湯起請文事、兩方載下號二根本堺一牓示之名計上、可レ被レ書レ之歟、
永享十一年五月廿日 右衞門尉貞政〈○以下人名略〉

〔看聞日記〕

p.0337 應永卅二年八月廿四日、行豐朝臣參二得度一以後、初見參、明盛も參、彼庭中事、委細申二刀自三條一、〈八十計之老者也〉其代官之刀自ガ夫ニ、金澤ト云物庭中申、此間有二訴訟申事一、仍爲レ蒙二勸賞一、就今參レ局、〈主上御寵愛〉庭中申委細載二目安一、而今參、伏見殿御事ト披露申云々、以外有二逆鱗一、仙洞、室町殿へ被レ申之間、則彼輩被二召捕一畢、廣橋永藤卿、所司代等召問之間、刀自〈金澤妻〉申云、三條(刀自)、年來大覺寺殿爲二御師一御祈申き、其を金澤有二訴訟一事、爲レ蒙二勸賞一庭中申也、伏見殿御事トハ、初ヨリ申タル事更ニナシ、總而自二伏見殿一御祈事、不レ奉之間、不二存知申一之由、明鏡ニ申披畢、仍三條ハ永被レ放、刀自不レ可レ被二召仕一云々、代官刀自ハ可レ被二追放一云々、刀自夫民部少輔重季〈同院諸大夫〉以下兩三人、侍所ニ召置、庭中申金澤をば、被二籠舍一可レ被レ斬 歟之由有二沙汰一、自二内裏一ハ猶御不審相殘、彼等可レ被二糺問一哉、又湯起請可レ被レ書哉之由、有二御渉汰一云々、〈○下〉

〔離宮八幡宮文書〕

〈二〉

p.0338 就二八幡宮曰使頭役之事一、度々示給候、所詮來八月十六日已前、於二離宮神前一、以二湯起請一可レ令二落居一旨、堅申付由、村々若過二日限一候者、可レ處二罪科一候、此段神方〈江〉可レ被二仰遣一候、恐々謹言、
七月晦日 勝元〈花押〉
山名彈正殿〈進之〉

火起請

〔徒然草諸抄大成〕

〈十六〉

p.0338 比叡山に大師勸請の起請文といふ事は、慈惠僧正書始給ひけるなり、〈(中略)又貞德曰、或時比叡山中堂ノコガ子ノアブラツキノ失シ時、火起請(○○○)行ヒテ、手ノヤケタルモノヲキラレシ、其後京都ニアリシ盜人ヲ千本ニテキラレシニ、其盜人先年中堂ノアブラタキモ我取シナリ、手ノヤケタル者ハトラザリシト語リシヨリ、火起請ハ世ニ行レズト、外記ノ道白カタラレ侍シ、サレドモ秀吉ノ御代ニ、德本トイフモノ弟ニサヽヘラレ、兄弟北野ニテ火起請ヲトラセラル、弟ノミ手ヤケテ、兄ノ德本ガ手ハスコシモヤケザリシ事侍リキ、ツラ〳〵是チ案ズレニ、日本ノ政ニハ誓文起請ナクテカナハヌ義ナリ、佛神罰利生ナキト思ハバ、惡人多ク出テ、末世ノ凡夫イヨ〳〵ウヤマヒタツトブ事ヲシラズ、ソシリアナドル心ハヤクツキテ、運命ノウスグナルヲモシラズ、凶年ノ來リテ病トリツキ、壽命ノヲヾマルヲモワキマヘズ、アサ、マシキ人ノミナリ、目ニミヘヌ佛神ハ目ニ見ヘヌ人ノ運命ヲ又ヨクソフルモノナリ、○下略〉

〔松陰私語〕

〈二〉

p.0338 其後十日以後參陣申處、印東殿聞淸軒急陣へ走入、先度御穩密之御書申請進處、子細條條依二上意一申二閉目一、又承旨誓詞以下致二披露一、夜陰及鳥山方へ懸入、上意之趣樣々如レ此〈與〉謳岡而陣中不レ憚、訇懸而歸陣、狂氣歟物狂歟、不二只事一御動也、依レ其鳥山奉レ恨二上意一、陣所懸レ火、三百餘騎退陣、倂貴邊所行也、於二殿中一各被二申上一、疾々可レ有二歸陣一也、我々迄可レ失二面目一也、上意御憤不二尋常一、以外也、貴所者、生涯歟、遠島歟、不レ可レ過二兩條一與、殿中之面々同心ニ被二申上一與、指詰引詰被二相責一、且レ元覺悟之前成者、少不二相驚一、不レ變レ色、不二動天一、一向不レ致二存知一、可レ有二御 迹一歟、少モ於レ身有二其誤一、只今急參上可レ申候哉、曾以不レ致二存知一故、參陣申也、御兩所御指南、可レ爲二御不性一奉レ望、一切不レ誤子細以二火湯之兩誓(○○○○○)一可二申明一也、於二其上一少モ相誤者、奉レ望二御證人一、於二御陣下一且方爲二代官一自殺仕、可レ殘二其浮名後代一也、不レ誤次第、三熊野牛王、飜レ之、先以 誓詞可二申上一、御上達奉レ望申、不レ及二覺悟一〈與〉申拂而、兩人被レ立二座敷一、不レ限二當方一之不肖、奉レ望三奏者達二上聞一、不二珍敷一其時者、一向ニ罷二失面目一對目也、不レ誤二子細一可レ預二御披露一與、兩人之袖ヲ引而申、不レ被レ及二兎角子細一條、於二此儀不一レ被レ達二上聞一者、此御陣下ヲ金山へ不レ可レ退、八幡モ照覽與瞋而申、身命之安危不レ可レ遁與云儘、押祖見與兩人立留不レ及二是非一、以二誓詞一先可レ有二言上一被レ申間、飜二寶卽一言上、敬白起請文之事、先度御書拜領之上、鳥山陣所懸入、上意如レ此與爲レ申子細全無レ之、若此旨僞者、何々與神名以下振二文筆一言上、但心中之祈念者、上天下界之神祇、殊者當家守護、八幡大菩薩、於二本性一不レ誤二一旦之忘言一也、

神水

〔奧儀抄〕

〈中ノ下〉

p.0339 萬葉集歌
神さびのよるべにたまるあまみづのみくさゐるまでいもを見ぬかも
これは、神社にかめをゝきて、それなる水を、なき事などおひたるものは、神水とてこれをのむ也、たゞすの社〈○賀茂〉などにいまもあり、和泉式部歌にも、
神かけてきみはあらがふたれかさはよるべにたまるみづといひけん
又源氏のあふひのうへの歌云、
さもこそはよるべの水(○○○○○)にかげたえめかけしあふひをわするべしやは
これらも、かのかめのみづをよむなり、

〔倭訓栞〕

〈前編三十六〉

p.0339 よるべのみづ 奧義抄に、神社に神水とてありといへり、一説に、賀茂に限りたる事といへり、されど神に諸願を祈るよるべにいひかけ、又祈レ戀の歌によめるは子細なしともいへり、河州こんだの八幡には池に名けり、西土には立春日貯レ水、謂二之神水一と、四時纂要に見えたり、
神かけて君はあらがふ誰かさはよるべにたまる水といひけん、俊成卿、定家卿は、たゞ緣あ る水の意に用ゐられたり、

〔備陽記〕

〈二十〉

p.0340 備前國戰場之事
一舟津原之巳午ノ方ニ誓紙ノ井(○○○○)アリ、甚淺シトイヘドモ、苔ノ滴リ不レ止シテ、四季トモニ水ツクルコトナク、所ノ用水トス、夏ハ冷水バカリナリ、冬ハ温ニシテ湯ノ如シ、昔盛綱兒島ヲ給リ、入部ノ時、家臣ヲ集テ被レ申シハ、彌以此後二心有間敷ト、各神水ニテ誓セシ時、此井ノ水ヲ用ユル故、誓紙ノ井ト名付ルト云傳ル由、

〔古今著聞集〕

〈五/和歌〉

p.0340 鳥羽法皇の女房に、小大進といふ歌よみ有けるが、待賢門院の御方に、御衣一重うせたりけるをおひて、北野にこもりて、祭文かきてまもられけるに、三日といふに、神水をうちこぼしたりければ、撿非違使、これに過たる失やあるべき、いで給へと申けるを、小大進泣々申やう、おほやけの中のわたくしと申はこれなり、今三日のいとまをたべ、それにしるしなくば、われをぐしていで給へと、打なきて申ければ、撿非違使も哀に覺て、のべたりける程に、小大進、
思ひいづやなき名たつ身はうかりきとあら人神になりしむかしを〈○下略〉

〔源平盛衰記〕

〈四〉

p.0340 鹿谷酒宴靜憲止二御幸一事
近藤左衞門尉師高、キリ者也ケレバ、撿非違使五位丞マデ成テ、安元元年十一月廿九日ニ、追儺ノ除目ニ、加賀守ニナル、〈○中略〉
涌泉寺喧嘩事
目代師經在國ノ間、白山中宮ノ末寺ニ涌泉寺ト云寺アリ、國司ノ廳ヨリ程近キ所也、彼山寺ノ湯屋ニテ、目代ガ舍人馬ノ湯洗シケリ、僧徒制止シテ、當山創草ヨリ以來、イマダ此所ニテ牛馬ノ湯洗無二先例一ト云ケレドモ、國ハ國司ノ御進止ナリ、誰人カ可レ奉レ背二御目代一トテ、在俗不當ノ輩散々ニ惡口ニ及テ、更ニ承引セザリケレバ、狼藉也トテ、涌泉寺ノ衆徒蜂起シテ、目代ガ馬ノ尾ヲ切、足打折、舍人ガソクビヲ突、寺内ノ外へ追出ス、此由角ト馳吿ケレバ、目代師經大ニ憤ツテ、在廳國人等 ヲ驅催シテ、數百人ノ勢ヲ引率シテ、彼寺ニ押寄テ、不日ニ坊舍ヲ燒拂、〈○中略〉八院三社ノ太衆、三寺四社ノ衆徒、不日ニ衆會シテ僉議シテ云、謹テ白山妙理權現ノ垂跡ヲ尋奉レバ、日本根子高瑞淨足姫御宇〈○元正〉養老年中ニ、鎭護國家ノ大德神、融禪師行出シ給テ、星霜旣ニ五百歲ニ及テ、効驗于レ今新ナリ、日本無雙ノ靈峯トシテ、朝家唯一ノ神明也、而ヲ目代師經程ノ者ニ、末寺一院ヲ被二燒亡一テ、非レ可二默止一、此條モシ無沙汰ナラハ、向後ノ嘲不レ可二斷絶一、
白山神輿登山事
糺斷遲々ノ上ハ、神輿ヲ本山延曆寺ニ奉二振上一訴申サンニ、大衆定贔負セラレバ、訴訟爭カ不レ達、若目代師經ニ被レ枉テ、理訴非ニ被レ處者、我、寺々ニ跡ヲトヾムベカラズト儀定シテ、各白山權現ノ御前ニシテ、一味ノ起請ヲ書(○○○○○○○)、灰ニ燒テ(○○○○)、神水ニ浮メテ呑レ之(○○○○○○○○)、身ノ毛竪テゾ覺ケル、

〔八幡愚童訓〕

〈下〉

p.0341 伊豫國住人河野六郎通有〈○有原作レ宗、操二一本一改、〉異賊警固爲、本國立シ時、十年中蒙古不二寄來一者、異國渡テ可二合戰一起請文十枚マデ書、氏神三島社ヲシテヲ灰ニ燒テ自飮ナドシテ、此八ケ年マデ相待處、得二其時一、是身幸ニ非ヤト勇テ、兵船二艘ヲ以テ押寄タリシ程、蒙古放レ矢究竟郎等四五人被二射臥一、所レ憑伯叔サへ手負臥テ、我身石弓ニ左肩ヲツヨク被レ打、可レ挽レ弓及予バ、片手拔二太刀一モテ、帆柱行〈○行恐仆誤〉テ、蒙古ノ船指カケ、思切テゾ乘移、散々ニ切廻、多敵首共トリ、其中大將軍ト覺テ、玉冠キタリケル者ヲ生捕テ、前ニシメツケテ歸ケル、

〔東寺百合文書〕

〈は之部一至廿四〉

p.0341 東寺御領若狹國太良庄百姓等謹言上
欲下早被レ改二當地頭御代官一以二正直憲法御使一可レ有二御年貢物御收納一由被中仰下上子細事
右於二當庄御所務一者、以住御下知分明之上者、爭百姓等違二先例一、可レ構二申虚言一之哉、然而當地頭御代官者、爲二當庄末武名主職一之、往古御公事通乍二御存知一之、違二先規一二二張二行非法一之間、百姓等佗傺之條不便次第也、且當御領御一圓之上者、成二百姓等悦喜思一、開二喜悦眉一處、曾以御寬宥之儀無レ之、凡於二當御公事 等一者、超二過往古御例幷前代之時一、被レ責二仕百姓等一條、無レ術次第也、凡當時望二西秋之期一、依レ不レ絶二愁吟之勤一、子細恐々言上、〈○中略〉
以前條々大概如レ斯、就レ中當地頭御代官脇袋殿當庄御庄務先例、幷寬元寶治永仁御下知狀等及二御和與狀一、皆以乍レ有二御存知一之、令レ違二往古之御例一、將又背二前代關東御領之例一、悉以被レ張二行非法横法一之上者、早被レ改二當地頭御代官一之、以二御憲法之御使一、御年貢可レ有二御收納一之旨、爲レ被二仰下一之、百姓等一味神水仕、恐々言上如レ件、
建武元年八月

〔大乘院寺社雜事記〕

p.0342 文正二年三月一日、一就二德政事一、木津土民致二緩怠一之間、來月ニ可レ有二發向一之由、寺門一同及二神水一、

〔相州兵亂記〕

〈四〉

p.0342 高野臺合戰之事
武州江戸ノ住人ニ太田源六資高ト云人、大力剛兵ノ譽レ八州ニ双ビナシ、〈○中略〉其ノ弟ニ太田源三郎、同源四郎トテ、大力ノ兵ドモアツマリテ云ケルハ、〈○中略〉イザヤ同名美濃守入道三樂齋ト相談シ、房州ノ里見義弘ト引合、江戸ノ城ヲ責落シ、永ク豐島郡ヲ知行シテ、本ヨリ道灌ノ跡ヲツイデ、江戸ノ城ヲトルベシト思フハ如何ニト云ケレバ、二人ノ弟ドモ最可レ然トゾ進ミケル、此程ノ大事ナレバ、左右ナクハ云ハジトテ、彼源六郎ガ菩提ノ寺、法音寺ト云法華寺ノ番神堂ニ集リ、神水ヲ呑ミ、此事思定メヌレバ二度返スベカラズト敬白シ、扨太田三樂方へ此由ヲ云ツカハス、

〔松陰私語〕

〈一〉

p.0342 源慶〈○新田明純〉大驚思召條、〈○中略〉入道老後之無二首尾一、對二他家一至二于末代一、本意之外也、然者一味同心可レ致二神水一之由被二恵召立一、同〈○明應三年〉七月廿三日金山悉招上、御神水之旨三箇條也(○○○○○○○○○)、其詞云、
一都鄙之大途之外、他家爲二合力一、不レ可レ出二當方之勢衆一事、
一背二此旨一、他家合力者、雖レ爲二一子之兵庫一、號二不孝一、永可レ致二勘當一事、 一於二當方一定置壁書條々有レ之、國繁爲二代官一執行、爲二廉直旨一、公私可レ致二諸沙汰一事、
右條々、其誓詞曰、上天下界之神祇以下如レ常、如レ此先祖斷而被二定置一、破二誓言一而他家之合力、更以非二當方之家訓一、私會釋之車馬乎、太以不レ可レ然者也、但於二都鄙之大途一者、可レ奉レ守二其言一者也、明純御父子神水之御座無二御出御(○○○○○○○○○)一、依レ之御父子共御儀絶、〈○下略〉

〔松陰私語〕

〈二〉

p.0343 源慶院殿被二定置一三箇條御神水之先言、都鄙上意之外ニ、爲二他家合力一、當方之衆不レ可レ出之旨、以二神誓一被二仰定一、各乍二存知一不レ被レ守二其先證一事者、不レ可レ然歟、各以自專之儀、破二先賢之制訓一者、天道可レ有レ之也〈○下略〉

〔藤葉榮衰記〕

〈下〉

p.0343 須賀川上下神水之事
爾程ニ、須賀川御旗本衆二心ナク、上下志ヲ一ツニシテ、殘ラズ登城アリテ被レ申ハ、西方衆草ノ風ニ靡クガ如ク、正宗へ皆ナ思寄ケレバ、當地ノ人ノ心ヲ我レ存ゼズ、又膝ヲ交エ肩ヲ雙ブル傍輩モ、某ガ心ヲ不レ可レ被レ知、今度無二二心一命ヲ捨テ、伊達勢ニ向ヒ防ギ戰ヒ、武勇ノ働キヲセラレント被二存詰一衆ハ、身不肖ナリト云トモ、志ヲ一筋ニ守リ、心底ヲ白地ニ顯ハシ、誓又ヲ以テ互ニ傍輩ノ中、疑心ナク一味同心ニ合戰シテ、我モ人モ討死センニハ、何ノ恨力有ラント云ケレバ、此儀可レ然トテ、千用寺秀藝法印ト如林寺明良法印ト、兩寺登城有テ、明良法印誓文ヲ遊シ(○○○○○)、熊野ノ牛王ヲ灰ニ燒テ酒ニ呑ケル(○○○○○○○○○○○○○○○)時ニ至テ、誰人モ飮始ル方ナク、小時滯リケル處ニ、濱尾三河守被申レハ、此酒只今ノ内此へ被レ參タル程ノ人、上下共ニ呑ザルハ一人モ有マジ、早ク呑タル者ハ罰ヲ蒙ムリ、遲ク呑タル人ハ神罰ヲ不レ當ザルニハアラズ、前後ノ吟味モ不レ入、盃ノ鱧モ不レ可レ入ル也、然リト云ドモ天正九年七月廿三日ニ、盛義御遠行ヨリ以來、當年九月ニ至リ、指引御仕置等萬事濃州次第ニ候得バ、貴殿御呑初メ、須賀川衆ハ何レモ次第不同ニ被レ呑テ可レ然存ルナリト被レ申ケレバ、濃州聞給テ、尤ノ儀ナリ、左アラバ某呑テ各へ進上トテ、下戸ナレドモタブ〳〵一ツ請テ呑給ヒケレバ、其後 御旗本衆進出テ、廣言吐テ呑給ケレバ、町人下々迄勇ミ進ンデ不レ殘呑ニケリ、

起請文/名稱

〔下學集〕

〈下/態藝〉

p.0344 起請(キシヨウ) 誓文(セイモン/○○)

〔運歩色葉集〕

〈幾〉

p.0344 起請

〔易林本節用集〕

〈幾/言辭〉

p.0344 起請文(キシヤウモン)

〔野槌〕

〈下四〉

p.0344 起請文と云事、もろこしに盟誓をたてゝ、牛馬の血をすゝり、其詞を記して、土にうづみ、約する處、若そむけば、此牛のごとく、きりほふらるゝ罪にあだらんと、諸神にちかふ也、〈○中略〉日本紀に、誓約の字をうけひとよめり、起請の字、是訓によりて、うけをたつる(○○○○○○)といふにや、なをおぼつかなし、

〔松の落葉〕

〈四〉

p.0344 起請
續日本後紀十二の卷、承和九年のくだりに、大宰大貳上二奏四條起請一といふことあり、其四條を見ゐに、みなもとしか〳〵せしことをあらためてかう〳〵せんとこへるなり、發起して請ふこゝうにぞありける、今の世にちかふこゝうにいふは、いたくたがへり、

〔貞丈雜記〕

〈九/書札〉

p.0344 一起請文と云ふ事は、事を發起して、主君へ請ひ願ひ奉る狀の事也、三代實錄に見たる小野春風が起請、不慮の用心の爲に、御調物に奉る布を以て、保侶一千領と糒袋とを作り置きたき由請ひ奉りし文也、又誓詞を書きのべたる起請文(○○○○○○○○○○○○)も、神佛へ對し、神罰佛罰を請ひ奉る文也、佛神に對しての起請文は、慈惠僧正より始りし也、

〔世事百談〕

〈H 起請
徒然草に、起請文といふこと、法曹にはその沙汰なし、いにしへの聖代、すべて起請文につきて行はるゝ政はなきを、近代此事流布したるなり、〈○中略〉〉

〔官職制度考〕

〈五/制度〉

p.0344 堅メ(○○) 堅と云事有、大小となく官人と成時は、其官夫々取計ひ樣の條目あり、其掟條目の通り堅相守り、奉レ職無狀有まじきとの誓約して、神文に血判する、是を堅と云、其堅の不レ濟しては、官の密事簿書簡牘等披閲する事を不レ免、事を取調する事ならず、此神文は慶長十八年五月、東照神祖、浮屠氏に命じて、文を作らしめ、天下に詢達す、神文式あり、世の人知る所なれば不レ贅、〈○下略〉

起請文起原

〔平田寺文書〕

p.0345
絁伍佰疋 綿壹千屯 布壹仟端
稻壹拾萬斤 墾田地壹佰町
以前、捧二上件物一、以二花嚴經一爲レ本、一切大乘、小乘、經律、論抄、疏章等、必爲二轉讀講説一、悉令二盡竟一、遠限二日月一、窮二未來際一、敬二納彼寺一、永爲二學分一、依二此發願一、太上天皇沙彌勝滿〈○聖武天皇〉諸佛擁護、法藥薫質、萬病消除、壽命延長、一切所願、皆使二滿足一、令二法久住一、拔二濟群生一、天下太平、兆民快樂、法界有情、共成二佛道一
復誓、其後代、有二不道之王、邪賊之臣一、若犯若破、障而不レ行者、是人必得下破二辱十方三世諸佛菩薩、一切賢聖一之罪上、終當下落二大地獄、無數劫中、永無中出離上、復十方一切諸天、梵王帝釋、四天大王、天龍八部、金剛密跡、護法護塔、大善神王、及普天率土有二大威力一天神地祇、七廟尊靈、幷佐命立功大臣將軍之靈等、共起二大禍一、永滅二子孫上、若不二犯觸一、敬二勤行一者、世世累レ福、紹二隆子孫一、共出二塵域一、早登二覺岸一、
天平感寶元年閏五月廿日
勅
奉 勅
正一位行左大臣兼太宰帥橘宿禰諸兄
右大臣從二位藤原朝臣豐成
大 僧 都 法 師 行 信

〔古今著聞集〕

〈十六/興言利口〉

p.0345 賀緣阿闍梨と聞えし人、何事の意趣の有けん、慈惠僧正を濫行肉食の人た るよし、不實利口を申たりけるを、僧正かへりきゝ給て、いきどほりて、起請文を書て、三塔に披露せられけり、其詞に云、
若謂レ令三破戒無慙之僧住二持天台座主一者、恐貽二狐疑於先賢一、方致二狼藉於後輩一者歟、因レ玆今對二三寶一披二 陳此事一、
持律の人に、そら事を申付たるむくいとて、くるひありきけるとぞ、起請のおこりこれなり(○○○○○○○○○○)、

〔徒然草〕

〈下〉

p.0346 比叡山に、大師勸請の起請といふ事は慈惠僧正書始給ひけるなり、起請文といふ事、法曹にはそのさたなし、いにしへの聖代、すべて起請文につきて行はるゝ政はなきを、近代此事流布したる也、又法令には、水火に穢をたてず、入物にはけがれあるべし、

起請文制度

〔御成敗式目追加〕

p.0346 一諸人相論事
右證文顯然之時者、不レ及二子細一、若證文不二分明一者、可レ致レ叙二用證人申狀一也、又證文顯然之時者、證人申狀不レ能二叙用一歟、又證文與二證人一共以不二分明一者、可レ及二起請文一歟、證文證人顯然之時者、不レ及二起請文一也、

〔新御式目〕

p.0346 政務事〈正應六五廿五(五一本作レ七)評〉
任二先例一可レ被レ召二評定引付衆、幷奉行人等起請文一、且不レ可レ取二賄賂一之由、可レ被レ召二奉行人誓狀(○○)一、於二無足之輩一者、可レ有二御恩一、至二廉直之仁一、可レ致二賞翫一歟、

〔殿中申次記〕

p.0346 定申次御法條々
一依二歡樂一不參之時者、兼日以二誓文狀(○○○)一、可レ被レ申レ之、〈○中略〉
正月朔日 長祿二戊寅 御對面記

〔憲敎類典〕

〈三ノ十四/病氣〉

p.0346 慶安五壬辰年
御供番之時、御番衆煩之節、組頭〈江〉斷狀、
一筆致二啓上一候、私義明日之御供番ニ可二罷出一候得共、何煩ニ而、日木之神、御供番可二相勤一體ニ無二御座一 候間、御斷申入候、恐惶謹言、
右は御書付ニ而者無レ之候間、取調之上可二相除一候、
慶安五壬辰年
親類緣者煩ニ付而、御番衆組頭〈江〉斷狀、
一筆致二啓上一候、私義明日之御番可二罷出一候得共、何親類以之外相煩、難二見放一體ニ御座候、日本之神、右之通僞ニ而無二御座一候間、御斷申入候、恐惶謹言、
右ハ被二仰出一候御書付ニ而ハ無レ之候間、取調之上可二相除一候、
慶安五壬辰年
長病ニ而小普請出候事〈○中略〉
一病者ニ候まゝ、小普請ニ入申度由被レ申候ハヾ、樣子承、其上以誓小普請出し可レ申事、〈○中略〉
一病後御番計相勤、御供番斷之衆、五ケ月過候ハヾ、被レ致二誓紙一候樣に可二申渡一候事、

〔政談〕

〈四〉

p.0347 當時誓詞ト云コト盛ニテ、御作法ノ樣ニ成、役替ノ度々ニ誓詞ヲシ、駕籠ノ誓詞(○○○○○)、又ハ病氣ノ斷ニ誓文狀ヲ出ス(○○○○○○○○○○○)コト不レ宜コト也、聖人ノ法ニ、誓詞ハ出陣ノ前ニスルコト也、夫モ軍兵ニサスコトニハ非ズ、大將ヨリ士卒へ向テ、賞罰如二約束一少モ違ヘマジキト云誓詞也、總ジテ末長キコトニハ、誓詞ハ守ラレヌ者也、永キコトニハ氣弱ミ、失念モ有テ誓詞ヲ破ルコトアル物ナル故、誓詞ハ一旦ノコトニ限ルベシ、其上度々誓詞ヲスレバ、馴コニ成テ、神明ヲ畏ルヽ心薄ク成故、卻テ僞ヲ敎ル媒ト成也、誓詞ト云コトモ世間ニ無テ不レ叶コト成ニ、セイシヲ破ル樣ニスルハ、宜シカラザルコト也、一旦ノコトニ用ユレバ、人ノ心ヲ堅メ、誓詞ノ德有、駕籠ノ誓詞ハ先第一奉公人ノ年多ハ、實ノ年ニ非ザル故、最初ヨリ誓詞ヲ破也、駕籠ハ其頭其主人ヨリ斷ナレバ、誓詞無テ不レ苦事也、奉公人ノ虚病ヲ構ルコトモ詮方無コト也、虚病ニ樣々ノ子細有、勝手 ハタト不レ成故、虚病ヲ構ルコト當時多キコト也、扨ハ殊ノ外ニ不足成人ヲ、親類寄合テ虚病ニ申立ルモ有、扠ハ殊ノ外肥滿シテ勤難レ成故、病氣ト云モ有、扠ムラ氣成コト有ヲ、騷氣ト云立レバ、身上不レ立故、病氣ト申立サスルモ有、又ハ述懷ノ筋ニテ虚病ヲ構ルモ有、又ハ强チニ述懷ニテハ無レドモ、時節ヲ考テ引込モ有、又頭ト不和成故、引込ベキ爲エ病氣ト云モ有、又ハ恥辱ヲカキヌルコト有テ、面白無テ引込モ有、不如意ニテ御奉公勤ラヌ人ヲバ、其頭其支配ノ世話ニスル心深クバ、如何樣ニモ可レ成コト也、不足成生付、或ハムラ氣成者ハ是又其頭其支配ノ世話ニシテ、家ノ潰レヌ仕形尤也、肥タル人抔ハ、肥滿シテモ相應ノ務ル役儀可レ有、當時ハ家筋極テ、外ノ役ニハナラヌコト故、病氣ト云ヨリ外ノ仕形ナシ、述懷ノ筋ガ頭ト不和ナル抔ハ、甚惡コトノ樣ナレドモ、皆意地アル者ニ有コトニテ、箇樣成人器量アル者多、古ノ明君名將ハ、左樣ナル者ヲバ樣々ニ誘宥メテ、引出ス樣ニ仕玉ヘルコト多、恥辱ヲカキタルコト有テ、病ト稱スルハ、士ノ意地ナレバ、捨ラレヌコト也、古ヨリ志有人、奉公ヲセマジキト思フ時ハ、病ト稱スルコト古禮也、射ハ男子ノ爲サデ不レ叶業成故、射禮ノ時ハ、不得手ノ人ハ射ハ不得手ニテ候トハ云ズ、皆病ト稱スルコト有、亦堂上方ニテ歌ノ御會ノ時、歌不得手成人ハ、所勞ノ子細アルト云コト、皆上へ對シテ僞ヲ云フトテ、不忠ノ沙汰ニハ成ラヌコト也、殊ニ時節ヲ考、惡人ノ上ニ有時ハ、病ト稱シテ引籠ヨリ外ニ仕形ハ無コト成故、古ヨリ虚病ヲ構ル人ニ、賢者ハ多キ也、只若キ御主人抔ノ虚病ノ疑甚キヲ、時ノ執政其疑ヲ晴サムタメニ、誓文立サセタルニ、今ノ世ニハ例ト成タル可レ成、サレドモ當分ノ埓ヲ明タル迄ノ仕形ニテ、誓文ニハ虚實ハ知レヌコトナレバ、詮モ無コト成上ニ、跡ニ殘テ見レバ、僞ヲ敎、神明ヲ無物ト思ハスルコトニ成テ、甚不レ宜コト也、其支配頭組子ノ治ヲ、職分ノ第一トスルナラバ、誓文狀ヲ出サズトモ、自ラ虚病ハ少キ仕形可レ有也、國方抔ニテハ組頭ト云者ハ、一組ノ士ノ病氣モ、幼少モ、息災ニテ勤ルモ、皆同ク支配シ、扠 戸ノ勤ハ、別ニ番頭ト云者有テ、其下知ヲ承テ勤ルコトニテ、其組頭ノ支配ノ中ヨリ、番代ヲ以番頭ノ下へ遣ス時、病氣幼少ノ者ニ當レバ、一組ノ内ヨリ外ノ人ヲ代ニ出シ、其本人ヨリ割合ヲ遣ス故、身上ノ不レ成者、病氣幼少ノ代ヲモ願テ、ヒタモノ勤ルコト、御當地ノ取人ノ如シ、扠割合ヲ出スコトユへ、勝手ニ不レ宜バ、自ラ虚病ハ少キト承ル、箇樣成仕形ヨク詮議セバ、如何樣共可レ成コト也、兎角當時ノ誓詞ハ御作法ノ樣ニ成ニ、詮ナキコトナレバ、一向ニ停止アリテ、只大名ノ國元ナドへ御目付ニ行コト抔其外ニモ、其時ニ取テ當坐切ノ御用ニバカリ、大切ナルコトニ誓詞ヲ被二仰付一可レ然也、

〔地方落穗集〕

〈七〉

p.0349 撿地役人の事
一撿地被二仰付候節は、掛リ代官幷御勘定役下役竿取之者罷越也、御代官勘定役は不レ及二誓詞一下役 竿取ハ誓詞被二仰付一御代官御勘定行候也、

起請文書式

〔書札法式〕

〈中〉

p.0349 一起請文可レ書樣之事
敬白 起請文之事
一於二向後一者、如何之儀候共、直談可二申明一事、
一互申合條々、聊モ別儀有間敷事、
一無二申談上者、少も隔心申間敷事、
右條々於レ令二違犯一者、日本國中六拾餘州大小神祇、別而伊豆箱根兩所權現三島大明神、殊氏神御罰可二罷蒙一者也、仍起請文如レ件、
天正二年五月三日 飯尾大和守長勝〈判〉
松本左衞門佐貞元〈判〉
秋庭備中守殿 凡此趣也、其宗旨により、佛名神名、日蓮宗抔は三十番神など改書べし、各の神おろしの内へ書事勿論之儀也、一篇不レ可二心得一、此外靈社七枚起請文など云事有、又宛所の事、其人に宛不レ書事もあり、時によるべし、又門弟になりたる時、師弟ゟ起請取替事有レ之、門人よりは、致二傳授一候數箇條、雖レ爲二一事一他見仕間敷候などゝ有べし、師匠よりは令二傳授一候事、少も不二相殘一などゝ、文言色々可レ有レ之、連判之時は、奧次第賞翫之人を書べし、又裏書抔も奧次第上り也、

〔諸役誓詞前書〕

〈上〉

p.0350 罰文
梵天帝釋四大天王、總日本六十餘州大小神祇、殊伊豆箱根兩所權現、三島大明神、八幡大菩薩、天滿大自在天神、部類眷屬神罰冥罰、各可二罷蒙一者也、価起請如レ件、
諸向御役儀之起請文前書
但老中之宅、或ハ十一日式日評定所、判元見レ之、
老中、若年寄、御側衆、〈右衞門督殿、刑部卿殿、〉御守、〈幷〉奧向衆、御同朋頭ハ、奧向ニ而判元有レ之、
中奧〈御小姓御番〉ハ若年寄之宅、判元有レ之、
起請文前書
一今度所司代被二仰付一候上は、聊以御後闇儀不レ仕、諸事依怙贔引なく、正路に相計可レ申事、
附、御威光を以、身威勢專に仕覺悟持申間敷事、
一禁裏御所方御用等之儀精を出し、萬端御爲能樣可レ仕候、先例有レ之儀たりといふとも、公義御爲 に如何〈與〉存候儀は、遠慮仕間敷事、
附、堂上方と親族緣類たりといふ共、取わけて入魂致まじき事、
一京都諸寺社〈幷〉町人に至迄、公事訴訟に、順路に沙汰可レ仕事、
一奉レ對二御爲一何事によらず心付候事は、各ゟ可二申達一候、縱上意之儀候共、御爲不レ可レ然儀は可二申上一事、 一諸役人御用相談之儀、我意を不レ立樣相愼、心底を不レ殘可二申談一事、
一御用之儀被二仰出一無レ之以前、外江もらし申間敷候、勿論御隱密之儀は年寄共〈江も〉申聞間舗事、一御一門方始諸大名不レ依二誰人一、奉レ對二御爲一以二惡心一申合一味仕間敷事、
右之條々、雖レ爲二一事一、於レ致二違犯一者、
罰文
年號月日
老中不レ殘
立合之大目付壹人〈○以下略〉
○德川幕府諸役人ノ起請前書ノ事ハ、官位部德川民職員總載篇誓詞條ニ、乘物御免起請ノ事ハ、器用部駕籠篇乘物駕籠願條ニ在リ、並ニ參看スベシ、

〔書札拔要集〕

p.0351 一起請文書樣之事附女中誓紙之事
箇條多き時は、發端之作りに、敬白起請文前書の事と書、一色之時も、敬白起請文前書と計書キ、事の字を書ぬ也、女中も同文言、男は行字に書、神おろしは楷眞也、女中は行草まぜ書、神おろしは行文字也、ケ條多き時は、右條々と書、一ケ條の時は、右於二相背一者と書、扨白紙の上へ牛王を繼ぎ、其繼目へ掛て梵天帝釋を書也、
一牛王讀やう血判之事
牛王を裏がへして、前の紙の上へ横に張り書也、血判も男は左の藥指の血を付ル、女は右の藥指の血を付る、先牛王をいたゞき、自筆にて名乘判形を書、小刀にて指をやぶり、上血をしぼり取、二番目の血を小刀の先ニ付、名乘の判形の間に付る也、女は名の下に付る、

〔地方落穗集〕

〈七〉

p.0351 誓詞文言幷罪文認方故實之事 一公義御爲を專一ニ仕、少〈茂〉後闇き儀仕間敷事〈○中略〉
右の條々、急度相守可レ申候、若於二相背一者、
梵天帝釋、四大天王、總日本國中六十餘州大小神祗、殊伊豆箱根兩所權現、三島大明神、八幡大菩薩、天滿大自在天神部類眷屬、神罰冥罰、各可二罷蒙一者也、依起請如レ件、
年號月日 何之某〈血判〉名乘〈書判〉
右字數六十六字、日本國中六十六ケ國の神祇を勸請する意なりと云々、

〔一話一言〕

〈十三〉

p.0352 一起證文の字配書樣左のごとし、古法也といふ、
梵天帝釋四大天王、總日本國中
六十餘州大小神祇、殊伊豆箱根
兩所權現、三島大明神、八幡大菩薩、
天滿、天自在天神部類眷屬、神罰
冥罰、各可二罷蒙一者也、仍起請如レ件、
年號何年何月何日 苗字名判〈名乘不レ書〉
何年ノ下ニ支干ハナシ
宛所
宛名は其日出席の老中大目付兩人計也
評定所御用番、御老中御宅、兩所之内にて誓詞被二仰付一、奧御奉公被二仰付一候へば、其日御城にて誓詞被二仰付一候也、誓詞の節、逍付其席へ出んとする前に、左の藥指を爪際の處を少皮をはねて置、血判する時、其所を小刀の先にて少の突ば、其儘血出てよし、幾度も突は見苦し、鼻紙を貳枚ほどもみて、右の袂に入置、其紙にて指の血を拭事のよし、扨又小刀をさす時に、脇ざしを差たるまゝにて小刀も差べし、差よきとて小刀櫃を上にすれば、脇差に反りを打樣にみへてあしき 也、心を付べし、血を右の手の藥指に附て、居判の穴の白き處におす也、墨の處に附れば、見えかね候故也、血判して跡にて誓詞をいたゞく人あり、夫はあしき也、
此邊に血な押す
姓名

〔半日閑話〕

〈六〉

p.0353 國々にて替りたる儀の事
一蝦夷人は誓詞に判官殿を書入けると也、〈○中略〉
一豐後の府内邊にては、蛸を誓文に書入けるとなん、是をたづぬべし、

〔政談〕

〈四〉

p.0353 誓詞ノ文言ニ、別シテハ伊豆箱根兩所權現ト書ク事、文盲ノ至也、是ハ貞永式目ニ有コトヲ、書札者ノ手本ニ書出シタルヲ、何ノ詮議モ無用タル也、貞永式目ハ北條家ノ公事ノ裁斷ハ依怙ヲサセ間敷ト云誓文也、北條ノ所在ハ伊豆也、鎌倉ハ箱根ニ近キ故、伊豆箱根ト書タル也、今ハ國隔リ、伊豆箱根ノ權現ヲバ、平生ハ信ゼヌニ、日本國中何方ニテモ如レ此書コト、埓モ無事也、其所ニテ第一ニ尊敬スル神社ヲ可レ用事也、

〔安齋隨筆〕

〈後編七〉

p.0353 一誓文狀に、伊豆箱根三島大明神を書入る事、貞永式日ノ起請文に、總日本國中六十餘州大小神祇、殊伊豆箱根兩所權現、三島大明神、八幡大菩薩、天滿大自在天神、部類眷屬神罰冥罰各可二罷蒙一者也とあるを本にして書也、是は鎌倉にて、貞永年北條泰時が評定所にて、理非決斷の爲に、貞永式目の書を撰て、評定裁斷に私曲すまじきと云誓文也、伊豆、箱根、三島明神、鶴岡八幡、荏柄天神等は皆鎌倉近邊之神社なる故、是等の神名を擧て誓たる也、他國にては其の國中ノ神に誓ふべき事也、然れども今德川の御家にては、武藏國ノ神をば用ひられずして、伊豆箱根三島三社の神名を誓文に用ひ玉へり、子細ある事なるべけれども、其意味は知らず、〈○下略〉

起請文用紙

〔書札袖珍寶〕

p.0353 牛王を上につぐ事、神を恐れて、白紙より上に是をつぐなり、牛王をひるがへして、裏に可レ書レ之、中古此かたの例なり、一熊野牛王、二はちまん牛王、三勢田牛王、四山王牛王、五白山、六富 士、七大峯之牛王、御きしやう如レ常、但紙と牛王の祈は如レ古也、私曰、七所の牛王無レ之時は、熊野牛王計七枚にて可レ書レ之也、

〔吾妻鏡〕

〈四〉

p.0354 元曆二年〈○文治元年〉五月廿四日戊午、源廷尉〈義經〉如レ思平二朝敵一訖、剰相二具内府一參上、其賞兼不レ疑之處、日來依レ有二不儀之聞一、忽蒙二御氣色一、不レ被レ入二鎌倉中一、於二腰越驛一徒渉レ日之間、愁欝之餘、付二因播前司廣元一、奉二一通欺狀一、廣元雖レ柀二覽之一、敢無二分明仰一、追可レ有二左右一之由云云、
彼書云
左衞門少尉源義經、乍レ恐申上候、意趣者、被レ撰二御代官其一一、爲二勅宣之御使一、傾二朝敵一、顯二累代弓箭之藝一、雪二會稽耻辱一、可レ被二抽賞一之處、思外依二虎口讒言一、被レ默二止莫太之勳功一、義經無レ犯而蒙レ咎、有レ功雖レ無レ誤、蒙二御勘氣一之間、空沈二紅涙一、〈○中略〉因レ玆以二諸神諸社牛王寶印之裏(○○○○○○○○○○○)一、不レ插二野心一之旨、奉レ請二驚日本國中大小神祇冥道一、雖レ書二進數通起請文(○○○○○○○)一、猶以無二御宥免一、我國神國也、神不レ可レ禀二非禮一、所レ憑非二于他一、偏仰二貴殿廣大之御慈悲一、伺二便宜一、令レ達二高聞一、被レ廻二秘計一、被レ優二無レ誤之旨一預二芳免一者、及二積善之餘慶於家門一、永傳二榮花於子孫一、仍開二年來之愁眉一、得二一期之安寧一、不レ書二盡愚詞一、倂令二省略一候畢、欲レ被レ垂二賢察一、義經恐惶謹言、 元曆二年五月日 左衞門少尉源義經
進上 因幡前司殿

〔太閤記〕

〈三〉

p.0354 信長公御父子之義注進之事
壬午六月三日の子の刻、京都より飛脚到來し、信長公、信忠卿、二條本能寺にして、昨日二日之朝、惟任がために御切腹にて候、急御上著有て、日向守を被二討平一可レ然之旨長谷川宗仁より密に申來しかば、秀吉慟せる事不レ淺、然共さらぬ體にもてなし、四日の朝御馬じるし計持せ陳廻りし給ふ、つねは百騎計めしつれられ見廻給ふが、此事を聞れしより、一しづめしづめ、堤を打廻り給ひければ、輝元彌降參をぞ請にける、先月下旬より備中、備後、伯耆三ケ國を上可レ申之條、御和睦之義ひと へに奉レ賴之旨再三及べり、其の上諸事御入魂に預り候はゞ、向後疎意を存まじき旨、牛王寶印之裹を飜し(○○○○○○○○○)、上卷の起請文(○○○○○○)幷人質を進上可レ申と、小早川吉川より申來りし也、

起請文種類

〔世事百談〕

p.0355 起請
さて起請文に一枚起請(○○○○)、二枚起請(○○○○)、まだ七枚起請(○○○○)、百枚起請(○○○○)などいふことあり、義經記に、土佐坊が七枚起請かけること見え、後のものながら室町殿日記、豐太閤朝鮮文書にも、七枚起請といふこと見えたり、七枚起請の文をば、かつて友人より得てもてり、文明年間のころ書きたるを寫しつたへたるなり、七枚各文章別なり、そは誓言いく通にもしるしたるものなり、おもふにそのかみは尋常のことは一枚にかき、その誓言の重かるは幾枚にも、かへす〴〵書けることゝ見えたり、源平盛衰記に、百枚の起請といふことあり、驢鞍橋に一枚起請、二枚起請、三枚起請といふことも見ゆ、これにて法然上人の一枚起請といふもこれにて明なり、起請といふ文字は、後漢書劉盆子傳に、其餘不レ知レ書者起請レ之といふより出でたり、〈○下略〉

一枚起請

〔古今著聞集〕

〈十二/博奕〉

p.0355 花山院右のおとゞ〈○藤原兼雅〉のとき、侍共七半といふ事を好て、ありとしある物ども、夜る晝おびたゞしく打けり、おとゞ制し給へ共用ず、其中にいとまづしき格勤者一人有、もちたる物なければ、其人數にもれてうたざりけり、〈○中略〉さる程に、夜明にければ、おのれが一つ著たりける衣をぬぎて、人の錢五百文かりてけり、男のもとへもて來ていふ樣、人の十廿貫にててうたんも、又此少分の物にてうたんも、心をやる事はおなじ事也、我こゝうに、又おもしろし共思はぬ事なれば、あながちにおほくうち入てもせんなしといへば、男ありがたくうれしく覺て、其あした、やがて此錢ふところにひき入て、殿へ持て參ぬ、〈○中略〉此錢わづかに五百なれば、あまたゝびに出さんも見苦、たゞ一度にをし出して、打とられなばさてこそあらめと思て、よき程つゞきてまはる所に、おし出してかきたりければ、はやくかきおほせて、一貫に成ぬ、我もいまだ一度もし り候はねば、どうをば人にゆづり申候はんとて、まはらん所をかきおとさんと思て、又よき程に一貫をおし出してかくに、又かきおほせて、二貫に成ぬ、其時思ふやう、五百をばとりはなちて、本をうしなはで、妻に返しとらせんと思ひて、ふところにおさめてけり、今一貫五百をとて、これは思ひの外の物也、おもふさまにせんと思て、又をし出したるに、かきおほせて、三貫に成てけり、其後は、或は一貫二貫よき程々におし出すに、おほやうは、かきおほせて、卅よ貫に成にけり、此上は今は手あらに振まはじと思ひて、よき程にして、しばしやすみ候はんとて、卅餘貫の錢取てしりぞきにけり、傍輩共、女牛に腹つかれたる心地してありけれど、今かくかひ付て、後をこそなど思ひゐたり、去程に、此ぬし其夜、やがて仁和寺の妻が本へ、此錢をもたせて行にけり、次の旦、家にて妻にいひあはせて、ゆゝしくことして、長櫃のあたらしき兩三合たづねて、誠にきら〳〵しくしたてゝ、第二日の朝とくかゝせて參たり、先起請文一紙を書て、侍の柱にをしてけり、其起請文に書樣、今日以後、ながく博打仕るべからず、過にしかたも仕らぬ事なれど、諸衆の御供して、此度始て此事仕りぬ、自今以後、もし又加樣の事仕らば、現當むなしき身と成べし、と書てをしたりけり、

〔一枚起請文〕

p.0356 もろこし、我朝のもろ〳〵の智者達の、沙汰し申さるゝ觀念の念にも非ず、又學問をして、念の心をさとりて申念佛にも非ず、唯往生極樂の爲には、南無阿彌陀佛と申せば、疑なく往生するぞと思取て、申す外には別の仔細候はず、但し三心四修なんど申事の候は、みな決定して、南無阿彌陀佛にて、往生するぞと思うちに、こもりて候なり、此外に奧ふかき事を存せば、二尊〈○釋迦、阿彌陀、〉のあはれみにはづれ、本願にもれ候べし、念佛な信ぜん人は、たとひ一代の法をよく〳〵學すとも、一文不知の愚鈍の身になして、尼入道の無智の輩に同じ、智者のふるまひをせずして、唯一向に念佛すべし、
爲レ證以二兩手一印 淨土宗の安心起行、此一紙に至極せり、源空が所存、此外に全く別義を存ぜず、滅後の邪義をふせがん故に、所存を記し畢ぬ、
建曆二年正月二十三日 源空御判

〔太平記〕

〈一〉

p.0357 資朝俊基關東下向事附御吿文事
土岐多治見討レテ後、君ノ御謀叛次第ニ隱無ケレバ、東使長崎四郎左衞門泰光、南條次郎左衞門宗直、二人上洛シテ、五月十日資朝俊基兩人ヲ召取奉ル、〈○中略〉夜痛深テ誰カ候ト召レケレバ、吉田中納言冬房候トテ御前ニ候ス、主上席ヲ近ケテ仰有リケルハ、資朝俊基ガ囚レシ後、東風猶未レ靜、中夏常ニ危ヲ蹈、此上ニ又何ナル沙汰ヲカ致ンズラント、叡憲更ニ不レ穩、如何シテ先ヅ東夷ヲ定ベキ謀有ント、勅問有ケレバ、冬房謹テ申ケルハ、資朝俊基ガ白狀有リトモ、承候ハ子バ、武臣此上ノ沙汰ニハ及バジト存候ヘドモ、近日東夷ノ行事、楚忽ノ義多候ヘバ、御油斷有マジキニテ候、先吿文一紙(○○○○)ヲ下サレテ、相模入道ガ忿ヲ靜メ候バヤト申サレケレバ、主上ゲニモトヤ思食レケン、サラバ軈テ冬房書ト仰有ケレバ、則御前ニシテ、草案ヲシテ是ヲ奏覽ス、君且ク叡覽有ラ、御泪ノ、吿文ニハラ〳〵トカヽリケルヲ、御袖ニテ押拭ハセ給ヘバ、御前ニ候ケル老臣、皆悲啼ヲ含マヌハ無ケリ、頓テ萬里小路大納言宣房卿ヲ勅使トシテ、此吿文ヲ關東へ下サル、相模入道、秋田城介ヲ以テ吿文ヲ請取テ、則チ披見セントシケルヲ、二階堂出羽入道道蘊、堅ク諫メテ申ケルハ、天子武臣ニ對シテ、直ニ吿文ヲ被レ下タル事、異國ニモ我朝ニモ未其例ヲ承ズ、然ヲ等閑ニ波見セラレン事、冥見ニ付テ其恐アリ、只文箱ヲ啓ズシテ、勅使ニ返進セラルベキカト、再往申ケルヲ、相模入道、何カ苦シカルベキトテ、齋藤太郎左衞門利行ニ、讀進セサセラレケルニ、叡心不レ僞處、任二天照覽一ト被レ遊タル處ヲ讀ケル時ニ、利行俄ニ眩(メクルメ)キ衂(ハナチ)タリケレバ、讀ハテズシテ退出ス、其日ヨリ喉下ニ惡瘡出テ、七日ノ中ニ血ヲ吐テ死ニケリ、時澆季ニ及テ、道塗炭ニ落ヌト云トモ、君臣上下ノ禮違 則ハ、サスガ佛神ノ罰モ有ケリト、是ヲ聞ケル人毎ニ、懼恐ヌハ無ケリ、

〔太平記〕

〈九〉

p.0358 足利殿御上洛事
足利殿ハ、反逆ノ企已ニ心中ニ被二思定一テケレバ、中々異議ニ不レ及、不日ニ上洛可レ仕トゾ被二返答一ケル、〈○中略〉長崎入道圓喜惟シミ思ヒテ、急ギ相模入道ノ方ニ參テ申ケルハ、誠ニテ候哉、足利殿コソ御臺君達マデ、皆引具シ進セテ、御上洛候ナレ、事ノ體怪シク存候、加樣ノ時ハ、御一門ノ踈ナラヌ人ニダニ、御心被レ置候ベシ、況源家ノ貴族トシテ、天下ノ權柄ヲ捨給ヘル事年久シケレバ、思召立事モヤ候覽、異國ヨリ吾朝ニ至マデ、世ノ亂タル時ハ、覇王諸侯ヲ集テ、牲ヲ殺シ血ヲ啜テ、貳ロ無ラン事ヲ盟フ、今ノ世ノ起請文是也、或ハ又其子ヲ質ニ出シテ、野心ノ疑ヲ散ズ、木曾殿ノ御子淸水冠者ヲ大將軍殿ノ方へ被レ出キ、加樣ノ例ヲ存候ニモ、如何樣足利殿ノ御子息ト御臺トヲバ、鎌倉ニ被二留申一、一紙ノ起請文ヲ書セ可レ被レ進トコソ存候ヘト申ケレバ、相模入道實モトヤ被レ思ケン、頓テ使者ヲ以テ申遣サレケルハ、東國ハ、未世閑ニテ、御心安カルベキニテ候、幼稚ノ御子息ヲバ、皆鎌倉ニ留置進ラセラレ候ベシ、次ニ兩家ノ軆ヲ一ツニシテ、水魚ノ思ヒヲ被レ成レ候上、赤橋相州御緣ニ成候、彼此何ノ不審カ候ベキナレ共、諸人ノ疑ヲ散ゼン爲ニテ候ヘバ、乍レ恐一紙ノ誓言(○○○○○)ヲ被二留置一候ハン事、公私ニ就テ可レ然コソ存候ヘト被レ仰タリケレバ、足利殿鬱胸彌深カリケレドモ、憤ヲ抑ヘテ氣色ニモ不レ被レ出、是ヨリ御返事ヲ可レ申トテ、使者ヲバ被レ返テケリ、其後舍弟兵部大輔殿ヲ被二呼進一テ、此事可レ有二如何一ト意見ヲ被レ訪ニ、且思案シテ被レ申ケルハ、今此一大事ヲ思食立事、全ク御身ノ爲ニ非ズ、只天ニ代リテ無道ヲ誅シ、君ノ御爲ニ不義ヲ退ント也、其上誓言ハ神モ受ズ(○○○○○○○)トコソ申習シテ候へ、設詐テ起請ノ詞ヲ被レ載候共、佛神ナドカ忠烈ノ志ヲ守ラセ給ハデ候ベキ、就レ中御子息ト御臺トハ、鎌倉ニ留置進ラセラレン事、大義ノ前ノ小事ニテ候ヘバ、强ニ御心ヲ煩サルベキニ非ズ、公達イマダ御幼稚ニ候ヘバ、自然ノ事モアラン時ハ、其爲ニ少々被二殘置一郎從共、 何方ヘモ抱抱(ダキカヽヘ)テ隱シ奉リ候ナン、御臺ノ御事ハ、又赤橋殿トテモ御座候ハン程ハ、何ノ御痛敷事カ候ベキ、大行不レ顧二細瑾一トコソ申候へ、此等程ノ小事ニ可レ有二猶豫一アラズ、兎モ角モ相模入道ノ申ン儘ニ隨テ、其不審ヲ令レ散、御上洛候テ後、大義ノ御計略ヲ可レ被レ回トコソ存候ヘト被申ケレバ、足利殿此道理ニ服シテ、御子息千壽王殿ト、御臺赤橋相州ノ御妹トハ、鎌倉ニ留置奉リ、一紙ノ起請文ヲ書テ、相模入道ノ方へ被レ遣、〈○下略〉

〔看聞日記〕

p.0359 應永二十五年七月十七日、及レ晩廣橋有二書狀一、三位重有、長資朝臣、香雲菴(山田菴號)飜二寶印裏一可レ捧二吿文(○○)一之由、被二仰出一狀也、予事是非レ無二承旨間一、時宜之趣推察、飜二寶印(北野)一書進、其題目、
一内侍局云二日來一云二當時一、總而此蓬屋不二經回一事、
一猿樂酒宴以下對二彼局一不二張行一事、
一總而受生以來不二音信一之上者、不レ能二向顏一事、
此條々僞申者、ゝゝゝゝゝ仍起請如レ件、
應永廿五年七月十七日 某判
三位重有、長資等朝臣、香雲菴吿文同篇、聊文章替歟、一紙ニ書レ之、名字判各載レ之、但山田別紙ニ被レ書、則付廻遣了、

〔愚耳舊聽記〕

〈上〉

p.0359 大光寺責起之事〈附〉小笠原淺瀨石緣組之事
然ル所ニ、淺瀨石大和方ヨリ、小笠原伊勢方エ申遣シケルハ、其許ノ息女、忰安藝方エ申請度候也、於二御同心一者、可レ忝候ト、イトコマヤカニ申遣ケル、然共伊勢心ニ思ヒケルハ、大和心中無二覺束一、家ヲツガセンノ妻ニ、敵方ノ娘ヲノゾム事、若人質ニセントノ計ニヤ可レ有、其上一身ノ覺悟ニテ是非ヲ難レ極ト了簡シ、大和方ヨリ某ガ娘ヲモライ申度旨申遣候、一圓難二心得一、イカヾ可レ仕候ヤト申上ケレバ、爲信樣聞シ召、ヨシ夫ハ計策ニ申越候共、我々モ思フ子細有間、娘ヲ遣シ可レ被レ申、若計事ニ 申越候ト了簡ノ場爰可レ成、又大和心實味方エ心ヲ通シ付バ、是ニ上コス事アラジ、兎角ノ吉事也、疾ト返事被レ致ヨトテ仰ケル、伊勢畏候トテ、頓テ返事ヲナシタリケル、大和ナノメニ悦ビ、近日祝言相調べシトテ、雙方祝義ヲ取カハシ、日限迄相究ル也、折々爲信公被二仰出一ハ、我ニ敵タエスル淺瀨石方エ娘ヲ可レ遣イハレナシ、一定伊勢ハゲキ心ノ奧意有トテ、伊勢ヲ押籠玉ヒケル、大和此由傳ヒ聞、於レ某全御敵ニ可二罷成一覺悟ユメ〳〵無二御坐一候、御敵不レ仕心底ヲ可レ掛二御目一爲成トテ、大光寺方ニテ隨一ノ者ニ、藤五郎左衞門ト申者ヲタバカリ寄セ、アエナク首ヲ打落シ、其首ニ一紙ノ起請文ヲ添テ、大浦エコソハ遣リケル、〈○下略〉

二枚起請

〔承久兵亂記〕

〈上〉

p.0360 みつすゑちかひろをめさるゝ事
ちかひろにうだうは、百よきにてはせさんず、殿上ぐちにめされて、いかにちかひろ、よしときすでにてうてきとなりたり、かまくらへつくべきか、みかたへ參べきかと、おほせくだされければ、いかでかせんじをそむきたてまつるべきよし申ければ、せいしやう〈○承久記作二起請一、〉をもつて申すべきよしおほせらる、二まいかきて、きみに一まい、きたのに一まい參らせけり、

〔吾妻鏡〕

〈二十八〉

p.0360 寬喜三年九月廿七日、日中名越邊騷動、敵打二入于越後守第一之由有二其聞一、武州自二評定座一直令レ向給、〈○中略〉越州聞二此事一、彌以歸往、帥潛載二誓狀(○○)一云、至二于子孫一、對二武州流一抽二無二忠一、敢不レ可レ擂二凶害一云云、其狀一通遣二鶴岡別當坊一、一通爲レ備二來榮之廢忘一加二家文書一云云、C 七枚起請

〔義經記〕

〈四〉

p.0360 土佐房よしつねの討手に上る事
土佐申けるは、かやうに人のむじつを申候にをいては、わたくしには、申ひらきがたく候、御めん蒙り候て、起請文をかき候はんと申ければ、判官、神はひれいをうけ給はずといへば、とく〳〵起請をかけ、ゆるすべしとの御諚にて、熊野の牛王七まいにかゝせ、三〈○三、判官物語作レ一、〉枚は八幡宮におさめ、一枚は熊野に納、今三〈○三、判官物語作レ六、〉枚は土佐か五たいにおさめよとて、やきてはいになしてのみ にけり、此上はとてゆるされぬ、土佐ゆるされて出ざまに、時刻うつしてこそみやうばつも神罰もかうふらめ、こよひをば過すまじ物をと思ひける、宿へ歸りてこよひよせずば叶ふまじとて、各ひしめきける、〈○中略〉土佐をからめて參りて候と申ければ、大庭に引すへさせ、ゑんに出させ給ひて、いかに正じゆん、起請はかくよりしてしるし有ものを、なにしに書たるぞ、〈○下略〉

〔嘉吉物語〕

p.0361 さる程に、赤松の大膳大夫〈○滿祐〉殿、白しやうそくのひたゝれをめされて、三重に居をかきて、金地のにしきのうへに御くびをすへ、御まへにかしこまりて申させ給ふ樣は、あかまつの一門、代々天下の御用にたち、むほんのともがらをしづめて、ふたごゝうなく、奉公にくからぬやから也〈○中略〉とがもなき我々が一族を、御うしなひあり、ゆへもなく若黨をきつてすてられ、あまさへ我らを御對治あるべきとの御たくみにより、現在にそのむくひありて、我々が若黨の手にかゝり給ふ事、しかしながら御先祖の御起請に、赤松絶ば、我もたえんと、七枚あそばして、八幡と御所樣と、我々が家とに御おき有ながら、それを御わすれにて、かやうの事をおぼしめしたち候ゆへかとおぼゑて候、〈○下略〉

〔毛利家記〕

〈三〉

p.0361 慶長二年朝鮮へ、又諸勢ヲ可レ被二差渡一トテ、元日ニ秀吉公被二仰出一シハ、安藝宰相コト、今度モ爲二大將一可二差渡一ナレバ、其用意可レ仕由御諚ニ付テ、諸卒ニ用意ノ沙汰マシマス、然バ二月二人數備ト御掟ノ條、數ノ御書付ヲ出サセ給フ、〈○中略〉
條々
一右七人ノ者共七枚起請カヽセラレ、諸事有樣ノ體可二申上一旨、被二仰付一候條、忠功之者ニハ可レ被レ加二御褒美一、自然背二御法度一族有レ之者、右七人申次第、不レ寄二誰々一、八幡大菩薩可レ被レ加二御成敗一候條、得二其意一不レ可レ有二油斷一候、〈○中略〉
慶長二年二月廿一日 羽柴安藝宰相どのへ

八枚起請

〔鹽尻〕

〈六十六〉

p.0362 或人云、淨土宗に、八枚起請と云ありと聞、側ぞや、云、圓光大師の一枚起請に、聖光上人相傳の一紙を添られし後、記主禪師〈鎌倉光明寺の開山〉文永六年八月貳拾九日の誓詞、良曉師の正和二年二月十五日の誓、定恵師の康永二年八月廿三日の誓、良順師の應永十年五月廿六日の誓、順譽師の永享五年十一月三日の誓、常譽師の康正二年の誓詞を稱して、八師相傳の法文といふ、是佐介〈光明寺一流〉正流の相承として、元祖の敎誡に違はざるしるし也、東常緣入道此相傳を受て後よめる、
誰もしるなもあみだぶの六つの字もつたへてこそは猶とうとけれ

百枚起請

〔源平盛衰記〕

〈四十六〉

p.0362 土佐房上洛事
土佐房ガ被レ討ヲ見テ、淸經其曉鎌倉へ逃下テ、二位殿ニ角ト申ケレバ、アヽ九郎ハ賴朝ガ敵ニハヨク成ニケリ、今ハ憚ルベカラズトテ、弟ニ三河守範賴ヲ、大將軍ニテ、六萬騎ノ兵ヲ相副テ可二上洛一之由被レ申ケレバ、範賴旣ニ出立テ、小具足計ニテ、熊王丸ニ甲持セテ、二位殿ニ見參シ給フ、和殿トテモ非レ可二打解一、九郎ガ樣ニニノ舞モヤト存ズレバ、上洛事暫可二相計一ト宣フ、三河守小具足解置、努々不レ存二其義一、可二起請仕一トテ不レ可レ奉レ背之由、梵天帝釋下奉テ、百日ニ百枚二百枚之起請文ヲ書上タレ共、不レ用シテ、範賴暫被レ宥ケリ、

連署起請

〔吾妻鏡〕

〈二十八〉

p.0362 寬喜四年〈○貞永元年〉七月十日、爲下表二政道一無上レ私、召二評定衆一連二署起請文一、其衆爲二十一人一、
攝津守中原師員 前駿河守平義村
沙彌行西〈隱岐守〉 前出羽守藤原家長
加賀守三善康俊 沙彌行然〈民部大夫〉
左衞門少尉藤原基綱 大和守三善倫重
玄番允同康連 相模大拯藤原業時 沙彌淨圓〈左兵衞尉〉
相州武州、爲二理非決斷職一、猶令レ加二署判於此起請一給云云、

〔吾妻鏡〕

〈二十九〉

p.0363 天福二年〈○文曆元年〉七月六日、仰二家司等一、召二起請一、是奉行事、不レ論二親疎一、不レ論二貴賤一、各存二正儀一、可レ致二沙汰一之趣也、其衆十七人、
前山城守藤原秀朝 前山城守中原盛長
散位大江以康 散位三善康持
民部大丞三善康連 中務丞大江俊行
彈正忠大江以基 大膳進大江盛行
左衞門尉惟宗 同重通
兵庫允三善倫忠 藤原賴俊、沙彌行忍、
惟宗行通 三善康政〈改二康宗一〉

〔寶簡集〕

〈四十八〉

p.0363 十津川十八郷庄司等起請文案
敬白
立申起請文事
右起請文意趣者、野川中津川山民等、亂二入御山一、可レ致二狼藉一之由、全無二其跡形一事候、〈是一〉自今以後於二御山内一、不レ可レ射二殺打殺猪鹿等羽毛之族一候、〈是二〉依二如レ此事等一、違二背御山一、結二構惡行仕事一、至二未來際一不レ可レ違二御山御命一、〈是三〉若於二一家一族緣者一、境界間有二逆惡輩一者、隨二承及一可レ加二制止一候、猶於下不レ拘二制止一輩上者、於二御山一雖レ被二殺害一全不レ可レ有二其遺恨一候、如レ此等條々事、若構二申虚談一者、大師明神金剛天等、日本國中大小諸神御治罰可二罷蒙一、連署仕一結衆等十八郷山民等身上之狀如レ件、
文永四年〈丁卯〉六月四日 中津川庄司依房〈在判〉 北袴後藤次守包〈在判〉 北袴總追補使宗依〈在判〉
北袴藤大夫末弘〈在判〉 大谷藤平大夫依眞〈在判〉
定 使 勝 蓮〈在判〉 大屋大夫國淸〈在判〉
野川押領次大夫國包〈在判〉 大原權追補使依宗〈在判〉
大羅地貫主宗依〈在判〉

〔花營三代記〕

p.0364 應永廿八年六月廿五日、自二御所樣一〈○足利義持〉以二毎阿彌一、御方御所樣大御酒甚以不レ可レ然、御方伺候之面々、於二向後御方一御酒被二聞食一、幷私〈ニ〉酒〈ヲ〉自二御所樣一無二御免一テ不レ可レ用之由、以二起請文一可二申上一之由、被二仰出一也、 六月廿九日、可レ止二大酒飮一之由起請(○○○○○○○○○)、熊野牛王裏ニ以二連判一、畠山中務少輔持淸於二宿所一、三十六人書畢、註文有二別紙一、在國其外少々人數ヲ加ヘズ、

〔蜷川家記〕

p.0364 敬白起請文事
一御成敗之趣、万一不レ叶二理致一、子細在レ之者、不レ貽二心底一言上仕、縱於二當座一雖レ不二存寄一、有二思案仕出之者一者、 不レ謂二違期一可レ申レ上之一、但至二堅固不辨越度一者、非二沙汰之限一事、次就二公事一不レ可レ存二無沙汰事、
一雖レ爲二他人奉行一、御裁許之篇目相違之由、承及者可二申披一之旨、對二申沙汰奉行人一可レ申之事、
〈付就二御沙汰公事篇一、不レ可レ構二虚言一事、〉
右兩條、令二違犯一者、日本國中大小神祇、八幡大菩薩、山王二十一社、天滿大自在天神御罰、各可二罷蒙一候、
仍起請文如レ件、
長祿二年五月十八日 左衞門尉三善爲衡〈○以下人名略〉

〔建武以來追加〕

p.0364 敬白 起請文事
一御成敗之趣、不レ叶二理致一子細在レ之者、不レ貽二心底一可二言上一、縱於二當座一雖レ不二存寄一、有二思安仕出之旨一者、不レ謂二違期一可二申上一、但至二堅固不辨之越度一者、非二沙汰之限一事、次就二公事一不レ存二無沙汰一事、 一雖レ爲二他人奉行一、御裁許之篇目相違之由承及者、可二申披一之旨、對二申沙汰奉行人一、可レ申之、〈付就二御沙汰公事篇一、不レ可レ搆二虚言一事、〉
右兩條令二違犯一者、日本國中大小神祇、八幡大菩薩、山王廿一社、天滿大自在天神御罰、各可二罷蒙一也、仍起請文如レ件、
永享三年十月廿八日 飯尾肥前守弟
左衞門尉三善爲秀〈○以下十一人連署略〉

〔東寺百合文書〕

〈は之五十八至六十二〉

p.0365 再拜々々 立申起請文事
右子細者、就二太良庄代官職事一、寶泉院〈與〉可二義絶申一條々事、
一公事外者、一切不レ可レ申二彼御坊出入經廻一事、
一於二私所用一者、雖レ爲二何事一一向可三音信不二通申一事、
一彌五郎事、音信參會之儀、堅可二停止一事、
此條々内、若雖レ爲二一事一、於下令二違犯一輩 者、奉レ始二伊勢天照大神一、日本國中大小神祇冥道、殊當寺〈○東寺〉鎭 守八幡大菩薩、八大高祖、兩部諸尊、伽藍三寶護法善神等之御罰、深可レ蒙二違犯之身一者也、仍起請文 之狀如レ件、
長祿三年十一月廿四日 彦四郎〈花押○以下八人略〉

〔武田家諸士起請文〕

p.0365 奉(上包ニ)レ納下郷明神願狀
敬白起請文
一以二知行幷賄賂以下之所得一、雖二賴方候一、奉レ對二當御屋形樣一、不レ可レ企二逆心一事、一以二細事一奉レ對二御屋形樣一、理不盡不レ存二述懷一事、一御氣色惡舗人、幷御家中之大身〈江〉不レ可レ致二入魂一事、
右雖爲〈○爲下恐脱二一字一〉事、存違犯一者、蒙二梵天帝釋、四大天王、總而日本國中大小之神祇、殊ニハ八幡大菩 薩、富士淺間大菩薩、熊野三所大權現、諏訪大明神、甲州三三明神、別而ハ御旗楯無之御罰一、於二今生一享二癩病一、至來可レ致レ墮二在無間地獄一者也、仍如レ件、
永祿九年丙寅閏八月廿三日
文書何レモ同前
金丸平八殿 馬場美濃守信春
吉田左近助殿 山縣三郎兵衞昌景
吉田左近殿 小山田兵衞尉信茂
吉田左近殿 原隼人助昌胤〈○以下署名略之〉

〔聚樂第行幸記〕

p.0366 殿下〈○豐臣秀吉〉つら〳〵行末の事など工夫ましますに、たゞいま雲上になしをかるる人々は、みな殿下の恩惠あさからず、かけまくもかたじけなき殿上の交をゆるされ、この行幸にあひ奉るものかなと、感悦する輩也、子々孫々に至ては、若この薫德をわすれ、無道の事もやあらんとおぼしめして、あらたに昇殿有し人々、尾州の内府、駿州の大納言をはじめ、みな禁中へ對し奉り、誓紙をしてあげらるゝにおいては、悦おぼしめさるべき由也、そのかみ皆人の遺言をなす事、その末期にのぞみて領知財寶をゆづる事のみ也、我世盛んなるおりに、りやうちざいほうをそなへまいらするこそ、誠の心ざしにてあらめと宣ふをきゝて、滿座感涙をもよほし侍りぬ、をの〳〵尤とて、則せいしをかゝせ給ふ、その詞に云、
敬白 起請
一就二今度聚樂第行幸一被二仰出一之趣、誠以難レ有催二感涙一事、
一禁裏御料所地子以下、幷公家門跡衆所々知行等、若無道之族於レ有レ之者、爲三各堅加二意見一、當分之儀不レ及レ申、子々孫々無二異儀一之樣可二申置一事、 一關白殿被二仰聽一之趣、於二何篇一聊不レ可レ申二違背一事、
右條々、若雖レ爲二一事一於レ令二違背一者、
梵天帝尺四大天王、總日本國中六十餘州大小神祇、殊王城鎭守、別氏神春日大明神、八幡大菩薩、天滿大自在天神部類眷屬、神罰冥罰各可二罷蒙一者也、仍起請如レ件、
天正十六年四月十五日 右近衞權少將豐臣利家
參讃左近衞中將豐臣秀家
權中納言豐臣秀次
權大納言豐臣秀長
大納言源家
内大臣平信雄
金吾殿

〔慶長三年誓紙前書〕

p.0367 敬白天罰靈社上卷起請文前書事
一奉レ對二秀賴樣一、御奉公之儀、大閤樣御同前に不レ可レ存二疎略一事、
付、表裏別心毛頭存間敷事、
一御法度御置目之儀、今迄如レ被二仰付一、彌不レ可二相背一候、各相談之儀者、多分ニ可二相付一事、一公儀御爲存候上者、對二諸傍輩一私ニ遺恨を企、不レ可レ及二存分一事、
一傍輩中不レ可レ立二其徒黨一候、公事篇喧嘩口論之儀、自然雖レ有レ之、親子兄弟、緣者親類、知音奏者たり共、依怙贔負を不レ存、如二御法度一可レ致二覺悟一事、
一御知行方之儀、秀賴樣御成人之上、爲二御分別一不レ被二仰付一以前に、不レ寄二誰々一御訴訟雖レ有レ之、一切不レ可三申次一之候、況手前之儀不レ可二申上一候、縱被レ下候共、拜領仕間敷事、 一對二御奉公衆一誰々讒言子細雖レ有レ之、同心不レ可レ申候、何時も直ニ申屆可レ隨者候、自然不二相屆一儀承屆候者、無二隔心一可レ令二異見一候、事ニより同心無レ之候共、遺恨ニ存間敷事、
一公私共以二穩密一被二申聞一儀、一切不レ可レ有二他言一事、
一此方一類幷家來之者共、自然背二御法度一、不二相屆一族於レ有レ之者、無二隔心一被二申聞一候者、可レ有二祝著一候事、
石條々、若私曲僞於レ有レ之者、忝も此靈社起請文御罰深厚ニ可二罷蒙一者也、仍前書如レ件、
慶長三年八月五日 江戸内大臣
家康
加賀大納言
利家
但前書誓紙同前一通宛
德善院
淺野彈正少弼殿
增田右衞門尉殿
石田治部少輔殿
長束大藏大輔殿
敬白天罰靈社上卷起證文前書事
一奉レ對二秀賴樣一、御奉公之儀、大閤樣御同前ニ不レ可レ存二疎略一事、
付、表裏別心毛頭存間敷候事、
一御法度御置目等諸事、如二今迄一たるべき儀勿論候、幷公事篇之儀、爲二五人一難二相究一儀者、家康利家得二御意一、然上前以急度伺二上意一、可レ隨二其事一、
一傍輩中不レ可レ立二徒黨一候、公事篇喧嘩口論之儀自然雖レ有レ之、親子兄弟、緣者知音、奏者たり共、依怙贔負を不レ存、如二御法度一可レ致二覺悟一事、 一對二諸傍輩一私ニ遺恨を企、不レ可レ及二存分一事、
一五人間之儀、互無二隔心一別て令二入魂一、公儀御爲可レ然樣ニ可二申談一候、自然中説於レ有レ之者、以二直談一可二相濟一事、
一諸事申談儀、多分ニ付テ可二相究一候、
但五人之中、不和子細在レ之候而、相違候者、殘爲二衆中一可二相究一候、至于時參會之衆中少分にて相究儀有レ之共、不二私相究一候上者、存分有レ之間敷事、
一御算用之儀、手前之事者不レ及レ申、私曲存間敷候、何之御代官前も、依怙贔負不レ存、有樣ニ承屆、公儀御爲可レ然樣ニ可二申付一事、
一公私共以二御穩密一被二仰聞一儀、一切他言不レ可レ仕事、
一此方一類幷家來之者共、自然背二御法度一不二相屆一族於レ有レ之者、無二御隔心一被二仰聞一候者、可二忝存一事、
右條々、若私曲僞於二申上一者、忝も此靈社起請文御罰、深厚ニ可二罷蒙一者也、仍前書如レ件、
慶長三年八月五日 長束大藏大輔
增田右衞門尉
石田治部少輔
淺野彈正少弼
德 善 院
家康公
利家公

〔伊達家文書〕

〈四〉

p.0369 起請文之事
一兩殿樣〈○伊達綱宗伊達龜千代〉〈江〉不レ寄二何事一、直には不レ及レ申、人賴申候か、或は書付を以成共、此連判之衆、江戸 に而も、仙臺にても、其所ニ有合候衆へ無二相談一、抽申上間敷候、倂急之御用に而相談不二罷成一義ニ候者、壹人にても可二申上一候〈付〉身之爲を存、誰成共賴申候か、尤書付にても、御前からくり申候手立仕間敷候、
一御爲ニ能事〈與〉存候義も、如レ右之其所ニ有合候連判之衆へ無二相談一、壹人之思案に而申上間敷候、
一右連判之衆十年之内者、自分如何樣之意趣御座候共、互致二堪忍一、御用等和談仕可二申付一候、
前書之通、於二相背一者、日本六拾餘州之大小之神祇可レ承二御罰一者也、
大條兵庫
宗賴〈花押血判〉
子ノ萬治三年 片倉小十郎
七月十六日 景長〈花押血判〉
茂庭周防
延元〈花押血判〉
原田甲斐
宗輔〈花押血判〉
富塚内藏丞 重信〈花押血判〉
遠藤文七郎
俊信〈花押血判〉
奧山大學
常辰〈花押血判〉 古田主膳
重安〈花押血判〉

血判起請

〔類聚名物考〕

〈人事八〉

p.0371 誓紙血判
起請文の後に無名指(クスリユビ)の血を出して、判形とする事も、戰國の習はしに出たるべし、上古はその事見及ばず、男女の交の間にも起請有り、それは小指の血を絞るは、いかなる人の是等の事定めしにや、

〔光榮卿記〕

p.0371 寶永六年十二月十三日、從二雅豐卿一明晩迄、一紙可レ認旨、案文來承段申遣、十四日、雅豐卿へ昨日申來一紙書付遣文案、〈小奉書立卷奉書ニデ全〉
一禁裏、仙洞、新院、御爲不忠之存念、毛頭有レ之間敷候事、
一不レ寄二何事一、御前之沙汰、他言仕間敷事、
一御膳以下、總而あがり物之類、隨分念入、聊無沙汰之儀、仕間敷候事、
右堅可二相守一候、若於レ令二違背一者、可レ蒙二日本大小神祇、別而兩大神、宮、氏神春日大明神御罰一者也、仍神文(○○)如レ件、〈月日血判(○○)者追而可レ有二沙汰一由也、〉
寶永 光榮
庭田前大納言殿
高野前大納言殿

〔兼胤卿記〕

p.0371 寬延三年六月廿五日、未剋過著二布衣奴袴一、厨役同道向二豐後守役宅一、〈先達而雜掌持二誓書一參、彼役宅相待、〉於二廊下一取二誓書一、〈雜掌渡レ之〉入二懷中一、坐定之後、御附田中出羽守、山木筑前守候二末座一、予進出取二出誓書一附二豐州一、豐州披見了返レ之、次硯幷筥蓋等を將來、置二予前一、予摺レ墨點レ筆披二誓書一、表包置レ傍、開書展二付疊上一、甘付三字名字等書加、次取レ針、在二硯筥中一、左手無名指爪ノ上方、以レ針差二切皮一、名字ノ下ニ加二血判(○○○○○○○○)一、〈加二血判一之前、所レ設之蓋ヲ置レ前、其上〉 〈ニ居二誓書一加二血判一、〉乍レ載二筥蓋一取廻進二豐後守一、次附二表包一、豐州披見訖持二入奧ノ方一、此間撤二硯幷蓋等一、豐後守還出述二賀詞一、申二畏存候由一起座、歸畢之後向二柳原亭一、謝二同伴之儀一、〈○中略〉
誓書、調二檀紙一以二同紙一爲二表包一、〈折かけ、〉〈豐後守より至來之案文之紙之寸法之通ニ調レ之、表包も同至來之寸法之通ニ調レ之、〉
就二傳奏之役儀勤仕一、公家武家御爲、聊以疎略存間鋪候、公武御用之儀付而、相役中惡不レ仕、諸事申合、依怙贔屓無レ之、糺二善惡一、正路可レ致二沙汰一候、次御用之儀各被二相尋一子細有レ之節、不レ貽二心底一可レ申者也、 右於レ致二違背一者、可レ蒙二梵天帝釋、四大天王、總而日本國中大小神祇御罰一者也、
寬延三年六月廿五日 兼平血判 堀田相模守殿 酒井左衞門尉殿 本多伯耆守殿 松平右近將 殿 松平豐後守殿

傳授起請

〔古今著聞集〕

〈五/和歌〉

p.0372 彼淸輔朝臣の傳へたる人丸の影は、〈○中略〉白河院此道御好有て、かの影をめして、勝光明院の寶藏におさめられにけり、修理大夫顯季卿近習にて、所望しけれ共、御ゆるしなかりけるを、あながちに申て、つゐに寫しとりつ、顯季卿一男中納言長實卿、二男參議家保卿この道にたへずとて、三男左京大夫顯季卿にゅづりけり、〈○中略〉實子なりとも、此道にたへざらんものには、つたふべからず、寫しもすべからず、起請文あるとかや、

〔古今著聞集〕

〈六/管絃歌舞〉

p.0372 中御門内大臣子息大納言宗家卿、外孫同宗能卿に授られたりけり、六波羅の太政入道〈○平淸盛〉嚴島の内侍につたふべきよし、宗家卿に示されければ、歎ながら世にしたがふならひ、力およばで、おとる説を傳へられけり、但他人に敎べからざる由を、まづ起請をぞかゝせ られける、多好方是を聞て、かの内侍に問ければ、しらざるよしをぞこたへける、此曲〈○雙調曲〉は、宗家卿、冷泉内府にもおしえられたりけるとかや、

〔秦山集〕

〈雜著十五/甲乙錄一〉

p.0373 伊勢不レ納二神文一、卜部安倍毎レ事有二神文一、垂加靈社所レ納神文八通、其他晩年皆火レ之、八通曰公通卿、曰土御門三位泰福卿、曰出雲路民部、曰梨木左京權大夫、曰梨木弟采女、曰稻荷神主大山左兵衞、曰植田玄節、曰某也、〈○中略〉
垂加社門人神文三條、一曰、神道傳授無二許可一不レ可二妄口外一、雖二許可之後一、非二其人一不レ可レ傳レ之事、二曰、不レ可下以二異國之道一混説上事、三曰、師傳之思義不レ可二疎略一事、右條々任二神明之照覽一、不レ可二違犯一者也、年月日、姓名墨判、

〔秦山集〕

〈雜著十五/甲乙錄一〉

p.0373 血言二阿世一、神之所レ忌故、神文墨判而已、無二血判一、

〔泊洦筆話〕

p.0373 一縣居翁東都へ來られて、門人數あまたありけるか、入門のをり、烏計非言といふものをかゝせしめられき、そは今も世にすなる、入門の誓詞なり、其文は
加茂宇志迺敎賜(カモウシノヲシヘタマ)〈倍屢(ヘル)〉
皇御國能上代乃道(スメラミクニノカミツヨノミチ)〈遠(ヲ)〉、己痛願斯奴倍里(オノレイタク子ギシヌベリ)、故名簿(カレナツキ)〈乎(ヲ)〉進(マイ)〈良世底(マセテ)〉、其道(ソノミチ)〈爾(ニ)〉赴(オモムカ)〈比奴(ヒヌ)〉、伊摩由後敎賜(イマユノヲシヘタマ)〈敝留(へル)〉言(コト)、遂(ツヒ)〈爾(ニ)〉 遠(トホ)〈里(リ)、底(テ)〉許(ユルブ)〈流(ル)〉時(トキ)〈爾之毛(ニシモ)〉有受(アラズ)〈波(バ)〉、安駄志人(アダシヒト)〈爾(ニ)〉私言勢自(サヽメゴトセジ)、且宇志(マタウシ)〈爾(ニ)〉對(ムカ)〈比底(ヒテ)〉爲耶無(イヤナ)〈久(ク)〉異(アダ)〈之伎(シキ)〉心(コヽロ)〈遠(ヲ)〉思波自(オモハジ)、都(スベ)〈底(テ)〉 此烏計非(コノウケヒ)〈爾(ニ)〉違(タカ)〈波婆(ハヾ)〉言(イハ)〈麻久毛(マクモ)〉恐(カシコ)〈伎(キ)〉、天津神國津神多知知志食(アマツカミクニツカミタチシロシメサ)〈奈毛(ナモ)、〉穴畏(アナカシコ)、
通稱
年號月日 姓名 花押
加茂縣主大人〈爾〉上
此文を入門のをり、人々に自筆にて、かゝせられしが、岡部の氛にちり殘りつたはれるを、先年翁の孫、〈通稱平三郎〉今の家あるじにこひて、おのが家に襲藏す、元文三年〈翁年四十二歲〉より、明和四年〈翁年七十二歲にて〉 〈歿年前二年なり〉まで二十七人のを得たり、此外にもいとおほかりけんを、散り失せてわづかに殘れるかぎりなり、此なかに小野古道、〈通稱長谷川讃益、家集一卷、予校正して已に刊せり、〉日下部高豐、〈通稱今藏、貞右衞門、家集一卷、予校正して近刊す、〉橘千蔭、〈九歲のをりにて、通稱要人といはれし人なり、〉藤原字萬伎、〈通稱河津五郎太夫、家集靜舍集、先年難波人上田秋成校正して上米せり、〉大伴俊明、〈柳營侍臣、俗稱山岡左次右衞門、後剃髮號二明阿一、博覽强記、著書數十部、〉源綾足、〈建凉帒、著書數部、今上木して世に傳ふ、〉平宣長、〈通稱本居舜菴〉度會正恭、〈後改二久老一、通稱学治五十槻、〉などの高名の輩入りたり、

發願起請

〔廣福寺文書〕

〈一〉

p.0374 敬奉レ對二三世常住一切三寶、殊者七佛五十餘代佛祖御前一、所二發願一起請文事、
右志願者、靈山少林永平の正宗を護持したてまつりて、法燈を彌勒三會のあかつきにつぎたてまつるべく候、ならびに諸宗においてわたくしなく、身をわすれ、法をおもくして、ながく有爲の樂相に貪ぜず、一すぢに佛果菩提をもとめ候はん、僧侶を分にしたがひて護持したてまつるべく候、伏願
三寶證明
諸天加護
延元四年六月二日 武敏〈花押〉

〔廣福寺文書〕

〈二〉

p.0374 敬奉レ對二三世常住一切三寶、殊者鳳儀山七佛五十餘代佛祖御前一、誓申發願事、
一外行二五常天道之正理一、内守二解脱生死一大事一、可レ爲二自利利他之益一候、
一雖レ爲二頭目手足一、不レ可二爲レ法惜一レ之候、
一於二眞俗二諦一、不三敢違二師命一、一心奉レ護二持正法一、可レ令レ報二謝父母深恩一候、此條變違申候者、直罷二蒙天罰一、可レ失二二世本願一候、仍發願誓文如レ件、
興國三年〈壬午〉三月十七日 藤原武直〈花押〉

武家代始起請

〔吾妻鏡〕

〈十八〉

p.0374 建仁三年十月十九日甲寅、佐々木左衞門尉定綱、中條右衞門尉宗長、爲二使節一上洛、是將 軍御代始也、京畿御家人等、殊插二忠貞一、不レ可レ存レ貳之由相二觸之一、且可レ召二進起請文一之趣、所レ被レ仰二遣武藏守朝政幷掃部頭入道寂忍等之許一也、爾人去九日出門云云、

南蠻起請

〔契利斯督記〕

p.0375 宗門穿鑿心持の事〈○中略〉
一國主吉利支丹宗門之仕置善惡有レ之、〈○中略〉農人町人職人等ニ、日本ノ誓詞、南蠻ノ誓詞(○○○○○)ヲイタサセ、寺請ヲトリ、其後ハ一年モ二年モ改ノ沙汰無レ之、サシヲカルヽ國有、〈○下略〉

〔鹿苑寺文書〕

p.0375 吉利支丹ころび申しゆらめんとの事
一我々は何年より何年まできりしたんにて御座候へ共、何年の御法度よりころび申候事、うたがひ無レ之候、今程なにの宗體にて御座候、
一吉利支丹宗旨に成、此前方ねがひ申候事、今に後悔にて御座候間、後々末代きりしたんに立歸る事仕間敷候、同妻子けんぞく他人へも、其すゝめ仕間敷候、自然何方より伴天連參、こんひさんのすゝめと云共、此書物判をい尨し申上は、其儀かつて以妄念にもおこし、取あつかう事に同心いたすまじく候、もとのきりしたんに立歸るにをいては、しゆらめんとの起請文以テ、是をてつする者也、
一上ニハ天公でうす、さんた、まりやをはじめたてまつり、もろ〳〵のあんしよの蒙二御罰一、死てはいんへるのと云於二獄所一、諸天狗の手に渡り、永々五寒三熱のくるしみを請、重而又現世にては、追付らさるになり、人に白癩黑癩とよばるべき者也、仍おそろしき、しゆらめんと、如レ件、
寬永十貳年 何之村
十月 ころび
誰判
妻子判 右三ケ條は、ころび候きりしたんに書せ取可レ申候、奧二ケ條は、總樣の百姓共、幷召仕の者迄書せ、庄屋所ニ請取可レ申者也、
亥十月十日 周防印
北山
庄屋
百姓中

强起請

〔源平盛衰記〕

〈二十六〉

p.0376 兼遠起請事
平家大ニ驚キ、中三權頭ヲ召上テ、如何ニ兼遠ハ木曾冠者義仲ヲ扶持シ置、謀叛ヲ起シ、朝家ヲ亂ラントハ企ツナルゾ、速ニ義仲ヲ搦進スベシ、命ヲ背カバ汝ガ首ヲ刎ラルベシト、被二下知一ケレバ、兼遠陳ジ申テ云、此條且被二聞召一候ケン、義仲ガ父帶刀先生義賢ハ、去久壽ノ比、相模國大倉ノ口ニテ、甥ノ惡源太義平ニ被レ討侍キ、義仲其時ハ二歲ニナリケルヲ、恩愛ノ道ノ哀サバ、母惡源太ニ恐テ、懷ニ入テイカヾセント歎キ申シカバ、一旦哀ニ覺エテ請取テ今マデ孚置テ侍レ共、謀叛ノ事努々虚言也、人ノ讒言ナドニ候力、但御諚ノ上ハ、身ノ暇ヲ給テ國ニ下、子息共ニ心ヲ入テ可二搦進一ト申、右大將家重テ仰ニハ、身ノ暇ヲ給ハント思ハヾ、義仲ヲ可二搦進一之由、起請文ヲ書進ベシ、不レ然者子息家人等ニ仰テ、義仲ヲ搦進セン時、本國ニ可二返下一也ト有ケレバ、兼遠思ヒケルハ、起請ヲカカデハ難レ遁、書テハ年來ノ本意空カルベシ、イカヾスベキト案ジケルガ、縱命ハ亡ブトモ、義仲ガ世ヲ知ンコト大切ナレ、其上心ヨリ起テ書起請ナラズ、神明ヨモ惡シトオボシメサジ、加樣ノ事ヲコソ乞索壓狀トテ、神モ佛モ免レ候ナレト思成テ、熊野ノ牛王ノ裏ニ起請文ヲ書進ズ、其狀ニ云、
謹請 再拜再拜 早依レ有二謀叛企一、可レ搦二進木曾冠者義仲一由、起請文事、
右上奉レ始二梵天、帝釋、四大天王、日月三光、七耀九星、二十八宿一、下内海外海龍神八部、堅牢地祇冥官冥衆、日本國中七道諸國大小諸神、鎭守王城諸大明神、驚申而白、木曾冠者義仲者、爲二六孫王之苗裔一、繼二八幡殿後胤弓馬之家一也、武藝之器也、依レ之被レ引二源家之執心一、爲レ謝二宿祖之怨念一、相二語北陸諸國之凶黨一、擬レ滅二平家一族之忠臣一之由有二其聞一、以濫吹也、早仰二養父中三權頭兼遠一、而可レ搦二進彼義仲一云々、謹蒙二嚴命一畢、任下被二仰下一之旨上、速可レ搦二進義仲一、若僞申者、上件之神祇冥衆之罰於二兼遠之八萬四千之毛孔仁一蒙天、現世當來永神明佛陀之利益仁可レ奉レ漏之起請狀如レ件、
治承五年正月日 中原兼遠
トゾ書タリケル、依レ之平家憑モシク思ハレケレバ、中三權頭ヲ被二返下一、兼遠國ニ下テ思ヒケルハ、起請文ハ書ツ、冥ノ照覽恐アリ、又起請ニ恐レバ日比ノ本意無代ナルベシ、イカヾセント案ジケルガ、責モ義仲ヲ世ニ立ント思フ心ノ深カリケレバ、本望ヲモ遂、起請ニモ背カヌ樣ニ、當國ノ住人根井滋野行親ト云者ヲ招寄テ云ケルハ、此木曾殿ヲバ幼少二歲ノ時ヨリ懷育ミ奉テ、世ニ立候ハン事ヲノミ深ク存侍ギ、成人ノ今ニ高倉宮ノ令旨ヲ給テ、平家ヲ亡サントスル處ニ、兼遠ヲ召上テ乞索壓狀ノ起請文(○○○○○○○○)ヲ被レ召畢ヌ、此事默止セン條本意ニ非ズ、サレバ木曾殿ヲ和殿ニ奉ラン、子息共ハ定テ參侍ベシ、心ヲ一ニシテ平家ヲ討亡テ、世ニオハセヨトテトラセケル志コソ恐シケレ、

〔源平盛衰記〕

〈二十三〉

p.0377 新院嚴島御幸附入道奉レ勸二起請一事
治承四年九月廿一日、新院〈○高倉〉又嚴島ノ御幸アリ、〈○中略〉賴朝追討ノ宣下ノ後、入道又夜ニ入テ參タリケルニ、新院ノ仰ニハ、東國ノ兵亂ノ事、賴朝ハ一人也、討手ノ使ハ三人也、別ノ事アラジ、心安コソ思召、早ク其祈可レ被レ申、先嚴島へ被レ參ヨカシ、サラバ是モ思タヽント仰下サル、入道餘ノ嬉サ ニ手ヲ合悦泣シテ、關東ヘハ若者共ヲ差下テ候ヘバ、實ニ何事カハ侍ベキ、鳥風ナラバコソ此等ヲ差越テハ賴朝ニ勢付ベキ、皆々禦留ナン、憑シク候、勅定ノゴトク嚴島へ御伴仕テ、天下安穩ノ事ヲ祈申ベシトテ、俄ニ出シ立進テ御幸アリ、彼島ニ著セ給テ、御參社以前ニ、入道ト宗盛ト父子二人、院ノ御前ニ參ヨリテ、自餘ノ人々ヲバ被レ除テ、入、道被レ申ケルハ、東國ノ亂逆ニ依テ賴朝ヲ可二追討一之由、御宣下ノ上ハ、不審候ハネドモ、源氏ニ一ツ御心アラジト御起請(○○○○○○○○○○○○○○)アソバシテ、入道ニ給御座候へ、心安存ジ、イヨ〳〵御宮仕申候ベシ、此言聞召入ラレズハ、君ヲバ此島ニ捨置逕セテ歸上候ナント申タレバ、新院少シモサハガセ給ハズ、良御計有テ、今メカシ年來何事ヲカ入道ノソレ申事背キタル、今明始テ二心アル身ト思フランコソ本意ナケレバ、彼起請イトヤスシ、イカニモイハンニ隨フベシト仰有ケレバ、前右大將硯紙執進セリ、入道近參テ耳語申ケレバ、其儘ニアソバシテタビヌ、入道披レ之拜テ、今コソ憑シク候へトテ、ホクソ笑テ大將ニ見セラル、宗盛此上ハ左右ノ事有ベカラズト申、相國取テ懷ニ入テ立給ケルガ、ヨニモ心地ヨゲニテ各御前へ參ラセ給ヘト申ケル時、邦綱卿被レ參タリ、アヤシト思ハレケレ共、人々口ヲ閉テ申事モナカリケルニ、重衡朝臣イカニゾヤト阿翁ニサヽヤキケレバ、打ウナヅキテ心得タル體也ケレ共、御伴ノ人々ハ其心ヲ得ズ、國庄ヲ給リ給ヘル歟、イカバカリノ悦シ給ヘルゾ、イト ク思ハレタリ、

破起請

〔宇治拾遺物語〕

〈十一〉

p.0378 今はむかし村上の御時、古き宮の御子にて、左京大夫なる人おはしけり、〈○中略〉色ははなをぬりたるやうにあをじろにて、まかぶらくぼく、はなのあざやかにたかくあかし、くちびるうすくていろもなく、ゑめば齒がちなるものゝ、齒肉あかくて、ひげもあかくてながゝりけり、こゑははなごゑにて、たかくて物いへば、一うちひゞきて聞えける、あゆめば身をふり、かたをふりてぞありきける、色のせめてあをかりければ、あをつねの君とぞ、殿上の君達はつけてわらひける、わかき人たちの、たちゐにつけてやすからずわらひのゝしりければ、みかどきこしめ しあまりて、このをのこどものこれをかくわらふびんなき事なり、ちゝの御子聞て、せいせずとて、我をうらみざらんやなどおほせられて、まめやかにさいなみ給へば、殿上の人々したなきをして、みなわらふまじきよしいひあへりけり、さていひあへるやう、かくさいなめば、今よりながく起請す、もしかくきしうやしてのち、あをつねの君とよびたらんものをば、さけくだ物など取いださせてあがひせんといひかためて、起請して後いくばくもなくて、堀河殿の殿上人にておはしけるが、あふなく立てゆき、うしろ手を見て、わすれてあのあをつねまるは、いづちゆくぞとの給てけり、殿上人ども、かく起請をやぶりつるは、いとびんなきことなりとて、いひさだめたるやうに、すみやかに酒くだ物とりにやりて、この事あかへとあつまりて、せめのゝしりければ、あらがひてせじとすまひけれど、まめやかに〳〵せめければ、あさてばかりあをつねの君あかひせん、殿上人藏人その日あつまり給へといひて出給ひぬ、〈○下略〉

〔源平盛衰記〕

〈四十六〉

p.0379 土佐房上洛事
同日ニ伊豫守〈○源義經〉土佐房ヲ召ス、隨レ召畠俊參、イカニ何事ニ上洛ゾ、ナド又音信ハ無ゾト間〈○中略〉土佐房陳申テ云、全其義侍ラズ、爲レ散二不審一、起請文ヲ書進セソト云、伊豫守ハ起請ヲ書タレバトテ不レ可レ實、其上事和僧ガ心任ヨトイヘバ、昌俊其邊ヨリ、熊野牛王尋出シテ、其裏ニ上天下界神祇、奉二勸請一起請文書、灰ニ燒テ呑、宿所ニ歸テ思ヒケルハ、起請ハ書タレ共、今夜不レ計ハ、惡カリナント思テ、夜討支度シケリ、〈○中略〉伊豫守時聲ヲ聞、サレバコソ起請法師ガ所爲也、但其僧ハ尤(ヲソロシ)カラズ、何事カ有ベキトテ、チトモニ不レ騷、〈○中略〉昌俊大原ヨリ藥王坂ヲ越、鞍馬山ニ逃籠、伊豫守兒童ノ時、當寺居住ノ好アリテ、大衆法師原、山蹈シテ尋ケル程ニ、鞍馬奧、僧正ガ谷ト云所ニテ搦捕、伊豫守ニ奉大庭ニ引居テ、イカニ和僧ハ、腹黑ナシト、起請書ナガラ、加樣ノ結構ヲバ巧ケルゾ、冥覽在レ頂、神罰不レ廻レ踵、奇怪々々ト云ケレバ、土佐房今ハ助ルベキ身ニ非ト思テ、及二惡口一、夜討ハ二位家ノ結構、起 請ハ昌俊ガ私ノ所作也、必シモ非二冥罰一、只自然ノ運ノ盡ニコソ、互ニ其期アルベキト云、伊豫守腹ヲ立テ、シヤ頰打トテ、ツラヲ打セタリケレバ、昌俊不レ振レ面、不レ損レ顏、只飽マデ打給へ〳〵昌俊ガ顏、我ツラニアラズ、是ハ源二位家ノ御頰也、此代ニハ又鎌倉殿、伊豫守殿ノ顏ヲ打給ハンズレバ、思合給ハンズラント申ス、

〔太平記〕

〈三十〉

p.0380 慧源禪門逝去事
今年ノ春ハ、禪門〈○足利直義〉又怨敵ノ爲ニ、毒ヲ呑テ失給ケルコソ哀ナレ、三過門間老病死、一彈指項去來今トモ、加樣ノ事ヲヤ申ベキ、因果歷然ノ理ハ、今ニ不レ始事ナレドモ、三年ノ中ニ、日ヲ不レ替酬ヒケルコソ不思議ナレ、サテモ此禪門ハ隨分政道ヲモ心ニカケ、仁義ヲモ存給シガ、加樣ニ自減シ給フ事、何ナル罪ノ報ゾト案ズレバ、此禪門依レ被レ申、將軍鎌倉ニテ僞テ、一紙ノ吿文(○○○○○)ヲ殘サレシ故ニ、其御罰ニテ、御兄弟ノ中モ惡ク成給テ、終ニ失給歟、又大塔宮ヲ奉レ殺、將軍宮ヲ毒害シ給事、此人ノ御態ナレバ、其御憤深シテ、如レ此亡給フ歟、〈○下略〉

〔太平記〕

〈三十三〉

p.0380 菊地合戰事
兩陣僅ニ隔テ、旗ノ文鮮ニ見ユル程ニナレバ、菊地態小貳ヲ爲レ令レ耻、金銀ニテ月日ヲ打テ附タル旌ノ蟬本ニ、一紙ニ起請文ヲゾ押タリケル、此ハ去年太宰少貳古浦城ニテ、已ニ一色宮内大輔ニ討レントセシヲ、菊地肥後守大勢ヲ以テ後攻ヲシテ、小貳ヲ助タリシカバ、小貳悦ビニ不レ堪、今ヨリ後、子孫七代ニ至迄、菊地ノ人々ニ向テ、弓ヲ引、矢ヲ放事不レ可レ有ト、熊野ノ牛王ノ裏ニ(○○○○○○○○)、血ヲシボリテ書(○○○○○○○)タリシ起請ナレバ、今情ナク心替リシタル處ノウタテシサヲ、且ハ天ニ訴、且ハ爲レ令レ知レ人也ケリ、八月十六日ノ夜半計ニ、〈○中略〉、夜已ニ明ケレバ、一番ニ菊地次郎、件ノ起請ノ旗ヲ進メテ、千餘騎ニテカケ入、少貳ガ嫡子太宰新小貳忠資、五千餘騎ニテ鬪ケルガ、父ガ起請ヤ子ニ負ケン、忠資忽ニ打負テ、引返々々戰ケルガ、敵ニ組レテ討レニケリ、

起請失

〔吾妻鏡〕

〈十三〉

建久四年八月二日丙申、參河守範賴書二起請文一、被二就二將軍一、〈○賴朝〉是企二叛逆一之由依二聞食及一、御尋之故也、其狀云、
敬立申 起請文事
右爲二御代官一、度々向二戰場一畢、平二朝敵一盡二忠以降、全無二貳、雖二爲二御子孫將來一、又以可二存二貞節一者也、且又無二御疑一叶二御意一之條、具見二先々嚴札一、秘而蓄二箱底一、而今更不二誤、而預二此御疑一、不便次第也、所詮云二當時一云二後代一不二可二插二不忠一、早以二此趣一可二誡二置子孫一者也、萬之一仁毛令二違二犯此文一者、
上梵天帝釋、下界伊勢春日賀茂、別氏神正八幡大菩薩等之神罰於可二蒙二源範賴身一也、仍謹愼以起請文文如二件、
建久四年八月 參河守源範賴
此狀付二因幡守廣元一進覽之處、殊被二咎仰一曰、載二源字一、若存二一族之儀一歟、頗過分也、是先起請失(○○○)也、可二召二仰使者廣元召二參州使大夫屬重能一、仰二含此旨一、重能陳云、參州者故左馬頭殿賢息也、被二存二御舍弟儀一之條勿論也、隨而去元曆元年秋之比、爲二平氏征伐御使一被二上洛一之時、以二舍弟範賴一遣二西海追討使一之由、載二御文一、御奏聞之間、所二被二載二其趣於官符也、全非二自由之儀一云云、其後無下被二仰出一旨上、重能退下吿二事由於參州一、參州周章云云、

〔御成敗式目追加〕

p.0381 定
起請文失條々
一鼻血出事
一書二起請文一後病事〈但除二本病一者〉
一鵄烏 〈○ 一木作二糞〉懸事
一爲二鼠被二飡二衣裳一事 一自二身中一令二下血一事〈但除下用二楊枝一時、幷月水女、及痔病者上、〉
一重輕服事
一父子罪科出來事
一飮食時咽事〈但以二打レ背程一、可レ定レ失者、〉
一乘用馬斃事
右書二起請文一之間、七箇日中無二其失一者、今延二〈○今延二字、一本作二猶一字一、〉七箇日一、可レ參二籠社頭一、若二七箇日猶無レ失者就二總道理一、可レ有二御成敗一之狀、依レ仰所レ定如レ件、
文曆二年閏六月廿八日〈○廿八日、一本作二廿一日一、〉 右衞門大志淸原季氏
左衞門少尉藤原行泰
圖書少允藤原淸時〈○又見二吾妻鏡一〉

〔吾妻鏡〕

〈二十七〉

p.0382 寬喜二年五月六日、武州未二退出給一、去夜盜人事、殊被二驚憤一之故也、於レ侍召下集自二去夜一參候之輩上被二糺彈一、其中恪勤一人、美女一人、有二疑殆分一、仍參二籠于鶴岡八幡宮一、可レ書二進起請文一之由被二仰含一畢、 十四日、先日嫌疑恪勤美女、依レ有二起請文之失(○○○○○)一被レ糺二明子細一追二放御所中一、件美女引二級彼男一令レ盜條、令二露顳一云云、

起請雜載

〔玉海〕

p.0382 壽永三年正月九日己亥、義仲與二平氏一和平事已一定、此事自二去年秋比一連々謳歌、有二樣々異説一、急以一定了、去年月迫之比、義仲鑄二一尺之鏡面一、奉レ顯二八幡〈或説熊野〉御正體一、裏鑄二付起請文一〈假名云々〉遣之、因レ玆和親云々、

〔源平盛衰記〕

〈二十八〉

p.0382 賴朝義仲中惡事
又淸水冠者事ハ、未東西不覺ノ者候、仰ヲ蒙テ進セネバ所存ヲ寵タルニ似タリ、召ニ隨テ是ヲ進ス、不便ニコソ思召レメ、義仲角テ候ヘバ、一方ノ固メニハ、憑思召ベシトテ、淸水殿ヲバ岡崎四郎 藤内民部ニ渡シケリ、兩使畏テ鎌倉へ相具シ奉ル、宇野太郎行氏トテ、美妙水冠者ト同年ニ成ケルヲゾ、伴ニハ具シテ遣シケル、木曾ハ宗徒ノ郎等三十餘人ガ妻ヲ召テ、美妙水冠者ヲバ、汝等ガ夫ノ身替ニ鎌倉へ遣シヌ、若冠者惜ムナラバ、兵衞佐東國ノ家人催集テ可二推寄一、兩陣矢サキヲ合セバ、共ニ可二討死一、世中ヲ鎭メントノ計ヒニテ、冠者ヲバ兵衞佐ニ渡ヌト宣ヘバ、女房共皆涙ヲ流シヅヽ、穴目出ノ御計ヤ、加程ニ思召主君ノ御恩ヲ忘レ奉テ、妻子悲シトテ、何クノ浦ヨリモ落來、夫共ニハ面ヲ合セジ、チヽノ社ノ前渡セシ照日月ノ下ニ、住マジト、各起請ヲ書テ、木曾殿ニゾ進スル、

〔金剛寺文書〕

〈一〉

p.0383 謹請二起請祭文(○○○○)一事
右件起請祭文之意趣者非二他事一、天野之故也、但於二件地頭幷下司職一者、依二前右大將〈○源賴朝〉殿御氣色一、令レ進二上避文一候畢、若乍下令レ進二上避文一候上、至二後代一欲レ致レ妨候者、八幡大菩薩幷王子眷屬可下令二御知見一給上之狀、謹所レ請二起請祭文一如レ右、敬白、
建久六年六月十四日 源義兼在列

〔明月記〕

p.0383 建保元年九月三日、今日基淸道參、此事上皇殊驚思食、奇怪由有二天氣一云々、二品〈○卿二位局〉以二重房一先有二理運之勘發一、私召二取神人殺害者一、受二前下司之讓一、〈非二相傳之職一〉不レ觸二領家一、不レ奏二事由一、不レ得二關東下文一、妄押二領御領一、任レ意致二狼藉一由也、陳申旨、於二神人殺害者一卽禁獄、當時猶在二獄中一、其父猶依レ有二罪科一、召二誡國守護所一歟例也、仍讓二但相傳之職一、以二馬助實淸一觸二申寮家一了、其後於二關東一、依二此男〈前下司〉深恩一得二存命一、微二彼下司一爲レ敵被レ 、依レ思二此恩一、能觸二鎌倉一蒙二裁許一、罷二入御庄一、只苅二下司分之田許一也、是又基淸先年所レ作之田、爲二今下司一被二苅取一報答也、全不レ及二他狼藉一、但被二仰下一之旨尤恐申、此事進二去文一止二沙汰一之條、只可レ隨二御定一、又委旨申二頭弁一了云々、卽聞二此由一又參二御所一、被レ問二頭弁一頭弁、有二執奏之旨等一、氣色忽和平、重房又密語云、頭弁所レ被二引擧一也、尼公爲二獻帝曹操一相共可レ行二庄務一、此事御所咎思食、爲二基淸一又不便、彼憑レ我ばや、武士事 又偏勘當、非二公平一且令レ書二起請(○○○○)一、可レ存二穩便一由示含、急可二和解一由敎訓云々、

〔吾妻鏡〕

〈二十五〉

p.0384 承久三年六月十七日庚午、於二六波羅一、勇士等勳功糺二明其淺深一、而渡レ河之先登事、信綱與二兼義一相二論之一、於二兩國司前一及二對決一、信綱申云〈○以上三十一字、據二島津本一補、〉詮者、入二敵陣一之時事、打二入馬於河一之時、芝田雖二聊先立一、乘馬中レ矢、著岸之刻不レ見レ來、〈○中略〉兼義云、佐々本越レ河事、偏依二兼義引導一也、 迹爲二不知案内一、爭進二先登一乎者、難レ決之間、尋二春日刑部三郎貞幸一云云、以二起請一述二事由一其狀云、
去十四日宇治被レ越事
自レ岸落時者、芝田先立トイヘドモ、佐々木勸仍、芝田佐々木ガ馬ノ弓手ノ方ニアリ、貞幸同妻手ノ方ニ罄エタリ、佐々木ガ馬兩人ガ馬ノアルヨリモ、鞭タケバカリ先ツ、中山次郎重繼又馬ヲ貞幸ガ馬ニナラブ但是ハ中島ヨリアナタノ事也、貞幸水底ニ入テ後事不二存知一候、〈○下略〉

〔承久兵亂記〕

〈上〉

p.0384 はう〴〵へせんじをくださるゝ事
よしときみて、いまゝでことなかりつるこそ、ふしぎなれ、せんじにも、とうごくのものども、一みどうしんに、よし時もうつてまいらせよと候らん、人でにかけずして御へんてにかけて、きみのげんざんにいれさせ給へ、ちかくなより給ひそとて、かいつくろひ給ひければ、よしむら口おしくもへだてられたてまつる物かな、〈○中略〉いくたびも、三代しやうぐんの御かたみにて、わたらせ給候へば、いかでかすてたてまつり候べき、まつたくせんじにもかたより、たねよしがかたらひにもつくまじく候、よしむら二ごゝろをそんぜば、日ほんこく中大せうのじんぎ、べつしてみうら十二天じんの、しんばつをかふむりて、月日のひかりにあたらぬみとまかりなるべしと、せいしやう(○○○○○)をたてられければ、いまこそこゝろやすくおもひたてまつれ、されば三代しやうぐんよみがへりて、わたらせ給ふとこそ見たてまつれとぞの給ひける、

〔神護寺文書〕

〈八〉

p.0384 阿部氏起請文案〈○端書〉 このふみゝ候ぬ、あまがかきたるものに候はず、まいらせて候はゞこそは候はめ、かへす〴〵あさましく候、もしとしてれぜいのさん(冷泉三位)にどのにても、すけつぐにても、あしもりのゆづりぶみまいらせて候はゞ、にほんごくのかみほとけのにくまれを、けのあなごとにかうぶり候て、げぜ、ごしやう、いたづらにてはて候べし、かつはこのてにごらんじあはすべく候、あなかしこ〳〵、
せうきう三ねん十月廿八日 あべのうぢ在判

〔式目抄〕

〈一〉

p.0385 弘長(追加)新制云、可下仰二諸國守護地頭等一令上レ禁二斷海陸盜賊山賊海賊夜討强盜類一事、諸國守護地頭等、可レ致二其沙汰一之子細被レ載二式目一訖、而無二沙汰一之由依レ有二其聞一、如レ此惡黨等不レ可二見隱聞隱一之旨、雖レ被レ召二起請文一於二御家人等一、猶以不二斷絶一云々、早仰二國々守護、所々地頭一、殊可レ被レ加二懲肅一、此上猶惡黨蜂起之由、於下有二其聞一所々上者、云二守護一云二地頭一、可レ被レ改二補其職一矣、

〔增鏡〕

〈十七/月草の花〉

p.0385 卯月〈○元弘二年〉の十日あまり、又あづまより、ものゝふおほくのぼる中に、おとゞし笠置へもむかひたりし、治部大輔源尊氏のぼれり、院〈○後伏見〉にもたのもしくきこしめして、かの伯耆の舟上へ、むかぶべきよし、院宣たまはせけり、あづまをたちしときも、うしろめたく、ふたごゝろあるまじきよし、をうかならず、ちかごとふみ(○○○○○○)をかきてけれども、そこの心やいかゞあらむ、かくきこゆるすぢもありけり、

〔梅松論〕

〈上〉

p.0385 爰に京都より細川阿波守舍弟源藏人、掃部介兄弟三人、關東追討の爲に差下さるゝ所に、路頭にをいて、關東はや滅亡のよし聞え有けれども、猶々下向せらる、かくて若君を補佐し奉るといへども、鎌倉中連日空騷して、世上穩かならざる間、和氏賴春師氏兄弟三人、義貞の宿所に向て、事の子細を問尋て、勝負を決せんとせられけるに依て、義貞野心を存ぜざるよし、起請文を以陳じ申されし間、せいひつす、

〔明德記〕

〈上〉

p.0385 此土ハ氏淸ヲ御退治有べキトテ、樣々ノ御内談共有リケルヲ、奧州〈○山名氏淸〉傳へ聞キ給 テ思ハレケルハ、事未定ザルサキニ、朝敵ト成テハ叶ベカラズ、暫ク謀リ事共ノ定ラン程、先日ノ科ヲ謝セン爲ニ、緩怠ノ儀ヲ存ゼズ、短慮ノ狀コソ不思儀ナレ、其詞云、所詮諸方ノ讒訴ナリ、一向御免ヲ蒙バ畏リ存ベキ由、再三歎申サレケレバ、御返事ニハ、不儀繁多ナリト云ヘドモ、先日ノ病ト稱シテ、宇治へ成申ナガラ、參セズシテ還御成シ緩怠常ノ篇ニ絶タリ、然トイヘトモ、去難ク歎申上ハ、虚病ヲ構ザル由ヲ吿文(○○)ヲ書、進上申レバ、御免アルベキ由仰下サレケレバ、京都ハ御由斷有リケル、〈○下略〉

〔賴印大僧正行狀繪詞〕

〈六〉

p.0386 關東ノ前管領上椙刑部大輔入道道珍〈○上杉憲春〉去三月〈○天授五年〉八日自害ノ刻、舍兄道合土岐善忠對治ノ大將トシテ、數万騎ヲ率シテ上洛ス、暫伊豆ノ三島ニ信宿ス、〈○中略〉道珍自害ニヨリテ、關東野心ノヨシ、洛中へ徹スル間、武衞〈○足利氏滿〉驚テ自筆ノ吿文(○○○○○)ヲ認テ、瑞泉寺古天和尚ヲ使トシテ、將軍ニ陳謝申サルヽ處ニ、五月二日、將軍〈○足利義滿〉自筆ノ狀ヲモテ、子細アルベカラザルヨシ返事アリ、

〔三寶院文書〕

〈三〉

p.0386 總公文注進狀〈傳法院領○端書〉
鎭守講米當年收納分 石手庄分七石三斗一升六合 弘田庄分三石二斗七升七合 山崎庄分九石四斗六升二合 山東庄分三石二斗五升 已上都合二十三石三斗五合
毎年下行分三十一石三斗一升 潤月年ハ三十二石九斗五升〈當年不定分九石四斗四升五合〉
敬白 起請文事
右意趣者、鎭守講米庄々收納注文、〈備レ右〉
於二此注文一者、無二一粒姧謀之儀一候、若此條僞申候者、奉レ始二日本國中大小神祇一、王城鎭守諸大明神、當國鎭守日前國懸、當山勸請三部權現、九社明神御罰於可二蒙罷一者也、仍起請文之狀如レ件、
應永十年十一月三日 總公文性意〈花押〉

〔東寺百合文書〕

〈に五十下至五十二上〉

p.0387 申起請文事
元者於二龍法師妻一者、爲不調不落者之間、於二向後一者、且以不可有屋出入音信許容之儀候、万一猶有通儀者、堅可レ順二御罪科一、若猶背旨申者、可罷蒙梵天帝釋、下四大天王、五道冥官、太山君、日月星宿、伊勢大神宮、賀茂、春日、尾、梅宮祇薗、北野總六十餘州大小神當寺鎭守八幡三所稻荷、五社伽藍等御罰於助五郎之身者也、仍起請狀如レ件、
寬正四年八月四日 助五郎〈花押〉

〔太閤記〕

〈八〉

p.0387 天正十一年城主定之事
或曰、宇喜曲家運二代相續有し事は、毛利右馬頭元就と秀吉卿と對陣有けるに、字喜田和泉守直家、備後美作兩國を領し、西二輝元一東二秀吉一、其間に夾て東西弓矢之行を見もし聞もし勘るに、羽柴の家は興るべき方也とみて、家老長船紀伊守、戸川肥後守、岡越前守、花房助兵衞尉をよび寄、相謀りけるは、秀吉卿合戰之行、國々之仕置、毎レ物はがの行やうを察るに、行々天下をも可レ計人なり、此人に與し家運をさかへ、忠功有人々の勞を補ひ、萬民を撫育せんと思ふは如何にと、密かに評しけるに、四老奉り、仰尤にはおはしませども、大切なる子供を人質に輝元へつかはしをきしなり、殊に安心之儀をば、いかゞおぼし給ふぞやと申ければ、予亦此事を悲しみつゝ、其用捨骨髓に徹し謀りみるに、今西に在人質は五人也、兩國に在父母兄弟をかぞふれば百人に及べり、五人を捨、百人を助けんは國守之勤、鬼神も悦給ふべし、寔順二當然之理一、諸人を撫するは君主之業なり、所詮直家は順レ理可レ撫二萬民一、もし此義をそむき正理を不レ知者は人質に付て西へ參候へ、更以恨なし、早いなやの返辭有べし、送屆くべしと有しかば、皆直家に同じけり、さらば誓紙を調へよとて、熊野之牛王寶印を以、始終の固をこしらへ、秀吉卿へ小西如淸をして其旨申奉りければ、事の外悦びたまひつゝ、其身の事は不レ及レ申、於二子孫一も全疎意有まじきとの誓紙を、蜂須賀彦右衞門尉につかは されしかば、直家快悦し侍りて、又四老を呼、秀吉卿より使札之趣を委く談合しつゝ、卽輝元に對し敵の色を可レ立行を相謀りけり、

〔岩淵夜話〕

〈上〉

p.0388 一權現樣關東御入國の節、夫までは、四ケ國の御領地にて、御代官被二仰付置一たる面々の儀、何れも一同に御役御免被レ遊、當分は伊奈熊藏只壹人に、關八州の御代官を可レ被二仰付一と有レ之節、本多佐渡守被二申上一候は、熊藏にても、關八州の御代官を只壹人と有レ之は如何に候、せめては五三人計も被二仰付一、御尤と被二申上一候得ども、一同の御免と有レ之には、思召有ての事故、御承引不レ被レ遊、熊藏一人〈江〉被二仰付一候刻、熊藏に神文を致させ候樣にと有レ之誓紙の前書を佐渡守書候、へと仰ニ付、硯を取寄、いかゞ認可レ申と被二相窺一候へば、初ケ條に、關八州を我物のごとく大切に可レ仕事と、御好みに付、其ごとく調へ、次のケ條を被レ伺候へば、支配方下々の者に、依怙仕間敷事と書せ候得と、被レ仰候に付、其通書付、三ケ條目にはいかゞかゝせ可レ申と被二相伺一候へば、最早其分にてよしとある御意に有レ之候と也、

〔常山紀談〕

〈十二〉

p.0388 東照宮景勝征伐の御時、小山にて石田兵を西國に起せる吿を聞し召、前には景勝が勇將なるあり、西國は皆敵なりと人々驚きたりしに、花房助兵衞職之を召て、汝は近年佐竹が許に有て、義宣が心はよく知たらん、かゝる亂に二心有て、軍を出し、わが歸る道をや塞ぐべき、又義宣謀叛の志あるまじとならば、起請文を書て我に見せよと仰せられしに、花房承り、義宣はきはめて信のあつき人に候へば、別の子細候まじ、只人心の反覆は父子の間も計りがたき事に候、起請文は御ゆるされを蒙るべしと申す、東照宮助兵衞は浮田が家の長臣と聞たりしに、器量の小き男よとて、大息つかせ給ふ、花房かくと後に傳へ聞、われ起請文を書ならば、佐竹二心あらじと、軍兵の疑を散ぜん爲の仰なりしに、察せずして起請文を書ざりけるこそ口惜けれ、たとひ義宣軍を出したりとも、我何の罪の有べきと深く悔みけるとぞ、